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そのときはまだ知らなかった。アンコウの抱えているものも、背後に背負う大きなものも。何も見えてはいなかった。




 笑顔をのりで顔に貼り付けたようなおばさんがアンコウにトレーを渡した。その上には零れかかっているコーヒーと、色の濃いオレンジジュースが行儀悪く乗っている。
「喫煙席いこっか。俺煙嫌いなんだけど。」
 あたしは一も二もなくうなずいた。

 アンコウはがらんとあいた店内の一番隅の席に座った。あたしはその向かいに腰を下ろした。
「さい、間違っても大人になって煙草をスパスパ吸うような女にはなるなよー?俺そういうのマジ嫌いだから。」
「うんわかった、覚えておくよ。」
 そういいながら、あたしはちらりと視線をテーブルの横にずらした。あたしたちの座ろうとしている席の隣では、若い女の人が喫煙ゾーンだというのに遠慮なく煙草をすっていた。
 その人は、容姿の整ったアンコウの言葉を聞くと即座に煙草を口からとって、媚びるような目線を彼に送った。




 こういう女はいやだ、と思った。男に媚びるようなことしかしない。それでいて普通に人に迷惑はかける。そんな人になるまいと硬く心に決めた。