世界の果てまで続く長い道のりを歩き続けなければ。
恐らく、永遠と思えるほどの距離・時間を要するだろう。
それらが僕を焦らせる。同時に大きな無力感を感じる。
僕は辿り着けないかもしれない。きっと、目的地は限りなく永遠に――いや、永遠の距離かもしれない。
そう思いながら歩き続ける。
ひょっとすると不自然かもしれないが、それでも僕は歩き続けるしかない。
もしくは立ち止まるか。

立ち止まってしまえば――停止した世界に同化してしまえば楽かもしれない。
いやきっと楽だろうが、僕は立ち止まるのを恐れている。
一度立ち止まってしまったら、それっきり歩く気力を失ってしまうだろう。
立ち止まったら最後、永遠の底なし沼にひきずりこまれてしまうような気がする。
そんなことになるくらいなら、変わり映えしない灰色の景色を眺め続けるくらいなら、
僕は目的地を目指して歩き続けていたい。

などと偉そうに吹いてはいるが、実際のところ僕はそれほど歩き続けてはいない。
具体的に何?歩いただとか、何日間歩き続けているかは分からないけども。
歩く僕の周りの景色はおおきく変わってはいない。
僕の足はまだまだ疲れていない。
気力も今のところ大丈夫だ。
――といってもこの景色は、目的地まで変わり映えしないのかもしれないし、
今の状況ではいくら歩こうが疲れることはないのかもしれない。
心が折れていないのは、歩くことに集中してばかりで、何も考えてこなかったからかもしれない。

しかし、改めて考えてみると理不尽極まりない状況だ。
――そもそもこんな状況、僕は望んでなどいない。
何故僕なのかも分からない。特に他人と変わってるところなんてない。
いつも朝7時頃に目を覚まして、朝飯を平らげて憂鬱な一日を過ごすだけだった。
誰に迷惑をかけるようなことはしていないし、(逆に、誰かのためになったことなんてないけど)
僕と同じような人間は世界に何億といるはずだ。
なのにどうして僕なのかというと――神様の気まぐれなのだろう。
神様を恨む。

ああ、せっかく今まで何も考えずにやってこれたのに。
一度思考をめぐらせてしまうと、なかなか止められない。

――ある日、急に全てのものが停まってしまった。世界の時間が止まってしまった。
そして、僕には目的地が示された。
多分、その目的地に行けば、世界は動き始めるのだろう。
僕がそこに辿り着かなければ、世界は二度と動きはしない。
だからといって、僕は正義感にとらわれてしまっているワケじゃない。
別に今、死んでしまってもいいと思っている。
世界が元に戻ったところで、僕にとって喜ばしいことなど無い。
ただ現状では死ねないだけだ。もし手首を切ってみても(実際に切ってみたのだが)
血が出ない。溢れ出すはずの血が、傷口表面ですぐに停止してしまう。
歩き続けても疲れないのと同様に、僕自身の体には(もちろんこの世界も)
変化らしい変化はみられない。
仮にビルの屋上から飛び降りても同じことだろう。
ただその場合は、手足がとぶかもしれない。首がもげるかもしれない。
それでも多分死なない。死なずに、ずっとそのままの状態だと思う。
だから僕は、ただ歩き続けている。
誰のためでもない。

そう、僕が歩き続けているのは誰のためでもない。
しかし、僕が目的地まで辿り着いたなら、世界が元にもどるならば。
今まで起きていたことなんて知らずに、周りの人間は再び息を吹き返す。
そのあかつきに、僕は何かを手に入れるのか?
この行為に見合うだけの対価はあるのか?――何も無い。
それに比べ、僕が世界をもどすことで、周りの人間は自由を手にする――何の労力も無しに。
身勝手な公僕は今まで通り、自分のためだけに動き続け、
金持ち共は変わらず馬鹿みたいに欲を貪る。
僕の身近にいる人間は以前のように僕をこきおろすだろう。

僕は誰かのために歩き続けているわけじゃない。

……雑念が尽きない。歩けば歩くほど頭をめぐる。
歩き続けるしかないのだと言い聞かせても、それだけでは抑えきれそうにない。
このままでは完了できそうにない。目的地まで辿り着けそうにない。
何かを見るたび・感じるたび不満をつのらせて、
解消されない悩みに頭をかかえるのは辛い。
だから――少しだけ休もう。
思考を押し止めるためにも、一旦立ち止まろう。
少し休めば、また気力も湧いてくるはず。

――大丈夫。ほんの少しだけ。


                  おわり

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最終更新:2007年11月15日 17:01