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 午前7時。雀のなく気持ちよい朝に、
 「おはよう、あなたは後2時間で死ぬわよ」
 と、黒い服の女に不吉な挨拶をされる。

 その女によると、俺はあと2時間で死に、その代わりに時間を止めるストップウォッチを10個
貰えるらしい。話が終ると、その女の連れらしき男が壁から部屋に入ってきた。「仕事が速いね」
なんて挨拶している。…ここ、2階なんだけど、どうやって入ってきたんだ?

 時間を止めるらしいストップウォッチ。
 勧められて、ためしに一つ使ってみた。男と女がしゃべる声、空気の振動が30秒止まった。
 家の外に出て、もう一つ借りた。走っていた車、歩く人、飛ぶ鳥。すべてが30秒止まった。
 川に行った。さらに一つ借りた。うねる水が写真のように30秒止まった。
 森林公園に行った。そこで一つ借りた。風に吹かれる木々が30秒止まった。

 4つ使って、俺は満足して部屋に帰った。
 椅子に座る。「残りは使わないの?」と死神女に聞かれる。
 「…俺は30年近く生きてきた。そして何もなかった。女友達も出来ず、男友達も出来ず、
  教室では一人浮き、常にいじめられ、耐えてきた。社会に出ても、上手く人と話せず、
  上手く働けず、何も出来なかった。1階の母と父とはもう何年も話していない。多分
  こんな俺を邪魔だと思っている。俺は今の社会には不適合らしい。俺は何も望まなく
  なった。俺は何もしなくなった。ただ起きて、食って、寝て、死を待つことにした。
  あと二時間で死ぬならそれでいい。もうすでに死んでいるようなものだ。そんな
  ストップウォッチ、いまさら必要ない。でも…」
 「でも?」
 「そうだな、未来のある子にそれを使って欲しいと思う。俺が朝、このぼろ家の二階から
  下の通りを見ると、可愛らしい女の子が通るんだ。その子は正しく使ってくれると思う」

 家の前、女の子を待つ。

 …来た。
 俺は話し…
 …かけられない。

 女の子は歩き去っていく。

 ダメだ、ダメだ、ダメだ。俺には…

 いや、ちがう。
 これは俺が望んだこと。俺がやりたいこと。
 今までみたいに、強制されてやることじゃない。
 俺が、今、やりたいことなんだ。

 歩く。
 俺は歩く。
 女の子の背中。
 あと10m。
 あと5m。
 俺は、勇気を出すためにも、ストップウォッチを押す。

 時間が止まる。
 30秒深呼吸。俺の人生、最後から二番目の覚悟。
 時間が動く。

 「ヒヒョ、君にプププレゼントがあるんだ」
 俺はキョドりながら、精一杯女の子に話しかける。

 「あの…ごめんなさい、学校なので急いでるんです」
 女の子は、こんな俺にちゃんと会話をしてくれた。

 「フフヘ、僕はもうすぐ死ぬからさぁ、これをあげようと思って」
 …もうちょっとまともにしゃべれねぇかな、俺。

 「いや、あの…これ、ストップウォッチですか?すいません、いりません」
 困った顔。でもキモイおじさんに話しかけられて逃げたいってわけではないようだ。

 「ノーノーノー、君のような可愛い女の子に貰って欲しいんだ」
 多分これが、俺の人生で一番かっこいいセリフ。

 「え…あの…僕…」
 キョトン、とする女の子。可愛いなぁ…

 「まだ後5個あまっているんだ。ほら、袋もあるからさ、あげるよ。さて…
  おじさんはこれから死んじゃうけど、たまに思い出してくれたらうれしいよ。
  それじゃね、君の事を3年前から見ていたよ~!!」
 そこまで言って、全力で逃げた。
 俺は人生を満足した。


 よしっ、死んでくる!じゃあな!