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ズボンの上からちんちんを触りながら、道端で考える。

一般的にいう親切というものは――例えば、席を譲るだとか財布を警察に届ける、
なんていうのは、結局、本当の親切なんかじゃないのかもしれない、と。
そういった行動は、最終的には、少なからず相手に気遣いさせることになる。
「本当にありがとう。でも悪いねえ、謝礼を用意しなくちゃ」
というように。
素直な感謝の気持ちと同時に、妙な責任感を相手に与えることになるわけだ。

その点、俺はそんな、無粋なマネ(親切)はしないようにしている。
一見、ただの自己中野郎にみせかけて、実は裏で皆を支えている。
そんな最高な野郎を俺は目指している。
相手に気を遣わせずに親切を提供する、最高の男を。

そんな最高野郎を目指している俺は、一人の女の子に困らされていた。
いつも俺のところにやってくる女の子。
少し前、道端(俺の家)で泣いてるので、適当に慰めて帰したら、
その日以来、毎日道端(俺の家)に来るようになり、すっかりなついてしまった女の子。

どこの子かは知らないが、汚い格好ではない。(綺麗な格好でもないけれども)
親にはしっかり面倒見てもらってるようだ。
ただ以前、家庭事情を訊いた時の辛そうな顔が印象に残っている。
おそらく、結構な貧乏――なのだろう。
だが、それは一つの女の子の側面であって、女の子が良い子であることは揺るぎない事実なのだ。
しかし、どこで人生のボタンを掛け違えたのか、教育のボタンを掛け違えたのか、
お昼過ぎから夕方まで、俺の所で時間を過ごす。
良い子ではあるが、そのベクトルが少しズレてしまっているらしい。

そんな子に困らされながら、どうやって家に帰そうか考えながら、
ちんちんを触りながら、俺はその子の相手をした。

その女の子は俺の所へ来ると、決まってこう言った。
「お腹すいた」
「何にもねえよ」
と俺が返すと、
「お金ないの?」
と訊き返す。
「まず、働いてないからな。というかむしろ、働いたら負けかな、と――」
「それって負け組っていうんじゃないの?゛おじちゃん゛」
「――帰りなさい」
当然かもしれないが、俺の人生の捉え方は、この子とは随分と違っているようだ。
労働に関する認識だとか、年齢に対する認識だとか。
だとすると、俺の目指す最高の男像はこの子には到底理解できないだろう。
――だから、教えてやらない。
「――教えてやらない」
「ん、なに?」

……女の子には悪いと思っている。
汚いおにいさんと一緒に時間を過ごすことが、この子にとって良い事であるはずない。
働かないし、風呂にも入らないし、ちんちん触ってばっかりだし。
だから、これ以上俺に寄り付かないように、自分のことは話さないようにしている。
それに、できるだけそっけない態度で接している。――が、それが逆効果だったかもしれない。
だが、いずれにしても、これ以上なつくことがないように、
この姿勢を変えるつもりはないし、女の子に゛教える゛つもりも決して無い。

時間を止める懐中時計をもってることなんて、絶対に教えない。

もう一つの教えない理由。

「お腹すいたお腹すいた」
と女の子が俺の横でじたばたする。
俺は横になったまま、そうか、などと適当に流しながら、成年本を読む。
もちろん、本の中身は徹底ガード。この本は子供の教育に悪い。
「なんか欲しいなんか欲しい」
「うるさい、暑い」
「おじちゃんのバーカ」
そんなやりとりの後、女の子は黙って横になる。
そうやって、しばらく経った後、俺は時間を止めて、女の子の腹の上に適当なお菓子をのせてやるのだ。

時間が動き出すと、そのうち、
「おじちゃんにはあげないよー、だ」
などと言いながら、お菓子の袋を開けるのだ。
その時俺は、自分がその出来事に携わっていないことを主張するために、
女の子に背を向けたままでいる。

これは俺の目指す親切の究極形に近い。
急にお腹の上に出現したお菓子に対して、女の子はワケが分からず、
しかし、自らの欲求に従ってお菓子を腹におさめる。
女の子には何の後ろめたさも、妙な責任感も残ることなく、
女の子の満足感と満腹感。それと、俺が親切をした、という事実だけが残るのだ。
(事実という言い方は適切じゃないかもしれないけども)
そしてその親切を成すためにも、女の子に時間停止のことを教えるわけにはいかないのである。

お菓子を食べ終わると、再びうるさくなる。
食べてる時のように――とは言わないまでも、もう少し静かにして欲しいと思う。
できるだけ目立ちたくないのだ。
汚いおにいさんと、小さい女の子が一緒にいる時点で、すでにおかしな光景なのだから。

もうすでに体裁なんて捨てたはずなのに、この子がいると世間の目を気にしてしまう。

「じゃあ、今日もおじちゃんの好きなことしよ!」
「今日゛も゛? 日本語おかしいね。……て、コ、コラ静かにしなさい! メッ!」
変質者・不審者に間違われると困る。
「アハハハ、いやいや違うんですよ。……さ、さ、続きだ。
 ……そんな大根演技では一等賞をとれないぞ、もっとメリハリを……つけてだな。
 そ、そ、メリとハリをつけてだな。メ、メリでハリを……な、なんだ」
「……意味がわからない」
気づくと、世間の目以上に冷たい目が俺を見ていた。

――――――――――――――――――――――――

あくる日もまた女の子はやってきた。

(ああ、今日もやって来たよ)
(おいおい、そんなに急いで、こけたら危ないぞ)
(ん? なんでそんなに嬉しそうなんだ)
(アレ? 何か持ってるな)

なんて考えてるうちに、女の子は俺の傍にやってきて、腰を落とした。
女の子が手にもつ鞄を開けると、中には結構な量のお菓子が入っていた。
「ん? なんでお菓子持ってんだ?
 ひょっとしてアレか。俺の目の前でお菓子を食う姿を見せつけようって魂胆か。このアホウめが」
女の子はそんな俺の言葉を無視して、少し恥ずかしそうにお菓子を俺に差し出して言った。
「これ……あげる。……いっつもメイワクかけてるからね」
「……」

女の子は俺が喜ぶと思ったかもしれない。
だが俺は怒った。それはもう怒った。
怒りの言葉を、周りに構わず吐き出した。
「無理して持ってこられてもこっちが困る!」
「だいたい俺よりも、お前の家によっぽどメイワクだろうが!
 俺なんかのために、負担をかけて!
 自分の小遣いから負担したんだとしても、だ!」
自分の吐いた言葉が全て自分に突き刺さる。
女の子の顔は、見ていない。

そのうちに女の子は鞄を置きざりにして、俺を背に走り出した。
俺はそれを見て時間を止めた。
結局、女の子は一度も振り返らなかった。

――すっと一緒にいられるわけがない。いずれはこうなるのだ。
ただそのための手段が、直接的だっただけのこと。
ただそれが、あまりにも急だっただけのこと。

その夜、俺はそのお菓子を食べた。
親切(一般的な意味での)を受けた場合、それを素直に受けるのもまた親切なのだ。

俺は、最高の親切を成した。
変な男の元で、ひたすらに悪影響を受け続ける女の子を、俺は助けたのだ。
もちろん、相手には妙な気遣いを与えてはいないはず。
最も親切らしい親切を成した。

それと同時に、親切の相手を失った。
その女の子は俺の唯一の親切の相手だったから、
もう親切を与える相手はいない。
だから俺は時計――時間停止の力を女の子に渡した。時間を止めて、彼女のポケットに入れておいた。
女の子に貰った、お菓子のお返しに(駄洒落ではない)。
そして俺は、ちんちんを触るだけのおにいさんになってしまった。

次の日、ちんちんをいじっていると、知らないうちにお菓子が俺のお腹の上にあった。

次の日も、その次の日も……。
少しではあるが、しかし、毎日同じ時間にお菓子が届く。
いや、届く――というよりは現れるという方が正しいだろう。
気がつくと俺のお腹にお菓子がのっている。
俺はそれを迷わず胃におさめるのだ。

もちろん、お菓子を届けにくるのは、あの女の子であることは容易に想像できるし、
むしろ、あの女の子以外にはできないことである。
女の子が自分の空腹を我慢して、俺に与えてくれることには頭が下がる。感謝する。
しかし、俺はそれに気づかないふりをして毎日を過ごした。

女の子から離れて、分かったこと。
誰かの゛さり気ない親切゛に対して、気づかないフリをするのもまた親切なのだと。
例え相手が、その゛フリ゛を見破ったとしても。

その女の子による親切は、今も変わらず続いている。
毎日決まった時間になると、俺の服の上に、可愛い小さなお菓子。
俺は毎日、同じ時間に同じお菓子を食べ続ける。ちんちんを触り続ける。

そして、変わったことがある。
毎日決まった時間が近づくと、自分の近くにお菓子を置いておくのだ。
そして時間がくると、俺の上にお菓子が出現する変わりに、俺が用意したお菓子は消える。
そうやって、女の子の親切と自らの親切に満足しながら生きるのだ。

ちなみに、俺が用意するお菓子は、彼女のそれよりも少しだけ高価な物である。
さり気ない究極の親切を、忘れずに実践していることに自己満足である。