「なんだよ、そりゃ。」バズは窓際にある椅子に座り込みながらポーンに尋ねた。ポーンは小さな木の小箱をテーブルに置いた。
「爺の店にあったんだ。」
「あ〜、質屋だっけ?」
「そう。中身なんだと思う?」
バズはちょっと考えて頭を横に振った。ポーンは小箱を開けて中身をバズに見えるように傾けた。
「ハッパか?」
「吸ってみる?」
ポーンは嬉しそうに笑い、小箱の中からハッパを一枚取り出して煙草紙と一緒にバズに渡した。バズは慣れた手つきで巻き上げて口にくわえた。
「火あるか?」
ポーンはポケットからライターを出すとバズに投げた。火をつけて、深く吸う。部屋の空間と共に濃密な煙が喉を通り抜け、肺を燻し始める。
バズはポーンに話し掛けようとして周りの異変に気付いた。
「お〜い、ポーン?」
ポーンはバズを見つめたまま固まっていて、まばたき1つしない。それどころか部屋の中で動くものは、バズの口先から漏れ出る煙だけだった。
「どう?」
すると、突然ポーンが話しかけてきた。
「………お前なぁ、悪ふざけはよせって。」
無邪気な笑顔を振りまくポーンの質問を無視してバズは言った。
「はっ?俺はなんもしてねーよ。それよりもそのハッパどうよ?糞不味くね?」
既に灰になったハッパを床に投げ捨てるとバズはそれを否定した。それと奇妙な幻覚の話をした。
「俺が吸った時はそんな事なかったけどなぁ。」
ポーンは不思議な顔をしながらハッパを巻き上げて吸った。バズは咳き込む音と「やっぱ不味ぃ!」という喚き声を聞きながら窓の外に見える路地を眺めていた。
「これ、バズにやるよ。」
息を整えたポーンが木の小箱をバズに投げてよこした。
「こんなのいらねぇや。」
一方的に小箱をバズに渡すとポーンはベッドに座り込んだ。バズが小箱の中に入っている物の数を数えていると部屋のドアが乱暴に開けられた。
「よーう!風呂屋に質屋!」
筋肉隆々のデカ物が部屋の中に上がり込んできた。
「……あのなぁ、お前はもう少し静かに入って来れねぇのかよ。」
「質屋は別にして俺は風呂屋じゃねぇ。」
ドンナーはまるで2人の文句が耳に入っていないのか、大笑いしている。
「ファマから伝言だぜ。明日の18時に来いってよ。」

ドンナーが床にある雑誌を拾い上げながら言った。

「俺達、なんかミスった?」
「俺に聞くなよ。この前の仕事はcoolかつ完璧だったぜ。」
不安そうに尋ねるポーンにバズが笑みを浮かべながら答えた。
「あれがcoolだって?金玉蹴り上げるのが?」
雑誌を持ったまま両手を開いて笑いながらドンナーはバズに聞いた。
「それはアイツがナイフを出そうとしやがったからだろ?ああでもしねぇとこっちが殺られてたぜ。」
「こいつは真っ先に鞄持って逃げるしな」
ドンナーはポーンの背中を平手で叩きながら笑った。
「うっせぇな。仕事を終わらせるにはあの鞄が必要だったんだろ?」

ポーンは顔を赤らめながらも答えた。
ドンナーとポーンが喚き合う声を背中で受けながら、バズは窓際で肘をついて人通りの少ない路地を見ていた。

翌日、3人はそろって事務所の中へ入って行った。
いつもの事だが、このビルは酷く汚れている。バズはそんな事を考えながらも2階への階段を登っていった。
「きったねぇなぁ。」
バズの後ろでポーンが腕を頭の後ろで組みながら言った。何が可笑しいのか、更にその後ろでドンナーが笑っている。
階段を登りきり、廊下を右へ曲がり突き当たりにある扉を開けた。後ろの2人は口を閉じていた。

扉を開けると、小さな部屋が視界に入ってきた。中へ入ると薄汚れたソファにヒゲを生やした男が煙草をふかしていた。男は3人を1人づつ見ると顎で右側の扉を指した。

3人がその扉をくぐると応接室のような広い部屋が現れた。奥にはデスクが置かれ、バズの左右にはソファが置かれていた。その片方に30代ほどで、ピンクのシャツを着た男が首をもたげて3人を睨んだ。


「おっ!よく来たな〜!まぁ、座れ座れ!」
しかめた顔を一瞬で笑顔に帰ると、3人に座るよう促した。3人はバズを中心にして左にポーン、右にドンナーが座った。
「で?なんです?」
バズがサングラスを外して目の前にいる男に尋ねた。
「ファマはいつも急に呼び出すからなぁ。」
ポーンが愚痴をこぼすとドンナーが笑い始めた。
「おめーら、それがボスに対する話し言葉には見えねぇなぁ。え?」
そんな事を言っている本人も笑っている。
「分かってますよ。bean gunsのリーダー殿。それに言葉は見えませんよ。」
バズはファマをなだめるように言った。
「見るんじゃねーよ。感じるんだよ。」
ファマは苦笑いをしながらもガラステーブルの上の置かれているシガーケースから葉巻を取り出すと火をつけた。
「……ん?」
ファマが葉巻を3人に勧めた。3人は丁重に断った。バズは葉巻は好きではない、あの猛烈に臭い煙と煙草よりも多く歯に付着するヤニが嫌いだった。
葉巻の味をじっくり味わっているのだろう、ファマはゆっくりと話し始めた。
「ん〜。それで今回、頼みたい事はだなぁ…」

鈍い光を放つ街灯が人気のない路地を照らし出し、路上にはめ込まれた金網からはスチームが立ち上っていた。
その路地をバズ、ポーン、ドンナーの3人が歩いていた。3人が路地を右に曲がるとそこにはガラの悪い男達がたむろしていた。3人がその集団の1mほど手前で歩みを止めた。
「ん?bean gunsの兄さん達、なんだい?俺達になんか用か?」
背の低い男が3人に聞いた。
「ハッパでも欲しいんじゃねーの?」
顔面がピアスだらけの男がそう言うと、集団から低い笑い声が漏れた。
「金を回収に来たんだよ。さっさと寄越せよ。」
ポーンが苛立ちの混じった声で言った。すると男達の中から一層大きな笑いがおきた。
「てめぇらにやる金なんてねーよ!」
ピアス男が騒ぎ出した。
「なんだと?」
バズがピアス男の胸倉を掴んだ、2人の背丈は同じくらいなのにピアス男の体が少し浮いた。
「俺達はてめぇらよりもデカい組に移っただけさ。弱肉強食っていうだろ?俺らは強い方に入った訳だ。」
奥にいた背の高い男が3人を見下すような口調で言った。
「……何て組だ?」
ピアス男を放したバズが尋ねた。
「三浦組って知ってるか?」

三浦組。この街で最も古くからある組織であり、規模も最大である。三浦吉兼という老いぼれが束ねている。三浦組の下っ端共の評判はかなり悪かった、虎の威を借る狐といったところだろう。
「ほらっ、分かったならさっさと帰りな。豆鉄砲共。」
「ヒャハハッ!さっさと帰ってママのおっぱいでも吸ってな!」
調子に乗ったピアス男が饒舌に喋り始めた。ポーンの顔は薄暗闇でも分かるくらい真っ赤になり、今にもドンナーは男達に殴りかかりそうだった。
バズは2人を制すると、チンピラ共を一瞥して歩みを進めた。今、歩いてきた路地を左に曲がって路地から出て行った。バズは路地から出ると、胸ポケットから巻き上げたハッパを取り出して火をつけた。
「チッ!アイツら!」
「ぶん殴ってやりたかったぜ!」
ポーンはドンナーとあの糞共を罵倒していた。その時に、今出て来た路地からあの糞共の悲鳴が聞こえた気がしたが特に気にはしなかった。
それよりも爽やかな顔をしたバズが気になった。


【MoB】第1話完

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最終更新:2008年10月21日 16:46