*8 敵軍の侵攻に戸惑う国民たちは、次々国外への逃走を図っていた。その内の一人に、グレーズが居た。彼女の家は隣国との国境線近くの村にあった。隣国軍の奇襲で、村にある家は例外なく火を放たれた。 8月19日未明、ローリア・グレーズは異様な匂いを感じ起き上がった。目を開けて視界に飛び込んだのは、燃え盛る自分の家だった。 一瞬間、何が起きたのか分からなかった。しかし、燃え盛る火の粉が自分に降りかかるのを感じ、ようやく事態を把握した。 「クロエ、クロエ!!」 彼女は必死に3歳の娘の名を呼んだ。 ――あの子を助けなければ……! 「あなた起きて、家が燃えてるの、火事よ!!」 隣ですうすう寝息を立てる夫を揺らし、彼女は髪を振り乱して起こした。間もなく夫・フルーセルは目を開けた。 「火事だって……?……ああっ!家が、家が燃えている!」 夫婦の眠る部屋の隣で、クロエが寝ているはずだ。 「クロエが危ないわ、助けなきゃ!」 「ここは僕が行く、とりあえず君は家から出るんだ!」 夫の言葉を素直に聞き入れたグレーズは、部屋の窓から出た。フルーセルは迷わず隣の部屋へと走る。 家を出たところで、グレーズは信じられない光景を見た。 ――村が……村が燃えている……?! [[小説置き場]] [[戻る>7]] [[次へ>9]]