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「……何これ?」

コンビニを出ると、そこはバケツをひっくり返した様な雨。
傘など持っていない。仕方ないので濡れながら帰る事にした。
途中配水管の溝に引っ掛かり、ド派手にコケた。
ビニール袋から、初めて海を見た時の子供のように、弁当が飛び出した。

「おいおい、はしゃぐとパパみたいにド派手にコケ……な、中身ブチまけちゃったぁぁ!」

うなだれた。『orz』この絵文字を完全に再現した。
このままでは色々とまずいので、「元」弁当の残骸を拾う。
あぁ……ジャ○プが小学校裏に捨ててあるエロ本みたいな姿に……。


「メール来ないで下さい!来ないで下さい!」

ブブブ……って、えぇ来ましたよ畜生。
当たり前っちゃ当たり前なんですよね、こんな日の方が仕事がありそうですし。

「せめてカップ麺くらい食べたかった」

今お湯を入れたカップ麺に泣く泣く別れを告げ、家を飛び出した。
今回の仕事場所は隣りの県。電車に乗り遅れるとタクシーしかない。
それだけは、今のお財布事情により、絶対に避けなければならない。

「脳内のよく分からん成分よ!今だけでいい、大量に分泌しろぉ!」

土砂降りの雨の中、俺は駅まで全速力で走った。

「あぁぁ……財布がおなか空いたって泣いてるよぉぉ」

結局タクシーで目的地へ来る事になった。さすが俺、不幸なら金メダル確実だ。

「この辺か? 間違いないよな……よし、大丈夫みたいだ」

仕事場所を携帯で確認する。今回の仕事はこのT字路で行うようだ。

「うへぁ……面倒過ぎる……」

南からの右左折するしかない道、つまりTの縦の『|』これ。この道の突き当たりは、民家。

「この民家の中にある何かを守れって……何から?」

メールによると、あと5分で仕事開始だ。
ポケットに手を入れ、金属状のケースを弄ぶ。
そうこうしていると、今回の仕事相手が、遠くでその瞳を光らせながらやって来た。

「帰りてぇんですが」

今晩はガソリンを積んだ変なトラックさん。
正式な名前? はっはっは、知らないよ。知る必要すらない。むしろ今は知りたくねぇ。

「なるほど俺ごと潰す気ね」

トラックは止まる様子すら見せずに走りよって来る。……お前は母親を見つけた赤ん坊か。

「俺はお前の様な……でかい坊やの知り合いはいないんでねっ!!」

弄んでいたケースから、カプセル状の薬を取り出しすぐさま飲み込んだ。

「残業無しが俺のモットーでね!!」

ぐっと眉間に力を入れる。その瞬間、トラックがピタッと止まる。
トラックと言うより、時間を止めたんだけどね。
薬は力の暴走を押さえる物で、飲まなきゃ元に戻せなくなるのです。

しかしなんて聞き分けの言い子なの、弁当達にも見習って欲しいわ。
「んがっ!?……くそっ、言う事を聞いてこっちに来なさい!」

なんて重さ……押しても引いてもびくともしない。
お前の中身は油ばっかりか!あ、油ばっかりだな。

「埒が明かねぇ……仕方ない、もう一錠……ぬおぉ!」

トラックが亀の様に、それはもうゆっくりと動き出す。
簡単な事、トラックの『時間』を少しだけ元に戻した。

「んぐががが!」

ひたすらトラックを左側へ押す。少しずつ左に依っているようだ。

「……ハンドル回せば良いよね」

ドアを開け、ハンドルを右に回す。おぉ!カーブして来た!

「よし、このまま曲がれ!」

ゆっくりと右に曲がって行くトラック。民家への直撃は防げた。
運転手は酒臭い上にいびきをかいていた。
足をアクセルから放してエンジンを切る。
まぁこれで大丈夫だろう。

「仕事終了、残業は無し!お疲れっした」

そう言って、時間の拘束を解いて家路を辿った。

「……こりゃ胃腸薬じゃ治らないほどの飲み過ぎだね」

見るも無残な姿のカップ麺。
まだほんの少し温かい、死後そこまで時間は経っていないようだ。

「食べる事で報われるのなら食べてやる……しかしお前は太りすぎた」


新しいカップ麺にお湯を注いでいると、メールを知らせる着信が。

「……あんだけ頑張ったのに、六千円かよぉぉ」

本日の給料、六千円+電車賃。マイナスなんですが……。
上の奴等は何を考えているんだ……。また今月もカップ麺生活か。


俺の仕事……。
それは、この街の隠れたヒーロー。……実際はそんな格好いい物じゃない。
『世界』の運命が狂った時に起こる、予定外の『惨事』を未然に防ぐ事。
安月給でとても地味、しかも仕事はきつい。
休みなんか殆どないし、誰からも感謝されない。
ただ、やり甲斐だけは無駄に大きい。本当、無駄に。

「神様……せめて彼女が欲しいです……」

俺の仕事はこの街のヒーロー。
俺の名前は『ストップマン』



「……これ春大会の作品の完全版?」
「細かい事は気にするんじゃないよ」
「お前……少しは懲りろよ」
「…………すまんかった」


【完】