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少年と少女は机を合わせて、ノートに計算を書き込んでいく。
窓から西日が差し込んで、教室を赤く染める。
無造作に転がる卒業証書の筒がつくる影は、一際鮮明な黒だった。

「もう会えないかもしれないんだよね、私たち」
少女が言う。二人でいるには広すぎる教室を見回して、少年の方を見た。
「うん。そうかも」
と少年が言った。ノートにひたすら計算を書き込みながら。
そっけない返事。少女はそれが好きだった。

二人は互いを深くは知らない。
どの辺りに住んでいるのかも、普段どんな服を着ているのかも。
少女はそんなそっけない関係が好きだった。
それに、少年は他の男とは違う、と少女は思っていた。
しつこく絡んでこないし、自分のことを気色悪い目で見ない。
女だとか好き嫌いだとか関係なく、自分全体を見てくれるような気がして、
まっすぐ自分を見てくれるような気がして。
そんな少年が嫌いではなかった。
そして、あと10分もすれば、いつものように今日もそっけなく別れて、
少年が生活の一部から消えてしまうのかと思うと、少し悲しかった。

――時間よ止まれ、と強く願う。
静寂の中、唇を重ねた。赤い頬を両手でつつんで、吸う。
30秒がいつも以上に短く感じる。

「……私ね、あの…」
頭の中では次々と浮かんでくる言葉を、口で紡ぐことができない。
もう少しで下校しなければいけないと考えると、
焦るほど言葉があふれてきて、どうしようもなかった。

――また時間を止めた。
少しでも長く一緒にいたいと思った。
少しでも近くにいたいと思って、寄り添った。
ぎゅっと抱きしめると、今までの想いがあふれた。

「……今まで、今もだけどね。勉強とか教えてくれて、うん、感謝してるよ。……ありがとね」
それだけ言うと、顔が熱くなる。体が熱くなる。
西日をうけて、少女の顔が溶けるように見えた。
「いいよ。僕も、ありがとうね」
少年は少女を見て、少し表情を緩めた。

少年に友達が少ないことも、
周りからはあまり良く思われてないことも、少女は知ってる。
――でも、少年のいい所を誰よりも知っているのだ。
そう考えると悪い気はしない。自然と笑みがでる。
今日こそは伝えようと思う。自分の気持ち。

――時間が止まる。
すぐに抱きしめた。息が相手にかかるほど近い。
相手を見つめた。瞳が合う。もっと相手のことを知りたいと思った。
少しでも相手の気持ちを知りたいと思って、相手の一番敏感な部分に手をのばす。
――少女と知り合って、暫く経つ。
知り合ってから今まで、幾度となく繰り返してきた行為。
行為を重ねるごとにつのっていく背徳感は、少年を酔わせた。
もう歯止めはきかない。

「君って、ちょっと地味で暗いけど。でもね……う、うん、キライじゃないよ」
誰が何を言ってもね、と心の中で付け足しておいた。
「ありがと。僕も嫌いじゃないよ」
少年は口元を歪ませて、微笑を見せた。
そしてもう一度、時間を止めた。