「誕生日プレゼント、一応ありがとうな」 「どういたしまして。中々良い感じじゃない?」 などと言いながら、俺は誕生日プレゼント――自転車を押しながら歩く。 彼女はその後ろをついて歩く。 「じゃあ早速だけど、二人乗りしちゃおうよ」 「え、うーん……。端的に言おうか、イヤです」 「え、どうしてどうしてー?」 「そりゃ、アレだ。……人の目が気になるだろうよ。――ってオイ!」 彼女は俺が押す自転車に無理やりまたがろうとしてくる。 そして、俺は彼女を押し返す。 「ちょっと、力が強いよ。こんなときだけ男っぽい姿見せないでください」 「うるせー」 「じゃあ交換条件? みたいなもんだけど。 わたしここで30秒数えてるから、その間にタカシ君、自転車こいでってよ。 そのあと、わたしがタカシ君に追いつけたら二人乗りしようよ。いい?」 「ん……うん、別にいいけど。――って、もう数えてるの?」 「――さーん、しー、ごー」 彼女を背にして自転車に飛び乗った。思いっきりペダルを踏み込む。凄く重い。 「にじゅしち、にじゅはち、にじゅく――」 結構な距離を進んだあと、自転車から降りて額を拭う。 後ろを振り返りながら。 「ふぅ、かなり進ん――」 「どうも、タカシ君」 「ん? 何故?」 「タカシ君のところなら、どこでも一瞬で移動できるんだよ」 「ん? サイヤ人のこと?」 彼女の顔は赤く染まっていた。 いつの間に彼女は俺のところに着いたのか。なんてことよりも、 ただ、彼女の顔色が気になった。 彼女は体が弱いことも、頻繁に病院に通ってることも知っている。 「……でもね。どこでも行けると言っても、凄く疲れるんだよ。 タカシ君には分からないと思うけど、今凄く胸がドキドキしてるんだから。 触ってみる?」 「バカ」 と言いながら、仕方なく彼女に自転車に乗るよう促した。 あくまでも仕方なしに、である。 「あ、乗せてくれるの? やっさしー」 「俺、後ろな」 「ちょっと、わたしレディーだよ。レ、ディ、イー」 頬をふくらます彼女をよそに、さっさと前に乗った。 やがて彼女が後ろに乗ると、自転車は走り始める。 彼女が後ろで何か言ったが、聞かなかったことにしておいた。 「ホラ、笑われてる……」 「気にしない気にしない」 そういう彼女は、本当に気にする様子が無いのだから凄い。 でもそれ以上に彼女のセンスが凄い。 二人用の自転車なんてバカかとアホかと。――体弱いクセに。 「エヘヘ。胸がドキドキしてるのは、時間を止めて疲れたから、ってだけじゃないかもしれないよー」 「知るか。言っとくけど、お前こぐなよ」 「で、これからどこいくの? もしかして、わたしをもっとドキドキさせる気?」 「アホ」 と言って、彼女の尻を触ってやった。 俺がドキドキしてる理由も、自転車をこいで疲れてるから、ってだけじゃないっつーの。