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今日、親父が死んだ
 『お前には時間を・・・30秒・・・・・』
などと意味深な言葉を残し死んでいった
どうせなら全部話してから死んでくれればいいものを
しかし、父の死に悲しまない俺はいいのか?
親父はガンでどうやっても助からない運命だった
人は必ず死ぬものだ、それはただ気まぐれなだけだ
俺の名前は谷崎慶吾(たにざきけいご)
どこにでもいる普通の高校生である
親父の言葉がわかったのは、親父が死んでから数ヵ月後の事だった・・・

俺はいつものように学校に行く
学校に行くにはこの急な坂を上らなければいけない
正直なところ、こんな所に学校を建てるのはどうかと思う
帰りはとても楽である、俺は自転車なので帰りは恐ろしく早い
学校が終わり、坂を下っていると
もう少しで坂が終わりそうな所で、横道から女性が出てきた
このままだと確実に当たる、しかし、避けようと思えば車道に行き、死んでしまう
俺は無理だと思いながらもブレーキを掛けた
止まれ、と願いながらブレーキを掛けたが、スピードがついた自転車は止まらなかった
しかし、女性は止まっていた、俺ではなく女性が
そればかりではなく、周りを見渡せば、車も止まっていた
俺がそんな不注意をしていると衝撃が走った
俺は地面に飛ばされ、自転車は車道に吹き飛んでいた
どうやら電柱に当たったようだ
女性には外傷はなさそうで安心した
すると車が急に動き出した、そして俺の自転車を吹き飛ばしていった
自転車は見事に大破した、もうあれでは使い物にならないな
それより、逃げた方がいいよな・・・故意にやったわけではないので逃げる事にした

次の日
俺は自転車がないので歩きで学校に行く事にした
校門を通り過ぎると同時にチャイムがなった
急いで走れば間に合うが、一つ障害があった
それは、昨日の女性だった、女性は我が校の制服を着ていた
ここを通らなければ遅刻だ、しかし彼女に会いたくはない
時間が止まってくれれば・・・そう思っていたら
チャイムの音が聞こえなくなっていた、周りの人達は動かなくなっていた
もしかして・・・親父が言っていたのは、この事か?
という事は時間が止まっているのか・・・時間が止まるのは30秒だな
しかし、今までこんな事は一度もなかったのだがな・・・
親父が死んだせいか?
こんな事を考えている暇ではないな、俺は急いで走った
校舎に入ると同時にチャイムが再び鳴り始めた・・・

放課後
学校の帰り道、坂を歩いていると後ろから声を掛けられた
振り返ると、そこには昨日今日見た女性がいた
 「ごめん、故意にやったわけじゃないんだ」
とりあえず口から出た言葉はそれだった
 「では、気にしなくてもいいと思いますよ」
彼女は俺に優しく声を掛けてくれた
 「よろしければ、お名前を」
 「谷崎慶吾」
彼女は嬉しそうに、顔に笑みを浮かべた
何がそんなに嬉しいのかわからなかった
俺の名前が変なのか、それとも何か俺の弱みを握ったのか
 「私の顔を見て、何か思う事はありませんか?」
俺は彼女の顔を見て、最初に思った事を口にした
 「美人だな」
 「そ、そういうことではなくて」
彼女は赤くなっていた、俺は再び彼女の顔をまじまじと見た
 「そんなに見られると恥ずかしいです」
全然わからなかった・・・
 「わからないのですか・・・私は」
 「わかった」
よくよく考えればわかった
今まで俺が女性と仲良くしたのはたった一人だけだった
その女性の名前は泉水麗華(いずみれいか)
 「泉水だろ」
 「はい、そうです」
泉水は確か10年以上も前に転校してしまったはずなのだが・・・
 「どうしてここに?」
 「高校最後ですから、懐かしいこの町で過ごそうと思いまして」
 「それだけ?」
 「はい・・・よろしければ今度、家に来てくださいね」
あの家に・・・
 「気が向いたらな・・・」
そう言って俺は帰っていった・・・

次の日、学校に行くとHRの時間に転校生が来た
その転校生とは、言うまでもなく泉水だった
泉水は一番後ろの俺の隣の席に座った
 「昨日何しに学校に来てたんだ」
 「手続きとか、いろいろありまして
  その、昨日のお話しですが・・・気が向きましたか?」
 「俺をそんなに家に連れて行きたいの?」
正直なところあの家には行きたくはなかった
あの家では、不幸という名の災厄が降りかかるからだ
俺はあの家で何度も痛い目にあってきた
 「話したい事がありまして・・・」
 「ここでは話せないのか?」
 「出来れば・・・」
 「わかった・・・行くよ」
 「約束ですよ」
ため息が出てきた、約束すれば絶対に行かなければならなくなってしまうから
 「・・・わかった」
俺は約束をした

学校が終わり、泉水の家に向かう
俺の脚はとても重く、気はとても沈んでいた
家に着くと、俺は思った
相変わらず大きな家だな・・・3階立ての洋館、大きな門、花が咲き誇る庭園
 「どうぞお入りください」
俺は警戒しながら入った
いつも不注意による災厄が起こるからである
 「2回にある客室に案内しますね」
 「ああ、そうしてもらう」
泉水は階段を上った、俺はその後に続いた
しかし、足を滑らせ、臑を階段の角にぶつけながら一段一段落ちていった
痛い・・・しかし、泣くな俺、こんな事今までに幾度と無くあったじゃないか
しかし、こんな時にこそ時間が止まって欲しいものだ
俺が顔を上げると・・・白
何をやってるのだ俺は、パンツを見てしまうとは・・・
彼女が俺のいる所まで降りてきて声を掛けてきた
 「大丈夫ですか」
 「大丈夫」
ズボンを捲ると、臑の皮ははがれ、そこからは血が滲み出ていた
 「でも・・・」
 「まずは客室に行こう、ここは駄目だ」
そう言って俺は客室に急いでいった
客室に着くと、すぐに泉水は出て行った
泉水が戻ってくると手には救急箱を持っていた
泉水は絆創膏をはろうとした
 「ちょっと待った、傷が全部ふさがらないだろ」
 「ごめんなさい、やり方がわからないもので」
仕方なく自分でやる、消毒液をつけ、ガーゼをそえ、包帯を巻いた
 「すごいですね」
 「誰でも出来ます・・・で、話って何?」
早速俺は本題に入った、もうこれ以上痛い目にはあいたくはないので
早く聞いて、この家から退散したかった

彼女は少し間を置き、話してきた
 「・・・ごめんなさい」
 「何が?」
 「12年前、約束したのに行かなかった事です」
そういえばそんなこともあったな
 『では、いつもの場所でまた会いましょうね、約束ですよ』
そう言って彼女は帰った
俺は次の日、その約束の場所で待った
しかし、彼女が来る事はなかった
そして、それ以降、俺の前に彼女が現れる事はなかった・・・
俺は待ち続けた、3日間待ち続けた、飲まず食わずで
4日目、俺は彼女の家に行った、家にはもう誰もいなかった・・・
当然の話、俺は家に帰ってなかったので捜索願いがでていたらしい
俺は何も言わずに、それをやり過ごした
 「まあ・・・気にするな」
 「でも・・・」
 「そういえば、俺も謝る事があったな
  さっき階段で転んだ時、パンツを見てしまった」
彼女は笑顔で答えた
 「昔と変わらず本当に正直なのですね」
 「嘘を言うと自分のためにならないからな」
一通り話し終えると、帰ることにした
しかし、帰るときになって警戒を怠った為、会いたくない人にあってしまった
 「あら・・・またあなたですか」
泉水の母親は俺のことを毛嫌いしている
俺はこの人と会いたくないこともあって、この家には来たくはなかったのだ
 「こんにちは、それでは、もう帰るので」
 「さようなら」
嬉しそうに別れの言葉掛けてきた
泉水は俺を玄関で見送っていた、俺はさっさと帰ろうとしたら声を掛けられた
 「また、明日会いましょうね、約束ですよ」
頼むから約束事はやめてくれ・・・何故か昔のことを思い出してきた
 『また、明日会いましょうね、約束ですよ』
泉水もまったく変わってないじゃないか・・・
そして、いつもの俺の返事
 「気が向いたらな」
そう言って帰っていった・・・

次の日
俺は自分がした事を悔やんだ、今日は学校が休みなのだった
昨日は学校があると思って約束したのに・・・ため息が出てくる
いつも最終的な決断を間違ってしまうよな・・・
また、あの家に行かなければいけないのか
しかたない、約束してしまったからには行くしかないよな
泉水の家に行くと、とても嬉しそうに泉水が迎えてくれた
 「どうぞ、中にお入りください」
 「出来れば勘弁して欲しい、俺は約束を果たしたので帰ろうと思う」
俺は後ろを向き、帰ろうとしたら腕をつかまれた
 「駄目ですよ、ここまで来たのですから」
そして、泉水は俺を家の中に強引に連れて行く
俺が力を出せば連れて行かれる事はないのだが、それで怪我をされては困る
そういう理由で、いつもこうやって家の中に入れられる
俺は再び客室に案内された
 「では、お茶を持ってきますね」
そう言って、泉水は部屋から出て行った
少ししてから足音が聞こえてきた、俺は全神経を集中し聞き入った
それは間違いなく不幸を呼ぶ足音、泉水の母親のものだった
どうする・・・俺はとりあえずテーブルの下に隠れた
客室に泉水の母親が入ってきた、一通り見渡すとすぐに出て行った
段々と足音が遠ざかっていった
やばいな、このままでは見つかってしまう
俺は急いで、部屋を出て、3階に上がり、ある部屋に入った
この部屋は物置で滅多に人は入ってこない、子供の時に確認済みだ
騎士の鎧、埃を被った本、熊や鹿の剥製、いつ見ても不気味だった
子供の時、騎士の鎧から剣が外れ、俺の手に掠った時は驚いたな、本物のだったから
しばらくすると泉水がやってきた
 「またここにいらしたのですか」
 「俺の緊急避難所なんだよ」
いつも泉水の母親から逃げる場所といえばここだった

俺はもう帰りたかった
 「やっぱり帰ってもいいか?」
 「どうしても帰りたいのですか?」
 「どうしても」
 「・・・わかりました、では、今日の夜にまたいらしてください」
 「何で?」
 「渡したいものがあるので」
 「今じゃ駄目か?」
 「まだ駄目です」
 「・・・わかったよ」
 「約束ですよ」
 「気が向いたらな」
 「では、鍵を開けておきますね」
またこの家に来ないといけないとは・・・
しかも夜に・・・今まで一度も来た事がないが、きっと嫌なイベントが起きるであろう
俺は早速帰るために2階に降りた、そこで気づいた
泉水の母親が玄関の前で仁王立ちをしている事に
頼むから、俺を家から出してくれ・・・
そうだ、こんな時にこそ力を使うべきだな
俺は時間よ止まれと祈った、すると泉水の母親は元々動いてなかったので
止まっているのか止まってないのか、正直な所わからなかった
俺は力を信じて1階に降りて玄関に向かう
泉水の母親の前に来ても、何の反応もない、どうやら力は本物のようだ
俺は急いで家から出た、門を通るまでは安心は出来ないな・・・
俺は警戒心を解かずに自分の家まで帰った

夜になってから泉水の家に行くと異様な光景が見えた
どうやら俺はまたも最終的な決断を間違ってしまった様だ
いったいどこから連れて来たんだ、あの犬たちは・・・
シェパード3匹にドーベルマン2匹、総勢5匹
俺から見える犬はこれだけだが、実際何匹いるのやら・・・
非現実的だな、どこにこのような財力があるのやら
こういうことは出来るだけ先に言ってほしいものだな・・・
鍵開けときますって言われても、これでは入れないではないか
普通に入っていけばいいのだが、俺にはそれは出来ない
普通に入ってしまえば泉水の母親に出くわしてしまうからな
俺に時間を止める力が無かったらどうしようもない事だったな
俺は時間を止め、門を抜け、玄関まで走った、この庭、本当に広いな・・・間に合うか?
玄関の鍵は開いており、すんなり入る事が出来た、どうやら間に合った
たしか、泉水の部屋は2階だったかな
俺が歩き出そうとしたら、庭の方から犬の叫ぶ声が聞こえてきた
時間が止まっていても匂いは残っていたか・・・
まずいな、このままでは人が集まってくる
俺は急いで左手にあるドアを開けて、その部屋に入った
すると足音が聞こえてきた、この足音は泉水の母親のだな
 「どうしたのですか?・・・・・何も無いじゃないですか」
足音が段々と遠ざかっていった
しかし、適当に部屋に入ったのはいいものの、一体何の部屋だ?
・・・・・人の気配がする
俺は泉水に母親以外なら別に構わないだろうと思い、電気をつけた
そこには泉水がいた
 「慶吾・・・」
彼女の頬には涙が流れたあとがあった
 「ごめん」
 「恥ずかしいところを見られてしまいましたね、いつからそこに?」
 「さっき」
よくよく部屋を見渡せば、誰の部屋なのかがわかった
その部屋は泉水の祖母の部屋だった
泉水の手には祖母の写真が握られていた
 「1年前に亡くなってしまいました」
 「残念だな、もう一度会いたかったのに」
祖母は泉水にはとても優しく、俺にも親切に接してくれた
母親とは違い毛嫌いはしなかったから、俺はけっこう好きだった
誰よりも泉水の自由を尊重してくれた人でもあった
泉水にとって、その存在がいなくなってしまったのは
どれだけ辛い事なのかは、俺にはわからなかった・・・
 「先に部屋で待っていてください」
 「ああ」
そういって、泉水の部屋に向かった
泉水の部屋に着くまでは、泉水の事を考えていたため注意散漫であったが
誰にも見つかることなく部屋に着いた

部屋で待っていると、やがて泉水が何かを持ってきた
 「何を持ってきたんだ?」
 「クッキーです、約束を破ったお詫びに・・・」
昔も一度だけあったな泉水が約束を破った事が
その時、俺はものすごく腹を立てたな
泉水が焼きたてのクッキーを作ってきて、それが美味しかったから許してしまったが・・・
今回の事だって、少し腹を立てたが、俺もそんな歳ではないので口には出さなかった
多分このクッキーを食べれば、子供の時のように許してしまうだろう
俺はクッキーを手に取り、食べてみた
それは子供の時に食べたものと同じで、美味しかった
 「まあ・・・許してやろう」
 「慶吾は一度も約束を破った事はないのに、私は二度も破ってしまいました
  本当にごめんなさい」
 「だから、許すって言っただろ
  それより、渡したいものってこれの事?」
 「はい、焼きたての方が美味しいですから」
まあ確かにそうなのだが、俺はこのために少し苦労したな
 「また明日、遊びに来てください」
何かため息が出てきた、昔から泉水に言われると何故かいつも断れないのだ
 「はいはい」
 「約束ですよ」
 「気が向いたらな」
そのような会話をしていたら部屋に泉水の母親が入ってきた
 「何故あなたがこの部屋にいるのですか?」
 「お母様、私がお呼びしたのです」
 「あなたは黙っていなさい」
彼女は母親に圧倒され黙り込む
 「・・・・・」
 「何故何も答えないのですか?まあ、いいでしょう
  早くお帰りなさい」
俺は仕方なく部屋を出て玄関から帰ろうとしたが
またも最後に注意を怠った為に俺に災厄が降り注いだ
俺は犬の群れに囲まれていた、数は10匹以上・・・
俺は時間を止め、一目散に泉水の家から帰った

翌日の休みも、朝早くから泉水の家に行った
玄関の前には日本では見られない光景が目に入った
大きな体をした黒人が二人、スーツにサングラス、あれはきっとボディーガードだろう
道理で昨日、素直に俺を帰してくれたわけだ
俺は時間を止めて走った、そして黒人二人の間を通り
泉水の家に入った、すぐに泉水の部屋に行く
泉水の部屋の前に着くとノックをした
返事と共に部屋のドアが開く
 「来てくれたのですね」
 「とりあえず中に入れてくれないか」
 「はい」
俺は部屋に入った
 「何、あの黒人たちは」
 「お母様が昨日雇ったボディーガードです」
俺の予想は大的中だったようだ
 「約束は果たした、俺は帰る」
 「待ってください」
 「こんな居心地の悪い所にはいたくない」
 「では、外に行きましょう」
 「黒人どうするつもりだよ」
 「どうにかしてください」
ため息が出てきた
 「しかたない」
二人は玄関の前まで行った
当然、泉水の母親に見つからないように俺は警戒を怠らなかった
 「どうするのですか?」
 「少し、大人しくしてろよ」
俺は力を解放し、玄関の扉を開けた、そして彼女を抱きかかえ急いで走った
走りながら思った、庭が広いのはいいことだが広すぎるのはどうかと思う
あと5秒ぐらいか・・・庭を抜けるのは無理か、1人だったら何とかできるのだが
まあいい、庭が広い分、隠れる場所は沢山ある
俺は急いで近くにあった木に隠れ、彼女を下ろした
それと同時に時間が正常に動き出す
 「どうやったのですか?」
 「内緒・・・それより、急いでここから逃げるぞ」
 「はい」
俺達は誰にも見つからないように、庭を抜け出した

俺達は歩いて町に行く事にした
町に着くと、後ろから見られている気がした
・・・今のところ害はなさそうだな、そう思い放って置いた
 「では、どこにいきましょうか」
 「とりあえず、腹が減ったから飯食いに行こう」
 「わかりました」
彼女と共に食事をする場所を探した
とても美味しそうな店があったので、その店にした
そこで食事をしていると、彼女はとても嬉しそうにしていたので
考えてみれば、彼女とこういうふうに食事をしたのは初めてだった
 「そうだ・・・山に行こう」
 「山ですか?」
 「そう、あそこの景色が綺麗なんだ、子供の時は行けなかったから、今行こう」
その山は徒歩では登るのに時間がかかり、ロープウェイでは金がかかった
そのため子供では行く事が出来なかったのだ
 「はい、そうですね」
彼女と一緒にロープウェイに乗る
山の頂上に着くと町全体を一望できた
 「綺麗ですね・・・」
彼女は嬉しそうにしていた・・・
俺は連れて来てよかったな、と思った
山を降りるころには結構時間も経ち、夕日が見えていた
すると、後ろから近づいてくる気配がした
そして俺は腕を掴まれた
俺はその腕を捻り、相手の背中にまわしてやった
 「誰だ?」
相手は抵抗できない事を知ると答えた
 「そこのお嬢さんの母親に雇われた探偵だ」
 「探偵でも、多少武術を習った者には勝てないのだな」
俺は昔から親父に武術を習っていた
柔道、合気道、剣道、弓道、テコンドー、ボクシング、などなど様々である
 「逃げて」
彼女の声が聞こえた時には遅く、俺は両腕を黒人に抑えられていた
 「武術を習っていても、多人数相手には通用しないようだな」
そう言って探偵は彼女を近くにあった車に連れて行った
車から誰か出てきた、それは泉水の母親だった
 「極力学校以外では娘に近づかないでいただきたい」
そういって彼女と共に車に乗った、すると黒人は俺を放してくれた
車はそのまま彼女を連れて行ってしまった・・・

翌日、彼女は俺に昨日の事を謝ってきた
俺は別に気にしてないといい、もう家には行かないほうがいいとも言った
そして彼女は外で会いましょうと言ってきた
俺は当然いつもの様に断れなかった
学校がある日は彼女とは会わないことにして
休みの日には彼女に付き合う事にした
だがいつも探偵やら黒人が来て、彼女を連れて行った
彼女を連れ出すたびに黒人が1人、また1人と増えていくのであった
時々は時間を止めて逃げた事もあったが結果は同じだった
 「なあ、母親に何か言わないのか?」
 「お母様にですか?」
 「このままだとずっと束縛されたままだぞ」
 「・・・そうですね」
 「じゃあ約束」
 「はい、約束します」
そうして俺は彼女と約束をした

約束をしてから、しばらくがたった
彼女が転校してからも結構な日数がたっていた
といっても1,2ヶ月ぐらいなのだが・・・
今日、学園祭のクラスの出し物を決める話し合いをしていた
そこで決まったのは演劇だった
俺は全然話を聞いてなかったから内容を委員長に聞いた
 「話の内容は?」
 「王女に求婚を求める騎士、王女はその騎士に誓いを立てさせ
  あらゆる試練に立ち向かわせる、そして試練を果たした騎士は
  王女と・・・」
俺はあまり興味がなかったのでその場を立ち去ろうとしたら声を掛けられた
 「どこ行くんだ」
 「興味ないからパス」
 「ああ、わかった」
そう言って俺はこの場を立ち去った
教室を出ると彼女に声を掛けられた
 「待ってください、慶吾も出てください」
 「どうして?」
 「最後ですから・・・」
 「最後?」
 「この前、お母様に話をしたら、ひどくお怒りになられて
  すぐにでも転校すると・・・恐らく、学園祭が終わってからすぐに」
話とは・・・俺と約束をした話のことだろう
俺は何て事をしたのだろう、あんな約束をしなければ
彼女はもっとここにいれたのに・・・何より彼女と一緒にいれたのに
 「約束ですよ」
そう言って、教室の中に入っていった
いつもなら俺の返事を聞くのに、今回は返事を聞かなかった
約束と言っても、もうすでに配役は決まっていた
王女の役は全員一致で彼女になっていた
俺はどうしようかと考えながら帰った・・・

考えもまとまらず学園祭の日が来てしまった
俺はどうする事も出来ずに屋上で風に当たっていた
もうそろそろ始まるな・・・
大体、俺と彼女ではつり合わないだろう
俺は一般庶民で、彼女はお金持ちのお嬢様
世の中、越えられない壁は必ずあるものだ
・・・・・馬鹿だな俺、そんなのただの言い訳じゃないか
それを理由に逃げ様としていただけだ
 『なあ、家の中にいて楽しいか?』
俺が彼女と出会ったのは、ずっと昔の事だった
その時、彼女は家の窓から外を羨ましそうに見ていた
そして俺の返事に彼女は首を横に振った
 『じゃあ、こっちに来いよ』
またも、彼女は首を横に振った
 『何で?』
 『お母様が許してくれません』
俺はそれを聞いて、腹立たしくなり、家に入り彼女を外に連れ出した
 『外の方が気持ちいいだろ?』
 『はい・・・とても』
彼女の祖母と会ったのもこの時だった
 『あら、お友達?娘と仲良くしてくださいね』
 『友達なのかはわからないけど、仲良くしてやらない事もない』
 『また今度も、娘を連れ出してくださいね
  娘に・・・自由というものを教えてくださいね』
 『・・・まあいいよ、暇だし、約束する』
そうだ、俺は約束したんだ
あの約束は今も続いている、これからも続くであろう約束・・・
逃げるわけにはいかない・・・約束を守るために
俺はこの約束を果たし続けなければいけないのだ
俺は走った、演劇はまだ終わってないはずだ・・・

俺が着くと、ちょうど騎士が王女の与えた試練を終えて城に帰るシーンだった
残るは、最後のシーンだけだ
俺は急いで走って舞台裏に入った、それと同時に天幕が下りてきた
俺は時間を止め、騎士役の服を脱がせた
あと10秒ぐらいで、これを全部着なければいけない
俺は急いだ、そして何とか間に合わせた
心臓の音がとても大きく感じられた
それと同時に30秒がたち、委員長などが驚いていた
 「お前何やってるんだ?」
 「主役交代だ」
 「・・・しっかりやれよ、皆には俺から言っとくよ」
俺は舞台へと出た、それと同時に天幕が上がった
会場はざわめいた、さっきまでの騎士とは違っていたからである
それと同時に彼女が俺に気がついた
俺は台詞など知るはずも無く思い浮かんだ言葉を口にした
 「あなた様のお与えになった試練をこなして来ました」
 「・・・あなたは一度も破らないのですね、誓いも・・・約束も」
 「当然でございます、私はあなた様に忠誠を誓いし騎士ですから」
 「私は・・・その忠誠の代わりに何を与えればよろしいのですか?」
 「あなた様の愛を・・・」
彼女は涙を流した
 「それは・・・それはできません、あなたは必ず後悔するでしょう」
 「いいえ、私は後悔しません、あなたと共に、道を歩けるのならば・・・
  あなた様の辛い事、悲しい事、全てを背負ってでもいい
  必ずあなたを幸せにします」
 「それでも・・・私は・・・」
 「昔・・・あなた様のお祖母様とお約束をいたしましたね
  あなたもその場所にいたはずです、ですからお分かりのはずです
  私はあなたをこの城から連れ出し、全ての束縛から解放し
  自由というものをお教えしなければいけません
  たとえ、あなたを連れて行こうとする者がいても
  私が守って見せます、全てから・・・」
 「・・・その、言葉には嘘偽りはないのですか?」
 「ございません・・・私は約束と誓いを破りません
  この約束は私の人生で一番大きな約束となりましょう・・・
  私はあなたを愛しております・・・
  私の人生を掛けて、あなたを幸せにして見せます
  さあ、私と共に・・・」
 「私も・・・あなたを愛しています・・・・・
  ずっと・・・あなたとお会いした時から愛していました」
彼女が俺に抱きつき、そのまま口付けをした
そして、天幕が下りて、演劇が終了した
天幕の向こう側からは歓声が響いていた・・・

学園祭が終わり、泉水と帰っていると
泉水の母親が俺達の前に現れた
 「すばらしい演劇でしたわ」
 「喜ばれたようで何よりです」
 「さあ、帰りましょう」
泉水の母親が、泉水に手を伸ばす
 「行きません、私は慶吾といます」
 「もう演劇は終わりましたのよ」
 「あれは演劇でもあり、私の言葉でもあります」
泉水の母親からため息が聞こえる
 「・・・私はこんな事で娘と決別はしたくはありません
  あなた・・・演劇は嘘ではないと信じましょう
  ですが私に誓いなさい、娘を幸せにすると」
 「誓います、必ず幸せにします」
泉水の母親はそれを聞いて納得した様に去って行った
去り際に
 「娘をよろしくお願いします」
と言った
その言葉には俺に対する毛嫌いなど、もうどこにもなかった
それは母親としての言葉だった・・・

後に彼女は嬉しそうに話してきた、母との関係が拗れずによかったと
それと、本当は王女と騎士は結ばれないという結末だったという事を
俺が誓いを破る事も、約束を破る事も死ぬまでなかった
ここにいる、王女と騎士は結ばれ、いつまでも幸せそうだった・・・