母のいた意味は 結局分からない

それは母だけではなくて 私も 父も そして龍も

















「――松本さん、辛いのは分かるわ。学校に行きたくないのも、先生は嫌というほど分かるの。」

「何故?」

「先生も貴方くらいの時に、父を亡くしてね。後を追って、母も亡くなってね。学校なんてもう行きたくないって思っちゃったの。だけどその時の担任の先生が、優しく私を導いてくれた。だから私は先生になったのよ。」



母が死んでから1ヶ月と2週間後 担任の菊池先生から

電話がかかってきた

優しく響く声に 私は聞き惚れてしまって

その時だけ 自分の運命を忘れた



「――明日は学校にきなさいね。みんな待ってるから。」

「……。」



いとも簡単に 乗せられてしまった私

結局学校に行って 母が死ぬ前と死んだ後で

別に大きな変化はなかった

要するに “日常”というものに比べると 

一人の人の死は すごくちっぽけな出来事であるってことか

だったら 私が今死んでしまっても 世界は変わらない

せめて 何でもいいから 変わっててほしい

それは 無理な願いであるけれど






「おはよう、悠紀。」



梨沙は やっぱり変わらず 私に声をかけた



「梨沙おはよう。」



やはり変わらず返事を返す

母さんごめんなさい 

私はもっと 悲しまなければならないのでしょうか

だけど何故か そんなに悲しくはなかった

信じられなかったから

もう母に会えないなんて そんな実感がなかったから





「悠紀、これからどうするの?」



梨沙は突然 そう言った



「これからって?」

「家を出て行くとか…。ないの?」

「そんなことないよ。私はずっとあそこにいるの。」



理由はただ一つ

あの家は 私と 母さんの 思い出の場所だったから

最終更新:2007年05月06日 13:34