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 非常に気分が良くなる夢を見ていた。
 自由に時間を止めることが出来る夢。
 俺が“ラ・ヨダソウ・スティアーナ”と呪文を唱えると、たちどころに
時間が止まるのだ。…ただし効果は非常に短かった気がする。
 俺は好き勝手にこの魔法を使い、女を襲ったり金を盗んだりと、とにかく
やりたい放題だった。
 ゆえに、目が覚めたときはとても虚しかった。

 いつもどおりの朝。これから朝飯も食べずに、楽しくも無い大学に行くのだ。
そう、これがいつもの俺。しかし、いい夢を見たので気分は悪くなかった。
 アパートを出て、バスに乗る。朝の通勤通学ラッシュ時間なので、相変わら
ず人がごみのよう。ここから立ったままの30分間。俺にとってすることの無い
苦痛の時間。

 することが無いので今朝の夢のことを思い出していた。時間を止めて好き
放題する夢。なんて楽しい夢だったろう。そして時を止める呪文。…なんだっけ?
 「ら・よだそう・すてぃあーな…?」
 思わず口に出してしまった。…馬鹿らしい。ほら、周りの人が変な目で俺を…

 …あれ?

 冷静に検証を繰り返してみた結果、以下のことが分かった。

 ・止められる時間は30秒。
 ・連続使用可。
 ・27回唱えてみたが、まだ使える。


 そして今、俺は大学をサボって朝一でスロット屋に並びに来ている。
 夢の中のように、女を襲ったり金を盗んだりは小心者の俺には出来ない。
 まずはコツコツとやってみるのだ。

 基本的に、スロットはメダル1枚20円。ジャグラー(*注)を回して、一日1000枚
(2万)勝てば満足する俺だったが、今日はメダル使い放題。吉宗(*注)をぶん回すぜ。
 スロットフロアの両替機辺りには、メダルをたくさん詰め込んだでかい箱がある。
 大抵は店員さんが見ているわけだが、時間を止めれば『ご自由にどうぞ』状態。
 メダルをドル箱に入れて持っていく。キープしておいた吉宗に座って回す、回す、回す。


 生まれて初めて万枚(20万)達成した俺は、
 重くなった財布を抱え、幸せ気分で夕方の帰り道を歩く。


ジャグラー:作者の大好きなスロット台。スロにしてはローリスク・ローリターン。
吉宗:出すときは一撃5000枚とか物凄いが、それゆえハイリスク・ハイリターンな台。

 次の日も学校を休んでブラブラする。
 とりあえずバスに乗って、女子高生のお尻を堪能してみた。

 さて、今日はヨドヴァシに来ている。
 そろそろ新しいノートPCが欲しいのだ。
 ヨドヴァシの場合、PCなどの高価な商品はレジの後ろに詰まれていたりする。
 ゆえに普通は万引きなど起こるはずがない。普通は。
 俺は「ラ・ヨダソウ・スティアーナ」と唱え、レジの向こうへと突撃。
 作者も使っているVAIO typeTをゲットし、バッグにつめた。
 尚、デスクトップクラスの大きさだと、流石に今日持ってきたバッグでも入らない。
 そして入り口のゲート。下手したら反応してピコピコなるわけだが、俺は時間を止め、
 光速以上の速さでゲートをくぐり抜けた。

 ムホ、ムホホホ、と奇声を上げて、俺の巣に帰った。

 一週間後、俺の部屋は盗んだ漫画や盗んだ同人誌や盗んだゲームや盗んだエロゲや
盗んだおやつや盗んだPCや盗んだ外付けHDDや盗んだ時計や盗んだ小説や盗んだ
村上春樹全集や盗んだ服や盗んだ文房具や盗んだオナホールや盗んだうまい棒で溢れ
かえっていた。とても幸せだった。
 俺にとって街は狩場といっても過言ではない。すべての商品に『ご自由にどうぞ』と
札が貼られているようなものだった。

 物に埋もれた部屋で、ゲームをしていると突然、部屋のインターホンがなる。
 「どなたですか?」
 出てみると、白い服を着た変なちっこい少女が現れた。
 …誰だ?

 「今回も駄目ですね~」
 能天気な口調でその少女が言う。
 「…えっと…何かな?」
 「それじゃ、もう一度~」
 少女が羽のついたかわいらしいステッキを振りかぶり、俺の頭をゴスゥゥッッッッ!!

 非常に気分が良くなる夢を見ていた。
 自由に時間を止めることが出来る夢。
 俺が“ラ・ヨダソウ・スティアーナ”と呪文を唱えると、たちどころに
時間が止まるのだ。…ただし効果は非常に短かった気がする。
 俺は好き勝手にこの魔法を使い、スロットで荒稼ぎしたり、物を盗んだりと、
とにかくやりたい放題だった。
ゆえに、目が覚めたときはとても虚しかった。
 ……
 …

――――天使少女

 「111回目…キリ番ゲットー、か~。
  あ~あ、こんなループじゃ抜け出すフラグが立つわけ無いじゃないですか~…」
 「へぇ、天使は天使で結構きついのね」
 私の隣、天使の仕事を見学しに来た(暇潰しに来た)死神女がそう言う。
 「まぁね~、基本的におんなじことの繰り返し。
  でも死神みたいに体を張ってするわけじゃないから、楽といえば楽ですよ~
  …ところであなた、最近は二人で活動中って言う話ですけど?」
 「ええ、今は新人に色々教えているところだけれど」
 死神女はすごく嬉しそうな顔をする。…あ、分かった、私より先にいいヒトを
見つけたから嬉しいんだ。
 「腹立つわね~…このステッキでその綺麗な顔を殴ってあげましょうか?」
 「ふふん、まぁこんな仕事じゃ当分…いや、永遠に無理でしょうね」
 「くっ、う、うるさいわね!邪魔するなら帰りなさいよ!」
 「はいはい、お仕事頑張ってね」
 死神女は去っていった。

 「はぁ」とため息をついて、私は112回目のループとなる男を観察する。
 やってらんなくなって、私は煙草に火をつけた。

――――天使少女

ループはまた初めから。私は定位置の、男の部屋が見えるビルの屋上で待機している。
「はぁ~…」
 いい加減嫌になってきた。あの男が物を盗んだり女を襲ったりするところを何度見
ればいいのか。今回もあと少ししたら、変な呪文を唱えて時間を止めるだろう。
 ポケットからセーラムライトを取り出す。100円ライターで着火。カチッカチッ。
…ガスが無くてなかなかつかない。さらにイライラしてくる。
「…はぁ~…」
ようやく点火した煙草で、ため息とともに紫煙を吐き出す。
ほら、呪文に気がついた。今回は朝起きてすぐか…あ~あ、ま~た嬉しそうな顔して
るし。今回もアウトかなぁ…

 時間を止める能力が発動してしまった人間を監視するのが私たち天使の仕事。時間
を止める能力は大抵、2日から3日で無くなってしまうので、その間に人間が何もし
なければ合格。何か悪さをしてしまったらアウトで一週間やり直し。でも何かいい事
に使ったら、死後に優待権を獲得できる。天国でVIP生活なわけよ。
 そしてこの男の場合。能力が消えるのに役一週間かかる。そして能力発動の前日に、
偶然にも時間を止める夢を見た。それもやたらとリアルで具体的な夢。ゆえに何回や
り直ししても能力発動率は今のところ100%。超レアなケースね。

 なんか考えてたらこの仕事が終らない気がしてきた。「…はぁ」ため息しか出ない。
セーラムライトを屋上の床で揉み消す。男の部屋のほうに向かってポイっと捨てる。
よし、決めた。あの男にガツンと言ってやる。

 俺は先ほどからニヤついて仕方が無かった。
 俺が“ラ・ヨダソウ・スティアーナ”と唱えると時間が止まるのだ。カウントしてみ
ると約30秒停止するようだ。短いようで長いようで微妙な時間。とりあえず考えたのは、
もう俺働く必要ないな、と。

 学校サボって何しようか考えていたところ、急にインターホンがなった。この時間に
来客と言ったら…勧誘か。居留守しよう。
 ところが、インターホンは鳴り止む気配が無い。腹が立ってきた。嫌な顔して追い払
おう。ガチャっと開けると白のワンピースを着た可愛い女の子がいた。手にはこれまた
可愛いステッキを持って。

「あの~、いい加減にしてくれません?」
「へ…あの?どちらさまで?田中さんの家なら隣ですよ?」
「誰でもいいですよ!とにかく!その力使うのやめてくれませんか!?」
「…!!?」

 その少女が言うにはこうだ。自分は天使で俺を監視している。監視の目的は俺の能力
が悪いことに使われないよう。実は今まで何百回も一週間を繰り返しているが、俺は
一度たりとも悪用しないことはなかったと言う。
 「天使?はっ、信じられるかっての」
 「あ~ら、時間を止める能力は信じられるのにですか。
  自分の都合のいいことだけは飲み込みが早いんですねぇ」
 「…くっ」
 やけに喧嘩腰の口調。糞生意気な小学生みたいで非常に腹が立つな。

 「ふん、分かったかしら。とにかくもう、その力を使うのやめて頂けません?」
 そういって天使はポケットからセーラムライトを取り出す。
 煙草を吸う天使か。どんな天使だよ。大体こいつ、20歳以上には絶対見えねぇ…
 カチッカチッ。火がつかないらしい。
 「火」
 火のつかない煙草をくわえたまま、“火”とかいって俺をジト目で睨んでくる。
近くに落ちていたストーブ着火用のチャッカマンを貸す。火をつけて、じりじりと
咥えた煙草の先端をあぶる天使。すーっと吸い込んで「はぁ…」ため息とともに
メンソールを吐き出した。

 「お前ほんとに天使かよ…」
 「灰皿」
 「…ラ・ヨダソウ・スティアーナ」

 なんだかすごく腹が立ったので、時間を止めて天使をベッドに押し倒した。

 俺は少し…いや、非常に罪悪感にさいなまれている。
 「う…ひぐ…ううっ…」
 「…アノ、ゴメンナサイ」
 「い、嫌って言ったのに…は、はじめてだったのに…!」
 「チナミニ、オレモハジメテッス…トコロデ、アノ…イタイッスカ?」
 「痛いに決まってるじゃないですか!こんな血が出てるのに…ばかぁっ!」
 能力を有効に使って、天使さんの処女を頂いてしまいました。

 部屋に泣き声が木霊する。
 …やっちまった。なんて言えばいいのか分からん。
 「お…犯された…犯されちゃいましたよ…うぅ…ぐすっ…」
 「…あの、本当にごめんなさい」
 「謝ってすむと思ってるんですか!!!」
 「ひぃっ!」
 「絶対に許さない…あなたには死すら生ぬるい!
  責任を取ってもらうと同時に、あなたを私の奴隷にします…」
 「…え?」
 「別の選択肢は、死後地獄確定がありますけど?
  私が上に報告すればあなたの死後なんてどうにでも出来るんですよ…
  閻魔様のフルコースを受けてみたいですか?」
 「俺としては痛いのは嫌だなぁー…と」
 「なら決定です。仕事の毎日で、生きながら後悔させてあげます。
  …まぁ、死んだ後も私の部下として使ってあげましょう」


 その日から俺は、天使の仕事を手伝っている。
 かなりキツイにもかかわらず、報酬は無い。
 …いや、まったく無いわけじゃない。天使の彼女ができたくらいだが。