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 Crazy City / 妄想男


 照りつける太陽の光はジリジリと俺の皮膚を焼いていた。それに加
えてこの人の多さ。暑苦しいことこの上ない。
 交差点で信号が変わるのを人にまみれながら待っていた。1分ほど
して青く点灯。俺も流れにあわせて歩き始める。
 横断歩道の白い線を眺めながら歩いていると、次の瞬間、頭から前
の人の背中に突っ込んでしまった。
 「! あ、すいません……」
 心臓が跳ねた。頭を上げて前の人の方を向く。
 しかし、返答は無かった。
 「……あれ?」
 まず視覚が異常を伝える。異様な光景の情報は脳に伝わったが、解
釈ができなかった。次に感じたのはキンという耳鳴り。完全に音が無
かった。

 何が起こった?
 人が、物が、すべて停止している。
 俺を除いて。

 思考を落ち着けるためにも、動くことを止めた街を少し歩いた。
 すべては写真で取ったように綺麗に停止している。動作するものは
今のところ俺を除いて一つも無い。
 次の瞬間動き出すのではないかと、近くにあったベンチに座って眺
めた。ふと、数を数えてみる。1、2、3…。何度か百まで数えてみ
たが、すでに時間がどれほど経過しているのかがあやふやになってき
た。ベンチを立つ。久しぶりに両足に体の重さを感じる気がするし、
それほど時間は経っていなかったのかもしれない。
 少し落ち着きを取り戻してきた。

 思考しながら歩く。
 何故俺だけ動けるのか。まったくわけが解らない。逃げてくる前に
したことが関係あるのだろうか。思えばあのときから俺の精神状態は
異常をきたしていたのかもしれないな。冷静に成ろうと努めているが、
心がどこかふわふわしている。酒でも飲んでるかのようだ、などと考
えながらぼんやりと前を見て歩いていると、動く物体があった。

 動いていたのだ。俺以外の人が。

 瞬時に俺は声を出そうとしたが、少し躊躇った。あまり人に顔を見
られたくなかった……が、時間の止まっている世界だ。問題は無いだ
ろうと考え直す。

 「あれ……どこに行った?」
 考えている間に人影はどこかに消えてしまった。

 人影が消えたと思われる方へと、俺は小走りで向かっていく。情報
を仕入れることができるかもしれない。協力してこの状況を解決でき
るかも知れない。
 いやしかし、と俺は思う。
 俺は誰かと生きていていい人間なのか。
 あとの人生は人から逃げるだけで終わるはずじゃないのか?
 そう決心して、*したんだろう?
 ………
 ……
 …
 それでも。
 それでも俺は人影を探す。
 何故なのかは、考えても解らなかった。

 動いていた影が消えた先の通路は、駅前で一番大きなデパートに通
じていた。入り口の自動ドアは半開きのまま止まっている。俺はデパ
ートの中に踏み込む。

 まず、時間が止まってから嗅覚を失っていた鼻がにおいを感知した。
 人のにおい。
 においの情報を失った世界ゆえか、鼻が敏感になっていたのかもし
れない。とにかく刺激を感じとり、それを人の気配として脳が解釈し
た。

 勘任せ一階を歩く。
 すでに見慣れた光景と成りつつある動かない人、人、人。
 動かないエスカレーターを上る。
 フロアを歩き回ってみる。動くものは無い。
 しかし異常は感じ取れた。商品を並べてあるブースの、所々が荒ら
されたように歪だった。

 次の階へ。エスカレーターを上る。
 この階の異常性は下の階よりも増していた。
 目に入ってきたのは転がる人、人、人。
 ほとんどが転がされたマネキンのように不自然なポーズで横たわって
いる。

 「――――――(何かが聞こえたが、聞き取れない)――――――」

 心臓が跳ねる。
 認知したものは音。
 それは明確な人の気配。

 吹き抜けになったスペース。上の階から聞こえる。
 俺は足音を潜め、エスカレーターを上がる。

――――少女

 私は二人の男に犯され続けていた。
 すでに抵抗を諦め、死ぬまで息をし続けるだけになりそうだった。

 やがて一人の中年が戻ってきた。
 私を犯していた二人の青年はいったん挨拶すると、行為を再開した。
 中年の男は偉そうに椅子に座っている。私を見下ろしている。満足
そうに。楽しそうに。ああ、腹が立つ。でももういい、死にたい。こ
れ以上、痛いのはイヤだ。

 私は世界が止まった時の事を思い出していた。
 あの瞬間は、当然ながら呆然とした。
 何をすればいいのかわからず、途方に暮れ、しばらく街を歩いた。
 歩きながら、私が悪いことをしてしまったから罰としてこんな世界に
閉じ込められたのだろうと思った。悲しかった。こんなことなら*さな
ければ良かったと心底思った。
 歩いていると、この人たちに出会った。最初はいい人たちだと思った。
途方にくれている私の話を聞いてくれた。落ち着けてくれた。私は泣き
ながら寝てしまった。
 そして目を覚ましてからずっと今の状況。何度も殴られた。その度に
抵抗する気力が無くなっていった。

 ごめんなさい。
 私が悪かったです。
 *しました。確かに*しました。
 反省してます。だからもう、やめて。
 私を汚さないで。

――――

 Crazy Ones / 妄想男


 その家具フロアは、今までで一番異常だった。
 停止している人々が居ない。商品の家具は荒らされた形跡だらけ。
 なるほど、と俺は思った。この階にいた人たちは、下の階に投げ捨て
られたのだろう。
 そして階の荒れよう。どうみても一日二日ではここまで荒らせない。
ということは時間が停止してから俺が動き出す前に、動き出した奴がい
る、ということだろうか。

 人がいた。
 「おい、さっさと後ろ貸せよ」
 全部で3人。
 「待てって。どうせ時間は止まってるんだからいいじゃねぇか」
 そのうち二人の青年が、少女を犯していた。
 「ったく……好きにしろよ、ロリコン。じゃ、腹減ったし飯食ってく
るか。地下行ってくるわ」
 少女の口にペニスをねじ込んでいた男が立ち上がる。少女は苦しそう
にむせこんで虚ろな目をする。

――――少女

 私の口に陰茎を咥えさせていた男が立ち上がる。
 私は自由になった口で酸素を求めて空気を吸い込むと、喉に異物
を感じてむせ込んでしまった。
 ふと、並べられた家具の隙間に見慣れない男。
 私と目が合った。
 いや、正確には私の視線が向いていた方にその男がいた。
 誰だろう。まあ、いいや。


――――俺

 一瞬、少女と目が合った気がした。
 やがて、男がこちらに来る。

 来る。
 来た。

 俺は――

 *す。
 *した。

 今度は自分から進んで人を*した。
 ポケットから取り出したナイフの先を、男の喉に通すだけだった。

 何様のつもりだったのかは、自分でも解らない。
 偽善だと、英雄気取りだと言われようが知ったことではない。
 すでに街も俺も、狂っているから。

――――少女

 気が付くと、私の膣から陰茎を抜いて、もう一人の男が立ち
上がってた。
 「ヤります?どうぞ」と中年の男に私を差し出す。
 「いや、いい。君たちみたいに若くないんでね」と中年。
 「そうっすか。俺も腹減ったんで飯食ってきます」
 そう言って、男はエスカレーターの方へと歩いていった。

――――俺

 一人目を*してからどれ程経っただろうか。
 もう一人の青年が動いた。
 青年はこちらへと向かってくる。
 俺は血だらけの得物を構える。

 同じように、一瞬で喉を刺し、*した。
 ナイフを抜くと勢いよく血が俺に降りかかる。
 支えを失った男の体が傾く。

 ……このナイフで刺すのも3人目になるのか。
 あと、一人。

――――

 少女は肩で息をしていた。
 中年の男はそれを見てとても満足だった。
 すべてを手に入れた気がしていた。

 時間が停止する前、彼もまた人を*していた。
 生活が苦しかったから。その人は不要だったから。
 仕方が無いと、そう言い訳をして*した。

 青年たちが居なくなってからかなり空白の時間。
 少女は犯された時のままの体勢で、苦しそうに寝息を立てている。
 中年の男は二人が戻ってこないことに少し違和感を感じていた。
 飯を食うだけならこんなに時間が掛かるはずが無かった。
 どうもおかしい、と思って立ち上がる。

 様子を見に行こうと、エスカレーターの方へ向かう。
 家具の合間を縫って歩くと、首に何かが刺さった。
 振り向くと血にまみれた知らない男の顔が――

 中年の男の意識は、そこで途絶えた。

――――

――――とある雑誌記者のノート

 その市のデータ
 人口:約500万人
 老年人口比率:約30%

 大規模な都市であるが、人口に対する老年人口比率が非常に高く、中
年者、若年者問わず老人への虐待が問題になっている。
 老人の傷害・殺人事件は未遂を含め、この街だけで年5000件にも
及ぶ。殺害事件に限定すると、約2000件(日平均5件!)である。
加害者は中年世代が半分を占め、残りが20代、30代の順に高くなる。
 加害者の動機の半数を占めるのが経済的理由である。いわゆる口減ら
しのために傷害・殺人事件へと至るケースが多いようだ。
 10代の少年少女による老人の殺害も問題視されている。彼、彼女ら
の場合、役に立たない老人を疎ましく思うことが多いようだ。一般なケ
ースとして、老人女性と中学女生徒が同居していたケースを紹介する。
この女生徒は、若くして両親をなくし、事件発生前は老人女性との二人
暮らしであった。学業と介護の両立に苦しんだのだろう。彼女の友人は、
介護が大変そうで私たちと遊ぶ暇も無いほどだった、と話す。現在、彼
女は行方をくらましている。警察は重要参考人として彼女の行方を追っ
ている。


 メモ:この街において殺害事件の加害者と思われる人物は高い確率で
    姿を消し、また捜索しても絶対に見つからない件。
    俗説として殺された老人による怨み返しが有力。

――――

 見るも無残な姿で、少女は転がされていた。
 俺はお姫様だっこの要領で、少女をソファーに寝かせる。

 はだけた衣装代わりにと、婦人服フロアから適当に持ってきたものを
少女に着せよう……と思ったのだが寝ている少女に服を着せるのはとて
も困難だと解った。いや、可能なのかもしれないが少なくとも俺には技
術的、精神的、肉体的に不可能に近かった。というかこれ以上汚された
少女の裸を見ていたら俺もあの3人みたいになりかねん。いかん、落ち
着け俺。

 バスタオルを少女の体に巻いて、その軽い体を背負った。
 風呂とかシャワーって時間が止まっていても使えるのかなとか考えつ
つ、そんな設備がありそうな建物を探すことにした。俺も少女も汚れす
ぎていた。

 少女を背負いなががらデパートを出て、相変わらず硬直している街を
歩く。そろそろお腹がすいてきた。そういえば昼飯まだ食ってなかった
な。
 その時くーっと腹がなったが、音は俺のものじゃなかった。
 「…………誰だか知らないけど、ありがと」
 「どういたしまして」


 Crazy City, Crazy Ones / 終