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\DVD販売店でDVDを購入し帰宅した後、鼻息を荒げながらテッシュを用意した。
それから起きたことをありのままに話す。
DVD『メイド娘/激萌えるプリケツっ子』を買っはずが、中身は
『近親相姦/熟女の熟れた肉壷』だった。
衝撃――だった。
ジャケットに写る可愛らしいメイド娘とは裏腹に、
ディスクに描かれているのは熟女(という名のババア)だった。
予想外の出来事に数分言葉をなくし、俺は再び外出した。
手さげ袋を持ちその中にDVDを入れ、多少の怒りを胸に宿しながら。

その日は俺の誕生日だった。
そのDVDは、人生の節目となる30回目の誕生日にセルフプレゼントしたものだ。
それが――ついてない。あり得ない。
何だか半生をその出来事で一くくりにされたような気がして、同時にこれからの人生を
暗に貶められたような気がして、怒らずにはいられなかった。
人生で初の怒りといってもいいかもしれない。

DVD販売店への道中、吠えかかってくる犬がいた。
「あまり私を刺激しない方がいい」
咎めても一向に退かない犬に対して俺はついつい全力で威嚇を返してしまった。
いつもなら、そんな犬など歯牙にもかけなかっただろうが……。
次の瞬間、逃げ去る犬の後姿から妙な優越感を感じた。
それだけではない。己の強さの確信。
30歳の節目に得た、生まれ変わったという実感。
今までに感じたことのない、奇妙に革新的な前衛的な高揚感を抱きながら、
やけに挑発的なDQNにも睨みをきかす。ズゥーン。

殺風景なはずの町並みも、その日ばかりは極めてスペクタクル。

やがてDVD販売店「元気のでるDVD屋さん(性的な意味で)」に到着した。
ピンク系統に塗装されたその建物は、周りのコンクリート群と見比べてみると
――いや、見比べるまでも無く、馴染まず明らかに目立っていた。
そうれにしても、いつこんな店が出来たのだろう?
などという問いは――悲しいかな、今までの鍵っ子生活を振り返ってみれば
簡単に答えは出る。そして本日二度目の入店。
あらためて、変な客が多い。特に不審だというわけではないが、平日のお昼から
(エロ重視の)DVD店にくるような客である。
そんな人間達が作る場の空気というものは、かなり胡散臭く、
したがって、あまりにも居心地がいい。
しかし今回はそんな空気に浸る間もなく、カウンターへと向かった。

「す、すいません」
「はいっ、どうしました?」

バッグの中から『メイド娘(略)』を取り出して、中に入ってるディスク『近親相姦(略)』を
女性店員に見せた。
「あ、あの、ここで買ったんですけど、中身が……」
「〜〜〜〜申し訳ありませんっ」
頭を下げる店員さんにDVDジャケットとディスクの絵柄を見せびらかし、
羞恥心を覚えさせようと暗に試みる。
ちなみによく見ると、ディスクに描かれた熟女も結構エロい。
店員さんは素早くジャケットとディスクを確認した。

「ええっと、こちらとしては、時間操作できるスイッチを差し上げるということで
 対応させて頂きたいのですが……。よろしいですか?」

……なんというアバンギャルドなクレーム対応。
店員さんがブスなら間違いなく殴っているだろう。
さて、客側がそれで納得すると思っているのかな? という疑問は置いといて、
店員さんが差し出したものは、どう見ても聴力検査の時に使うようなスイッチ。
しかもワイヤレス。電池が入るような容積もない。
どう見てもポンコツだ。
「……」
店員さんはスイッチを差し出したままの体勢。
俺がスイッチを手に取るのを待っているらしい。
上目遣いでこっちを見ている。しかも前髪をピンで綺麗に分けて、おでこ丸見え。
俺の一番好きな髪形ではないか、こやつめ。
「うっ……」
仕方なく店員さんからスイッチを奪い、スイッチオン。
――すると暫くの静寂。

「おめでとうございますっ。お客様の時間は動き出しましたよ。……なんてね」
店員さんが沈黙を突き破って、笑顔を見せる。
「な、何?」
店員さんは相変わらず人懐っこい笑顔だ。
「せっかく手にした運の流れですから、もう放さないようにしてくださいね」
応援してもらうのは案外気持ちいいが、
これが今時最先端の接客――なワケないな。
「……そ、それよりもD――」
「成功のコツはがっつかず、控えめすぎず、ですよっ」
店員さんは拳を握って、控えめに両手に力を込めて言う。
「控えめすぎる生き方って、楽しくないです。よね?」
「……」
「ですよねっ?」
「は、はい……」
「ひねて閉じこもってばかりいるよりも、無理に思えても――ちょっとでも行動した方がいいです。多分。
 だから、お客様の力になりたいと思ってスイッチを押してもらいました。
 ……でも、ひょっとするとこのスイッチも必要なかったかもしれませんね。
 お客様が持ってクレームに来られた時点で、多少なりとも強くなっているはずですから」
――なめられているような気もするが、素直に喜んでおこう。

「でも……、少し心配もあるんです。
 少しがっつきすぎるのが心配です」
――心当たりがないでもない。
「控えめすぎはダメですけど、がっつくのはもっとダメですよ。
 だからそういう時は……」
また綺麗な目で俺を見てくる。
ということはここでアレか、スイッチか。そうなのか。
再びスイッチオン。
「――もうっ、せっかく動き出した時間をまた止めたらダメじゃないですかっ」
店員さんはクスクスと笑った。
俺もつられて少し笑った。
「フ、フフフ……」
「そういう時は、とにかく自然体ですよっ。
 力まずに自然に力を抜けばいいと思います。
 そうすれば……本当に時間を操れるかもしれないですね」
そう言って店員さんはまた笑った。

気づくと俺の後ろに少しだけ列ができていた。
精算待ちの兄さん達が、後ろから俺を見ている。
その場から逃げるように、急いで出口へと向かった。
スイッチは俺の手の中にある。
DVD販売店「元気の出るDVD屋さん」を退店した時、
「ありがとうございましたーっ」と元気な声が聞こえた。

結局手さげ袋の中には、中身違いのDVDが入ったままだ。
しかし、それでもいいかな、と。
そう思えるのは店員さんが可愛かったからだろう。
などと考えながら帰路につく。
いつか自分は時間を操れるようになるのだろうか。
気分は――良かった。
「フ、フフフ……」

「おい、何笑ってんだキモチワリー」
「っ!?」
「お前、さっき俺を睨んでくれたよな?」
横から声が迫ってくる。声の方向を見ると三人組のDQNがいた。
首を変に傾けながら迫ってくるDQNを見ると、特攻の拓が思い起こされて止みません。
本日がっつきすぎた代償かなコレは。
完全に逃げ腰でいると、DQNは急に手さげ袋をかっぱらった。
「あ、そ、それは……」
「……おいタケちゃん、こいつこんなのもってんぜ」
「あ? 『メイド娘/激萌えプリケツっ子』? 良い趣味してるじゃね〜か」
「……おいタケちゃん、中身違うぜ?」
「あ? 『近親相姦/熟女の熟れた蜜壷』? 趣味半端じゃね〜ぞ!」
「だせぇ、熟女趣味隠すためにジャケット取り替えてやがる! きめぇ!」

             おわり