※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

「ハアハアハア...」
俺は近くにあったベンチにドカッと腰を下ろした。
早速手にしている買い物カゴに入ってるものを確認した。
カゴには食材、日用品がぎっしりと入っている。
周りに気をつけてみても、足音ひとつしない。どうやら上手く撒いたようだ。
買い物カゴに商品を詰め、思いっきり走って逃げる
セコセコと万引きを繰り返すよりも圧倒的に効率が良い。
それにしても本当に静かだ。足音がしないというよりは、むしろ何も無い。
ただそこにある木,レンガ,アスファルト,暗闇を街灯が照らしているだけだった。

「ふううぅーーーー...」
安堵のため息をつき、ベンチから立ち上がろうとした瞬間俺はギョッとした。
俺の隣に、醜悪な面をした婆がこっちを見て立っていた。
「なんだババア、なにもやらねえぞ。」
最初にでた言葉はそれだった。
それよりもこの婆いつからここにいたんだろう。
気配は全く無かったし、周りに誰も居なかったはずなんだが。気味が悪い。
「鮫島狂平だね、アンタ。どうしようもないチンピラらしいね」
「なんだババア、ぶっ飛...」
待てよ、この婆なんで俺の名前知ってんだ?知り合いか?
こんな婆は知らないし、なんだか関わらない方がいいような気がする。
「説教しにきたわけでも、お喋りしにきたわけでもないさ。
 時間を止める能力、欲しくないか?やるよ。」
見ればるほど気持ちが悪い。目を見ていると吸い込まれそうだった。

さっさとこの気持ち悪い空間と婆から離れたかったので、俺は威嚇するように言った。
「ああ、欲しいね。欲しい。言っとくけど嘘だったらぶっ殺すぞ!」
「カリカリしなさんな、醜い面して。いくよ.....ふん!」
婆が力をいれた所で特に変わったことは無かった。
婆の話を否定しながらも、ちょっと構えてしまった自分が恥ずかしくもあり
恥ずかしさをかき消すように、婆に向かって俺は飛びかかった。
「.....な、なんにもねえじゃねーか!てめえババア!」
?あれ?婆の姿が無い、婆いつの間に俺の後ろにまわりやがった?
俺が振り返る間もなく、婆は続けた。
「使い方じゃが..云々..というわけでな。
 説明するが、この能力では一日のうち30秒だけ時間を止められる。
 言っておくが、一日使わなかったら次の日に繰り越せるとかそんなのは無いよ。」
「バ....!」
後ろを振り返っても婆の姿は無かった。現実感があまりにも無い。
寒気がしたので、さっさとカゴの中の荷物を黒いバッグに詰め込み
カゴを打ち捨てた。

帰りの道中、俺は繁華街を歩いていた。
普段は、人のたくさんいるゴミゴミした場所は嫌いなんだが
その日は妙に人混みが心地よかった。さっきの出来事の余韻を薄めてくれるからだろうか。
俺はさっきの気味が悪いできごとを忘れようと努めたが、
そもそも忘れようとすればするほど、印象が強く残る。
現実かどうかも疑わしい出来事だったが、
気がつくと婆が言っていた能力が本物か、確かめてみようとしていた。
俺にも理性ってもんがある。が、そんなもんたかがしれている。
能力を使ってしまうともう後戻りできないようないような気がしたが、
それでも欲望の力の方が強かった、俺は婆に言われたとおりにした。

見たことも無い光景だった。
空間を切り取ったような感覚、写真に入り込んだかのような感覚だった。
耳鳴りがするぐらいの静寂を破って俺は動く。
横を見ると、前を向いたまま、まばたきひとつしない女がいた。
目の前で手を振っても、思いっきり殴るふりをしても、頬をつねっても
反応はない。
俺の心は歪んだ喜びと期待でいっぱいだった。

次の日、俺はまた繁華街を歩いていた。
ふと貴金属店が目に入った。俺は自然に力を解放し、貴金属店に駆け込んだ。
店内に置いてあった上半身だけのマネキンを掴み、
ガラスケースを思いっきり叩き割る
「オラアアアアアアァァ!!!オラオラ!!」
ガラスをぶち壊し、宝石,貴金属をごそっと掻き出しバッグに詰める。
もちろんこの荒行に気づく奴などひとりもいない。
「ハハハハハハ!!!!!俺は鮫島狂平!!俺はここにいるぞおおおおオオオ!!!!」
俺は絶叫しながら窓ガラスを壊して外に飛び出た。
貴金属店を背に、満足そうに歩き出した。
時間が動き出し、街にもどる騒音と人々の叫び声が実に心地よい。
俺はたまらず舌なめずりをし、ニタ〜っと顔を歪ました。

その日から時間を止める力を中心に、俺の生活は回っていった。
その力を十分に使いこなすために、何をすればいいのかを考え
その力を満たすために動いた。
仕事も止め、その力に頼って生計を立てていた。
その力を使ってモノを盗るということに価値を見出すのではなく
力を使うこと、そのこと自体が目的となっていった。
まあでも、そんな状態でも以外と上手くいくもんで、
しばらくは盗みだけで生活を営むことができた。
いや、むしろ俺の生活水準は一気に上がった。
俺は金を湯水のように使った。車も買ったし家も買った。
夜の街では一躍有名になったし、すり寄ってくる女など腐るほどいる。
俺はこの生活にかなり満足していた。

婆に会ってから3ヶ月ほど経った。相変わらず俺の贅沢な生活は続いている。
しかし、変わったことがいくらかある。どうやら、警察が
俺のことをマークしているらしい。
まあ短期間で生活がこれほど変われば怪しまれるのも当然だろうが、
そんなことも分からないほど、その時の俺は力におぼれていた。
それと3ヶ月ほどして気づいたことだが、能力を使った後の満足感、安心感が
日に日に大きくなっている。とりあえず力を使わないと落ち着かない感じがする。
この力だけが俺を満たしてくれる。そんな感じだった。
それに、最近この力がごく当たり前なものになってしまっている。
とにかく、この不思議な現象にどっぷり浸かってしまって
現実と虚構の判断が鈍くなっているのは確かだった。
また、警察に目をつけられていることへの不安感,不快感と
能力を使うことで得られる満足感,安心感は
盗みとか、そういった行為をさらに加速させていった。

しかしすでに、俺にはその循環をどうこうすることもできなかった。
すっかり増えた人脈、それにより増える知人たち
そういったモノと関わるときは努めて余計なことを考えないようにした。
目の前にいるモノに集中しようとするのだが、それも長くはもたない。
集中力が切れると俺の中のリアリティは、妄想が現実に取って代わる
妄想が妙なリアリティを持ち、独り歩きしだすこともしばしばだった。
目の前の男を嬲り殺すこともあれば、女を犯すこともある。
そういった時の俺は現実ではどうなっているのだろうか?
しっかりとやっているのであろうか?心ここにあらずなのか?
知らない。俺は知らない。
急激に増えた人付き合い,社交辞令、それに加え現実と妄想の二重の世界
そういうモノに圧迫され俺は疲労しきっていた。

夜9時、ぶらりと外へ出た。
つたない足取りで公園まで向かう。別に目的があったわけではない、
それどころか公園へ行くという行為は俺の意思ですらなかったのかもしれない
俺はどっかりとベンチへ座った。あの時と一緒だった。
いや、確かに時刻、場所、雰囲気は同じだったかもしれないが
その他は何ひとつ一緒のモノなどないだろう。
一時間ほど座り込んでいた。あの婆を思い出す、貴金属店を襲ったことを
いままでの人生を。
久しぶりに人間を取り戻したような感じがして泣きそうになった。
いや、正確に言うと泣けなかった。。。。泣きたかった。
喜びとともに絶望感に打ちひしがれた俺はベンチから重い腰をあげ、
家に帰ろうとした。
ドンッ!
「いっ..」
どうやらカップルとぶつかったようだ。
別に俺はなんの感情が湧くこともなく、その場を立ち去ろうとした。
男「いって〜〜、ちょっとお兄サン、ぶつかっといてシカトかよ」
相手をするつもりは無い、頼むから放っておいてくれ。おかしくなりそうだから
男「ねえ、返事できないの?ねえ?」
女「ちょっと止めなよ」
ナンデ分かってくれない?どうして分かってくれようとしないんだ?
男「おいって!返事しろよ!ゾンビみたいな面しやがて!!」
どうして分かってくれないんだああああ!!!
お.お前なんて、お.俺が力を使ってさああああ!!!こ.このレンガを使ってさああ!!
こ.こうして!こうして!こうすればさあああああ!!
顔が潰れるまで殴ってさああああああ!!!!!
あああああああああああああああああああ!!!!

 30秒経過

「きゃああああああ!!!!!まーくん!まーくんがああああ!!!」
??!!!何がなんだか分からない、妄想が現実で、現実が妄想で、
分かんない。分かんないけど、とにかく走った。
公園の方から悲鳴とサイレンが聞こえる。満足感なんてない、
どうしようもない不安がつのっていく。
考えるのが嫌だったからとにかく走った。

家に着いた。土足のまま俺の部屋まで進んでいく。
何も用は無い。それでも俺はこの家に帰ってきた。
考えがあってここに来たわけじゃない。別にどこでもよかった。
それでも俺は昔の家じゃなく、この家を選んだ。その意味を考えた。
ふと部屋の鏡に目がいった。鏡に写った自分を見て呆然とした。
離れた距離からでも分かるくらい目は血走り、3ヶ月前とくらべるとかなり老け込んでいる。
だがそれ以上に俺が驚いたのは自分の面の醜悪さだった。
見たこともないほど醜悪な面をしている。
鏡に近づけば近づくほど、醜悪さはより深く、より鮮明になっていった。
ふと自分の面があの婆に重なった。その瞬間俺は鏡を叩き壊していた。
「醜い...醜いいいいいいいい!!!!」
腕にはどす黒い血がしたたっている。
血を垂れ流しながら、俺は叫んだ。狂ったように叫び続けた。
しばらく叫び続けた後、俺は家に火をつけ、車に乗り込んだ。
午前0時、俺は車を走らせた。
俺が後ろを振り返ることは2度と無かった。

どこかは知らんが、閑静な住宅街を独りで飛ばす。
今日もまた使う能力のことを考えながら。
そうこうしてるうちに前方に男女が歩いてるのを確認した。
こんな時間に外をうろつくなんて相当なバカップルだ。
俺は車を男女の横に着けると、なんの躊躇も無く時間を止めた。
悦びに顔を歪めながら。
女を車に引きずり込むと、俺は思いっきり車を急発進させた。
こういうバカほど、ギリギリの場面に置かれると反応がおもしろい。
時間が動き出した後どういう反応を見せるかが楽しみだ。
警察?そんなものクソ食らえ。俺の力があればできないことは無い。
「俺は最高だ!俺が神だ!!俺が鮫島狂平だ!!!
 フハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!!!!!!」

 30秒経過



......ガガッ..次のニュースです。先日未明、閑静な住宅街で大型トラックが
乗用車に追突した事故に関してですが........またトラックの運転手、
大場容疑者は「道路を渡ろうとしたら、いきなり車が現れた」などと
訳の分からない供述をしており...................
....なお、被害者の男女は即死状態だったと.............. \