スアロー・クラツヴァーリの場合  ◆Wv2FAxNIf.



 焼け落ちた廃墟の煤けた屋上に、二人の男。
 一人は柵を乗り越えて、落下する危険など気にも留めない様子で縁に腰掛けていた。
 一人は屋上の真ん中で、両足を投げ出すようにして座り込んでいる。
 縁に座るのは細身の少年、ティーダ。
 中心にいるのがスアロー・クラツヴァーリという青年である。

 二人はともに金髪碧眼、話し方も緊張感の薄いものではあったが、似た者同士とは言えなかった。
 身軽さを武器にしたティーダに対し、黒い鎧を着込んだ重装備のスアロー。
 日焼けしたティーダが太陽に好かれているのだとすれば、色白のスアローは太陽に嫌われているのかも知れない。

 ティーダとスアローは似ていなかった。
 否、スアローと似ている者など、どこにもいないのである。

 とはいえお互い単独行動に向かない性質を自覚していることもあり、一緒に行動することで同意した。
 そしてまずは魔素の消耗で休養を必要としていたスアローの為、還り人に追い回されながらようやくここに腰を落ち着けたのだった。

 ひび割れた、今にも砕け散りそうな脆い空に浮かぶ雲が、ゆっくりと移動していく。
 地上から立ち上っていた黒煙は次第に薄れていく。
 焼かれていた周囲の建物には、もう燃えるものが残っていないのだろう。
 燃えていく。壊れていく。自分が触れるまでもなく。

 沈黙の中、漫然と浮かんでいたスアローの思考を、か細い旋律が破った。

「♪――――」

 それを耳にしたスアローは立ち上がり、ティーダが座る屋上際に近づく。
 上手いとは言えない鼻歌だった。
 だが異国の響きのあるそれに、スアローは耳を傾ける。

 スアローは音楽が好きだった。
 触れられないがそこにあるもの。
 スアローが触れて壊れてしまうものとは違う、触れられないが故に壊せないもの。
 あるいは、生まれるのと同時に壊れていくもの。
 その音色がふと途切れた。

「……何ッスか」
「いやぁ、邪魔するつもりはなかったんだ。続けて続けて」
「するわけないだろ」

 ティーダが頬を膨らますのが見えて、少年らしさを感じる。
 育ってしまったがもう育たないという少年の姿を、スアローはしげしげと眺めた。

「それ、君の国の曲なのかい?」
「……オレのザナルカンドで、ブリッツボールの勝利のおまじないってやつ。
 親父が歌ってたんだけど、オレよりへったくそでさ」
「父親かぁ。でも、嫌いじゃないんだろう?」
「……別に、好きでもないけどな」

 それは曲のことなのか、父親のことなのか。
 ティーダの照れ隠しのような返事に、スアローは深く頷いた。
 それはスアローにとって、全く関係のないことではあったのだが。

「そんなことよりアンタ、もういいのか?」
「あー、万全にはほど遠いんだけどね。
 もう行こうか。
 これ以上足止めってわけにいかないんだよね?」

 ティーダはユウナという少女を捜しており、その足をスアローが引っ張る形になっていたのだ。
 かといってそれを気に病むスアローではないのだが、スアロー自身にもゆっくりしていられない事情があった。

「婁さん、じっとしててくれてるといいんだけどなぁ」
「アンタが言ってるそれ、ホントに信じていいのか!?」
「はっきり言って僕には婁さんが今何を考えているのか全く分からないが、ここに来て何をしたのかは大体分かる。
 後は、僕を信じてくれとしか言えないな」

 無駄に胸を張って言い切るスアローに対し、ティーダの表情は半信半疑といったところである。
 こうして不信を買ってしまった経緯を思い返し、スアローは改めて「参ったなぁ」とぼやくのだった。


 聞仲から逃れ、まだ還り人に破壊されていない地域に着いた頃。
 年齢こそ一回りは違った二人だが、年の差を気にしない気さくな幼年はスアローにとって話しやすい相手だった。
 ティーダの出自に関心があったこともあり、スアローは何かとティーダの話を聞きたがった。
 それが唐突に、ティーダの焦りの声で現実に引き戻される。

「なぁ、あれ!」

 大きな建物の壁面に設置されたパネルに、映像が流れている。
 この国の文明はドナティアのそれを遙かに超えており、映像のやり取りに通信用魔術結界を必要としないらしい。
 そこに映った一人の男の姿が、そんなスアローの思考を瞬時に吹き飛ばした。

「ぶふぉおっ!!?!?」

 初めに映し出されていた女性を、仮面の男が手刀で刺殺した。
 それは紛れもなく、スアローがよく知る男であった。

 仮面を用いるようになってからの彼のことは、羊皮紙に描かれた肖像でしか知らない。
 それでも分かるのだ。
 どうしようもなく、あの男は変わらないのだと。

『この「東京」をこれより、大いなる〈天凌〉に捧ぐ贄とする!』

 衝撃のあまり息も絶え絶えになっているスアローに構うはずもなく、パネルの中の男は朗々と演説を続ける。

『私こそは〈天凌〉に仕えしもの、私の名は――』

 男がにんまりと笑う。
 まるで、見せつけるかのように。


『スアロー・クラツヴァーリ!!!』


「……………………………………は?」

 そこで映像は終わったが、再び女性が刺殺される場面が映し出された。
 どうやらこの演説は、ひたすらリピート放送されるようである。
 二周、三周と見終わった頃、ティーダがようやく口を開いた。

「……なぁ、これ」
「ち、違う!! 断じて違う、僕じゃない!! 濡れ衣だ!!!
 ほら、声が全然違うだろう!?
 顎のラインとか、ほら! 体格も!」
「オレだって疑いたくないんだけどさ……」

 婁がどういった人物なのか。
 この地で起きている還り人の発生とどう関係しているのか。
 時間をかけて、何とかティーダに納得させたのだった。

「婁さん、僕のことがよほど腹に据えかねていたと見える。
 僕が婁さんのことを尊敬しているのは、本当なんだけどなぁ」

 そんなぼやきが婁に届くはずもなかった。
 もっとも届いたところで、火に油を注ぐ結果になっただろうが。


 婁震戒は恐らく東京の中心部で〈死者の王〉として活動を始めた。
 婁の性格、それに還り人たちの活動域の拡大の様子などから、スアローとティーダはそう結論づけた。
 そしてティーダはユウナならそれを止めるために中心に向かうはずだと主張し、スアローはそれを受け入れた。
 道という道を埋め尽くした還り人の群れを迂回するルートはなく、二人は還り人たちの頭や肩を踏み越えて、一息に移動を始める。

「地図を見た限りかなり広いと思うんだよねぇ、東京って」
「仕方ないだろ!
 乗り物はどれも、こいつらのせいで使えないんだからさ!」

 今いる新宿から中心部までの距離は、地図で位置を確認した際に計算しようとしてすぐにやめてしまった。
 ユウナのことで焦りを募らせているティーダに言ったところで、止まりはしないだろう。
 「楽をしたいのになぁ」と一人ごちて、スアローはなくなくティーダの後に続いた。

 爆発音を聞いたのは、その道中のことだった。
 初めのうちは何かの燃料に着火したのだろうと、スアローもティーダも気に止めなかった。
 だが同じ方角から断続的にその音が続き、二人は尋常でない事態を感じ取った。

「さて、どうする?
 はっきり言って僕は、嫌な予感しかしない!」
「だけどもしかしたら、ユウナがいるかも知れない……!」

 既にティーダは進路を変え、爆発音がする方へ足を向けていた。
 仮にスアローが説得したところで、その足を止めることはないだろう。

「うーん、仕方ない。付き合おう。
 子どもを守るのは、大人の役目だからね」

 スアローはいつも通り、どこまで本気なのか分からない乾いた笑みを作る。
 彼の従者が「悪い癖」と称す性質は、ここにきても変わることがなかった。



【一日目昼/渋谷(東部)】

【スアロー@レッドドラゴン】
[所持品]両手剣×4
[状態]軽傷
[その他]
  • 〈竜殺し〉です。
  • 婁の宣戦布告を目撃



【ティーダ@FFX】
[所持品]アルテマウェポン
[状態]健康
[その他]
  • 婁の宣戦布告を目撃


「……さて」

 死体の群れを戯れに逐一相手にするのにも飽いて、シーモアは魔法を用いて一掃した。
 エボンの老師として四属性の魔法を自在に操るシーモアは、その膨大な魔力によって連続魔法を可能にする。
 彼にしてみればそう協力でもない、中位程度の威力のファイラも、彼の魔力で連打すれば辺りを火の海に変えられるのだ。

 魔法を使用した直後こそ、新たな群れがそれまでに倍する数で襲いかかってきていた。
 だが二度三度と重ねると、死体たちはシーモアから距離を取り、遠巻きに観察してくるようになった。
 そうした動きから、シーモアはこれらを操作する者がいることを察する。
 魔物の創造と使役に長けたグアド族だからこそ、容易にその結論に行き着いたのだった。

「やはり避けられないものらしいな」

 グアドとは、異界を守る民である。
 それ故に幻光虫との関わりは深く、敏感にその気配を感じ取る。
 だからこそ、ここに向かってくる者が誰なのかも気づいている。

「救ってやろう。
 おまえも、おまえの父も」

 焼け爛れた大地に立ち、シーモアは待ち受けていた。



【一日目昼/渋谷(東部)】

【シーモア@FINAL FANTASY X】
[所持品]不明
[状態]健康、死人
[その他]
  • 〈竜殺し〉ではない




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ティーダ
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