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 「ヒヒョ、君にプププレゼントがあるんだ」
 「あの…ごめんなさい、学校なので急いでるんです」
 「フフヘ、僕はもうすぐ死ぬからさぁ、これをあげようと思って」
 「いや、あの…これ、ストップウォッチですか?すいません、いりません」
 「ノーノーノー、君のような可愛い女の子に貰って欲しいんだ」
 「え…あの…僕…」
 「まだ後5個あまっているんだ。ほら、袋もあるからさ、あげるよ。さて…
  おじさんはこれから死んじゃうけど、たまに思い出してくれたらうれしいよ。
  それじゃね、君の事を3年前から見ていたよ~!!」

 COMIC TORANOANAと可愛らしい虎のマークがプリントされた紙袋にストップウォッチを
いれて、おじさんはそれを僕に渡して去っていった。

 「あの…おじさ~ん………」

 僕、男なんだけどな…。

 学校。朝のHR。授業。
 そして昼食。お弁当を取り出そうとして、変な分厚い紙袋がかばんに入っているのに気が
ついた。そして朝の出来事を思い出す。
 「…」
 変なおじさんだったなぁ。少し気になって、紙袋の中を覗いてみる。無造作に詰め込まれた
ストップウォッチが1、2、…5個。手にとってみる。

 次の瞬間、僕の机の前に、黒い服を着た、男と女の人が現れた。

 「ひゃあっ!?」と叫ぶ僕。
 周りの人たちに「どした?」とか聞かれたので変な人たちを指差してみる。
 「何もいないぞ」
 「え、ほら、ほらっ!」
 指差した先を凝視するクラスの人たち。その先に…

 「うわ、毛虫だ…」
 グロテスクな茶色の毛虫を見つけて騒ぎ出すクラス。
 「相変わらず女の子みたいだな」「今日も可愛いね~」「男の俺すら愛しく思える」「おまえの
ために、毛虫を取ろう」「叫び声聞いたか?“ひゃあっ”だってよ」「そこが可愛いのよ」「萌え
でごわす」「ほんとに男か?」「毛虫におびえる美少年」「婿にほしいわ~」
 勝手に話が進んでいく。
 「え…あの…ちが…ちがうよ…」
 すでに誰も聞いていなかった…。

 「ごめんなさい、私達はほかの人には見えないみたい」と黒い服の女の人が言う。
 「少し場所を移そうか」と黒いスーツの男の人が言う。

 屋上、よくそこではカップルが昼食を食べていたり、ヒロインがフェンス越しに町の景色を
みていたり、夕焼けを一緒に見たり…なんだけど。この学校は屋上が開放されていないのだ。
ゲーム向きの学校じゃないね。
 で、その屋上扉前の空間。物置と化しているそこ。僕は黒い人たちと話をしている。

 「君はストップウォッチを手に入れた。それで…普通なら2時間か2日後に死ぬんだが…」
 「安心して。多分、あなたは大丈夫だと思うわ」
 「多分っ!?」
 「それで、そのストップウォッチなんだけど、時間を止めることが出来るんだ」
 「残念ながら、30秒だけなんだけどね」
 「短っ!?」
 「それで僕達なんだけれど、君がストップウォッチを使うのを見届けなければいけないんだ」
 「つまり、使い切るまで一緒に行動させてもらうってことよ。寝るときも」
 「寝っ!?」
 凄まじいスピードで進む展開に驚きっぱなしの僕。

 「それにしても…今回は女の子か。珍しいわね~」
 「いやデス、君の目は少しおかしいよ」
 「え…あんた何言って…言って…」
 「大体制服が男物じゃないか」
 「男っ!?」

 また女の子に間違えられてたし…
 髪の毛が少し長いのがいけないのかなぁ…

 ストップウォッチに関する説明を聞いた後、
 「まだ実感がわかないだろう、一つ使ってみるといい」
 と死神男さんに言われたので、ストップウォッチを持つ。
 よく見るとこれ、ボタンが一つしかついていない。
 「ほら、ここを押すのよ?」
 「あ、は、はい…」
 デスさんが教えてくれる。ふわふわといい匂いがする…って僕は何を…。

 ボタンを押してみる。ヒュン、と音がフェードアウト。
 気がつくと、死神男さんとデスさんが完全に止まっていた。
 「え…ほ、ほんとに…!?」
 ドクン、と心臓が跳ねた。

 僕はいけないことを考えている。
 僕はいやらしいことを考えている。
 デスさんの体に触ってみたいと思っている。
 いろんなところを見てみたいと思っている。
 キスしてみたいと思っている。
 時間が止まっているなら…と物凄く卑怯なことを考える。
 デスさんの顔。すごく綺麗な顔。
 小さくて綺麗な唇。僕はそこに吸い込まれるように
 …………………キスをした。

 時間が動き始める。同時に物凄い罪悪感がやってくる。
 デスさんの顔を見る。「どう?すごいでしょ?30秒だけれどね」優しく微笑みかけて
僕に言う。


 「それで、キスは初めてだったかな?」
 「えっ………」

 涙が出る。「ご、ごめんなさい…」僕は謝る。「あの…ほんとうに、ごめんなさい!」
顔が真っ赤になっているのが解る。そんな…わかっていた…?なんで…いや…僕は…。
「ごめんなさい」階段を下りようとする。
 「待ちなさい」デスさんが僕を後ろから抱き寄せて、止める。「いいのよ、許してあげる
から。こっちこそごめんね。私は何をされたかわかっちゃうの。でも仕方ないじゃない、
あなただって人間でしょう?漫画やゲームの主人公みたいに描かれる完璧な人間じゃない、
普通の人間なんだから。欲に流されちゃうのは当たり前なのよ?でもね、あなたはただ優しい
から・いい人だからで好かれる漫画やゲームの主人公よりもとても人間的で、魅力的よ」
 「………」背中から暖かさが伝わる。デスさんの言葉を反芻する。「でも…」
 「いいの、許してあげるから。時間が止まったんだもの、男の子ならそうしたくなるのは
当たり前じゃない。言ってるでしょ、普通なのよ。でもそれが良いという意味ではないわよ。
たとえば時間を止めて物を盗むなんていうのは犯罪。罪を償わなければいけない。だけど私に
キスしたことなら許してあげる。わかった?」コクン、と僕はうなづく。

 「ちなみに、そういうことをしなかったのはあの男ぐらいよ」と、デスさんは死神男さん
を指差す。「あの男みたいに衝動をなくしたら普通の人間じゃないわよ」
 「僕だって衝動に駆られてキスしようとしたんだけどなぁ…」と、死神男さん。
 「しなかったじゃない」
 「いや、まぁ、…ね」死神男さんは苦笑いをする。

 「いい?欲を失ったら人間ダメになるんだから。あんな人間らしさをなくした大人に成長
しちゃダメ。それに女の子にも好かれないわよ」デスさんは言う。
 「はい…」少し落ち着いた。そこでふと思う。「あれ?でも、デスさんはそんな死神男さんが
好きなんですよね?」
 「…」
 急に、僕を抱きしめながら後ろで沈黙するデスさん。振り向くと顔を真っ赤にしていた。
 「僕のことが好きかい?デス?」
 「う、うるさい!バカ!何万回言ったと思っているのよ!」

 時間を止められるストップウォッチ。
 僕はこの先、これを欲望のために使うことはないと思う。
 「君みたいに罪悪感をしっかり持っている人間は珍しい」と、死神男さんに言われた。
 このストップウォッチを、僕はお守りとして持とうと思う。例えば誰かが助けを必要とするとき、
例えば愛する人がピンチのとき。そんなときに使えたら、と思う。

 さて、僕はストップウォッチを(多分)一生持つことになったので…
 「もしかしたら君の一生分、面倒見ることになってしまったな」
 「これからもよろしくね」
 死神さんたちが僕の後ろにずっといることになった。

 「僕が死ぬまで、二人に見てもらわなくちゃいけない事になるけど…いいかな?」と聞く僕に
 「あなたの一生の時間ぐらい、どうということはないわ」
 とデスさんは答えてくれた。

 あのおじさんに感謝しよう。今度あったらお礼がしたいな。
 馬鹿だって言われるかもしれないけれど、これが僕の30秒の使い方。

            9話:男は死に、力は少年へ  終わり


―――But...The story is not finished yet.