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――――30^7秒間停止中の何気ない会話

 「一般的に、死神は救いようのない死に方をする人に、ストップウォッチを
渡すわけだけど」デスは淡々と話す。「すべてのケースに共通していることは、
“愛されるはずの人に殺されること”なの」
 「へぇ…」僕は少し不思議に思う「どうして殺されてしまうんだろう?」
 「それは、不幸にも死神にとりつかれたからじゃないかしら」デスは少し
悲しそうな声をする。「そう、私も一応、死神なんだもの」
 「どうだろう」僕は言う。「確かに確率的な部分もあるかもしれないが、
普段の行いで死神が憑きそうな状況を改善できることもあるんじゃないかな」
 「そうね…」デスは少し微笑む。「それじゃ何の問題も無いのに、突然
死神に憑かれた人は、本当に不幸な人ね」

――――僕の昔の話

 僕の家は、あまりよい家庭状況とは言えなかった。
 小学校のころ、父が失業してから母や僕に当たるようになり、僕はよく
痣だらけの顔で学校に行ったりした。当時はよくそれでいじめられていた。

 酒が入った父は、僕の見ている前で母の上にのしかかり、その顔面を何度も
殴っていた。父の顔は泣いていたり、笑っていたり、怒っていたりと常に
不安定だった。母を殴るのに飽きると、次は僕の番だった。
 「てめぇが生まれてから、俺にはいいこと無しだ!」と父は僕によく怒鳴った。

 中学のころ、一度僕は父に殺されかけた。父は僕の体の上にまたがり、
抵抗しない僕を何度も殴った。あのときの恐怖は今でも忘れられない。父は
僕の背中に熱湯をかけ、雪のふる寒い札幌の町に、Gパンと長袖のTシャツ
一枚で投げ出した。寒さと痛さで気絶して、目が覚めると病院にいた。

 次の日から父はいなくなった。
 それから僕は、母と二人で暮らした。

――――デスが僕の死に方を教えてくれた日の会話1

 「僕は693年といわず、永遠に君といたい。その手段として死神になろうと思う」
 「…はぁ、やっぱりこうなるか」
 「だめかな?」
 「そうね、それじゃ、あなたがどうやって死ぬか話すから、ちゃんと正しい答え
  を探しなさい」
 「大丈夫、自信はある。なんたって、あと500年近くある。」
 「ふふ、がんばりなさいよ」
 椅子に座りなおして、デスが僕の目を見て言う。

 「あなたは、母親に殺されるわ」

――――デスが僕の死に方を教えてくれた日の会話2

 「あなたのお母さんは、お父さんにひどいことをされても、それでもお父さ
  んのことが好きだった。そしてお父さんがいなくなったことを、すべてあ
  なたのせいだと考えているの」
 「…」
 「表面や世間体では親子の形だけれども、あなた、お母さんとちゃんと
  お話ししたことはないでしょう?」
 「…」
 「あなたのお母さんは、今でもお父さんのことを愛している。あなたのこと
  は、“こんな子、いなければ良かった”とさえ思っている」
 「…」
 「時間が動き出して1時間後、このままだとあなたはおそらく、母親に殺されるわ」
 「…そうか」

 僕が生まれて来た意味はあるのか、と一時期考えたことがあった。
 答えが見つからないので、一生かけて探そうと思った。
 でも、やっぱり意味は、無かったみたいだ。

 虚ろな目をしている僕を、後ろからデスが抱きしめてくれた。

――――死神の条件

 「落ち着いた?」
 「うん。もう、大丈夫」
 僕達はまた、テーブルに向かい合って座る。

 「そう、それじゃ説明。死神になるために必要なもの。まずは“絶望”」
 「…流石死神、いきなりネガティブだ」
 「うるさいわね…コホン。説明を続けるわよ。この感情は愛する人…まぁ、大抵が親
  だけど、に殺されることによって起こるの。死神になるには必要不可欠よ。まぁ、
  心の耐久力テストみたいなものね」
 「ふむ。軽く言うけど、相当ハードだね…」
 「次に必要なものは“自己犠牲”。自分の死すら認めて、加害者を許し、幸せを願う心」
 「…それは人間として間違った心じゃないかな?」
 「そうね、自分を殺すものを許すなんて人間以前に生物としてもおかしいわ。でも、
  死神は人間でも生物でもない。そして死神の仕事には超越した精神が必要なの」
 「ふむ…大変そうだな」
 「あなたみたいな人だったらこの二つは簡単にクリアできるでしょ。私があなたに
  二時間後死ぬって言った時も、すぐに受け入れたくらいなんだから。あなたほど
  死神に向いている人間はそうはいないわよ」
 これは誉め言葉…なのだろう。多分。

 ふぅ、と僕は一呼吸入れる。
 デスの目を見る。その奥にはどれだけの悲しみを湛えているのだろう。
 そして僕は、そんな彼女の支えになりたいと心から思う。

 「それにしても、その超越した精神の持ち主は随分人間らしいね」
 「うるさいわね…死神に合格するのに必要であって、その後は必要ないのよ」
 「…英語の使い方を忘れた英検1級持ちみたいだ」
 「文句ならそういう制度にしている、今の死神長に言いなさいよ」
 「…いるんだ、そんな人」

――――自己犠牲

 デスに話を聞いてから、僕は時間が止まった世界で父を探した。
 デスも一緒に探してくれるといったが、僕は断った。
 これは僕がやらなければいけない問題なのだから。

 時間が止まった世界で探すのはとても苦労した。人に聞こうにも誰も答えて
くれないし、父がいなくなってからの話は何一つ聞いていなかった。僕はただ
ひたすら歩き、見て回った。札幌の町すべてを見て回るのに3年かかった。
 日本中探すことになったら、残りの時間で足りるのだろうか。

 百年ほどで、帯広の自動車部品工場の休憩室にいる父を見つけた。
 昔の顔から比べると、少しやつれていた。
 僕は父を、帯広から札幌の僕の家に持って帰ってきた。

――――それから

 ストップウォッチはまだまだ時間をとめていた。
 時間は止まり、人も時代も動かなかったけれど、人間の一生の4倍くらいの
時間を、デスと一緒に幸せに暮らした。今度こそ、本当に幸せに。


――――13話 30^7秒の停止、自己犠牲による問題の解決 終わり