The First Signature  ◆Wv2FAxNIf.



 東京という舞台の中心部にて、婁震戒が目覚めて最初に行ったのが虐殺だった。
 手にした妖刀・七殺天凌の乾きを満たすために、通りかかった者を何人も、何人も、老若男女の区別なく斬り刻んだ。
 白昼堂々と行われた殺人であったが、他の通行人は無表情で通り過ぎて行く。
 黒衣を纏った仮面の男もまた表情を変えることなく、犠牲者を増やし続けた。
 そして永遠に続くかに見えたその行為が、不意に止まる。

「喰い応えは如何でしたか、媛」

 婁は唇も舌も動かしていない。
 しかし彼の思念は、愛し人に確かに届いていた。

『ならんな、腹の足しにもならん。
 外見こそ人の姿を模しておるが、魂も魄も宿ってはおらぬわ』

 とろけるような艶然とした声が婁の脳を揺らす。
 声の主は、刀。
 男と妖刀は、こうして念ずることで互いに会話を成立させているのだ。

「〈喰らい姫〉が言った通り、夢……ということでしょうな」
『うむ。我らと同じ立場にある十九人を除けば、紛い物の木偶に過ぎんようだ』

 婁は足下の死体に見向きもしなかった。
 七殺天凌の欲求を満たせなかった者たちには、既に興味を失っている。

「媛にふさわしい供物を用意する前に、少々お時間を頂戴します」
「許す。代わりに、存分にわらわを満たすがよい」
「ええ、必ずや……」

 魂を食らうこの剣を悦ばせること、それだけが婁の目的なのだ。
 婁は血を滴らせた剣をうっとりと見つめ、その美しさに酔いしれた。


 微睡んだ意識を現実へ引き戻す、携帯への着信。
 通話口から聞こえてくるのは、よく見知った男の狼狽した声。
 手荒い目覚ましによって少年が意識を取り戻した場所は、都心部に位置するテレビ局だった。
 彼にとって馴染みのある、少々騒がしい新人アナウンサーの姿は――ない。
 そもそもテレビ局の名前も、彼が記憶していたものとは異なる。
 ここはトウキョウ租界ではないのだと、彼はすぐに理解した。
 電話先の男との会話で現状を把握しながら、寝起きの頭をはっきりさせていく。
 そして少年――神聖ブリタニア帝国第九十九代皇帝、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアは行動を起こしたのだった。



『P4は二百メートル南の証券ビルへ』

『P1はポイントαで待機。異常があればすぐに報告せよ』

『P2、P3は同フロアにいる者たちを三階の副調整室へ誘導』

『P5とP6は正面玄関で待機しろ。不審者は排除していい』



 ルルーシュが陣取ったのはテレビスタジオの副調整室、サブコントロールルームだった。
 部屋の壁一面に並んだ多数のモニターには『駒』が撮影した映像が流れている。
 ルルーシュはそれらに目を通しながら、同時に片手でパソコンのキーボードを叩く。
 そしてもう一方の手には携帯電話を握り、先程とは別の相手と通話をしていた。
 複数の物事を同時に押し進めていながらも疲労の様子はまるでなく、当然のようにこなしている。

「……品川なら、遠くはないな。
 俺は九段下――トウキョウ租界で言えば、政庁があった辺りにいる。
 ここを拠点にするつもりだ」

 電話の向こうには同い年の少年、枢木スザクがいる。
 お互いの状況を伝え合いつつ、キーボードを叩く指はよどみなく動く。
 既に百人を超える手駒を抱えているが、彼らに逐一指示を出すことなど、ルルーシュにとっては片手間で充分な作業だった。
 そうした並列思考は元々得意だったが、ここ一年でより手慣れたものになっている。

 そして不意にノックの音が響き、ルルーシュはスザクとの会話を中断した。

「少し待ってくれ。用事ができた。
 すぐに終わるから」

 ノックの主に許可を出すとすぐに、スーツ姿の男女十人ばかりがルルーシュの前に横一列に並んだ。
 P2、P3と呼んだ二人の駒に呼び出させた、このテレビ局の職員たちである。
 だがその顔には一様に生気がなく、人形のように佇んでいる。
 彼らの様子を一瞥すると、ルルーシュは両目のコンタクトを外した。

「よく来たな。
 お前たちは今から……私の奴隷となれ!!」

 誰も逆らえない王の力、ギアス。
 使用にあたり制約はあるものの、強固な意志を持つ者でも抵抗は不可能。
 兵も。武器も。かつて何も持たなかったルルーシュが手にした力である。
 高校生を続けていたルルーシュが立ち上がるきっかけとなった能力であり、これによってこの地でも勢力を伸ばしていたのだ。
 この儀式の中では人目をはばかる必要がないため、ギアスを得た当時よりも容易に事が進んでいる。

 ルルーシュは駒の一人一人に携帯とカメラを持たせ、指示を出す。
 彼らは言われるがまま、ルルーシュの護衛となる数人を残して退出した。

『彼らにもギアスは通じるんだね』
「ああ、普通の人間と条件は変わらない。
 まずはこの方法で情報を集める予定だ。
 お前もこの街について……それに残りの十六人についても調べておいてくれ」

 モニターには次々と新しい映像が映し出される。
 ルルーシュが知る日本――元エリア11とは似て非なるこの土地について、まずは知らなければならない。
 その中で儀式の参加者を発見できれば、なお都合がいい。

 それからスザクとは持ち物や周囲の状況、それにジェレミアの様子など、細々とした情報交換を行った。
 他の参加者と出会っても可能な限り穏便に済ませることについても同意を得られた。

 もっともルルーシュは、善意でその方針を決めたわけではない。
 争い自体を避けようとしているスザクと行動理由まで同じかといえば、否。
 単純に、もしここに集められた者たちが平和主義者ばかりであったとしたら、好戦的な態度は悪目立ちしてしまうからだ。
 ルルーシュ、スザク、ジェレミアという三人だけで残りの十七人を相手にするような事態は避けねばならない。
 そうした打算があったから、表面上の争いを回避したかったのだ。

 そこまではスザクに説明しなかったが、スザクならこの思惑にも察しがついているという確信があった。
 ゼロ・レクイエムに向けて――今まですれ違ってきた分だけ、既に言葉を尽くしている。
 ここにきて、互いの性分が分からないわけがない。

 一通りの話を終えて電話を切ろうとしたルルーシュが、はたと止まる。
 そして少し声を落とし、スザクに一つ尋ねた。

「スザク。……あの仮面は持っているか?」

 それだけで、スザクには何のことかすぐに伝わったらしい。
 特に迷う様子もなく肯定された。

『さっき、ランスロットを起動できるか確認したんだ。
 その時にコックピットで見つけた。
 あれがどうかしたのかい?』

 ルルーシュの視線が鋭くなる。
 大破したはずのランスロット、それにジェレミアのサザーランド・ジークが復元されていたことも疑問ではある。
 しかし敢えてあの仮面を、スザクの持ち物としてランスロットに積んだのは誰なのか。
 何のために。
 それはこの儀式の目的そのものと関係があるはずだと、ルルーシュには思えたのだ。

 〈赤の竜〉と〈喰らい姫〉の発言を一つずつ吟味する。
 参加者の選定条件は?
 〈竜〉とは?
 〈竜殺し〉とは?
 彼らが口にしたキーワードから、仮面を置いた理由を仮定する。
 そのパターンの数は四桁に及び、その中から更に可能性の高いものを精査していく。
 だがその内容は、スザクには明かさない。
 全てが憶測の域を出ない今は、口にするべきではない。
 沈黙した数秒の間に思い当たった事柄の全てを、ルルーシュは自分の内に秘めることにした。

「……いや、少し気になっただけだ」
『そうか……分かった』
「情報が集まったら必ず話す」
『そうしてもらえると助かるよ。
 じゃあ、また後で』

 スザクもルルーシュの歯切れの悪さに気づいているようだったが、それ以上詮索してくることはなかった。
 今度こそ電話を切り、やはりキーボードを叩く手は止めないままルルーシュは考える。
 「日本」を称える言葉だけを口にし続ける、人形じみた人々。
 ルルーシュはまず彼らが麻薬で洗脳されている可能性を考えたが、どうやらそうではないようだった。
 ギアスをかけて尋問を行ったが、言葉の受け応えこそできるものの、そもそもここに至る以前の記憶を持ち合わせていなかった。
 こうした検証もあって、〈喰らい姫〉の『夢』という単語は現実味を増していく。
 加えて、彼女の言葉を戯れ言と切り捨てるには〈赤の竜〉の存在が生々しすぎた。

「夢に……〈竜殺し〉」

 ジェレミアとスザク、それに駒たちから集めた情報だけではまだ足りない。
 ジェレミアに答えた通り〈竜〉に興味はないが、情報は常に必要だ。
 そのためにルルーシュは手を広げ、会場全域に“目”を用意する。


 他に同じことを考えている者がいるとは、知るよしもなかった。



 参加者を斬る。
 そう目標を定めた婁が続いて取った行動は、またしても虐殺だった。
 ただし今度は剣を抜くことなく、付近にいた人間の心臓を手刀で貫く。
 暗殺者としてその道に名をしらしめた婁にとって、素手をもって人を絶命させることなど児戯に等しい。
 喉を潰し、頭部を砕き、淡々と死体を重ねていく。
 七殺天凌による惨殺死体の上に、更に死体が積み上がる。

『本当に……おぬしはわらわを退屈させんのう』


 そして線香の火が燃え尽きる程度の時が経った頃、影が蠢いた。



 異変の予兆には気づいていた。
 テレビ局のほど近くで人々を鏖殺する仮面の男の姿を、ルルーシュの駒が早々に捉えていたのだ。
 ルルーシュは距離を取って撮影するよう指示を出したが、送られてくる映像が途絶えたのはそれから間もなくのことだった。
 黒衣の男の観察を続けるべく、ルルーシュは別の地点に向かわせていた駒を代わりに送り込んだ。

 誰がルルーシュを責められるだろうか。
 誰が、この後に起こる出来事を想定できただろうか。
 「この時点で逃げていれば」などと、言えるはずがない。

 死体が起き上がり、群れを成し、人々を襲う――そんな事態を、警戒できるはずがない。


 死体が一つ、また一つと起き上がる。
 ニル・カムイという限られた土地の中でのみ発生する現象、『還り人』。
 本来は百人に一人も起こらない稀な事象であるが、強力な還り人である婁の手に掛かればその限りではない。
 妖刀ではなく婁に直接殺された者たちのうちの大半が還り人となり、周囲にいる生存者に襲いかかる。
 そして彼らに殺された者たちの一部が、同じく還り人として起き上がるのだ。

 還り人たちは鼠算に近い勢いでその数を増やし、進軍を始めた。
 街の中心から放射状に、会場の全てを覆い尽くさんとしている。

『十九人の内に、有象無象に殺されるような者はそうおらんて。
 この余興、楽しませてもらおうぞ』

 死体が死体を作る、死が街に蔓延する。
 死の連鎖に、七殺天凌が愉悦の声を上げる。
 その声を聞いた婁もまた、唇を三日月のように歪ませて静かに嗤った。


「どうなっている……!
 P4、応答しろ!!
 P5はどうした!?」

 ビルから送り出した者たちの通信が次々に途絶えていく。
 彼らが最後に送ってきた映像の数々は、ルルーシュを打ちのめすに充分なものだった。

「何の冗談だ……これは……!」

 趣味の悪いホラー映画にでも出てきそうな、ゾンビの群れ。
 腹や胸に穴を空けた死体たちが、乱杭歯を剥き出しにして人々を襲っていた。
 群れの勢いは凄まじく、その動きは「侵略」と呼ぶのがふさわしい。

 これまでに集めた映像をパソコンから携帯に移し、ルルーシュは迅速に副調整室を放棄した。
 決断は早かった。
 逃走ルートは予め三桁を超える数を想定してある。
 部屋には護衛も残しており、将が一人きりになるという愚も犯していない。
 だがたった一つ――運が悪かった。
 全ての起点、事態の元凶となった場所は、テレビ局に近すぎた。

「一階がやられた……エレベーターは使えない……!」

 テレビ局内部の監視カメラがたった今、入り口が突破される瞬間を捉えていた。
 防衛用に配置していた人員も、数の暴力の前には無力だったようだ。
 やむなくルルーシュは副調整室から上の階へ向かうことを決めた。
 逃げではなく、切り札に手を伸ばすために。
 手元に置いておこうにも、そのサイズ故に最上階の大型の撮影スタジオにしか保管できなかった「それ」のために。

 階段を目指して廊下を駆けるが、そこには既に下階からの亡者が群がっていた。
 ルルーシュは護衛の駒たちを人垣にして群れを食い止め、同時にコンタクトを外す。
 成功する確率は高くない。
 だが成功すれば、切り札に頼ることなく形勢を逆転させられる。

「ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが命じる……私に従え!!!」

 彼らの落ち窪んだ眼窩に向けて放つ絶対の命令。
 だが彼らは止まることなくルルーシュの駒に襲いかかった。
 賭けに敗北したルルーシュは転身し、異なるルートで上を目指す。

 残る経路は、建物の外側に設置された非常階段のみだった。
 息せき切って走りながら、ルルーシュは携帯電話を手に取る。
 連絡を取る相手は枢木スザク。
 彼がここまで来るには時間がかかるとはいえ、現状を伝える必要がある。

 通話画面を呼び出しながら、非常階段と繋がる扉を開け放つ。
 そして外気に触れた瞬間――待ち受けていた死体が掴みかかってきた。
 まるで、ルルーシュがそこから出てくることを知っていたかのように。
 ルルーシュは反射的に死体の腕を振り払ったが、その拍子に手から携帯電話が零れ落ちた。

「しまっ――」

 通話画面を開いたまま。
 階段の床に数度ぶつかった後、柵の隙間から落下していった。

 非常階段にいたのは襲ってきた一体のみではなく、既に死体の群れで溢れ返っていた。
 背後の廊下からも足音が迫ってきている。
 銃の一つも持たず、ギアスは通用しない、言葉も通じない。
 ルルーシュはほぼ無抵抗のまま手足を掴まれ、床に押さえつけられた。


 婁が還り人の軍勢に最初に命じたのは、破壊だった。
 人々を襲って勢力を伸ばしつつ、建造物に火を放って参加者たちの逃げ場を奪えと。
 垂らした油に火を点けたかのように、街に凄まじい速度で死が蔓延していく光景は、魔剣を大いに悦ばせたのだった。

 婁震戒は仮面の下で嗤う。
 彼の目に映る景色は、目の前に広がるそれだけに留まらない。
 彼は従えた還り人の軍勢、その全てと視界を共有しているのだ。
 軍勢が拡大を続ければ、やがて婁は会場全域に“目”を持つこととなる。
 婁はそうとは気付かないまま、ルルーシュの計画を上書きしたのであった。

 その中で婁は、ある建物に関心を寄せた。
 還り人の群れの侵入を阻もうとする警備員を見つけたのがきっかけだった。
 他の人形たちと違ってまるで意思を持つかのように建物を守る者たちに、違和感を覚えたのだ。
 試すように還り人の群れを内部へ踏み込ませた結果、望んだ通りの答えを得た。
 否――望んだ以上である。

「どうやら、媛のご期待に添う結果となりそうです」
『ほう?』
「〈喰らい姫〉に認められただけのことはある、ということでしょうな」

 婁は移動を始めた。
 七殺天凌に、極上の血を捧げるために。

「妙な能力を持つ者がいるようです。
 それに――」


「くそっ、こんなところで……!」

 打開策をいくら考えようと、もはや身動きすらできない。
 頬で鉄製の床の冷たい感触を味わいながら、ルルーシュはただ最愛の妹を思い出していた。
 ルルーシュの全ての行動の原動力となっていた、今では決別してしまった妹。
 もうまともに会話することさえ叶わない仲となったが、その程度のことで愛情が薄れるはずもなく。
 どんなに離れていても、想うのは彼女一人。


「ナナリィイイイイイ!!!!」


 ただしその叫びに応えたのは、彼女に全く関わりのない人物であった。


「よぉ、にーさん」


 あまりに気さくな、そして気安い挨拶に顔を上げたルルーシュは、咄嗟に言葉が出なかった。
 淡い光を帯びたその青年は階段の手すりの上に、しゃがみ込むように座っていた。
 風が吹いただけで落ちるのではないかというほど不安定な足場のはずなのに、飄々とした表情は崩れない。
 悠々と煙草をふかせている彼が、どのようにして地上から離れたこの階に現れたのかも分からない。
 ルルーシュは自分の置かれた状況すら忘れて、その青年に目を奪われていた。

「俺っちは開国武成王黄飛虎の次男、黄天化ってんだ。
 助けはいるかい?」

 少年のようにイタズラっぽく笑う天化からの、願ってもない提案。
 しかし彼を――ルルーシュは信じなかった。
 暗殺に怯え、虐げられ、利用し利用され、そんな半生を送ってきたルルーシュに信じられるはずがない。
 そしてルルーシュは「他者からの施し」というものを、何よりも嫌っているのだ。

 故にルルーシュはコンタクトを外したまま、天化に向けて声を張り上げた。


「俺を、……助けろ!!!」



 婁震戒の行動は素早かった。
 街を闊歩する還り人の群れの間を縫うように進み、「それ」を拾い上げる。

「ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアに、枢木スザク……」

 婁は「それ」が何なのかを知らない。
 ただ、街を行く者たちが一様にそれを所持していたことは知っている。

『街の連中の様子を見るに、恐らく我らが用いる符に代わるものだろうさ。
 黄爛の道宝とも、ドナティアの現象魔術とも、根本的に異なるようだがの』
「ふむ……どうやら壊れているようですが、まだ使い道はあるかも知れませんな」

 高所からの落下のためか、振っても押しても画面は変わらず「枢木スザク」の名を表示したままだった。
 婁はそのままそれを懐に押し込み、視線を上へと向ける。


「……分かった。助けるさ」

 虚ろな表情にのまま天化は剣を振るった。
 剣と呼ぶには奇妙な、光る棒状の武器だ。
 天化の剣の腕前の成せる業なのか、その剣の切れ味に依るものなのか。
 死体の群れは豆腐でも斬るように容易に刻まれ、崩れ落ちた。
 五人でも、十人でも、束になって襲いかかろうが結果は変わらない。
 非常階段に密集していた死体は、瞬く間に一蹴されたのだった。

「…………ん?
 あれ、俺っち何かしたか?」

 天化がはっとして、周囲と手元を見比べている。
 ギアスによって操られた者はその前後の記憶を失う。
 よって、天化は自分の行動を覚えていないのだ。
 ギアスを掛けられた者のこうした様子は、ルルーシュにとっては見慣れたものである。

「天化といったな。
 その……助かった」
「あー、よく分かんねぇけど。
 まー無事でよかったさ」

 天化はまだ納得がいっていないようだったが、やれやれと肩を回して一息ついていた。
 そんな天化の姿を、ルルーシュは細かく観察する。

「どうやってここまで来たんだ?」
「ああ、この下で気持ち悪ぃ連中を相手にしてたら、何か落ちてきたさ。
 そんで上に誰かいるんじゃねぇかって、あれで上がってきたってわけさ。
 後で回収しなきゃいけねぇな」

 天化が指したのは、向かいの建物の壁だった。
 見ると小さな杭のようなものが、縦に三メートルほどの間隔で数カ所に刺さっている。
 鑚心釘という武器だと天化は説明したが、どうやらそれを蹴って足場にしたらしい。
 携帯が落下してから天化が到着するまでの時間はほんの数秒。
 人間業とは思えないその身体能力はスザクやジェレミアにも並ぶと、ルルーシュは推測した。

「とにかく、一旦ここを離れるさ」
「待て」
「何さ、ここにいたらまた襲われるってのに」

 天化についてもう一点、確認しておくことがある。
 この先も、この男を利用していくために。

「俺は上の階に用があるんだ。
 俺を『助けてくれないか』」

 ギアスは一人に対して一度しか使えない。
 その一度を、咄嗟のことだったとはいえ曖昧な命令で使ってしまった。
 「助けろ」というギアスが今回一度きりのものか、今後も作用するのか、試す必要がある。

「上? ……しょうがねぇな。
 あーたは弱ぇみたいだし、放っとくのも気分が悪いさ」
「…………」

 天化の反応は、ギアスによるものには見えなかった。
 ギアスの効果が切れているのか。
 それとも天化にとって抵抗のない願いだった故に発動しなかっただけなのか、判断がつかない。
 だが一緒に行動していれば確認する機会はいくらでもあると、ここでの言及は避けることにした。

 幸い、天化はお人好しと呼べる人種らしい。
 仮にギアスが切れていたとしても、打てる手はいくらでもある。
 初めの計画こそ潰されたが、天化という都合のいい戦力を得られたアドバンテージは大きい。
 新たな駒を手にして、ルルーシュは新たな策を練り始めた。


【一日目昼/九段下 テレビ局】

【ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア@コードギアス 反逆のルルーシュ】
[所持品]なし
[状態]健康
[その他]
  • 携帯電話を紛失


【黄天化@封神演義】
[所持品]莫邪の宝剣、鑚心釘
[状態]健康
[その他]
  • ルルーシュの「俺を助けろ」ギアス使用済み(効果が継続しているかは不明)


 還り人を介して、婁震戒は仮面の下の双眸で全てを見ていた。
 ルルーシュの言動も、動作も。
 天化の剣技も。

『トリガーは、目か。
 魔眼の類は文献や伝承には聞くが、それを味わえる日がくるとはの』
「ええ、必ずや。
 媛に献上してご覧にいれましょう」

 労なく発見した最初の供物を、みすみす逃すはずがない。
 愛する魔剣が鮮血に染まる様を思い描きながら、婁は地面を蹴った。


【一日目昼/九段下 テレビ局】

【婁震戒@レッドドラゴン】
[所持品]七殺天凌、ルルーシュの携帯電話(故障中)
[状態]健康(還り人)
[その他]
  • 七殺天凌は〈竜殺し〉
  • 還り人たちを通して会場全域の情報を得る。



001:還り人の都 婁震戒 009:天凌府君、宣戦布告す
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黄天化