還り人の都  ◆Wv2FAxNIf.



「私は殺し合いなんて嫌だ。
 だから、一緒に行こう」

 晴れ渡った空の下、二人の少年がいた。
 声の主は茶髪の少年。
 萌黄色の布を額に巻き、土色の布を皮鎧の上から纏っている。
 一見すると少女にも見える中性的な顔立ちで、か弱い印象を抱く者すらいるだろう。
 しかし使い込まれた日本刀が、擦り切れた衣服が、何度も傷ついて固くなった指が。
 何より、熱を帯びたその眼差しが。
 彼は戦場に立つ人間だと、雄弁に物語っていた。

 そんな彼が手を差し伸べようとしている相手が、白い着物の少年だった。
 雪よりも白い着物に白い頭巾、白い髪。
 景色の中でそこだけ色が抜け落ちたかのように錯覚させる、目立つ風体だ。
 茶髪の少年よりも更に若く、むしろ幼いとさえ言える。
 ただ彼の赤い瞳にもまた、己さえ焦がすほどの熱が宿っていた。

 白い着物の少年は答える。
 正面にいる茶髪の少年ではなく、自分が進むべき未来を見据えながら。


「僕は――」


 茶髪の少年の名は、タタラ。
 生まれ落ちた日に運命の子どもと予言され、王を倒すべく立ち上がった革命の指導者。

 白い着物の少年の名は、忌ブキ。
 ニル・カムイ島を代々統べる皇統種の末裔にして、革命軍の王。

 己の生まれた国を、島を、革命しようと藻掻く少年たち。
 本来交じることのなかった世界と世界が交ったことで、彼らは邂逅を果たした。


 ニル・カムイ。
 大国ドナティアと黄爛の中間に位置する小さな島国であり、両国の植民地として蹂躙される土地。
 入り組んだ魔素流によって外界を拒み、独自の文化を育んできた島だ。
 南国の風土でありながら、砂漠があり、常春の地域があり、豪雪地帯がある。
 一つ村を越えれば別の気候、そんな国土を魔物が闊歩し、時に「死者が黄泉還る」。
 様々な特徴を持つ奇怪な島であり――〈赤の竜〉が住まう島でもある。

 出会いの時よりも少し前。
 ニル・カムイ出身の少年忌ブキは、ある公園にいた。

 柔らかな昼の日差しが注ぐ小さな公園で、子供たちが無邪気に駆け回る。
 平和そのものの光景を眺めながら、忌ブキはブランコに腰掛けて途方に暮れていた。
 汚れ一つない純白の着物に、魔術を織り込んだ頭巾も同じく白。
 身につけている布地一つをとっても極めて上質なものであり、彼がニル・カムイの富裕層にいることが窺えた。
 だが正確には彼は裕福な生まれではなく、かといって庶民でもない。
 ニル・カムイを代々司ってきた皇統種の末裔、それが忌ブキの立場である。

 とはいえ、忌ブキが自分の素性を知らされたのはほんの数ヶ月前のことだった。
 革命軍との出会いがなければ、今でもただの少年として生きていたのかも知れない。
 革命軍が忌ブキの運命を大きく変えた――そしてその革命軍のリーダーこそ、阿ギト・イスルギだった。

 ブランコ、滑り台、砂場、たったそれだけの遊具しかない小さな公園で、幼い子供たちがはしゃぐ声はとても遠い。
 それは、突然一人にされて不安になったから。
 儀式の内容が殺し合いであることに戸惑っていたから。
 そしてそれ以上に、アギトの死に衝撃を受けていたからだ。

 阿ギトが伝えた『熱』があったから、忌ブキは革命軍の王として生きることを決めた。
 短い付き合いではあったが、忌ブキが最も強く影響された人物と言ってもいい。
 故に阿ギトの命が、戦場でもない地で呆気なく奪われたショックは大きい。
 手元にあった名簿を広げたものの目が滑り、数人の知り合いが含まれていることしか分からない。
 そして当然のように、周囲への警戒は疎かだった。

「ねぇ。そこにいると危ないよ」

 突然声をかけられて、忌ブキは驚いて顔を上げる。
 それがタタラとの出会いだった。

「あなたも参加者、だよね?」

 多くの人々が生活する街で、何故忌ブキを判別できたのか――それは説明されなくても、タタラの姿を見て分かった。
 タタラは、体に淡い光を帯びているように見えた。
 タタラから見た忌ブキの姿もまた、同じような状態だったのだろう。

「私はタタラ。
 本名じゃあないけど、普段こっちを名乗ってるから」

 まるで少女のような柔らかい雰囲気を持つ彼もまた、〈赤の竜〉に選ばれた一人なのだ。


 タタラは〈赤〉に縁がある。
 大きな流れに飲み込まれる、その始まりはいつも〈赤〉だった。

 故郷の村を焼いたのは赤の王の軍勢だった。
 赤い月の晩、赤い鎧の兵士たちが、赤い炎を村に放ち、赤い血で地面を染めた。
 本当は、色などなかったのかも知れない。
 それでもタタラがあの日を思い出す時、景色はいつも赤一色で塗り潰されている。

 だが会場で目を覚ましたタタラが思い描く〈赤〉は、赤の王でもあの日の景色でもなかった。
 〈竜〉。
 圧倒的な、絶対的な〈赤〉。
 あのようなものを見た後では、納得するしかなかった。
 〈赤の竜〉の力を継ぐための儀式に、自分は選ばれてしまったのだと。

 殺し合えと言われ、目の前で人が殺された。
 朱理と浅葱もこの儀式に巻き込まれている。
 これら全てが夢ではなく現実なのだと思うと、膝を折ってしまいたくなる。
 しかしこれまでに辿ってきた旅路と叶えたい夢が、タタラを支えた。

 容赦のない現実に、いつだって立ち向かってきた。
 傍らにはふくろうの新橋と愛馬の夜刀がいて、腰には白虎の刀が提げられていて、普段と何も変わらない。
 今まで通り、前に進めばいい。
 今まで通り、前に進むしかない。

 両の手のひらで頬を叩き、気持ちを切り替える。
 体は至って健康、怪我もない。
 視界に広がるのはそびえ立つ建造物、均一にならされた硬い道、目が回るほどに輝く看板、蘇芳の都を超える人の波。
 人々は皆一様に忙しく動き回っており、敵意は感じられなかった。
 しかし、言いようのない違和感が纏わりつく。
 その違和感の正体を確かめようとして、タタラは道を行く人に声をかけた。

「すみませ――」
「日本、万歳!」

「あの、ここって」
「来月子どもが生まれるんだ!」

「…………」
「昇進だぁ!!」

 彼らは確かにタタラと同じ言語で話している。
 しかし会話は成立しない。
 それから改めて街を見回して、タタラは得心した。
 豊かで栄えた街だが、熱を感じない。
 人々が確かに生活し、呼吸して息づいているはずなのに、熱気も活気も感じられないのだ。
 あの時〈喰らい姫〉が告げた「夢」という言葉は、嘘でも比喩でもないのかも知れない。

「…………行こうか。夜刀、新橋」

 夜刀の手綱を引き、タタラは歩き始める。
 行き先こそ決まっていなかったが、目的ははっきりしていた。
 この土地の地図を探すこと。
 名簿とともに大雑把な地図は用意されていたが、分かるのは会場の広さぐらいで、現在位置すらはっきりしない。
 そして何よりも優先するべきは、仲間を見つけることだ。 

「近くにいるといいんだけどな、浅葱……」

 この儀式に巻き込まれた二十人のうちの一人であり、タタラ軍に所属する青年、浅葱。
 第一印象がすこぶる悪く、信用するまでに時間がかかったものの、今では大切な仲間だ。
 頼りにしたい気持ちと病弱な彼を心配する気持ちの両方があり、真っ先に合流したいと思ったのだ。

 単純な気持ちの強さでは、朱理に会いたいという思いの方が強かったかも知れない。
 しかし、朱理の強さはタタラが一番良く知っている。
 例え殺し合いの場であろうとも、彼は決して自分を見失わない。
 だからタタラは浅葱を優先した。

 タタラは朱理ではなく浅葱を選ぶ。
 タタラは決して仲間を見捨てない。
 今は“タタラ”だから。
 タタラは朱理を選ばない。

 そうして探し歩くうちに見つけたのが、公園だった。
 正確には発見した地図が、公園の入り口に張り出されたものだったのだ。
 そして地図を見ようとして近づき――忌ブキを見つけた。
 どんな白よりも白い、純白。
 それが淡い光を纏って、そこにいた。


 お互いが名乗り合った後で、忌ブキはタタラから「ぼんやりしない方がいい」と注意を受けた。
 忌ブキの態度は無防備そのもので、公園の外からも見えてしまっていたらしい。
 最初に忌ブキを見つけたのがタタラでなければ、既に忌ブキは殺されていたかも知れない。
 タタラのことを完全に信用したわけではないが、彼の指摘はもっともだった。

「そんなに隙だらけだったのに……どうして僕を殺さなかったの?」
「私は人に言われて殺し合うなんてイヤだ。
 二十人、誰も傷つかずにここを出られるのが一番いいと思う」

 タタラの目は澄んでいて、嘘を吐いているようには見えなかった。
 彼は本心から、甘い考えを口にしている。

「……〈赤の竜〉の力も、欲しくないの?」
「正直、迷った。
 日本を……私の国を変えられるなら、って。
 けど自由も平和も、自分たちの力で何とかするべきだ」

 「〈竜〉の力に頼ってしまったら、意味がない」。
 タタラが続けた言葉に、忌ブキは身を強ばらせる。
 タタラは忌ブキの変化に気づいてか、逆に問いかけてきた。

「あなたこそ、戦わないの?」

 忌ブキは少し考えた。
 自分に言葉も経験も足りないことを、忌ブキは自覚している。
 だから駆け引きなどできないと早々に諦めて、素直に答えることにした。
 それに何より。
 犠牲を出したくないというタタラの考えが、ほんの少しだけ、忌ブキの神経を逆撫でたのだ。

「今は戦わない。
 僕には、力がないから」

 忌ブキの腕力は同年代の子どもと同じかそれ以下のものでしかない。
 ここでタタラと戦っても、勝ち目があるとは思えなかった。
 だが言外に「力さえあれば戦っている」と匂わせた忌ブキの返答に、タタラは少し表情を固くした。
 タタラが警戒を強めたのに気づきつつも、忌ブキは続ける。

「黄爛とドナティアを追い出さないと、ニル・カムイはいつまでも奴隷のままだ。
 自由も誇りも奪われて、島の人間が奴隷市場で商品みたいに扱われて。
 だけどニル・カムイの力だけじゃ、黄爛とドナティアには勝てない」

 島の現状を思い出す。
 二つの大国に、生け贄の豚のように切り分けられたニル・カムイ。
 あの状態の国を「生きている」とは――忌ブキには呼べなかった。
 思わず、声が震えてしまう。

「ニル・カムイには〈赤の竜〉の力が必要だ。
 僕はそのための犠牲を、惜しまない……!」

 しばらくタタラは沈黙していた。
 この時点でお互いに、思想の違いに気づいていたはずだ。
 それでもタタラは歩み寄ろうとしていた。

「奴隷のままでいいとは言わないし、知らない国の事情に口出しするべきじゃないと思う。
 でも……誰も死なないで済む道を、探せないかな」

 甘い考えだと、改めて忌ブキは思う。
 それでも忌ブキがそう口に出せないほどに、タタラは真剣だった。

「自由も平和も平等も大事だ、だけど!
 それでも私は、命が一番大事だと言って欲しい……!」

 タタラの激情を乗せた言葉に、忌ブキは揺らぎそうになった。
 だが忌ブキは既に、自分が進む道を選んでいる。
 革命軍がつくった血の海に、一緒に溺れてやると宣言した。
 その中から掬い上げられるだけの命を掬い出すと誓ったのだ。

「私は殺し合いなんて嫌だ。
 だから、一緒に行こう」

 だからタタラの誘いに、忌ブキは答える。

「僕は――」

 正面にいるタタラではなく、自分が進むべき未来を見据えながら。


「僕は、あなたとは組めない。
 僕はニル・カムイのために、〈赤の竜〉を殺す」


 忌ブキには力がない。
 だから表面だけでも偽って、タタラと協力するべきだったのかも知れない。
 それでも阿ギト・イスルギが遺した熱が、忌ブキを突き動かした。


 これは、考えの押し付けだ。
 ニル・カムイにはニル・カムイの事情がある。
 タタラもそれを承知している。
 それでもこの気持ちがタタラの原動力だった。
 人が殺されるのはイヤだ、殺したくない、殺させたくもない。
 例え、忌ブキと衝突することになったとしても。

「タタラさんは僕を殺す?」
「殺さないけど、止めたいよ」

 公園内の空気が張りつめる。
 忌ブキがいつ動いてもいいように、タタラは白虎の刀に手を伸ばした。

 だが唐突に、忌ブキの注意が逸れた。
 別のものに関心を奪われたように、あらぬ方向に視線を注いでいる。
 タタラも同じ方角を見ると、噴煙が空高くに伸びていた。
 そして地鳴りのような振動が足から伝わり、背筋を悪寒が走り抜ける。

「……忌ブキさん、移動しよう。
 ここだと逃げ場がない」

 忌ブキとは道を違えてしまった。
 しかしそれどころではない事態を互いに察知していたため、タタラが忌ブキの手を引いても抵抗はされなかった。
 公園を出て噴煙が上がるのとは逆の方向へ走り、同時に新橋を空へ放って様子を探らせる。

「馬、乗らないの?」
「夜刀は気性が荒いから、タタラしか乗せないんだ。
 忌ブキさんを置いていけない」

 夜刀はタタラたちの速度に合わせて併走してくれている。
 騎乗した方が間違いなく速いが、夜刀が忌ブキまで乗せてくれるとは思えなかった。

 明らかな異変が起きているというのに、通りにいる人々は誰一人反応しておらず、不気味だった。
 タタラたちはそんな人々を掻き分けるようにして懸命に走るが、遠くから爆発音が響く。
 それも断続的に続き、徐々に音が近づいてきている。
 タタラが一瞬だけ振り返ると噴煙の数が増え、火の手が上がっていた。

 タタラと忌ブキよりも、追ってくる何かの方が速い。
 そして差し掛かった角を曲がろうとして、二人は足を止めた。

「何……だ、これ……」

 タタラが呻くような声を漏らす。
 道を埋め尽くす人、人、人。
 しかしその全ての目に生気はない。
 通りを闊歩しているのは、胸や腹に空洞をつくった――死体。
 乱杭歯を剥き出しにした亡者の群れが、街を破壊しながら進軍していた。


 皇統種の証である、額の角が熱い。
 普段魔力を織り込んだ頭巾で隠しているこの角が、周囲の魔素の変化を敏感に捉えているからだ。
 忌ブキはこれによって、増殖しながら広がっていく「それ」をいち早く察知した。

 “還り人”。

 ニル・カムイにだけ起こる『死者が起き上がる』現象。
 百人に一人、あるかないかという確率で発生するそれを、意図的に起こす者がいると聞いた。
 名簿で彼の名前を見た時点で、忌ブキは警戒するべきだったのだ。

「婁さん……!!」

 かつて仲間だったこともある男の名前を叫ぶ。
 そして忌ブキは、タタラの手を振り払った。

「忌ブキさん、駄目だ!!」

 呼び止められても、忌ブキは走る。
 タタラと同じ道を進むことはできない。
 タタラを振り切れるタイミングはここしかない。
 だから還り人の層が薄い方角に向かい、タタラと還り人の両者を振り切ろうとしたのだ。

 しかし走っても走っても、狭い道を通っても、還り人は湧いて出る。
 最初に発生した還り人たちが無抵抗の人々を殺し、その人々が新たな還り人となって数を増やしていた。

 群がってくる還り人に向けて魔素を練り、《落雷(コールライトニング)》を撃って退けた。
 しかし魔素にも体力にも限界がある。
 やがて忌ブキは、四方を還り人に塞がれた。


 忌ブキと別れたタタラは、一つ息をついた。
 初めから一人で夜刀に乗って逃げていれば、話は違ったかも知れない。
 それでもそこに後悔はなかった。
 タタラは夜刀に跨り、抜刀する。

 襲いかかってくる死体を斬り伏せながら、タタラは通りを駆け抜ける。
 相手が生きた人間ではないということが、少しだけ気持ちを軽くした。
 しかし物量で勝る相手に、追いつめられていく。

 刀を握る手の感覚が鈍ってきた頃、足を傷つけられた夜刀が小さな悲鳴を上げ、タタラもバランスを崩す。
 口を開けて飛びかかってきた死体の咥内に刀の先を押し込むが、刀が塞がってしまい次の攻撃に繋がらない。
 死体から刀を引き抜いた時には、既に別の死体が迫っていた。


 忌ブキを生かすために、人が死んだ。
 一人や二人ではない。
 始まりとなった故郷の村でも、〈赤の竜〉に会いに行った時も、いつも無力な忌ブキの身代わりとなって人が死ぬ。
 “無力な子ども”でいるのをやめると誓ったはずなのに、守られるばかりだった。


 それは今も、同じだった。
 ただ違うのは――


 還り人に襲われた瞬間、風を切る音がした。
 それは鞭の音だと気付けたのは、忌ブキも普段鞭を扱っているからだ。
 しかしそれは単に「鞭」と呼ぶには、余りに凶悪な威力を誇った。

 忌ブキが瞬きしている間に、群をなしていた還り人たちの上半身が残らず消し飛んだ。
 被害は周囲の建物の外壁にまで及び、一部の建物は衝撃に耐え切れずに崩壊するほどだった。

 鞭の音がしたとはいえ、忌ブキはそれが鞭によるものとは結びつけられなかった。
 百も二百もいた還り人を瞬時に一掃し、ニル・カムイでは考えられないほど強固な造りの建物さえ破壊したのだ。
 それが人の形をした者の仕業だとは、信じられなかった。


「陛下ではない、か。まぁいい」


 空から、低い声が降ってくる。
 忌ブキが見上げると、甲殻類のような外皮を持った魔物が降りてきた。
 そしてその背に乗った仮面の男が、手にした長い鞭をしならせる。


 タタラが必死に刀を振るが、間に合わない。
 死が迫ってくる。

(お兄ちゃん……!!)

 何も果たせなかった。
 タタラなのに――「タタラになると誓ったのに」。

 十六年前、白虎の村に双子の兄妹が生まれた。
 兄がタタラ、妹が更紗。
 更紗は、運命の子どもと予言された兄を見ながら育った。
 皆の期待を一身に背負う兄を、誇らしく思っていた。
 赤の王が村を焼いた、あの日までは。

 大勢の村人が殺され、父が殺され――兄が、タタラが殺された。
 だからあの日、更紗は長かった自分の髪を切って“タタラ”になった。
 兄の代わりに、村の人々を助けようとした。
 それが全ての始まりだった。

 タタラの――更紗の脳裏に、走馬燈のようにあの赤い日が甦る。
 死体の手が更紗の顔にめがけて伸びてくる。
 その時、空から声が降ってきた。


「大人しくしていろ。死にたくなければな」


 更紗は身動きできなかった。
 そして頭上から落下してきた男が、その勢いのまま手にした剣を地面に突き立てた。
 更紗の周囲にいた死体たちの頭部が、内部から火薬を破裂させたように吹き飛ぶ。
 突然現れた男は刺さっていた剣を引き抜くと、「数が多いな」と一つ舌打ちをした。

「ここを離れるぞ」
「えっ、あの」
「話は後だ。その馬は飾りか?」

 一方的に話を進めると、男は先に走り出した。
 道を塞いでいた歩く死体たちを紙のようにやすやすと斬り裂いて、道をつくっていく。

「い、行こう、夜刀!」

 更紗は夜刀の手綱を操り、その背中を追いかけた。



「知っていることを全て話せ。
 ……全ては我が子、殷のために」


――忌ブキは変わらず、守られてばかりの無力な子どもだった。
 ただ違ったのは――助けてくれた男は、死ななかった。
 還り人など比べるにも値しない、絶対の強者だった。


【一日目昼/新宿】

【忌ブキ@レッドドラゴン】
[所持品]鞭、〈竜の爪〉
[状態]健康(現象魔術を数度使用)
[その他]
  • タタラの本名は聞いていません。

【聞仲@封神演義】
[所持品]禁鞭、黒麒麟
[状態]健康
[その他]
  • 特記事項なし


「新橋が呼んでくれたの?
 ありがとう」

 更紗の隣りを飛ぶ新橋は、少し誇らしげだった。
 それを見て微笑み、更紗は前に向き直る。

 更紗は〈赤〉に縁がある。
 大きな流れに飲み込まれる、その始まりはいつも〈赤〉だった。
 前方を走る男を見て、更紗は改めてそのことを思う。

 身の丈ほどもある禍々しい形状の剣を手にした、赤い着物の男。
 その男が敵になるか味方になるかも分からなくても――確かに、運命のうねりを感じていた。


【一日目昼/新宿】

【更紗@BASARA】
[所持品]白虎の宝刀、新橋、夜刀
[状態]健康
[その他]
  • 〈竜殺し〉です。

【アーロン@FINAL FANTASY X】
[所持品]正宗
[状態]健康(オーバードライブ使用直後)
[その他]
  • 特記事項なし


『甘露甘露……』

 甘い女の声が木霊する。
 とはいっても、実際にその声が空気を震わせているわけではない。
 念話によって、たった一人の男にだけ向けて、嗤っているのだ。

『良いぞ、婁よ。
 死に満ちたこの街の、何と居心地の良いことか』
「お気に召されましたか、媛」

 男が応える。
 女が悦ぶ声に、至上の幸福を感じながら。

 街の一角で、死体に囲まれた一人の男がいる。
 そう、たった一人、他は全て死体だ。
 そして手にしているのは剣一振りのみ。

「あの者たちは、この程度のことでは死にますまい」
『当然よ。
 あの中にはお前より各上の相手も混ざっておるぞ』
「承知しております。
 が、殻の固い果実ほど、剥いた後の果肉は美味でございましょう」

 男が会話する相手は、剣。
 女の魂を宿した妖刀・七殺天凌(チーシャーティエンリー)こそが、この男の仕える主なのだ。

 還り人の群れを造り上げた張本人、婁震戒は口角を吊り上げた。
 この男は愛する剣に上質な魂を捧げるという、そのためだけにここにいる。

「まずは、十五人。
 赤竜(チーロン)の前菜としては上々……!
 あまねく魂、全ては我が媛への捧げ物よ!!」


 恋慕に酔った男は死んだ街の中心で、殺戮を宣言した。


【一日目昼/九段下】

【婁震戒@レッドドラゴン】
[所持品]七殺天凌
[状態]健康(還り人)
[その他]
  • 七殺天凌は〈竜殺し〉



000:OP――賽を投げる者 更紗 011:英雄(ヒーロー)の条件
GAME START 忌ブキ 005:殷の太師
聞仲
アーロン 011:英雄(ヒーロー)の条件
婁震戒 007:The First Signature