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「ん、呼んだ? 喪男さん」

女の子が名前を呼ばれて振り向くと、喪男はベッドの中にいた。
喪男が先程まで読んでいた文庫は机の上に置かれている。
スタンドランプが夜の闇を弱く照らす中、ベッドで横になりながら喪男は口を開いた。

「僕もベッドに?……喪男さんがそう言うなら仕方ないけど。
 変なことしちゃ駄目だよ」

うつむきがちに女の子は、喪男がいるベッドの中に入る。
一人で寝るには大きすぎるそのベッドは、二人が入るには丁度いい広さだった。
女の子は何だか落ち着かないので、喪男に背を向けてベッドで横になった。

「子どもじゃないんだから、もう……」

満天の星――はここからは見えないが、それでもいい。女の子はそう思う。
ベッドの中で少し動揺しているが、暫くすれば収まるはずだ。
以前、留守番の時に喪男のベッドに入った時も、最初は落ち着かなかったが
時間が経つにつれて慣れていった。今回も多分そうなるだろう。

満月が出ていることに女の子が気付いたのは、喪男に言われたからだった。
部屋に取り付けられた小さな窓から、満月がよく見えた。
窓は――満月は喪男に背中を向けていると見える位置にある。
満月に目をやりながら静かにしていると、シーツの擦れる音や喪男の呼吸音が小さく聞こえてくる。
それに合わせて時折、喪男の息が首元にかかる。喪男も窓の方を見ているようだった。

「月って不思議な力があるみたいだ。人の気分を良くしたり、逆に沈ませたり。
 ……満月は特にそうだと思う。
 『海水が何メートルも上下するくらいの重力の影響だから、
 人が影響を受けても不思議じゃない。』
 なんて言う人もいるけど、そんな言い方はおもしろくないよね。
 喪男さんはどう? 僕はね、満月を見るとすごく落ち着くんだ。けど……」

その日は満月をいくら見ても、落ち着かなかった。
シーツに包まって暫くの間じっとしていても駄目だった。
もしかすると、喪男が同じベッドの中にいるからなのかもしれない。

「喪男さん、僕に何かした?」
後ろの喪男からの返事。「いいや」
「ならいいんだけど」

そんな会話を交わす間にも、女の子のそわそわした気分は止まない。
自分の体がうるさくなってきて、周りの静けさが嘘みたいだ。
さらに、喪男の゛力゛を知っているから余計に落ち着かない。

「ねえ、本当に何もしてない?」
たまらず振り返ると、喪男は悪戯な表情で女の子を見ていた。
――黒い懐中時計が、あえて誇示するように喪男の手に握られている。
「喪男さん! やっぱり喪男さんが時間を止めて、僕の、その、……もう!」

女の子はベッドの中で反転。ふてくされたように再び喪男に背を向けた。
そして、何とか気持ちを静めようと努めるが、もはや
満月を見ても何をしても静まりそうにない。

「……喪男さんのせいで眠れなくなったじゃないか、もう」