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【第1章】

トゥルルルル・・・トゥルルルル・・・・
『ハッ・・!!』
      • 電話の音で目が覚めるとそこは窓から日が差し込む真っ白な部屋だった。

窓はあるが、扉はどこにもない正六面体の真っ白な部屋。
ベットから見て正面の壁に大きめの振り子時計が掛かっている。
置いてあるのは俺の寝ていたベッドとその横に小さな木の机、あと机の上のこれまた真っ白な電話だけだ。
トゥルルルル・・・トゥルルルル・・・・
電話は依然鳴り続けている。
『誰からだろう・・・』
この時・・・不思議と『誰にだろう』という疑問は浮かばなかった。
心のどこか奥で『自分へ』の電話だと確信していた、何故かはわからないが。
俺はベッドに横になったまま電話に手を伸ばし、受話器を持ち上げ耳に当てる。
「右手の指を打て・・・それが合図だ」
受話器の奥から聞き慣れない女の声が聞こえる。
声の感じからすると案外若そうだが、年齢はよくわからない。
『!??・・・?』
全く意味がわからない・・・。というかこの声の主は誰だ?

合図?何言ってるんだこいつは。
『ちょっと待っ!』
ガチャッ!ツー・・ツー・・ツー・・

『切れた・・・』
合図って何の合図なんだ・・?

それにしても、なんで目が覚めたらこんなワケわからない部屋にいるんだ?
      • そうか・・。これは夢か。

それに・・あの電話の女が言っていた指を打つって・・・。
指パッチンってやつか?まさか・・な、ポール牧じゃないんだから。
何の合図かは知らないが、現実世界での方では目が覚めないのか?
まぁそのうち自然と目が覚めるだろ。
それから20分ほど何もせず待ってみたが部屋は何も変わらなかった。
      • どうやら。
指パッチンをしないとこの夢の世界から抜けれないっぽいな・・・。
あんな電話の後じゃ気が進まないけど仕方ない。

・・・トキ・・・・ヲ・・トメロ

『?』
何か聞こえた・・・か?気のせいか。
とりあえず今はこの夢から覚める事が最優先だ。

パチッ


目が覚めると今度は自分の部屋だった。
『また・・・変な夢だったな・・・。』
指パッチンか・・・。

俺の名前は家御 喪助(ヤミ ソウスケ)。

成績を除いて、全てにおいて冴えない高校生だ。
といっても成績も200人中15番くらいで目立たないポジションだ。

最近夢をよく見るようになった。
決まって真っ白な部屋で電話がかかってきているところから始まる夢だ。
そして決まって受話器を取った瞬間に目が覚めていた。
今までは・・・。
今日は初めて受話器を取っても目が覚めなかったな。
それに今日初めてだったのはそれだけじゃない。
夢の内容をはっきりと覚えていることも今日が初めてだ。

まだ夢の中での出来事が脳裏にくっきりと焼き付いている。
といっても悪夢ではないし、それほど嫌な感じはしないんだけど。

そういえば今日は日曜日か・・・。
そんな事を考えつつ時計を見ると、10時を過ぎていた。

      • やばいな、今日は「ディックの不思議のダンジョン3」の発売日だった。
あのシリーズはすぐに売り切れるからな・・。
今から家を出て最寄りの店まで徒歩と電車で20分くらいか。
もう売り切れている可能性も否めないけど、とりあえず行ってみようかな。
そうと決まればすぐに出発だ。

無駄に気合いを入れつつ着替えていると、パジャマに付いている胸ポケットの中から一枚の紙が出てきた。
ティッシュか?
いや、違う、綺麗に折り畳んである。
何だ・・?何か書いてあるな・・・。
「右手の指を打て それが合図だ」
これは・・・夢の中の電話の声が言っていた事と全く同じだ・・・。
夢じゃなかったのか?まるでオカルトだな・・。
夢の一件もあるし、指パッチンが何かの引き金であることは確かだろう。
パチッ

      • な・・何も起こらないのか・・・。
まぁ何も無いに越した事はないな。
とりあえず今はディックの不思議のダンジョンを買いに行くか。

そう思い俺は家を出た。
この時・・・部屋中の時計が止まっている事に気付かなかった。
そしてこれがすべての始まりだった。

家を出て10分ほど歩き、駅前に着いた。
      • どうもずーっとあの紙に書いてあった内容が気になる・・。
合図・・・合図か・・・。
指を鳴らす・・・、何の合図だ?
まさか指パッチンじゃないのか?
いや、俺を夢から覚めさせた「合図」は少なくともそれだった。

パチッ
歩きながら、俺はほとんど無意識に指パッチンをしていた。
そしてその瞬間信じられない光景が目の前に広がった。
歩行者も、車も、空を飛んでいた鳥も・・・全てがその場で静止している。
まるで時が止まって・・

“・・・トキ・・・・ヲ・・トメロ”

一瞬、脳裏に夢の中で聞こえた声を思い出した。
時を・・・止める・・・「指を鳴らせ、それが合図だ」。
こういう事か。フッ・・フフフ・・・。
どこの誰が何のために俺にこんな力を与えたのかは知らないけどこれは良い。
本当に時と一緒に全てが止まっている。
あれだけ五月蠅い車の音も電車の音さえも無い静寂の世界。
とはいっても、当然自体を急に飲み込める筈もなく少し呆然となってしまっていた。
するとすぐに周りが五月蠅くなり、また動き始めた。

だいたい25秒から30秒くらいだろうか・・。
それほど長くないけど、確かに止まってた。


「オイ、こら、オメーだよお前!」
駅の構内でいきなり変な奴に話しかけられたかと思い、振り向いた。
自慢じゃないが、俺は相当こういう、所謂恐喝・喝あげの類に遭いやすい。
だが、その典型的な現代の不良とでも言うのだろうか、
そういう格好をした奴らが声をかけたのは俺の少し後ろを歩いていた気の弱そうな少年だった。
「おい!無視すんなよ」
そりゃ、知らない怖いお兄さんにいきなり話しかけられたら無視もするだろう。

可哀想だけど助けてやれないよ。
最近の不良はすぐに人を殺すからね。

と、昨日までの俺ならそう思い見て見ぬ振りをして通り過ぎていただろう。
だが、今の俺には時を止める力がある。
俺は脳内で緊急会議を開き、少年を助ける策を練る。

俺A「時を止めて、少年を抱えて物陰に逃走でいいんじゃね?」
俺B「完璧だ。完璧すぎる策だ。」
俺C「じゃあみんな異論は無いか?」
俺D「体力的に厳しくないですか。私の計算では少年の体重を35~40キロと単純計算してブツブツ」
俺C「多数決で決めます。Aに賛成の人・・・・D以外全員ですね。」

よし決定!
いくぜ!ゴットフィンガー!

パチッ

急遽命名した俺のスタンド、ゴットフィンガー。
名前の割りに能力発動時の音がショボいが、ちゃんと時は止まっている。
能力止める気で指パッチン→何故か発動せず俺が標的になる
という最悪のシナリオは回避できた。
俺は急いでその少年の元に走り、抱きかかえ、静止した世界を駆け抜けた。
といっても力も体力もあまり無い俺は30秒で50mが関の山だった。
が、ちゃんとあの不良共の見えないところまでは走れた。
それにしてもこの貧弱少年、なんとなく美少年ではないか。
女装させればそれだけでオカズになりそうだ。
いや、別に俺にショタ趣味が有るわけではゴニョゴニョ…。

時が動き出す。

少年は一瞬ビクッとして「おニイちゃん誰?」と尋ねる。
驚くのも無理はない、喝あげの次は誘拐かと勘違いするだろう。
第一、俺は時が止まった世界でも意識があるから別に不思議じゃないが
この少年も含め、俺以外の全てが止まっていたのだ。
瞬間移動をしたようにも思えるだろう。
だが、この少年は少し違った。
「なんで僕に近づいたの?」
『え?それは---』



        • ハッ・・・。
『!?・・・・・?』
あれ?俺は少年を助けて・・・えと・・それから・・。
というかここは・・・俺の部屋?
時間は・・・10時過ぎ・・・。

俺は全く状況が飲み込めなかった。
たしかにあれは夢ではなかったはずだ。
俺はディックの不思議のダンジョンを買いに外出した筈だ。
なんで家に・・・?というか・・・。
『一体どうなってるんだ?』
いや・・今までのことは全て夢だったのか?
『ワケがわからない・・。』
夢だとしたらリアルすぎたし、現実だとしたら全てがおかしい。

ま・・・・まぁ・・夢だったのか?
時を止めるというのも夢の中の出来事?
        • 指パッチンだったな・・。
そんなことを考えながら指をパチっと打つと、部屋中の時計がぴたりと止まった。
この能力は・・・現実だ。
俺はある事を思いつき、慌てて着替えて家を飛び出した。
『あの少年だ・・!あの少年に会えば何が起こったのかわかるかもしれない。』
俺は『もし夢だったらあほくさい事しているな』と思いつつもつい足を早める。
そして駅に着き、少年が喝あげに遭っていた現場の近くで待機する。

5分後。
『来た・・・あの不良だ』
少年を恐喝した不良が遠くに見える。
ここまでは・・・あの現実か夢かわからない出来事と全く同じだ。
そして、少年の方は・・・。

「オイ、こら、オメーだよお前!」
その不良が声をかけたのは少年だったが、俺の探している少年ではない。
年齢は同じくらいだが、顔が全く違う。
「おい!無視すんなよ」
あの時と全く同じ流れだ。
『俺はこのへんであの少年を助けたんだよな。』
そう思い、遠目に見ていると警察官が来て、不良を追い払い、少年を助けた。

結局あの少年は現れなかった。

あの少年は本当に何者だったのだろうか。
電車に乗り、俺はそればかり考えている。
電車に乗っているのはディックの不思議のダンジョンを買いに行くためだ。
というか、元々はそのための外出だったのだが、
あの出来事があったから危うく買いに行くのすらを忘れるところだった。
やっぱりあれは夢だったのか?
        • 頭の中の整理が出来ない。
たしかに俺は一度朝起きて・・駅に行き・・恐喝に遭った少年を救出した。
問題はそこからだ。
救出した時点でまた朝に戻って・・・。
あれが夢だとしたらまるで予知能力でもついたみたいだ。
夢どおりにまた朝が進んだ。予知夢ってやつだ。
      • でも違うな、夢どおりではない。

これも俺の能力・・・?それとも・・あの少年の・・・?
『なんか今日は不思議な事がよく起こるな・・・。』
俺が得た時間を止める能力といい、あの少年といい。

“次は○○ ○○ お出口は-・・・・”
アナウンスが流れ、駅に着き、俺は目的の店を目指す。
時間は10時40分だ。
      • 売り切れてるかな?
まぁいいか、その時はその時だ。
店に着くと、予想通りというか当然というか。
やっぱりディックの不思議のダンジョン3は売り切れていた。
別に予想通りだったわけだが、やっぱり少しショックだ。
俺はとりあえず、次の入荷時に買えるように予約して店を出た。
そして、それだけで帰るのは少しつまらない気がし、本屋にでも行こうと思い店を出る。

『・・・!』
あれは・・・。
道を歩いていると遠くの方に、駅で会ったあの少年を発見した。
しかし、その少年はすぐに曲がり角を曲がって見えなくなった。
遠目に見ただけだし、帽子を被っていて、服装も駅の時とは違っていたけど間違いない。
パチッ
時は・・ちゃんと止まっているな。
どうも本当に止まったかどうかを確認するだけで少し時間を取ってしまう。

急いで少年を追いかけ角を曲がる。
『いた・・・。』
やっぱりあの少年だ。

時が動き出す。
俺は少年の後方10mほどの距離を付かず離れず、尾行する。
方向的には俺が行こうと思っていた本屋と同じ向きだ。
だけど、・・・俺はそんな悠長に少年を尾行するような性格はしていない。
出来るだけ早くあの出来事を

パチッ
周りの音が消え、万物の動きが止まる。
この少年・・身長とか、顔とかを見た感じ、たぶん小学3、4年生くらいだろう。
このくらいの年の少年であれば、体のどこかに名前が書いてあるものを身につけているはずだ。
例えば・・・この“帽子”とか・・・。
そう思い、時が止まった世界の中で少年の帽子を取り、裏を見る。
『ビンゴ・・!』
少年の名前は・・。
『甲斐 光・・・か。ヒカル・・でいいのかな?』

時間が再び動き始めた。
「時を止めれるんだね・・どおりで“何回やっても”おニイちゃんに追いつかれるわけだね。」
      • え?
この少年今・・・。
「どうも僕の人生はおニイちゃんと出会うことは変えられない事実みたい・・。」
俺の能力を知っている!?どうなってるんだ?
なんでこの少年が俺のことを知っている?
「帽子・・返して。」
『あ・・・あぁ、ごめんヒカルくん・・。』
      • まったく何が何だかわからないが、この少年が何かしらの能力者であることは確実だ。
人の心を読んだり・・?いや、それでは今朝のことは説明出来ない。

「おニイちゃんの予想どおり、僕も超能力を持ってるよ。」
      • やっぱり・・いや。・・・でも。
動揺を隠しきれない俺の心情を察知してか、それとも心を“読んだ”のか。
またもこの不思議な少年こと光は口を開いた。
「僕の超能力は“時を逆流させる”能力なんだ」
『時が逆流・・・?』
      • 全然、俺の予想していた能力と違ったな・・。
「うん。“ビデオの巻き戻しみたいに時間をなぞって過去に戻る”ことができるんだ。」
『じゃあ・・・その・・なに?嫌な事が起こったら過去に戻ってまたやり直すことが出来るって事?』
「うん。それでね、結果だけは変わらないんだ。」
え~・・・そのなんて言うか。結果が変わらないのなら、それほど使えないものはないな・・・。

『結果が変わらないんじゃ、時間を巻き戻す意味がない気がするけど・・・』
「ううん、そうじゃないの。たとえば・・今朝僕が変な人に声を掛けられて、
その後おニイちゃんに助けられたでしょ?
そういう場合は“変な人が子供に声を掛ける”のと“その子供が助けられる”
っていう結果だけは変わらずに、僕がその現場に行かなかったら
その結果が誰かの人生に引き継がれるんだ。」

        • スケールが大きいか小さいかわからない話だが・・。
もし本当にそんな事が出来るのなら最強じゃないか。
「でも、1日に使えるのはせいぜい30分から40分くらいなんだ。
巻き戻す時間は力を使う前にだいたいの感覚で決めれるんだけど、
今朝はいきなりおニイちゃんが現れたからビックリして沢山巻き戻しちゃったんだ。」
30分も・・・。俺なんて30秒だぞ?なんなんだこの差は。

それから俺は光に自分の能力についてと、実は今日この力を手に入れた事を説明した。
「ふ~ん・・僕と違って30秒しか止めれないんだ。・・・・。」
はいはい、そうですよ。君みたいな幼いながら才気溢れる能力者じゃないですからね。
少しムッとしたけど事実は事実として受け止める他ないからね。
『でも、たったの30秒でもその中を動けるのは俺だけだから劣ってはないけどね』
「ぁ・・・!そうだ、さっきから思ってたんだけど。」
『ん?』
「おニイちゃんは僕を助けたっていう記憶はあったんだよね?」
『?・・・いや・・まぁ、うん。あったよ?』
「僕の能力を使ったら僕以外の人に記憶が残るはずがないんだよ。
おニイちゃんが僕の帽子を取ったとこで実は3回時を戻したんだけど
その時の記憶は無いでしょ?」
そんなことをしてたのか・・・。あっ。
『それで君は“何回やっても”って・・・。』
「うん。でね、僕が思うに能力を使う時に使う人が触ってる物とか人は
少しくらい、本当に少しだけど、能力の影響を受けるんだと思うんだ・・。」
そんな事・・欠片も考えもしなかった。

「だから実験!僕の手握っておニィちゃんが超能力使ってみて」
そう言い、光は俺の方に手を差し出してきた。
好奇心旺盛な子供だな。

パチッ
俺は差し出された光の手を握り、指パッチンで時を止める。
段々指パッチンが板についてきて、そのうち故・ポール牧を超えるような気さえしてきた。

周りの喧騒が一瞬にして消え、動きが無くなる。
俺の手をギュッと握っている光もやはり例外なく、停止している。
『やっぱり、俺の能力の方は光には影響しないっぽいな・・。』
      • それにしても。
誰かと手を繋ぐなんて・・・ひょっとしたら親やお婆ちゃん以外では初めてかもしれないな・・。
というか、光は一見気が弱そうだけど、普通の少年より明るいような気がする。
少なくとも俺が光くらいの年の頃はもっと静かだったと思う。

フッと周りが時間を取り戻し、また動き始める。
『で、どうだった?何か変わった感じした?』
「う~ん。なんていうかね~・・・ほんのちょっと、ホントに一瞬だけど周りがスローになった気がした。」
気がした、か。
『微妙だね』
光の能力は結構人に影響が出やすい、俺の能力は殆ど他人に干渉しない。
どっちがいいのか・・・本当に微妙なところだな。

「そうだ!おニイちゃん」
『喪助、家御喪助っていう名前なんだ。おニイちゃんじゃない。』
「うん、それも知ってる。」
『え?』
「さっき、おニイちゃんの“能力”と“名前”を聞いたところで一回時を戻したから知ってるよ。」
      • 時を戻すと周りの時間や記憶、当然俺の記憶もその戻した時間に戻る。
光はこれで俺との会話は何度目なんだろう・・・。
素朴だが、大切な疑問だ。
「じゃあ“喪助くん”って呼んでもいい?」
『その質問に対する解答も知ってるんじゃないの?』
俺がそう言うと光はエヘヘ、と笑い、知ってると答えた。
「答えは『イエス』だよね?」
『別に何と呼ばれてもいいけどね。』
「じゃぁ僕の事は光って呼び捨てでいいよ。」
『わかったよ。』
そこまで話が進むと、光はポケットから携帯を取り出した。
「おニ・・じゃなくて、喪助くん、携帯のメアドと電話番号教えてよ。」
      • いきなりか。
まぁ、この少年なら教えても悪用するなんてことはないだろう。

俺は『いいよ。』と答え、光の携帯のメールアドレスと電話番号を入手した。

【第2章】

光に会った翌日、俺は普段と何一つ変わらずに学校へ登校した。
電車通学だ。
とは言え、駅も遠くないし、学校最寄りの駅までもそう遠くないから良い。


「ねぇ。」
通学中の電車の中で突然、見知らぬ女子の誰かに呼びかけるような声がした。

たく・・・公共の乗り物の中でそんな大きな声で話すなよ。
「あなたに呼びかけてるんですよぉ」
「・・・?」
誰に呼びかけて・・?と思い俺は周りに少し視線を配ってみる。
すると、誰かに喋りかけていると思った女は俺の前に立っていた。

そいつはもう一度「もしもぉ~し」と俺の方に向かって呼びかけた。
チラッと顔を見るとぴったりと目が合ってしまい、急に恥ずかしくなってまた下を向き直してしまった。

「あなた、昨日、光と会ってましたよね?」
「・・・・・。・・・え?」
しばらくの沈黙の後、再び女が俺に話しかけてきた。
その話しかけてきた内容が内容だったので、俺はつい口を開いてしまった。

「やっぱり、あなただったのね。どこかで見た顔だと思ってたけど・・・。」
「・・・光の知り合い・・・ですか?」
「それはこっちのセリフですよ。あなたこそ光の知り合いですか?」
一体なんなんだ・・・?いきなり話しかけてきて・・。
「いや・・・うん。まぁ、知り合い・・かな?」
俺がそう言うと、そのワケがわからない女は「ふ~ん」とだけ言った。
「そっちこそ・・光の--」
「姉です。」
        • 姉?ANE?お姉タマ?光の?

~脳内会議~
俺A「おいおい姉だってよ。どうする?」
俺B「とりあえず光とは知り合いじゃなかったという方向で」
俺C「それは少し無理があると思います。」
俺E「犯す。」
俺D「まずここは敵か否かを視察し、来るべき戦に備えブツブツブツブツ」
A・C「黙れD!お前はスッコンデロ!」
B「いやいや、戦とか敵とかいう戯れ言は別として俺は様子見はしたほうがいいと思うな。」
E「ここで犯す。」
D「び・・B・・俺・・・」
B「黙れD。ぬっ殺すぞ。」
C「じゃあBの様子見で賛成の俺は挙手。・・E以外全員。決定。」
~会議終~

「その、お姉さんがどうして俺のことを」
知っているんですか?と言おうとしたところで、光の姉が俺の学校の制服を着ている事に気付いた。
「・・・同じ学校?」
おれはつい、二つ目の問いも言ってしまった。
「ん?今ごろ気付いたんですか?」
そこまで話したところで一つ目の駅に着き、俺の右隣に座っていたの中年のサラリーマンが降りていった。
そして、そこに光のお姉さんが座った。
「お姉さんなんて呼ばないでくださいよ。あなたは私より学年が上なんだから。」
「そっちこそ。俺は家御喪助っていいます。」
「じゃあ喪助さん、でいいですね。私は遊希(ユキ)といいます。名字は・・・知ってますよね。」
たしか・・・光の名字は・・・。
「甲斐ですか?」
「やっぱり知ってました?」
    • やっぱり?
「その・・遊希さんは俺に何か用があるんですか?」
「喪助さんは何年生ですか?」
俺の質問が聞こえなかったのか無視したのか、遊希は質問に質問で返してきた。
マウンテン・ティムなら銃口を突きつけているところだ。
俺は「高2です。」とだけ答えた。

遊希は、光とは違い、落ち着いて喋るタイプのようだ。
顔は相当可愛く、雰囲気としては「お嬢さま」という言葉が似合いそうだった。
制服の着こなしも、下品なミニスカートなどではなく
学校の制服カタログのモデルに出てきそうなくらいきちっとしている。
どうして今、俺の隣に座っているのかが理解できなくなってきた。

「私は一年です。やっぱり先輩でしたね。」
遊希がそう言ったところで電車の扉が締まり、発車した。

「・・で。俺に何か用が?」
このセリフも短時間で3度目だ。
そろそろ答えてもらえないと手首だけ残して消してしまいそうだ。
「あ・・・そうそう。光についてなんですけどね。」
「光に?」
「あの子、暗いでしょ。」
暗い・・・?むしろ明るかった気もするけど・・・。
「3ヶ月くらい前はあんな性格じゃなかったんですよ。」
暗い?あんな性格?
俺の会った光は普通に明るい少年だったはず・・・。
「3ヶ月前・・・何かあったんですか?」
「いえ・・何も・・。でも無かったからこそ、光が何であんな暗くなってしまったのかわからないんです。」

どうもおかしいな・・・。イメージというか、話が全く噛み合わない・・・。
というか、なんかいきなり話が暗い方向にいった気がする。
「そういえば、俺が光と会ったことを知っていたのは・・・」
「昨日の朝ね、光はゲームを買いに行くとか言って妙に慌てて家を出ていって。」
「ディックの不思議のダンジョンですね。俺も欲しかった。」
「本当に慌てているもんで。ぅん。それこそ大慌てって言ってもいいくらい。」
      • 光が大慌て・・・?・・・昨日の朝・・。
もしかして・・・俺と2度目は会わない様にするため・・・か?
「ちょっと変に思って後をつけていみたんです。」
「そうしたら俺と光が会っているのを見つけた・・・ですか。」
遊希はコクリと頷いた。
それから再び眺めの沈黙が続き、電車が俺の降りる駅に止まる直前、また遊希が喋った。
「先輩と話している時の光は妙に楽しそうでしたし、ひょっとしたら何か知っているかも、と思って。」

プシューという音と共に電車の扉が開き、俺の学校の生徒が続々と降りていく。
「残念ですが、俺は光とは昨日が初対面ですよ。」
俺はそう言うと指をパチッと打ち、時を止めた。
そして、足早に電車から出て、止まっている人混みの中に入った。

-放課後-

校門を出てしばらく歩くと、後ろから遊希が「こんにちは」と話しかけてきた。

どうやら俺が出てくるのを待っていたようだ。
どうも(この)女は苦手だ。
しかも俺は昨日こいつの前で時を止めてしまったから、遊希には俺が消えた様にみえただろう。
そのことで何か言われたらとぼけるしかないな。
聞かれたら“頭おかしいんじゃないですか?”とでも言うか。

俺がいろいろ考えていると遊希が「今朝の事だけど・・・」と言った。
俺は今がチャンスと言わんばかりに声を発した。

「頭おk…」
「少し心当たりが・・・」
        • え?
「心当たり・・?何の?」
俺がそう聞くと、遊希は妙に深刻な顔で「光が暗くなったことの、です」と答えた。
「・・・・・・?」
はぁ・・・光の心当たりだって?
あぁ、朝言ってたやつか。
「3ヶ月前に・・・」と遊希は話し始めた。
「3ヶ月前?朝は何も無かったって・・・」
俺がそう言うと、すぐに答えが返ってきた。

「3ヶ月前に家族で外出をする予定があったんです。ネズミーランドへ。」
「・・・。3ヶ月前ってぴったり3ヶ月前?」
「・・・たしか12月の3日だったと思います。」
12月3日・・・、3ヶ月と少しか・・。
「その時に前日まで・・・いや当日の朝まで外出を楽しみにしていた光が
 いきなり、行きたくない、って言い始めて・・・。」
「いきなり?」
「はい、『今日は止めよう!来週にしよう』って言って聞かなかったんです」
「で、結局行かなかったんだ・・・。」 
「はい、その日は光のわがままに応じて・・・。次の週も行かなかったんですが・・・・」

どうやら光はその日以来、目に見えて性格が暗くなったらしい。
朝もそうだったが、俺には性格の暗い光というものがいまいち想像できない。

そしておそらく、俺の勘だが、その日が光の能力の開花日と考えていいだろう。
3ヶ月前・・・ネズミーランドか。

結局、その日は遊希と俺はそれ以降、帰りの電車の中でも言葉を交わさなかった。

そして、俺は家に帰ると、すぐに着替えて図書館へ向かった。