竜殺しを探して ◆Wv2FAxNIf.
空の黒煙の合間を縫いながら、二つの歪な影が通り過ぎていく。
一つは人型でありながら翼を持った白いKMF、ランスロット・アルビオンである。
七メートルにも及ぶその巨体は、そこにあるだけで空を圧迫していた。
そしてもう一方は同じく翼を生やした、犬のような姿のつながれもののヴァルだった。
ランスロットに比べれば小さいが、人ひとりを丸ごと飲み込めるだけの巨躯を持ち合わせている。
その上にヴァルと繋がれた少女・エィハ、それに巨漢の黄飛虎を乗せているため、シルエットはますます奇妙なものになっていた。
ランスロットが先行し、目指すのはルルーシュが消息を絶った九段下だ。
そこに向かう道中、そのパイロットである枢木スザクは少々困惑していた。
集音マイクと外部スピーカーでエィハらと会話しながら進んでいたのだが、いつからかスザクの耳にはすすり泣きが聞こえてきている。
「そ、そいつぁ……悪いこと聞いちまったなぁ……うっ」
『ど、どうして飛虎さんが泣くんですか……?』
「バカ野郎、これが泣かずにいられっか!」
飛虎が熱の入った様子で反論してくる。
初対面の印象通りの人柄だった彼は、誰に聞かれるでもなく自分の素性について語り始め、そしてエィハとスザクにも尋ねたのだ。
どこから来たのか、どんな生活をしていたのか、家族はどうしているのか――と。
結果、飛虎は泣き出したのであった。
「オレんとこは家族が多くてよ……こういう話に弱えんだ……」
『あの、僕は気にしてませんから。
エィハもそうだろ?』
スザクは黙ったままでいるエィハに水を向けた。
エィハとは短い付き合いだが、ドライで達観しているようにすら見える彼女が動じているとは思えなかったからだ。
「そうね。いないのが当たり前だと思っていたから」
スザクが思っていた通りの乾いた反応があった。
何とも思っていない――スザクは彼女に家族がいないことではなく、それ自体に無関心であることに胸を痛めた。
家族がいないのはスザクも同じだ。
元より一人っ子で、幼い頃に母を亡くし、父が死んだのももう随分前のことになる。
しかし、少なくともスザクが父を失ったのは自業自得だったのだ。
誰のせいでもない、自分のせいだった。
対するエィハは何も悪くない。
ニル・カムイという土地に戦火が絶えなかったから、貧しかったから。
そんな外の環境に歪められてしまったエィハが、それを当然として受け入れてしまっていることが悲しかった。
スザクの世界にも戦争はあり、孤児もいるが、割り切れるものではない。
「よーし分かった。オメーら二人、今日からオレが面倒見てやるぜ!!」
スザクを考え事から引きずり戻すほどの大声で、飛虎はそう宣言した。
何が分かったのかは分からないが、飛虎は深く頷いている。
『それってどういう……?』
「オレを親父だと思って頼っていい、ってこった!」
父親、と、スザクはマイクに入らない小さな声で呟く。
突然の申し出でも、嫌味や不快感を全く感じさせないのは飛虎の人柄故か。
胸を張る姿には威厳と包容感が見えて、まさに「理想の父親」と言える男なのかも知れない。
だがスザクの答えは歯切れの悪いものだった。
『いえ、僕には……その資格は』
「家族に資格も何もあるか!
なっ、嬢ちゃんもそう思うだろ」
「そうね」とか、「そうかしら」とか。
これまで通りの、無味乾燥な返事があるものと思っていた。
だがエィハの反応は、スザクが初めて見るものだった。
「……ごめんなさい。分からないわ。
私は家族を知らないから」
慎重に言葉を選んでいる様子で、エィハは言う。
大抵の物事に無関心に見えていたエィハの、珍しい姿だった。
「私には友達しかいないと思っていたわ。
だけど……家族も、新たに得られるものなのかしら」
「あったりめえよ!
嬢ちゃんだってもう少し大きくなったら、好きな男と結婚すんだろ?
そうすりゃそのうちガキもできるし、家族ってのは増えてくもんなんだよ」
「そう……だったわね」
エィハは思案しているようだった。
彼女の乏しい表情からは、何を考えているかまでは分からない。
「後でうちの次男坊も紹介してやりてえが。
ま、今はここを何とか出ねーことにはな!」
黙り込んだエィハの様子を見てか、飛虎は話を切り上げた。
スザクとしても反応に窮していたので、失礼とは思いながらも安堵する。
自分がかつて壊したものを、奪ってしまったものを、嫌でも思い出してしまうから。
『……あっ』
「どうした、スザク」
『知り合いが、近くにいるみたいです』
九段下まで間もなくという地点で、ランスロットの敵味方識別装置に反応がある。
友軍機、即ちジェレミアの機体である。
ランスロットよりも早く現地に到着していると思っていたのだが、どうやらその地点で停止しているらしい。
スザクは九段下に向けていた進路を僅かに逸らした。
『すみません、行き先を変更します!』
「おうよ、嬢ちゃんとヴァルも頼むぜ!」
「分かった」
ルルーシュの安否がかかっている時に、ジェレミアが足を止めている。
悪いことが起きていなければいいがと、スザクはランスロットの速度を上げた。
▽
オレンジ色のその巨体は、嫌でも人目を引いた。
鮮やかなカラーリングに加え、十メートル四方の立方体にも収まるかどうかという圧倒的な大きさ。
KMF――ランスロットが人型であるのに対し、KGFという「要塞型」として設計されたこのサザーランド・ジークは隠密には不向きだった。
そんなサイズのものが自動車以上の速度で空を移動するのだから、無理からぬことである。
だがジェレミア・ゴットバルトには外敵に見つかるというリスクを負ってでも、急がねばならない理由があった。
「ルルーシュ様……」
主君であるルルーシュが消息を絶って以降、何度か携帯に掛け直してみてはいるものの、未だ繋がらない。
焦燥に駆られながら、ジェレミアは九段下へと急ぐ。
その行く手を阻むように、その女は現れた。
サザーランド・ジークの前方、数十メートル先に突如現れた「それ」を前に、ジェレミアは急遽減速した。
女といっても姿形がそうであるだけで、全く異質なものであることは考えるまでもなかった。
空中に足場でもあるかのように、真っ直ぐに立つ女。
その着ている服も、髪も、肌すらも、全てが深い青色だった。
そしてその美貌と視線は、この世のものとは思えない。
女は何を言うでもなく、ある一点を指差した。
下方、サザーランド・ジークが通り過ぎた地点である。
ジェレミアが機体の向きはそのままに、モニターを切り替えて集音マイクで音を拾う。
三人の人影が映り、機体の中には場違いといってもいい少女の声が飛び込んできた。
「お願いしまーす!
話を、させてくださーい!!」
必死に呼びかけてくる少女と、急ぐべき理由。
ジェレミアはここで、選択を迫られた。
▽
初めに「休みたい」という紂王の泣き言を聞き入れたユウナは、とある建物を丸ごと一つ氷付けにした。
見上げれば首が痛くなるほどの、浅葱が住む日本では考えられないほどの堅牢な建物が、一瞬でである。
召喚獣は一度に一体ずつしか呼べないそうだが、その分一体ごとの能力は凄まじいもので、浅葱はしばらく声も出せなかった。
氷の塊となった建物に侵入できる者はおらず、死者の群れが溢れ返った地上を尻目に、三人は屋上で一呼吸ついたのだった。
三人の頭上を影が通り過ぎたのは、それから間もなくのことである。
ユウナはそれを見上げて「飛空艇」と呼んだ。
操縦している人がいるに違いないと、ユウナはシヴァを召喚してこれを呼び止めた。
浅葱が空飛ぶ巨大な鉄塊というものを目の当たりにし、呆気に取られている間の出来事だった。
そうでなければユウナを制止していたに違いない。
ただでさえ紂王という信用ならない荷物を抱えている時に、敵が増えたらどうするつもりなのかと。
ユウナが呼び止めてしまった後も、鉄塊にはそのまま無視して通り過ぎて欲しいという思いでいっぱいだった。
だがそれもあっさりと打ち砕かれて、その巨体は緩やかに高度を落としたのだった。
「来て下さって、ありがとうございます。召喚士のユウナです」
丁寧に頭を下げるユウナの姿に、浅葱は軽い目眩を覚える。
浅葱の懸念には気付いてすらいないらしい。
「誰か……乗っているんですよね?」
『いかにも。
礼儀として名乗っておこう。
私はジェレミア・ゴットバルト。
さる高貴な方にお仕えしている』
低い、男の声が鉄塊のどこからか聞こえる。
周囲の建物にぶつからないギリギリの高さまで下りてきてはいたが、その鉄塊から人が出て来る気配はなかった。
『手短に済ませて頂こう。私は急ぐ身だ』
「人捜しでもしてるわけ?」
『……』
上からの物言いが癇に障り、浅葱は間髪入れずに嫌味を言う。
この状況で急ぐことといえば、おおよそ絞られる。
浅葱はその一つを口にしたに過ぎない。
反応からして正解だったらしいが、ユウナからは窘めるような視線を投げられた。
「私たちは、二十人全員でここを出る方法を探しています。
そのために協力して欲しいんです。
あなたが人を捜しているなら、そのお手伝いもできると思います」
『それが見返りというわけか』
「はい」
しばしの沈黙が流れる。
そしてジェレミアと名乗った男が切り出した。
『その方法が見つからなかった場合、君はどうするつもりだ?』
「それは……」
『そして、私には君たちを信用するに足る理由がない。
信用ならない者に、協力などさせられん』
ユウナが答えに窮する。
言わんこっちゃないと、浅葱はやむなく口を挟んだ。
「本気で言ってるのかい、それ。
少なくとも、あんたは急いでいたのにここにやってきた。
協力者が欲しいのはそっちだったんじゃない?」
わざわざ呼び掛けに応じた以上、理由があるはずだ。
こうして話していても、ジェレミアが人助けをしようとしているお人好しとは思えない。
何らかの打算あっての行動だろうと、浅葱は読んでいた。
『誤解があるようだな』
「へえ?」
『私は君たちを見定めに来た』
肌に冷気が刺さる感覚がある。
鉄塊に取り付けられた巨大な銛状の武器が、今にもこちらを狙ってくるのではないかと、浅葱の額に汗が浮く。
相手の顔は見えなくても、殺気に近いものは伝わってくる。
「僕らじゃ不合格ってこと?」
『それは――』
まだ本気で殺す気ではないはずだと、浅葱は交渉の余地を探す。
だがそこで唐突に、ジェレミアが黙り込んだ。
白い鎧が現れたのは、それから間もなくのことだった。
その鉄塊の主は枢木と呼ばれ、ジェレミアとの再会を喜んでいた。
そのお陰で剣呑な空気は霧散し、浅葱は止めていた息を深く吐き出す。
だがこの二人の合流は、もう一つの予期せぬ再会を生んだ。
「武成王……?」
それまで黙って様子を窺っていた紂王が、口を開いたのだった。
▽
それは、間が良かったと言えるのかも知れない。
痩身の、人の良さそうな三人組。
この場で始末しておくべきかと、ジェレミアが思案していた矢先の出来事だった。
口減らしの機会を逸したとも思えたが、ルルーシュの安否が掴めない以上、事を急ぐべきでもない。
結果としてこれで良かったのだろうと納得することにした。
黄飛虎と紂王が知り合いだったということで、二人はしきりに話し込んでいた。
その間にジェレミアもランスロットとのチャンネルを開き、二人だけで会話をする。
「随分、大所帯になったようだな」
『……それなんですが。
彼らを残して、僕らだけでルルーシュを捜しに行きませんか?』
「……ほう。君がそんな提案をするとはな」
彼らだけで残した場合――もしその中に一人でも不穏な動きをする者がいれば、集団は瓦解する。
それを防ぐためにここに残ると、スザクならそう言い出すと思っていた。
『僕に考えがあるんです』
ジェレミアとしては、一刻も早く出発できればそれでいい。
彼らを半ば見捨てるようで多少の良心の呵責はあるが、ルルーシュの安全には代えられないのだ。
氷漬けになったビルの屋上に残るのは、五人。
スザクは彼らを残していくことを説明すると、彼らの方もあっさりそれを承諾した。
「すぐには戻れないかも知れない」と、それだけ言い残して、ランスロットとサザーランド・ジークはその場を離れていった
▽
「召喚士、というのね。凄いわ」
「えへへ……」
エィハはユウナの隣りで、熱心に話を聞いていた。
その会話を聞いていた者には、この二人が姉妹のようにも見えただろう。
エィハの視線の意味に気付いている者は、まだいない。
――〈竜殺し〉。
〈喰らい姫〉から受け取った、〈竜殺し〉を判別する能力。
エィハの目が、スザクのランスロットに続く次の〈竜殺し〉を見つけたのだ。
だからエィハはずっと観察していた。
ユウナの召喚獣が氷漬けにしたという建物を見て、そしてユウナ本人を見る。
その細い首筋を、腕を、見極める。
自分とヴァルの力で、殺せるかどうかを。
召喚獣を出していない今なら殺せるのではないか。
もし殺すなら、その後に残った面々はどうするか。
エィハは必死に考えながら、ユウナの話を聞いていた。
横で面白くなさそうに不満顔を見せている浅葱のことも、全く気にならなかった。
そうしてユウナのことばかり見ていたからだろう。
それ以外の者たちが何を話しているのか、エィハはまるで聞いていなかった。
故に、その事態に気付くのが一歩遅れたのだ。
▽
「紂王陛下!」
「おお、本当におまえだったか……!」
飛虎は紂王の姿を前にして、素直に喜んでいた。
かつて紂王が原因となって妻が、そして妹が死んでいる。
飛虎自身は殷を裏切って他国の将となってしまった。
しかしかといって、かつて仕えた王の不幸を願えるはずもない。
紂王の無事を確認して、飛虎は心底安堵したのだった。
「して、武成王。今までどこに?」
「品川、とかいう地名だったかと。
エィハとヴァルのお陰で――」
「いや、そうではない。
予が政をしている間、おまえはどこに行っていたのだ?」
「武成王」、という呼び名に違和感を覚える。
飛虎は殷の鎮国武成王から、周の開国武成王となった。
紂王から「武成王」と呼ばれることは、もうないと思っていたのだ。
そして何より、話が噛み合わない。
「それは……西岐に」
「西岐だと? 何故今の時期にそのような」
まるで、本当に何も知らないかのようだった。
次第に紂王の顔に不安の色が広がり、視線を彷徨わせ始める。
『――なので飛虎さん、ここをお願いします!』
「あ、……ああ、分かった。
気をつけてな」
スザクが何か話していたようだったが、飛虎にはほとんど聞こえていなかった。
この時点で、スザクをを引き止めておくべきだったのかも知れない。
だが飛虎にはその決断ができなかった。
「……そう、だ。何故殷に、武成王がいなかった?
いや……何故予は、武成王の不在をおかしいと思わなかった?
帳簿の数字が全く合わなかった。
合わなかったことを、おかしいとも思わなかった。
何かが足りなかったはずなのに。
そういうものだと思ってしまったのは何故か?
民の様子が妙だと思ったはずではなかったか?
そうだ聞仲は?
聞仲はどこだ?
聞仲に聞けば分かるはずだ。
聞仲を捜さなくては
聞仲。
聞仲!!
聞仲はどこに!!!」
独り言を続ける紂王の視界に、すでに飛虎の姿はなくなっていた。
肌がざわつく感覚に、飛虎は紂王の両肩に掴みかかるようにして前を向かせる。
「しっかりして下さい、陛下!
オレはあの時――――」
飛虎の手首に強い力が掛かった。
紂王に掴まれたのだ。
「そうだった。
おまえは予と殷を裏切ったのだったな、武成王」
違う。これは紂王陛下ではない。
彼の濁った目を見て、飛虎は確信する。
そしてそのまま、細身の王によって投げ飛ばされた。
▽
「ヴァル!!」
飛虎のただごとではない声で、エィハはようやく視線をそちらに向かわせていた。
そしてエィハの倍ほどもある背丈の男が吹き飛ばされたのを見て、咄嗟にヴァルに指示したのだ。
ヴァルが体を浮かせ、飛虎の体を受け止める。
「あ、ありがとよ……だが……!!」
エィハの視線の先で、紂王が縮んでいた。
エィハとそう変わらない、少年のような姿をしている。
会った時は間違いなく、スザクと同じかそれ以上の上背があったはずだ。
飛虎を屋上に下ろすと、エィハとヴァルが臨戦態勢を取る。
「予は寛大である。
それ故に武成王よ、機会を与えよう。
殷に戻り、これまでのように予に仕えよ。
おまえの家族も悪いようにはすまい」
エィハは初めて、生まれながらの「王」の声を聞いた。
王になるべくして生まれ、なるべくしてなった王。
忌ブキとはまた違うその威厳を前にして、阻んではならないように思えて、口を閉ざしてしまった。
「……陛下、オレぁ……戻れません。
オレは周の開国武成王だ!
それに、賈氏と黄氏のことを忘れたとは言わせねぇ!!
「そうであろうな。
故に……予は、悲しい」
紂王が涙を浮かべる。
事情を知らないエィハには、飛虎の方こそ間違っているのではないかと思えてしまう。
そしてその感情は、打ち破られた。
「おまえを殺さねばならないとは、予は、悲しいッッ ッ ッ! ! !」
声の波が周囲に叩き付けられる。
それだけで氷漬けになっていた建物が崩れ出す。
エィハはヴァルに飛虎の襟首を咥えさせて飛び上がり、僅かに残った足場でユウナが叫んだ。
「召喚します……!」
そこでエィハの脳裏に、一つの考えが首をもたげた。
今なら。
スザクがしばらく戻らないと言っていた今なら。
全員の注意が逸れている今なら。
ユウナが召喚しようとしている今なら。
あの細い首が無防備に見える今この瞬間なら。
〈竜殺し〉を討ち取れるのではないか……?
ユウナの杖から火の玉が滴るように落ちる。
建物の足場に魔法陣が広がり、魔素の流れが変わる。
今――
ヴァルが口を開け、飛虎を離す。
地上まで落下していく彼を気にも留めず、ヴァルが加速する。
だが一層激しくなった音の波が、エィハとヴァルに襲いかかった。
「っく……!!」
呼吸を乱される。
召喚の方が速い。
炎を宿した召喚獣がユウナと浅葱を守り、加速していたエィハとヴァルはバランスを崩した。
『エィハ――――――――!!!!』
紂王とは別の声が、音の波を突き破った。
一本の光の筋に見えるほどの速度で、彼は戻ってきたのだ。
地上に落ちかけていた飛虎を拾い、建物の壁面に打ち込んだ銛を巻き取って機体を屋上まで引き上げ、エィハとヴァルを手の中に収めた。
回収した者たちを守りながら、白い騎士は地上へ着地する。
そして還り人の群れを踏み散らしながら、屋上を睨むように顔を上げた。
「スザク、オメーどうしてここに……」
『飛虎さん、話は後です!
エィハも手伝ってくれ!』
あの紂王の存在以上に。
助けられたこと以上に。
〈竜殺し〉を仕損じた事実が、エィハの脳裏で渦巻いていた。
だがそんなエィハに耳打ちするように、スザクの呟きが届いた。
『君もだ、エィハ。後で話そう』
その口調は優しく、そして声は厳しかった。
スザクには既に気付かれているのかも知れない。
もしそうなら――
▽
「僕は、戻ります」
それがジェレミアへの提案だった。
一度二人で抜けた後、スザクだけが戻る。
その回りくどい方法は、エィハの様子を見るためだった。
エィハを信じたいと思いながらどこかで、彼女が何かをしようとしているように思えたからだ。
そのことをジェレミアにも説明し、納得してもらえた。
『了解した。ルルーシュ様の捜索は私一人で行う。
だが枢木、その少女についてだが』
「何か?」
『危険だと判断した時は、確実に始末したまえ』
「……ええ」
スザクも最近になって知ったことだが、普段のジェレミアは人好きのする人物である。
主君への忠誠心は言うまでもなく、部下や身内へはお節介なまでに世話を焼く、人間味に溢れた男だった。
だが仕事として割り切って「必要」と断じた時、彼は冷淡なまでに最善手を打つ。
特にそれがルルーシュの身に関わるとなると、彼には一切の迷いがない。
『万一討ち漏らした時、彼女がルルーシュ様に危害を加えないとは限らない。
もしも君にできないなら、私が代わろう』
「いえ、大丈夫です」
それはジェレミアなりの気遣いだったのかも知れないが、スザクは断った。
今さら、綺麗事が通るとは思っていない。
「もしもエィハが彼らを殺すなら。
その時は、僕がエィハを殺します」
【一日目昼/九段下付近】
【ジェレミア・ゴットバルト@コードギアス】
[所持品]サザーランド・ジーク、携帯電話、手甲剣
[状態]健康
[その他]
- 〈竜殺し〉ではない。
- 四道から情報を得る。
- ユウナから情報を得る。
【枢木スザク@コードギアス】
[所持品]ランスロット・アルビオン
[状態]健康
[その他]
【黄飛虎@封神演義】
[所持品]棍
[状態]健康
[その他]
【エィハ@レッドドラゴン】
[所持品]短剣
[状態]健康(還り人)
[その他]
【浅葱@BASARA】
[所持品]剣
[状態]健康
[その他]
【ユウナ@FFX】
[所持品]ニルヴァーナ
[状態]健康、イフリート召喚中
[その他]
【紂王@封神演義】
[所持品]
[状態]健康、服の袖が破れている、少年の姿
[その他]
最終更新:2017年07月15日 22:59