望まぬ再会 ◆Wv2FAxNIf.
ある程度走ったところで、黄天化は足を止めた。
片腕は肩に担ぎ上げたルルーシュを支えるのに塞がっているが、残る一方の手で器用に莫耶の宝剣を操って四方の死体の群れを片付ける。
そして手近な死体を踏み台にして跳躍し、街灯の上へ飛び乗った。
「っちゃー……わり、見失っちまったさ」
「何だと!?」
肩に担がれた姿勢のまま、ルルーシュがキャンキャンと騒ぎ出す。
予想通りの反応だったので、天化はそれを軽く受け流し、代わりに周囲の様子を観察した。
黒衣の男を見つけるのは早々に諦め、代わりに死体の群れの方を注視する。
相変わらず死体の群れは多いが、一時ほどの密度ではないように思われた。
この「東京」全域に手を広げるべく、拡散していったためだろう。
胸の悪くなる話ではあるが、死体たちの服装などを見るに元は街の住人だ。
それは街の人口以上の群れにはならず、無限に増え続けるものでもないということだ。
道端には天化が斬ったものとは別の死体も多数転がっており、全ての住人が群れになったというわけでもないらしい。
また、先程までと少々状況が変わったことに気付いた。
街灯の上などその場しのぎの逃げ道に過ぎなかったのだが、死体の群れが追いすがってくる様子がないのだ。
少々遠巻きに、何体かが様子を窺っているように見えるだけだ。
それは放送局の中で、群れが天化らを積極的に殺そうとしてこなかったことと無関係ではないように思えた。
「連中はどーにもやる気が足りねぇみてえだったけど、赤い剣のあいつだけは本気でオレっちたちを殺しにきてたさ。
んで、こいつらはまたやる気なしときた。
どういうことさ?」
「それは。……。
あの剣を手に入れるのが先だ!!」
「ほんっっと役に立たねぇさあんた!!」
黒衣の男は既に影も形もなく、行き先の手がかりもない。
頭脳労働の面に関して頼みの綱ともいえたルルーシュはこの有様である。
天化はやむなく、一人で今後の方針を思案する。
「……しゃーない。
どっかでちょいと休んだら、また捜すさ」
「そんな悠長なことを!」
「あんた一人じゃあいつは捕まえられっこないって分かってるはずさ。
オレっちだって無理はしたかねぇのさ」
「む……」
ルルーシュはしぶしぶではあるが納得したようだった。
そうして天化は足場にしていた街灯を蹴り、移動を再開する。
だが低い建物の屋上に跳び移ったところで、また足を止める。
視線の先は別の建物の外壁で、奇跡的に稼働している電光掲示板があった。
殷にはなかった代物への好奇心――だけではない。
そこには見知った男の姿が映っていたのだ。
『私こそは〈天凌〉に仕えしもの、私の名は――』
天化もルルーシュも、思わず前のめりになる。
その男の挙動に釘付けになった。
『スアロー・クラツヴァーリ!!!』
リピートされる映像を何度か眺めた後、テレビ局から数キロほど足を伸ばしたが収穫はなく。
ルルーシュと出会って以降戦い通しだった天化は、廃ビルの一角で腰を落ち着けた。
煤けたソファに寝転がり、煙草をふかす。
ルルーシュはといえば、「俺が使うはずだったのに」と一人愚痴を零していた。
メッセージを不特定多数に向けて発信することで、何らかの優位に立てる策を考えていたのだろう。
この「東京」の土地勘があることもあって目の付け所は決して悪くなかったが、運は徹底して向かなかったようだ。
「さーて、どうしたもんかねぇ」
意識を手放さない程度に体の力を抜き、緊張をほぐす。
その束の間の休息は、遠く離れた地から轟音が響く時まで続いたのだった。
▽
進むにつれ、周囲の気温が上昇していく。
嫌な汗をかき始めたティーダは死体の群れを足場にするのをやめ、地面に着地する。
そして群れを斬りつけながら、再び速度を上げる。
これはティーダにとって助走のようなものだ。
強力な一撃を叩き込むために、必要なプロセスである。
「あー。ごめん、それ僕は手伝わなくていい?」
後ろから緊張感のない声がかかる。
スアローの性質――というより『呪い』について既に聞かされていたティーダは、それをあっさり了承した。
「いいっスよ。
その代わり、肝心な時に武器がないとかやめてくれよな」
「肝に銘じておくよ。
今は怖いメイドさんもいないしね」
スアローは普段は武器の管理をそのメイドに任せているらしく、余計に不安が煽られる。
とはいえ出会って間もないティーダにはそれ以上言えることもなく、進行方向に注意を戻した。
死体が焼ける臭いに顔を顰める。
視界が拓けた先の広場には、見知った男の姿があった。
「やはりお前が来たか」
グアド族の族長にしてエボンの老師、シーモア=グアド。
その声は、何も知らぬ者が聞けば妖艶と称したかも知れない。
魔力を使うまでもなく人を心酔せしめる、艷やかにして色を帯びた声だ。
行く先々で道を阻まれてきたティーダにとっては、不快なものでしかなかったのだが。
「えーっと、知り合い?」
ここにきてなおスアローは呑気な様を見せており、相変わらずであった。
「嫌いなやつ」
「なるほどねぇ」
興味があるのかないのか、人当たりがいい割に分かりにくい男である。
対するシーモアは、スアローにはまるで感心がないようだった。
「念のため聞いておこう。
知りもしないだろうがな」
ねっとりと勿体ぶるような口ぶりで、シーモアは言う。
こうしてただ話しているだけでも胸が悪くなり、ティーダはますますこの男が嫌いになるのだ。
「私の花嫁は、今はどこに?」
全身が総毛立つような不快感と怒りが、ティーダから噴き上がる。
ベベルで見せつけられた結婚式を、嫌でも想起させられた。
「知ってても教えねーよ!!」
事情を一切知らぬスアローを置き去りにしたまま、ティーダはアルテマウェポンを構える。
ルカに始まり、ミヘンで、グアドサラムで、ベベルで、ガガゼトで、シーモアとは繰り返し顔を合わせてきた。
だが次はないと、ユウナには決して近づけまいと、ティーダは両足に力を込める。
一撃の重さだけを比べるなら、ティーダよりもスアローの方が優れているかも知れない。
だがティーダの最大の武器は手数である。
ヘイスガとクイックトリックの併用は、相手に息をつく暇さえ与えない連続攻撃を可能にする。
味方全体に効果を及ぼすヘイスガによってスアローの速度も上昇しているものの、ティーダはそれよりも更に速い。
なお、ついでではあるが、ティーダの連撃の合間にスアローは剣を二本ほど壊していた。
「はぁあああああああああああ!!!!」
圧倒的な速度に加えて、ティーダが持つアルテマウェポンには「回避カウンター」「魔法カウンター」のアビリティが付いている。
シーモアがブリザラやサンダラを使えば、ティーダが意識する必要すらなく反撃の一手となるのだ。
ティーダが回避した連続魔法が周囲の建物を次々と破壊していくも、ティーダ自身にダメージはない。
そして戦う前から行っていた、ティーダの「助走」が終わった。
「派手なのを一発、ぶちかます!!!」
姿勢を低く落とす。
地面を強く蹴って体を押し出し、一息にシーモアの目前まで距離を詰め、八連撃。
袈裟懸けに、横一文字に、或いは真下から切り上げ、必殺ともいえる一撃を矢継ぎ早に叩き込んでいく。
そして剣を地面に突き立て、それを踏み台にして跳ぶ。
「スアロー! それ、投げてくれ!」
「え、何これ。いつの間に!?」
ティーダはスアローの手の中にあったブリッツボールを投げるよう促す。
ティーダのオーバードライブ技、エース・オブ・ザ・ブリッツ。
これは最後に、宙高く上げられたボールを蹴って敵に見舞うことで完成するのだ。
「よーし、よく分からないが任せろ!」
スアローの手を離れたボールが、丁度ティーダが飛び上がった最高高度に到達する。
完璧なタイミングだった。
ティーダは空中で上下に体を一回転させ、頭を下にした姿勢のままボールを蹴り抜いた。
パァン、と甲高い破裂音が響く。
「……えっ」
その声はティーダのものだったか、スアローのものだったか。
ティーダ愛用のブリッツボールはティーダの蹴りの威力に耐えきれず、弾け飛んでしまったのだ。
蹴りがほぼ空振りとなったティーダはそのまま落下し、バランスを崩しながらもかろうじて着地した。
「……その。
今回は運が悪かったみたいだ」
スアローがきまり悪そうに言う。
スアローが触れたものは休息に劣化し『粉砕』される――ティーダはそれを改めて実感させられたのだった。
それでも、シーモアへのダメージは過剰なほどのものとなっていたはずだ。
ティーダが視線を戻すが、そこに期待したものはなかった。
シーモアは未だ健在で、そこに立っていたのだ。
「この土地はいい。
何もかもが私の糧となる」
周囲に転がっていた死体が瞬時に形を失い、幻光虫となって霧散した。
のみならず遠巻きに広場の様子を窺っていた死体の群れさえも崩れ、それらの幻光虫はシーモアの内へ取り込まれていく。
幻光虫の扱いに長けたグアド族の血を引いた優秀な召喚士であったシーモアが、死人(しびと)となったことで新たに得た力である。
「これで終わると、思ったわけではあるまい?」
「……しつこいっつーの」
ティーダの眼前にまず現れたのは、巨大な甲虫のような姿である。
シーモアが使役する、幻光異体。
そしてその背後に立つのが、人の形を失ったシーモア:異体だった。
ベベルで対峙した時のままの姿である。
その姿に、物言いに、ティーダは一層の苛立ちを募らせるのだった。
【一日目昼/渋谷(東部)】
【スアロー@レッドドラゴン】
[所持品]両手剣×2
[状態]軽傷
[その他]
【ティーダ@FFX】
[所持品]アルテマウェポン
[状態]健康、オーバードライブ使用直後
[その他]
【シーモア@FINAL FANTASY X】
[所持品]不明
[状態]健康、死人
[その他]
▽
「スアロー、ね」
ティーダたちの頭上高く、建物の屋上から、その二人は戦いの推移を見守っていた。
「どうやらまた、ややこしいことになってるみてぇさ」
「あの男がいない。
さっさと次に当たるぞ」
「言ってる場合じゃないさ!
手を貸してやろうにも、困ったもんさ」
ルルーシュの言葉を聞き流しながら、天化は新たな煙草に火をつける。
見た目で善悪を決めていいのなら、助けに入るべきは金髪の二人の方だろう。
とはいえ込み入った事情はまるで分からず、一方の名は「スアロー」であるという。
煙草が短くなっていく。
静観していられる時間はそう長くはないだろうと、天化は予感していた。
【一日目昼/渋谷(東部)】
【ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア@コードギアス 反逆のルルーシュ】
[所持品]なし
[状態]七殺天凌に魅了されている
[その他]
【黄天化@封神演義】
[所持品]莫邪の宝剣、鑚心釘
[状態]左脇腹に傷
[その他]
- ルルーシュの「俺を助けろ」ギアス使用済み(効果が継続しているかは不明)
- 婁の宣戦布告を目撃
最終更新:2017年11月20日 00:57