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かつを 無題7」(2007/11/15 (木) 16:51:20) の最新版変更点

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少年と少女は机を合わせて、ノートに計算を書き込んでいく。 窓から西日が差し込んで、教室を赤く染める。 無造作に転がる卒業証書の筒がつくる影は、一際鮮明な黒だった。 「もう会えないかもしれないんだよね、私たち」 少女が言う。二人でいるには広すぎる教室を見回して、少年の方を見た。 「うん。そうかも」 と少年が言った。ノートにひたすら計算を書き込みながら。 そっけない返事。少女はそれが好きだった。 二人は互いを深くは知らない。 どの辺りに住んでいるのかも、普段どんな服を着ているのかも。 少女はそんなそっけない関係が好きだった。 それに、少年は他の男とは違う、と少女は思っていた。 しつこく絡んでこないし、自分のことを気色悪い目で見ない。 女だとか好き嫌いだとか関係なく、自分全体を見てくれるような気がして、 まっすぐ自分を見てくれるような気がして。 そんな少年が嫌いではなかった。 そして、あと10分もすれば、いつものように今日もそっけなく別れて、 少年が生活の一部から消えてしまうのかと思うと、少し悲しかった。 ――時間よ止まれ、と強く願う。 静寂の中、唇を重ねた。赤い頬を両手でつつんで、吸う。 30秒がいつも以上に短く感じる。 「……私ね、あの…」 頭の中では次々と浮かんでくる言葉を、口で紡ぐことができない。 もう少しで下校しなければいけないと考えると、 焦るほど言葉があふれてきて、どうしようもなかった。 ――また時間を止めた。 少しでも長く一緒にいたいと思った。 少しでも近くにいたいと思って、寄り添った。 ぎゅっと抱きしめると、今までの想いがあふれた。 「……今まで、今もだけどね。勉強とか教えてくれて、うん、感謝してるよ。……ありがとね」 それだけ言うと、顔が熱くなる。体が熱くなる。 西日をうけて、少女の顔が溶けるように見えた。 「いいよ。僕も、ありがとうね」 少年は少女を見て、少し表情を緩めた。 少年に友達が少ないことも、 周りからはあまり良く思われてないことも、少女は知ってる。 ――でも、少年のいい所を誰よりも知っているのだ。 そう考えると悪い気はしない。自然と笑みがでる。 今日こそは伝えようと思う。自分の気持ち。 ――時間が止まる。 すぐに抱きしめた。息が相手にかかるほど近い。 相手を見つめた。瞳が合う。もっと相手のことを知りたいと思った。 少しでも相手の気持ちを知りたいと思って、相手の一番敏感な部分に手をのばす。 ――少女と知り合って、暫く経つ。 知り合ってから今まで、幾度となく繰り返してきた行為。 行為を重ねるごとにつのっていく背徳感は、少年を酔わせた。 もう歯止めはきかない。 「君って、ちょっと地味で暗いけど。でもね……う、うん、キライじゃないよ」 誰が何を言ってもね、と心の中で付け足しておいた。 「ありがと。僕も嫌いじゃないよ」 少年は口元を歪ませて、微笑を見せた。 そしてもう一度、時間を止めた。

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