「かつを 無題8」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

かつを 無題8」(2007/11/15 (木) 16:56:21) の最新版変更点

追加された行は緑色になります。

削除された行は赤色になります。

眠れない夜の中、僕はアスファルトを歩いていた。 人はいない。月は雲で隠れ、夜の闇をゆくのは僕とぬるい風だけ。 腕時計に目をやると、午前三時。 ぬるい風をあびながら、ダッシュ、ジョグ、ウォークを繰り返す。 ――そう、ぬるい風をあびながら。 闇の中、周りに木々がそびえ、僕はそこを能動的にゆく。 それは日中とは比べ物にならないほどの運動量だ。 仮にそこが闇ではなく日がとどく場所で、 木々ではなく人に囲まれているのだとしたら、 僕はその行動を途端に止め、自分を殺し、 さも自分がその場に必要ないかのように振舞うだろう。 人――特に両親はよく、僕のそんな性質を咎めた。 人の前で本来の自分を発揮できない者は、不幸な者だ。と。 僕はそれほど、自惚れてはいない。 自らの力をよく分かっているつもりだ。 僕が人前で自分――両親が言う゛自分゛を発揮したところで、 それは人々の個性、能力が作り出すうねりに またたく間にのみ込まれてしまうだろう。それくらい察している。 だから、僕は決して自己主張はしない。 つまり僕は、僕という個性能力を殺すことで自分を確立させているのだ。 そして、それは本来の自分でもある。 時間を30秒止めることができる。 僕のもつ異端の力は、そんな僕の性質を端的に表わしていると思う。 その力に気づいた頃は、嬉々としてその力を使い、 その力の存在を用いて、周りより上位に立とうとした。 しかし、幼い頃はその能力を信じてもらえず、 嘘つき扱いされて、周りから孤立していった。 小中高生の頃は、ただその力の中にのみ自らの場所を見出して、 ますます周りから孤立していった。 いくら悪事を働いても、決して非難されることはない。 逆に、いくら善行をつんでも、人のために動いても、 決して感謝されることも、意識されることもない。 思えばその能力に気づいた時から、現在の自分に向かって進んでいたのだろう。 その力が現在の自分を形作った。そう言ってもいいかもしれない。 しかしそうだとするならば、今の自分、 つまり午前三時のアスファルトをゆく自分が説明できない。 仮に、僕が自分を押し殺すことで自らを主張し続けていた――そして、 現在も主張し続けているのだとすると、 僕が裸で外を歩くことには何の意味もないはずだ。 その姿と行動は、あきらかに人の目をひくものだ。 そして、それは僕に必要ないもの。 しかし、僕は現に裸で出歩くことで昂りを感じ、快感を得ているのだ。 家に帰り昂りを静め、一息つくとすでにa.m.四時だった。 そこで僕は考えた。先ほどの裸の行動についてだ。 気がつくと夜が白み始めていた。 それを見ると、つくづく夏が始まっているのだなあと実感する。 時計を見ると、a.m.四時三十分を指していた。 それまでの時間、僕は今までの行動を全て 本来の自分に帰すために思案し続けた。 何故、裸で歩いていたのか? それは、暑い夜を少しでもまぎらわすための、いわばオナニーである。 決して自己主張などではない。 何故、時間を止めなかったのか? 他人に見られたいがための行動ではなかったのか? 人はいつもと違うことをする際には、表面上はよりリスキーに、 そして実質はより安全なやり方で行動するものだ。 裸で、しかも夜に出歩くのはよりリアルな感覚を自分に与えてくれる。 時間を止めないということで、常に見られているんではないか、というスリルを得ることができる。 しかし実質、午前の三時に外を見る人なんていないし、 時間停止の能力をイザという時のため――例えば警官に見つかった時のための 逃げ道として確保しておくのが妥当である。 簡単なことだ。 ――では何故そんな簡単なことに、妙につっかえるモノを感じていたのか? それはきっと、自分を守るためだったのだと思う。 結局自分を殺すことで自分を確立する、 そんなことは自分の弱さを誰よりも知っているからこその行為だ。 それを誰よりも知っているから、あらゆることに敏感になる。 周りの環境、感情、会話。 自分を脅かすようなものであれば特に、である。 それらを自分の中でもみ消し、または上手く吸収するために、 租借し、消化できる形にまでもっていく。 そうしないと不安で堪らないのだ。 睡眠不足で疲労した体に、早朝のホットミルクを流し込む。 先ほどの行動は全て論理的に消化したつもりだ。 しかし、どこか腑に落ちないところがある。――が、それはそれで悪い気はしない。 妙に胸が温まる。 温まったところで、さてと、ベッドへ向かおう。 何故、腑に落ちないのに悪い気はしない? それは、きっと僕自身が新しい自分を求めてるから――かもしれない。 時間停止の能力に頼らない自分を。 そんな考えが湧いてきたので、無理やりもみ消しておいた。 窓から見える光景はさっきよりも明るい。 うん、悪くない朝だ。久々に熟睡できるかもしれない。
「誕生日プレゼント、一応ありがとうな」 「どういたしまして。中々良い感じじゃない?」 などと言いながら、俺は誕生日プレゼント――自転車を押しながら歩く。 彼女はその後ろをついて歩く。 「じゃあ早速だけど、二人乗りしちゃおうよ」 「え、うーん……。端的に言おうか、イヤです」 「え、どうしてどうしてー?」 「そりゃ、アレだ。……人の目が気になるだろうよ。――ってオイ!」 彼女は俺が押す自転車に無理やりまたがろうとしてくる。 そして、俺は彼女を押し返す。 「ちょっと、力が強いよ。こんなときだけ男っぽい姿見せないでください」 「うるせー」 「じゃあ交換条件? みたいなもんだけど。  わたしここで30秒数えてるから、その間にタカシ君、自転車こいでってよ。  そのあと、わたしがタカシ君に追いつけたら二人乗りしようよ。いい?」 「ん……うん、別にいいけど。――って、もう数えてるの?」 「――さーん、しー、ごー」 彼女を背にして自転車に飛び乗った。思いっきりペダルを踏み込む。凄く重い。 「にじゅしち、にじゅはち、にじゅく――」 結構な距離を進んだあと、自転車から降りて額を拭う。 後ろを振り返りながら。 「ふぅ、かなり進ん――」 「どうも、タカシ君」 「ん? 何故?」 「タカシ君のところなら、どこでも一瞬で移動できるんだよ」 「ん? サイヤ人のこと?」 彼女の顔は赤く染まっていた。 いつの間に彼女は俺のところに着いたのか。なんてことよりも、 ただ、彼女の顔色が気になった。 彼女は体が弱いことも、頻繁に病院に通ってることも知っている。 「……でもね。どこでも行けると言っても、凄く疲れるんだよ。  タカシ君には分からないと思うけど、今凄く胸がドキドキしてるんだから。  触ってみる?」 「バカ」 と言いながら、仕方なく彼女に自転車に乗るよう促した。 あくまでも仕方なしに、である。 「あ、乗せてくれるの? やっさしー」 「俺、後ろな」 「ちょっと、わたしレディーだよ。レ、ディ、イー」 頬をふくらます彼女をよそに、さっさと前に乗った。 やがて彼女が後ろに乗ると、自転車は走り始める。 彼女が後ろで何か言ったが、聞かなかったことにしておいた。 「ホラ、笑われてる……」 「気にしない気にしない」 そういう彼女は、本当に気にする様子が無いのだから凄い。 でもそれ以上に彼女のセンスが凄い。 二人用の自転車なんてバカかとアホかと。――体弱いクセに。 「エヘヘ。胸がドキドキしてるのは、時間を止めて疲れたから、ってだけじゃないかもしれないよー」 「知るか。言っとくけど、お前こぐなよ」 「で、これからどこいくの? もしかして、わたしをもっとドキドキさせる気?」 「アホ」 と言って、彼女の尻を触ってやった。 俺がドキドキしてる理由も、自転車をこいで疲れてるから、ってだけじゃないっつーの。

表示オプション

横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示: