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――下校時間を告げるチャイムが鳴り響き、今日もいつもと変わらない時が流れていく・・・。
「玲人〜!ヒマ人どうし一緒に帰ろうぜ〜」
「あいよ〜。どうでもいいけどヒマ人よばわりは止めてくれよな――」
などと、お決まりのくだらないやり取りをしつつ、
『俺』こと日暮玲人は友人の貴史と一緒に帰宅する。
「それじゃ、また明日な〜!!」
「おう、じゃあな〜」
途中で貴史と別れ、自宅付近まで歩いてきたところで、「ん・・・?」
ある物が路上に落ちていることに気付き、視線を向けるとそこには――
「何だコレ・・・?包丁・・・ってわけではなさそうだけど・・・」
視線の先にあった物。それは全長30cmほどの綺麗なナイフ・・・。
ただ、それはよく目にするようなサバイバルナイフなどとは違い、
柄の部分には精巧な装飾が施され、刃は細く滑らかな曲線を描いている。
「ったく誰がこんなところに・・・・。しかも抜き身のままなんて物騒だなぁ・・・。」
普段ならば確実にスルー決定なのだが――『・・・・取れ。・・・れを手に取れ・・・・・・』(頭の中で声が響く)
妖しく輝きを放つ刃に吸い込まれるように(その声に促されるように)
俺はそのナイフを通学鞄に入れ、その場を後にした。

〜PM11:00〜
「さて・・・、やりたくないけどレポートでも終わらせるかな〜っと・・」
そう呟き、俺はろくに確認せず手探りで通学鞄の中から筆記用具を取り出そうとし――
「痛ッッ!!?」
気づいたときにはもう遅かった・・・。
幸いにも指を少し切った程度で大怪我にはならずに済んだが――
「今度からは気をつけよう・・・。もう一度ナイフを鞄に入れる機会があるかはわからないけど・・・。」
自分のドジっぷりに対して軽〜い自己嫌悪に陥り、自宅でレポートを終わらせる計画は見事に頓挫。
すっかりやる気を削がれた俺は「レポートは明日貴史のを見せてもらうとするか・・・。」などとボヤきつつ、
先ほど自分を切りつけたナイフを今度はそっと鞄から取り出し、机の上に置く・・・・。
しばらくナイフを観察してみたものの、段々と押し寄せてくる睡魔には勝てず・・・
「どうせもうやることもないし、今日はもう寝るか・・・。」などとひとりごち、
俺はさっさと眠りに着くことにした・・・・。
            ・
            ・
            ・
――深夜、自分以外誰もいないはずの部屋に声が響く。
  『・・・・・・・・願え』
  「・・・えっ・・・・・?」
どこからともなく――否、頭の中から直接響く声は、こちらの動揺もお構いなしにと言葉を続ける。
  『“契約”は既に完了し、お前は私の使い手となった・・・。
       お前が私の力を望むならば・・・その呼び掛けに応じ、我が能力を行使しよう・・・。』
  「ちょ、ちょっと待てよ、俺は“契約”なんてした覚えなんてないぞ!大体、一体なんの話だか―」
  『ただし・・・・・お前が私との契約を破棄するとき、■■■をお前から代価として―――』
  「おい!!人の話を聞けよ!おい!!」
俺は事態が全く飲み込めず、頭の中に響く声を必死に問い詰めようとする・・・が、
“ジリリリ”とけたたましく鳴り響く目覚まし時計によって、その行動は失敗に終わった。
「・・・・・・・夢だったのか・・・・?それにしてはやけに鮮明に覚えてる・・・っていうか・・・」
気づけばすでに夜は明け朝になっている。
ふと時間が気になり、目覚まし時計を確認してみると・・・・時刻は・・・・・
「って!!もうこんな時間かよ!!ヤ、ヤバイ!早く学校に行かないと!!」
慌てて制服に着替えてから通学鞄を持ち、部屋を出る前に忘れ物がないか辺りを見回す――
「・・・・よし。問題ない・・・。」
部屋は寝る前と全く変わらない様相を保っている。
俺は机の上にあるナイフを最後に一瞥し、
適当なパンを頬張りつつ、早足で学校に向かった。

〜2日目 学校〜

「――おい」
昨日見たあの奇妙な夢が頭から離れない・・・。
「―――玲人君〜聞こえてますか〜?」
とにかく、まずはあの夢の内容をまとめよう・・・・、それから――
「人の話を聞けえぇぇぇ!!」
「・・・・ッッ!?」
耳のそばで大声を上げられ、俺は思わず我に返る。
「・・・・悪い、聞いてなかった。んで、何の話だっけ?」
貴史は少し不機嫌そうにしながら、何度も繰り返したであろうと思われる台詞をもう一度口にする。
「だ〜か〜ら!昨日さ、お前の家の近くで事件があったらしいじゃん!
 今朝のニュースでやってたのお前も観ただろ?輸送車が狙われて運転手が殺されてたとかっていう―」
「・・・・・。」
貴史が機嫌良く喋っている間にも、俺の意識は再び『あの夢』に捕われていく・・・。
――そう、確か・・・あの『声の主』は俺に“時を止める”能力を分け与えると言っていた。
『ったく、我ながらバカバカしい夢を見たもんだ・・・』
などと心の中で悪態をつきながらも、俺は思い出せる夢の内容を片っ端から頭の中で箇条書きにしていく。
『確か・・・奴が言っていた能力の使い方は・・・』

 ・1日止めれる時間の限度は30秒×2回。半日に30秒ずつ時間を止める権利が与えられ、
  その日の内であれば、前半に使わなかった秒数を持ち越すことができる。

 ・人や物の時間を“一つだけ”止めたい場合、例のナイフを使い、
  その対象に触れる必要がある。触れたあとは自分の好きなタイミングで
  30秒の中から対象に時間を分け与えている間、時間を止めることができる。
  一度時間を止めた対象の時間を再び止めたいときは、もう一度最初の工程からやり直す必要がある。
  前の日に予め対象に触れても、翌日にはその事実はリセットされる。

 ・複数の人や物の時間を止めたい場合、ナイフを使い、 
  時間を止めたい範囲を取り囲むようにして(例:四角形で囲むなら4ヶ所、三角形ならば3ヶ所)
  地面または壁などに、ナイフの柄に描かれている魔法陣のような模様を描く必要がある。
  そのあとは“一つだけ”時間を止めるのと同じ要領である。
  こちらも1度止めたら最初の工程からやり直し&その日限りで翌日に繰り越せないことに変わりはない。

その他にも使い方があったような気もするが、今現在思い出せることはこれくらいである。
改めて箇条書きにしてみると、『まるで漫画から抜け出してきたような能力だな』と思わず思ってしまう・・・。
・・・しかし、どうしても気になって仕方がない。道端で拾った美しくも妖しい輝きを放つナイフ、
ナイフを拾ったことにより見たであろう奇妙な夢、そしてその夢で告げられた突拍子もない能力・・・・。
『――確かめてみる価値はありそうだ。
   何もなかったら明日の学校で笑い話にでもすればいい。』
そう心に決めた俺は・・・
『――後ろで貴史が喚いているが・・・、この際気にしないことにしておこう・・・』
はやる気持ちを抑えつつ午後の授業に向かうことにした・・・。

〜2日目 自宅〜

学校から帰宅し部屋に入ると、今朝と同じ光景が目に飛び込んでくる。
脱ぎ捨てられたままの部屋着、適当に畳まれた布団、飲みかけのペットボトル・・・
そして・・・机の上に置かれたナイフは、その刃を妖しく輝かせ自らの存在を主張していた。

――心に不安と期待が入り混じる・・・。
  その間にも刻々と時間は過ぎていき、紅い世界は段々と漆黒の闇に染まっていく――

          ―――決行は、今夜11時・・・―――


〜2日目夜 公園〜

午後10時45分

必要な物を適当にドラムバッグの中に放り込んでいき、
最後に刃を包帯で包んだナイフを入れ、ファスナーを閉める。
「・・・よし、行くか。」
目的の場所を目指し、俺は自宅から出発した。
      ・
      ・     
「ふぅ、到着っと・・・。」
15分ほど歩き、目的の場所――公園に到着する。
あのナイフを拾った場所からそう遠くないところに位置しているこの公園は、
昼間には家族連れや昼休み中の会社員などで賑わっているものの、
夜にもなるとその雰囲気は一変する。
雑木林を含む敷地は闇に溶け、時折、この季節にしては生暖かい風が頬撫でていく・・・。
自宅から持ってきた懐中電灯と、公園内に点在する電灯の僅かな灯りを頼りにしながら
奥へ奥へと歩を進め・・・「・・・・始めるか。」――能力の検証を開始した。
      ・
      ・
ドラムバッグからナイフを取り出し、刀身を包む包帯をほどいていく。
その姿を現した刀身に、ここに来るまでの道中で拾った適当な大きさの石を触れさせ・・・
「――オリャ!」と渾身の力で投擲し、
それと同時に『止まれ!!』と心の中で念じる・・・。その瞬間――

 俺は信じられないような光景を目の当たりにした。

投擲した石は、俺が念じると同時にその運動を停止し空中に停止している。
「・・・・・・・。」
唖然としながらしばらくその様子を見つめた後・・・
『動け!!』と再び心の中で念じると、石は運動を再開し地面に落下した。

――その後も覚えている能力の使い方を色々と試していき、
  時刻は午後11時30分を回ろうというところ。

「・・・全部、夢じゃなかったのか・・・。」手に持ったナイフを見つめながらポツリと呟く。
自分の置かれた状況を整理しようとしてみるものの、
おとぎ話のような力を得たという興奮と、
自身が何か得体の知れない世界に足を踏み入れてしまったという不安、
様々な感情が入り混じり、何を考えようともうわのそらといった感じである。
「・・・とりあえず最後に“範囲”の時間を止める方法を試してから今日は家に帰ろう・・・。
 帰って落ち着けば何か考えも浮かぶかもしれないし。」
      ・
      ・
      ・
「――これで2ヶ所目・・・っと」
止める“範囲”に限界があるかもしれないと考えた俺は、
辺りに人がいないことを確認しながらナイフに施されたモチーフを地面に描いていく。
『残りの箇所は出口に向かいながら書くことにするか・・・。』と考え、荷物を持って立ち上がる――と
「――――――」
「人の・・声・・・?」
気のせいか・・・?木がざわめく音などに混じり、一瞬、人の声ような―――
「――――――」
「・・・・・気のせいじゃない。」
そう、微かだが確かに男性が呻いているような声が聞こえる。
「・・・一応見にいったほうがいいよな・・・・。」
もしかしたら怪我や発作なんかで動けない人がいるかもしれない。
とりあえず手に持った物騒な物をバッグに入れ、
俺はその声が聞こえる方角に恐る恐る、警戒しながら近づいていく・・・。

「――――――――」
――声が段々とはっきり聞こえてくる。
「――――――――――」
――声の主はどうやら言葉を発することができない状態らしく、
    ただただ呻くような音と、“ヒュー”と空気が抜けるような音が聞こえるのみである。
「―――――――――――――」
「・・・黒い・・・服・・?」
暗闇に馴れた目で前方を見てみると、
全身黒の・・・映画で特殊部隊が着てそうな服とでも言えばいいのだろうか?
日常生活ではあまり目にすることない服を着た、体格の良い男性が地面に横たわっている――
目標を視認した俺は、警戒して消していた懐中電灯の明かりをつけて男性に駆け寄った・・・。

――懐中電灯で照らしあげた男の上半身は、鮮やかな極彩色で彩られていた。

黒い服の上に不規則に飛び散った見るも鮮やかな赤い色、
首はだらりと力なく折れ曲がり、
切り裂かれた部分からは空気が漏れ出し“ヒュー”と間の抜けた音を響かせている・・・
そして焦点の合わない瞳でこちらをじっと見つめ―――

「――――――――――――――――」

言葉にならない“音”を発していた。

「―――――ッッッッ!!!!!!!!」
声にならない悲鳴をあげる。
事態を必死に理解しようと辺りを見回す――
・・・よく見ると1人だけではない・・・。辺りにはあの男性と同じ服装をした人間が――。
恐怖のあまり、思わず懐中電灯を落としてしまい、慌てて拾おうと視線を向けたその先に・・・
「―――人?」
薄暗い電灯の下、あの男達と同じ黒い服を着た男性が立っている。
警戒などすることも忘れ、男性に助けを請おうと駆け出す――
一方その男性は気づいていないのかこちらには見向きもせず、何もないはずの目の前を驚いたように見つめている・・・
――次の瞬間、「――ッッ!?」
突然男性の首から噴水のように赤い血が飛び散り、男性の体が地面へと倒れていく。
男性の血飛沫が辺りの空間に飛び散り地面に染みを作っていき・・・
“何も存在しないはずの空間にまで血飛沫が付着していく・・・。”

―――何かが・・・・いる・・・?
“それ”はこちらに気づいたのか、
何もない空間に浮遊するように付着していた血液が一瞬にして消えたかと思うと
心臓を射抜くような殺気が虚空からこちらに向けて浴びせられた。
『次はお前だ』とでもいわんばかりの殺気・・・・。緊張と恐怖で胃の中の食べ物を吐き出しそうになる。

――俺はなんとか駆け出していた足を止め、
        男性が見つめていた空間と対峙した――。

「ハァ、ハァ、ハァ――」
不規則な呼吸を必死に整えつつ、“前方の空間”に全神経を集中させる・・・。
・・・あの“空間”にいる者の得体が知れない以上、無闇に距離を詰めるのは賢い選択ではない。
『10m・・・・いや、15mはあるか・・・・?』
俺はさらに距離をとろうと、少しずつ・・・少しずつ後ずさる。
・・・1秒経つのが長く感じる・・・。実際にはおそらく数秒、だがまるで永遠に思えた時間は――

  “ザッ――”

大きく大地を踏みしめる音によって終わりを告げた。

――おそらく“アレ”は1秒後には俺を殺すために攻撃を開始する。
考えろ・・・俺はどうすればこの危機を脱することができる・・・?

・・・・しかしその思考も唐突に中断される。
前方の“空間”を取り囲むように広がった血の海に一際大きな波紋が拡がる・・・・。
『来る!!』
闇夜に血飛沫を舞い上げながら、“ソレ”はこちらに向かって移動を開始した――

14m・・・13・・・12m――
・・・足音が段々と大きくなっていく。

「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ――」
――考える暇など残されていない。
本能がしきりに『逃げろ』と訴えてくる。選択肢はそれしかないのだと繰り返す。
『とにかくこの場は自分の感を信じるしかない。』
そう自分に言い聞かせると、俺は踵を返し全速力でその場から駆け出す!
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ――」
後ろを向く余裕などない、自分が今どこを走っているのかもよくわからない。
――俺は身を隠せる場所を求めて、公園内を無我夢中で駆け抜けた。
      ・
      ・
      ・       
「―――振り切ったのか・・・?」
木の幹に体を預け、現在の状況を把握する。
ここは公園内の雑木林の中。あの現場から見て反対方向に位置している。
・・・あの心臓射抜くような殺気は今は感じられず、足音も聞こえてこない・・・だが
おそらく“アレ”はまだ俺を探して公園内を徘徊している。
このままここに隠れていてもこの状況を打破することはできない・・・。
かといって、考えも持たず無闇に出て行けば“アレ”に発見された瞬間に、首を掻き切られるだろう。
『――どうすれば・・・どうすれば、“アレ”から確実に逃げられる・・・』

必死に考えを巡らせていた俺はある事を思い出す。

『――そう・・・そうだ。あの現場に遭遇する前に描いたモチーフ・・・。
               あれを利用して時間を止めることができれば・・・』

すでにモチーフは2ヶ所に描いている。
自分自身を餌にし、“アレ”を能力の範囲内におびき出したところで
最後のモチーフを描き、時を止める。
成功すればおそらく・・・3〜40秒は“アレ”の動きを封じることができるだろう。

・・・失敗する可能性もある。いや、失敗する確率のほうが高いだろう。
俺がこの雑木林から、能力の範囲内まで走り抜けているときに
“アレ”から致命傷を与えられれば、そこでこの作戦は失敗に終わるだろうし、
上手くおびき寄せることに成功したとしても、時を止めるタイミングを見誤ればそれまでだ。

――だがやるしかない。ここから生き延びるためには、この僅かな可能性に賭けるしかない・・・。

・・・・・覚悟は決めた。
まずは能力の範囲内であり、出入り口が付近に存在する場所・・・
・・・そう“アレ”と遭遇した場所を目指して一気に駆け抜ける。

ドラムバッグからナイフを取り出し、“ギュッ”と力強く、祈るように握り締め、大きく深呼吸する。
『――3、2、1・・・』
短いカウントの後、俺は雑木林から飛び出し作戦を開始した――。
      ・
      ・ 

「ハァ、ハァ、ハァ――」
――走る、走る、走る。
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ―――」
――肺がはち切れそうになっていることも忘れ、ただひたすらに目的地を目指して走り続ける。
目的地まであと半分ほどの場所に達したとき、“ザッ、ザッ、ザッ、ザッ”と、自分の物ではない足音が重なり始める・・・!
『来た!!』
俺は追いつかれることを恐れ、さらに速度を上げる。
禍々しい殺気が背後から発せられている・・・・。まるで心臓を鷲づかみにされているようだ。
次の瞬間、背筋に悪寒が奔り、俺は反射的に身をよじる・・・!
「―――痛ッッ!?」
鋭い痛みが走る。見れば投擲された刃物によって、左腕が切り裂かれ傷を負っている。
「うわぁぁぁ・・・うわぁああぁっ!!」
情けない悲鳴をあげながら、ひたすら目的地を目指す。
――走れ、走れ、走れ・・・!早く・・・早くあの場所に・・・!

その祈りが通じたのか、最初に“アレ”と遭遇した場所が視界に入る。
――あと少し、あと少し・・・・。

・・・そして俺は目的地に辿り着き・・・・その異常に気づく。
「―――死体が無くなっている――」
そう・・・。ほんの数分ほど前には“確かに存在した”死体が無くなっているのだ。
「一体どういう・・・」と言いかけるが・・・
“ザッ、ザッ、ザッ”
こちらに近づく足音に気づき、その言葉を飲み込む。
『そうだ・・・。とにかく今は“アレ”に神経を集中しろ。』
俺は一瞬緩んだ速度を再び加速させ、
さらに出入り口方向に向かうために、以前死体があった場所を全速力で駆け抜けようとする。

――瞬間。“あるはずのない何か”に躓き、俺の身体は激しく地面に叩きつけられた。

「・・・ぐっ・・・」
気づけば、全身に拡がる鈍い痛みを堪えて立ち上がろうとする俺の目の前に、
一人の男が立ち塞がっている・・・。

・・・男はフード付きのロングコートを着ており、
フードを深く被っているためその表情は窺えない。
右手には血に塗れたサバイバルナイフを持ち――
左手には・・・・・・左手には・・・・・

    俺の持つナイフに酷似した得物が握られていた。

「・・・・・・つけた。」
目の前に立ち塞がった男は、うわ言のように何かを呟いている。
『・・・・?』
「・・・・・見つけた。」
『見つけた?一体何を・・・』
“見つけた”という言葉が何を指しているかはわからない。
ただ・・・男は倒れた俺ではなく、何か別の物に意識を奪われているということは理解できる。
『・・・・チャンスは今しかない。』
――俺は、ナイフを持った手をソッと自分の背後に回し、
            男に悟られぬように最後のモチーフを地面に描いていく。
「―――――」
だが、男は不審な行動に気づいたのか意識をこちらに移すと、
「・・・・・・・。」
無言でサバイバルナイフを振りかざし――
        標的の首を切断せんとばかりに振り下ろした。

  外灯の明かりに照らされた灰色の刃が迫ってくる。
  ――止まれ。
  だが時は止まらない。
  ――止まれ・・・止まれ。
  黒い服の男の最後が頭の中でリフレインする。
  ――止まれ・・・止まれ・・・止まれ。
  必死になって背後に回した手を動かし、念じ続ける。
  ――止まれ・・・止まれ・・・止まれ・・・止まれ。
  やがて無情にも灰色の刃が標的の首に到達し肌に喰いこみ始め・・・・
  ――止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ!!!

  そして―――その動きを停止した・・・。

「ま、間に合ったのか・・・?」  
男は蝋人形のようにポーズを取ったまま静止している。

・・・しかし、まだ安心はできない。
男の時間を止めていられるのは、僅か3〜40秒の間だけである。

――俺は立ち上がると同時に素早くその場を後にすると、
           闇夜の中を自宅に向かって駆け抜けた――。

午前1時

「・・・・まったく酷い有様ね。」
「・・・・ええ、まったくだわ。」

サイレンが鳴り響き、“関係者以外立入禁止”のテープが張り巡らされた公園の中、
抑揚のない二つの声が静かに響く。

「ろくに反撃も出来ずに全滅したようね。これで精鋭部隊とはよく言ったものだわ。」
と、長身の女性は皮肉っぽい口調で言う。
「それで・・・増援として私がここに呼ばれたと・・・。ったく、せっかく人がいい夢見てるときに・・・ブツブツブツ」
一方、まだあどけなさの残る少女は、愚痴をこぼしながら不機嫌そうに現場を見回っている。

「大体、手に負えないのなら最初から私を呼んでおけばいいのよ。
 こんな事になってから人を呼びつけて・・・。それで?何か奴の手がかりとかは?」

「――残念ながら何も。その代わり別の手がかりなら見つかったらしいわ。
 まあ、私達にとってはあまり良いニュースではないのだけど。」

「そこで話を切られるととても気になるわ。続けて。」

そう言われ長身の女性『海度 萌(カイト モエ)』は溜め息混じりに、
「二日前“奴”に襲われ輸送車から奪われた?004、
 その能力を使用したと思われる後が3ヶ所、
 それと雑木林の中から携帯電話が発見されたみたいよ――」
と、少女『椿 詠泉(ツバキ ヨミ)』に告げる。

・・・しばしの沈黙の後
「―――忙しくなりそうね。」
「―――忙しくなるわね。」
同時に二人は呟いた。