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たったったった・・・。
後ろから聞き覚えのある足音。
そう、それは恐怖の暴力娘こと、美香の足音だ!
ぎぃっと後ろを振り向くと、もの凄い勢いで、美香が走り寄ってきた。

止まれ!
思わず、俺は時間を止めてしまった。

俺は、止まった時間の間、全力でその場を後にする。
「ハァハァ。ここまでくれば一安心だな。
そういや、俺、何かやったっけ?
こないだは、一応美香の仕返しをしたんだが・・・」
すでに、俺の頭には美香=暴力の方程式が成り立っているようだ。

「まぁ、美香に関わると、ろくなことないしな。
とりあえず、夕飯の材料を買いに行こうっと」
俺は夕飯の材料を買いに行くべく、近所のスーパーへと向かった。

「さて、今日は奮発して、刺身セットを買ったぜ。
たまには、贅沢しなくっちゃな」
タイムセールで1パック480円の刺身セットで、贅沢と言ってしまう
あたり、すでに小市民な俺であった。

たったったた・・・。
「う・・・」
小さな幸せを噛み締めていた俺の耳に、再び恐怖の足音が。
後ろも振り返らずに、俺は全力で走り始める。

「に~げ~る~な~!」
俺は全力で走るが、やはり年齢差か、美香の足音はどんどん
近づいてくる。
このままでは、追いつかれるのも時間の問題である。

止まれ!
俺は再び時間を止めた。
「やばい! このまま走っていると、刺身パックの中身がぐちゃぐちゃに
なってしまう! とりあえず、どこかに身を隠そう」
俺は辺りを見回すと、門の閉まった一軒の家を発見する。

「門の内側に入って隠れれば、やり過ごせそうだ」
俺は、門を開け、中に入り、再び門を閉める。
美香が通り過ぎても見えないように、門から少し離れ、身を縮める。

時が動き出す。

「ちくしょう! また見失った。あんにゃろぅ・・・」
たったったった・・・。
俺を見失った美香が、門の前で止まったときは、一瞬ひやっとしたが、
どうやら、美香は通り過ぎたようだった。

「まったく、俺が何をしたって言うんだよ・・・」
「バゥバゥ」
「ん?」
俺が後ろを振り返ると、大型の犬が、買い物袋に顔を突っ込んでいた。

「あ~、俺の刺身セット~!!」
俺は必死に、犬から刺身セットを奪い返そうと格闘する。

「がるぅぅ・・・」
俺が刺身セットを取り返すと、犬が低く唸る。
「ま、まて、話せば判るはずだ!」
「がぅ!」
犬が俺目掛けて跳躍する。
「うぁぁぁぁぁ!」

ボクシュ!!
「キャイン・・・」
間一髪、美香の必殺のボディブローが、犬目掛けて炸裂!
犬は尻尾を巻いて、小屋へと逃げる。

「ほら、早くこっちに来い!」
「は、はい・・・」
俺は美香に促されて、門の外へと逃げ出した。

「何で、私から逃げるんだよ!」
美香が俺の襟首を掴み、凄んでくる。
「い、いや、追いかけてきたから・・・」
そこで、俺は手に買い物をした袋がないことに気付いた。

「あ~、俺の刺身セット・・・」
美香にボディブローを食らった犬が美味そうに刺身セットを
食べていた・・・。

「さ、行くぞ!」
「晩御飯がぁ・・・」
俺は美香に腕を取られ、その場から離れた・・・。


「しっかし、きたねぇ、部屋だなぁ・・・」
犬に刺身セットを取られ、すっかりしょげ返って、部屋に戻ると、
何故か、美香も一緒に部屋まで着いてきた。

「あ、あの・・・」
「なんだ?」
「なぜ、美香ちゃんが部屋まで着いて・・・」
ボク!
美香のレバーブローが、俺に最後までしゃべらせなかった。

「私が付いてきて、何か問題があるのか?」
「い、いえ・・・」
「犬に晩飯食われて、可哀想だから、何か作ってやるよ」
「え? 美香ちゃんが?」

美香のコブシが握り締められる。
「何か問題あるってのか?」
「い、いえ。め、め、滅相もございませんっ」
「よし、それじゃ、その辺で座って、テレビでも観てろ」
「は、はい・・・」
俺は何故か、ベッドの上に正座しながらテレビを観始める。

「しっかし、冷蔵庫の中に何もねぇなぁ」
「す、すみません・・・」

それから、30分後。
「ほら、出来たぞ。テーブルの上を片付けろ」
「は、はいぃ~」

テーブルの上には、真っ黒な炭のようなものと、どうみても、
中まで火が通ってなさそうな野菜炒めと、怪しげな色をした
液体(味噌汁か?)が並べられる。

「さぁ、食え!」
「い、頂きます・・・」
ガリ。
やっぱり、野菜炒めには芯が残っている。
黒い物体を口の中へと入れる。
「う・・・」
多分、元は玉子焼きなのだろうか、すっかり炭と化したその物体を
口に入れると、苦さが口の中いっぱいに広がる。

「まぁ、見てくれは悪いけど、料理は見た目じゃないしな。
味の方はどうだ?」
美香が俺に向かって問いかける。

俺は口の中に苦みを流し込むために、怪しげな液体を飲む。
「はぐ・・・」
液体を口にすると、苦さの他に、辛みと塩分過多な塩味が
口の中を刺激し、悶絶する。

「どうしたんだ?」
悶絶した俺を見ながら、美香が自分の料理を口にする。
「ぶは!」
美香が口の中に入れたものを、俺目掛けて一気に吐き出した。

「うげ・・・。まじぃ・・・」


「がらがらがら・・・」
二人揃って、流しでうがいをした。

「あはは。ちょっと料理は失敗だったな」
「失敗って・・・」
「まぁ、家庭科の成績1だしな。気にするな!」
「気にするなって、お前、俺を殺す気か? あんなもん、
食べ物とは呼べないだろ!」
美香が下目使いに、俺の顔を見上げる・・・。

やばい、このパターンは・・・。
「あ・・・、お、俺が悪かった。言いすぎた!」
ドカ! バキ! ボクシュ!


俺と美香は、二人でカップラーメンをすする。
口の中に血の味がする・・・。

「で、美香ちゃんは、何で俺を追いかけてきたの?」
「別に~。ただ、暇だっただけだ」
「暇だったって・・・」
美香の気まぐれで、俺の小さな幸せである、
刺身セットが食べられなくなり、あまつさえ、
この世のものとは思えない物体を食べさせられたのか・・・。

それから、数時間後、「それじゃ、また遊びに来るから」と、
不吉な言葉を残し、美香が帰った。
また来る気かよ・・・。