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――やけに熱い。
 フロイア王国王女、フロイア・アルエ・ヴェルハーレンは、突如熱気を感じ、深い眠りから目覚めた。
 辺りの様子がおかしいことは、目を開けずとも分かった。先ほどから感じる熱さ、そして耳から伝わるぱちぱちという音と、何かが焦げるような匂い……。
――部屋が燃えている!!
 彼女は恐怖で体を起こし、重たい瞼を持ち上げ辺りを伺った。彼女は、その目で、自室が自分のいるベッドを残して燃えているのを見た。
「お母様!!」
 驚きと恐れに顔を歪ませ、ヴェルハーレンは母を呼んだ。しかし彼女の高い声は、城の燃える音に掻き消され、声を発する王女にもその声が聞こえない。次第に火の勢いは増し、王女が取り残されているベッドへと触手を伸ばし始める。
 精神に異常をきたしそうな恐怖の中、彼女は必死に泣き叫んだ。
「誰かっ、誰か助けて!お母様どこにいるの?!誰かっ、誰かあああああああ!!!!」
 火の粉が王女の纏う寝巻に襲い掛かる。火しか、彼女には見えていなかった。

 突如、部屋のドアから黒い影が突進してきた。一心不乱にヴェルハーレンを目指しやってくる。
「お母様!!」
「レン、いるのね?!今お母様が行くわ!!」
 黒く長い髪を所々焦げさせている王妃は、我が娘のいるベッドへと、火を物ともせず駆け寄った。既に身には布の欠片しか纏ってはおらず、剥き出しになった太腿は火傷を負っていた。
 母はベッドにやっとの思いで行き着くと、愛娘を抱いた。ヴェルハーレンの表情に、一瞬だけ安堵の色が広がった。
「レン、ここから逃げなさい!まだ火のきていないところが一箇所だけあるわ!」
 レンを抱きかかえながら、母は元来たドアへと走る。しかし、そこはもう火の海になっており、とても人が通れる状況ではない。王妃の額を汗が伝った。
「お母様……。」
 心配そうなヴェルハーレンの声が母の焦りを冗長させる。
 王妃は、この部屋にはもう何処にも逃げ場所が無いことを悟り、ただ一つの出口である窓へと走った。そうしている間にも炎は勢いを増し、母子の頬を容赦なく照りつける。
「いいわねレン、この窓から飛び降りれば、下は植木になっているから、体の小さい貴方なら助かるわ!私には構わず飛び降りなさい!」
「お母様もいらっしゃるでしょう?!」
 母は首を振った。目じりの涙が飛んだ。
「お母様はお父様とご一緒します、でも貴方は助からなければならないの!」
「嫌!お母様と離れるのは嫌!!」
「レン、よく聞きなさい、時間は無いから手短に話すけれど、我が王国の至宝の玉石【トルエン】が奪われてしまったの。貴方はたった一人の王の末裔よ、そのトルエンを取り返して、再びこの地に王国を作るのよ!」
「そんなこと私一人では出来ない!」
「大丈夫、きっと助けがあるから、それにアナトアが、いるでしょう?!いいわねレン、下に降りたら何処までも逃げなさい!この国から出るのよ!」
 そう言って母は、窓から娘を振り落とした。
「お母様あああああああああっ!!」
 夜闇に王女の絶叫と、そして火に巻かれた王妃の断末魔の声が響いた。