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奇羅々 単純な解離性同一性障害――いわゆる多重人格――と違って、弥勒兄弟の事情は複雑だった。 通常の多重人格にも統合人格、即ち弥勒兄弟で言うところの雪彦に相当する者は、大抵存在する。 いわゆるホスト人格と呼ばれるもので、この人格は一般的に、その個人が有する複数の人格の中では 最も常識的で、最も現状を理解しており、それ故に他の人格を統合して 普通の、一人の人間、一人の人格に戻ろうという意識が強い。 その為に他の人格と長期間の対話を重ね、説得あるいは懐柔し、一人ずつ融合していく。 雪彦も、いつかは他の兄弟達を統合せねばならないという気構えはあった。 問題は、他の兄弟達の意識である。 エリスを知らない雪彦に、兄達は温かく接しようとはしなかった。協力しあおうとも思わなかった。 エリスを知らない雪彦に統合されては、エリスへの皆の想いが、消滅してしまうような気がしたのだ。 人格の統合は、人格間の協調と理解が無ければ不可能だ。 体内で無理矢理他の人格を消滅……殺害する事も可能ではあったが、雪彦自身がそれを望まない。 協調を望む末弟と、そんな末弟を隔離しようと画策する他の六人。 そんな彼らが、無限城に来れば分離してしまう事は、自明の理だった。 「兄さん達! 僕らは協力しあうべきだと言うのが、何故わからないんだ!」 夏彦は答えなかった。緋影は黙して語らず、右狂は床に唾を吐き、椿は呆れたように雪彦を一瞥した。 時貞にいたっては最初からそっぽを向いており、奇羅々だけが、困り顔の雪彦に歩み寄ってきた。 「協力なら、いくらでもしてあげるわよ。美堂蛮を殺すためなら、ね」 奇羅々は、挑発するように、上目遣いで弟の顔を見上げた。 「天野銀次に毒されたかしら? あなた自身は会った事も無い美堂蛮を、信じる気にでもなった?」 「……美堂蛮を信じたいわけじゃない。姉さん達を信じたいんだ。  けど今のままじゃ……エリスの事を、何一つ詳しく教えてくれないままじゃ……」 「信じられん……と言うわけか」 この中で最も口を開かないであろうと思われた緋影が、以外にも言葉を発した。 「別に信じる必要なんざ無ぇよ、馬ぁ鹿! テメェは俺らに言われた通りにしてりゃ良いんだ!」 「右狂の言う通りだな。俺らは別に、お前に信じてもらわなくても、不都合は無ぇ」 右狂と椿が、それぞれ言葉を繋ぐ。 こう言われてしまっては、もはや議論にならない。お互いのスタートラインが違い過ぎた。 もっとも、ここは無限城であり、いつもは融合している七人が、珍しく分離している状態である。 最強の弥勒である雪彦は、その気になればここで六人全員を、力づくで従わせる事も出来た。 だが、心根の優しい雪彦では、そんな事は出来なかった。 元々、弥勒の統合者とは、器の大きい者でなければならない。 でなければ、他の兄弟を自分の精神の中に同居させる事など、出来はしないからだ。 その心の広さと優しさが、雪彦を縛り付けていた。 その夜は、七人ともそれぞれ別々に行動する事になった。 元々は仲の良い兄弟だったが、エリスが死に、雪彦が生まれてからは、単純に仲良しこよしというワケにはいかなくなった。 気まずい空気を抱えたまま、常に融合して生活していた。しかし分離してしまえば、その必要は無くなる。 父に呼ばれて無限城に来訪したは良いものの、その目的はデル・カイザーを守る事だ。 今のところ、奪還屋達が訪れるまでまだ日数がかかる見込みだし、自分達自身、まだロウアータウンに入ってきたばかりだ。 夜営をするにも、ここはジャングルや草原ではない。建物の中だ。 雨露は放っておいても凌げるし、七人とも、賊に狙われて不覚をとるような心配は無い。 雪彦以外の六人にしてみれば、七人で固まって行動する理由など、どこにも無いのだ。 気晴らしに、無限城の下層階を少し散策してみようと思い立った雪彦は、若い女が店員を務める服屋の前で、足をとめた。 というより、その若い店員に声をかけられて、足をとめさせられたと言った方が正しい。 「あらぁお兄さん。良い服着てんじゃないの。ここじゃそんなの着てたら、狙われちゃうよ?」 雪彦としては、露出の多い服を着たその女の方が、余程狙われやすそうに思えたが、その事は口にしなかった。 「それにしても、その服装と言い……さっきのお客さんに、似てるなぁ……」 どうやら、他の兄弟もこの店を訪れたようだ。 「その人は、どんな感じの人でしたか? 男性? それとも女性?」 「女の子だったよ。あんたと一緒で、可愛らしい顔立ちだったわね。まだ店にいる筈だよ」 言われて店内を見回してみると、棚の向こう側に奇羅々の横顔が視認出来た。 雪彦は、声をかけようか迷った。声をかける程、仲睦まじくはない。しかし姉弟ならば、無視するわけにもいくまい。 「や、やぁ、姉さん。お買い物かい?」 周囲に訝しく思われないように、なるべく気さくに話しかけたのだが、奇羅々は予想外に戸惑いの表情を見せた。 「なっ、ゆ、雪彦! あんた、こんな所で何してんのよ!」 「何って……店の前を歩いていたら、店員さんに呼び止められて……」 「馬鹿、気付いてないの? ここ、女ものの服とか下着を扱う店なのよ?」 そう言われてみれば、確かに周囲の棚には、妙にヒラヒラした服や、普段滅多に見かけない、女性用下着が陳列されていた。 冷静に眺めて見ると、周囲にも女性客しかいない。そしてそれらの客は、皆雪彦をジロジロと怪しんでいる。 雪彦は「だって店員さんが……」と弁解しようとしたが、よく思い出してみると、店員は 奇羅々がまだ店の中にいる筈、と言っただけで、声をかけてみたら? などとは一言も言っていないのである。 「す、すみません……」 雪彦は、あわてて店を飛び出した。奇羅々は、なるべく他人のフリをしたかったが、この容姿のせいでは不可能だった。 「ったく、あんたのせいで私まで恥かいたじゃないの」 そそくさと会計を済ませて店を出てきた奇羅々は、悶々としながら道を歩いていた雪彦に追いついた。 「ご、ごめん……ところで、姉さんでも女性っぽい服に、興味あるんだね?」 話題を逸らそうとした雪彦だったが、それは逆に奇羅々を苛立たせた。 「私が買ってたのはね、服じゃないのよ。これよ、これ!」 そう言って、紙袋の中から、薄いピンク色の、可愛らしいブラジャーと、揃いのパンティを差し出してきた。 「なっ……! ちょっと、ここでそんなもの……」 狭い廊下の中に所狭しと立ち並んでいた男達が、野次るように口笛をふいた。 雪彦は奇羅々の手をひいて、人気の無いところまで小走りに移動した。 「はぁ……はぁ……」 「ちょっと、痛いわよ! 手を離してっ」 「あ、ご、ごめん……」 しばらく、二人は息を整えるように無言で立ち尽くしていた。しばらくして、先に口を開いたのは、奇羅々の方だった。 「……こういうの、少し憧れてたのよ」 「え?」 「女の子っぽい格好をするのが、さ。ほら、普段あんた達と一緒にいると、こういうの着れないし」 確かにそうだ。普段融合している時は、全員が納得出来るように、服装は中性的なものを着用していたし 下着に関しては、ボクサーパンツを穿いていた。女性でも体育会系の人は着用するので、彼女もギリギリ妥協出来たのだ。 だが、やはり女の子としての、人並みの憧れはあったようだ。だからこそ、この機会に購入したというわけだ。 人がいないのを良い事に、奇羅々は着ている服を脱ぎ始めた。 「ちょっと……」 気まずくなりながら目を逸らす雪彦を尻目に、奇羅々は下着姿になった。上半身はトップレス、下半身はボクサーパンツだ。 「さっそく着てみたいのよ。別にあんたになら、裸を見られたって、今更関係無いわ。  元々、私達兄弟は、裸どころか、オナニーまで毎日見せ合ってるわけだしね?」 融合して生活する以上、それは仕方の無い事だった。彼らの間に、隠し事などという概念はきかない。 食事にしても同様で、七人全員が別々の肉体を保有しているため、一食で全員分の栄養やエネルギーは賄えなかった。 本当なら食費だけでかなりの額がかかるのだが、弥勒一族には金銭的なバックボーンがあったため、然程困らなかった。 しかし、性欲の処理だけはどうにもならない。 男性の場合は、定期的に処理しなければ夢精する事になる。 その為彼らは、傍から見れば一日に六回も連続して自慰をしているように見えた事だろう。 もっとも、六回分で済むから自慰はまだマシな方で、食事や排便は、全て七人分の時間がかかった。 一人分の時間で済むのは、睡眠ぐらいのものだった。一人が寝ている間、他の全員も寝ていれば良かったのだから。 毎日の日課である自慰のローテーションに、奇羅々が参入したのは十三歳の頃だ。 右狂や椿が、自分達は他の兄弟にオナニーを見られるという恥ずかしい思いをしているのに、奇羅々だけずるい、と言い出した。 女性も、自慰によって定期的に性欲を処理しておかなければ、下着にシミが出来たりするのだが、 普段滅多に表に出てこない奇羅々では、その心配が殆ど無かったのだ。 それに自慰を見られるくらいなら、シミを見られた方がまだマシだという気持ちもあった。 しかし残りの六人に関しては、ちゃんと処理しておかないと、朝起きた時にシミどころの騒ぎでは済まない。 そうまでして、他の兄弟に迷惑をかけないためだけに、六人は恥を忍んで処理しているのに、 奇羅々だけが愉快そうに、他の兄弟の自慰を精神世界から眺めて、楽しんでいた。 当初奇羅々は自分の自慰を嫌がったが、他の兄弟達は奇羅々が自慰を済ませるまで、表に出ようとしなかった。 雪彦でさえ、右狂に押えつけられて、表に出現出来ないようにされていた。 時貞と緋影は、例え相手が女性でも、自分の家族の自慰などに興味は無かったが、元々表に出る事が少なかったために さしたる不平も言う事なく、いつも通り精神世界で、茶をすすって暮らしていた。 本来ならば表に出て食事をとらないと、いざという時に活動エネルギーが枯渇して困る筈なのだが その頃は戦いも無かったし、表に出る事さえしなければエネルギーも消費しないので、特に不都合は無かったのだ。 奇羅々は、最初は一人の生活を楽しんだ。 別に他の兄弟が表に出て来なくても困らなかったし、むしろ自慰を我慢し続けるだけで 他の兄弟からの介入を一切受ける事無く生活出来るのなら、彼女にとってデメリットは何も無いと思われた。 しかし、どんな女性でも普通、年頃であれば自慰をする。 いつまでも我慢し続ければ体に毒だし、ムラムラする。落ち着きが無くなる。 道行く見知らぬ若い男を見るたびに、欲求不満の溜息をもらす奇羅々を、右狂と椿はせせら笑った。 「とっととオナニーしちまえよ。そしたら楽になるんだぜ?」 耐え切れなくなった奇羅々は、夜中他の兄弟達が寝ている隙を見計らって、こっそりと股間に手をのばした。 しかし執念深い右狂は、寝たフリをして、実は起きていた。彼は奇羅々がイくまで待った。 そうして、奇羅々が絶頂を迎えた後で堂々と姿をあらわし、彼女を思い切り笑い飛ばした。 その時、奇羅々は自分の敗北を悟った。 彼女はそれ以来、我慢する程の理由は無いと吹っ切れて、気がむいた時は普通に自慰をするようになった。 -2- そんな事を思い出しながら、雪彦はそれでも奇羅々から顔を背けていた。 どんないきさつがあろうと、女性の着替えはまじまじと見るものではない。紳士のマナーだ。 しばらくすると、下着を着替え終わった奇羅々が、雪彦の肩をトントンと叩いた。 「どう? 似合う?」 「いや、どうって……言われても……」 肉親の下着姿など、普通は見て気持ちの良いものではない。雪彦はげんなりしがら、再び顔を背けた。 「もう、気のきかない男ねぇ。可愛いよ、とか。似合ってるよ、とか。そのくらい言えないのかしら?」 「……弟に、下着姿を褒めてほしいかい?」 「だって、他に手頃な男がいないんだもの。右狂や椿は厭らしい目で見てきそうだし。  夏彦や時貞だって、褒めてはくれないわ。緋影はまぁ、お世辞くらいは言ってくれるかもしれないけど、反応薄いだろうし。  あんたが一番、からかい甲斐があるのよ」 やはりこの姉は、兄達同様、自分をまともに扱う気は無いのだと、雪彦は悟った。 奇羅々は下着姿のままで、先ほどまで着ていたコートを羽織った。タートルネックのトップスや、ズボンは着用しなかった。 「どう? こういうのも色っぽいでしょ?」 それじゃ単なる露出魔だよ……とは思ったが、雪彦はその言葉を飲み込んだ。 奇羅々はその格好のままで、昼間と同じように、雪彦の顔を上目遣いで見上げた。 一瞬ドギマギしかけた雪彦の隙をついて、そのまま彼の首に両腕をまわし、爪先立ちした。 そうして、そのまま口付けする。雪彦は、初めて女性の柔らかい唇に触れて、一瞬思考回路が途切れた。 ゆっくりと唇を離した奇羅々の表情を凝視しつつ、雪彦は当然の疑問を口にした。 「……一体、何のつもり? 姉と弟でこんな事……悪ふざけのつもりかい?」 だが、それに対する奇羅々の返答は、雪彦の予想を上回っていた。 「あら、私、あんたの事は、兄弟だと思った事なんて無いわよ」 その言葉を聞いた瞬間、雪彦は陰鬱な気持ちになった。やはり、エリスを知らない自分は除け者という事だろうか。 「勘違いしちゃ、だーめ。別にあんたの事が嫌いなわけじゃないわよ」 「え? じゃあ……」 「むしろ聞きたいわね。どうやったら、あんたの事を弟として見られるのか。  だってそうでしょ?兄貴達は、私が生まれる前から存在してた。けどあんたは、エリスが死んでから生まれた。  それも、弥勒一族の、長兄以外の者の宿命として、生まれながらに自我と知識を備えてね。  私の前に現れた時のあんたは、既に私達と同じ年の、同じ精神年齢を備えた存在だったのよ。  そんな相手を、どうやって『弟』として見ろっての? 美堂蛮みたいな、幼馴染としてならまだしも」 奇羅々の説明を、雪彦は黙って聞いた。 奇羅々の言う事も、一理あると思った。弥勒兄弟でも、ちゃんとドイツで学校に通っていた事はある。 その頃は当然、クラスメートというものも、彼らの周囲には存在した。 奇羅々からしてみれば、雪彦は突然転校してきた新しい級友のような感覚だというのだろう。 「私達には、弟という存在を認識する感覚が欠如してるのかもしれない。  まぁ、長兄である夏彦だけは、他の弥勒と違って普通に赤ん坊として生まれて、0歳から育ってきたわけだから  私達とは更に感覚が違うのかもしれないけど?」 最初から兄や姉が存在していて、弟も妹も持たない雪彦にとっては、それは新鮮な意見だった。 弟の立場からしてみれば、自分が生まれる前から、自我を確立した兄や姉が存在している事は、当たり前の事だ。 しかし兄達の立場からしてみれば、後から生まれてきた弟が既に自分達と同程度の自我を備えているのは、不自然な事だ。 「この際だからさ、もう一つ、良い事教えてあげよっか?」 半裸のままで雪彦の腰に両腕をまわしてきた奇羅々が、胸をぴったりとくっつけて言った。 「私達全員、あんたの事が嫌いってわけじゃ、無いのよ……」 雪彦は黙ってその言葉の続きを待った。 「……だって、ねぇ、受け入れられないわよ、そんなの。  あんたが弥勒と関係のない、普通の人間だったら良かった。あんたが普通の赤ん坊として生まれて、  段々と大きくなっていきながら、少しずつ歩けるようになって、少しずつ言葉を覚えていって……  普通の兄弟みたいに、そうやって大きくなっていくあんたの成長を見守る事が、私達に出来ていたなら……」 雪彦は、切なそうに俯く奇羅々に……愛しい姉の背中に手をまわして、なだめるようにさすってみた。 「あんたの事を、本当に弟だと思う事が出来ていたなら……  たとえあんたが、エリスの事を知らないくせに統合者になる運命だったとしても、きっと構いはしなかった。  けど、無理だもん、そんなの……。出会った時から既に自我を備えていた相手を、どうして弟と見る事が出来るの?」 奇羅々はもう一度爪先立ちすると、やはり唐突に、雪彦の唇を奪った。 「……ごめんね、私達……あんたの事……ただの、ぽっと出の他人にしか、思えなかった……」 雪彦は奇羅々のコートを優しく脱がせると、再び露わになったか細い肩を、そっと抱きしめた。 奇羅々の事をしっかりと姉として認識している雪彦にとっては、彼女を抱きしめる事にまだ抵抗があった。 しかし、今日のこのか弱い奇羅々の表情を見て、考えを変えた。 妹だと思えば良い。そうすれば、温かく抱きしめてやる事ぐらい、抵抗を感じる必要は無い。 ただ、妹を甘えさせてあげるだけ。 と同時に、末弟の雪彦にとっては、『妹』というのは新鮮な感覚だった。 「奇羅々……」 ぼそっと、普段『姉さん』と呼んでいる相手の、名前を直接呼んでみる。 「ばっ……! い、いきなり何言ってんのよ……あんたにそんな呼び方されたら、困るじゃないの……」 買ったばかりの可愛らしい下着姿を再び晒した奇羅々は、それまでは感じなかった恥じらいを、突然感じた。 元々雪彦の事は、幼馴染に近い感覚で見ていた。それを、強く思い起こした。 「やばい……私、あんたにだったら……抱かれても良いかも……」 今度は、雪彦の方から唇を重ねた。そのまま、様子をうかがうように少しずつ、舌をいれていく。 「あ……は……」 奇羅々は他の兄弟同様、異性経験を持たなかった。それは多分に、弥勒一族の特異体質が邪魔くさかった事による。 男に貫かれてヒィヒィ声を荒げる様など、いくら何でも見られたくはなかったのだ。 程度の差はあれ、他の兄弟も大体同じような心理から、奇羅々以外の女性を避けてきたのだろう。 例外はエリスだったが、あの頃はセックスなどという観念はまだ備わっていなかった。 兎も角奇羅々は、今生まれて初めて、セックスを体験しようとしていた。 そんな彼女の不安を、雪彦はなるべく和らげてやろうと思った。 「大丈夫だよ、奇羅々……僕が、優しくしてあげるから」 初Hの場所がこんな廃墟の暗がりではムードが台無しだったが、他の兄弟達と離れられる機会は他に無い。 和姦よりも輪姦の方が圧倒的に多いと言われる無限城では、男女が泊まってコトをすすめる事の出来る施設も無いだろう。 奇羅々は大人しく、この埃とカビの匂いの充満した廃墟で、雪彦に抱かれる事を選んだ。 ブラのホックを外し、その柔らかい乳房に少しずつ触れる。 「ちょ……雪彦、あんたビビり過ぎ……くすぐったいし……」 「あ……ご、ごめん……」 雪彦は、あまり強く触ると奇羅々に痛い思いをさせてしまうのではと危惧したが、この様子ならば もう少し力を込めて揉んでも、大丈夫のようだ。 こんな事なら、融合時に奇羅々が自慰をする時だけ意識のリンクを強くして、 彼女がどの程度の強さで自らの乳房を揉んでいるのか、研究しておけば良かったと、後悔した。 兄弟の中では緋影に次いで紳士的である雪彦は、彼女が自慰をする時は、なるべく意識を切り離すよう心がけていたのだ。 確か、奇羅々は普段、こんな風にいじっていた筈…… 微かに記憶に残る奇羅々の自慰を思い出しながら、雪彦はその記憶の通りに、乳首を弄んだ。 奇羅々は、さすがに自分でする時程でないにしろ、微妙に快感を覚えた。 雪彦は次に、おもむろに奇羅々の乳首に吸い付いた。そのまま、赤ん坊のようにちゅうちゅうと吸う。 生まれた時から既に物心のついた少年であった雪彦には、夏彦や緋影のように、母の母乳を吸うという経験が無かった。 その埋め合わせをするかのように、懸命に奇羅々の乳首を吸う。 「はぁん……ばか……強すぎぃ……」 「あっ、ごめん! もう少し加減するよっ」 「……ほんと、馬鹿。良いのよ、強くっても……」 「え……そ、そういうものなの……?」 やはり、いくら奇羅々の事を妹と思おうとしても、雪彦が奇羅々をリードする事は、不可能のようだ。 「ね……雪彦」 奇羅々のパンティを脱がしにかかっていた雪彦に、奇羅々が提案した。 「あのさ……手マンとか、クンニとか、してみない?」 好んで成人向け雑誌を講読する椿の影響で、雪彦でもそれらの単語は知っていた。 「ほら、私達いつもオナニーばっかりだし……他人にしてもらうのって、どんな感じなのかなぁって……」 「……それを言うなら……僕だって、他人にしてもらった事、無いんだけど……」 そんなわけで、二人は互いに相手の陰部を弄ぶ事にした。 雪彦の指先が、奇羅々の陰部を撫でる。 「おかしいわね……不慣れだからかしら? それとも緊張してるから?  何だか、自分でしてる時の方が気持ち良いんだけど……」 男としては、そんな事を言われるのは悔しい。しかしそれを言うなら、奇羅々も立場は同じの筈……。 そう思っていた自分の考えが、いかに浅はかであったか、雪彦はすぐに思い知った。 意外にも、奇羅々の手コキは、抜群に気持ちよかったのだ。 握り具合、握る角度、擦るスピード……全てが、熟練の風俗嬢のように巧みだった。 「き、奇羅々……なんでそんなに……」 「あら、不思議がる事も無いでしょ? 毎日あんた達がオナニーする時、意識をリンクさせてるんだもの。  あんたと違って勉強熱心な私は、このぐらいなら要領はもう掴んでるってわけ」 なるほど、雪彦達が自分自身の陰茎を刺激する時の力加減を、精神世界で自分の腕に覚えこませているというわけだ。 童貞の雪彦は、どれほど虐めても顔色一つ変えない奇羅々に焦りを感じながら、 とうとう奇羅々のテクニックに負けて、射精してしまった。 -3- 「やだ、もうベトベト」 手に付着した雪彦の精液を舐め取りながら、奇羅々は恥ずかしさに打ち震えている雪彦を、小馬鹿にするように眺めた。 「あ、あの……奇羅々……」 「ほら、さっさと次よ次。まだクンニしてもらってないし、フェラもしてあげてないんだから。  一人でする時じゃ得られない感覚を、今日はとことん味わってやるんだから、ね?」 そう言うと奇羅々は、愛しい弟であり幼馴染でもある雪彦に、もう一度キスしてみた。 だがその時、物陰から五人分の気配が近づいてきた。 「ようようお二人さん。よろしくヤってんじゃねぇか」 それは、見慣れた兄弟達だった。 「右狂! それに椿……夏彦も、緋影も、時貞も……!」 「兄さん達……ひょっとして、ずっと見てたのかい?」 「そんなわけ無かろう。夏彦や緋影ならまだしも、俺や右狂や椿に、お前に気取られないように近づく技量は無い」 一線を越えた弟と妹を侮蔑するように、時貞が睨みつける。 「要するに、俺達は今来たばかりと言うわけだ」 どう言葉を発して良いかわからずに困惑する雪彦を無視して、夏彦は奇羅々に話しかけた。 「……お前が雪彦を、弟して見ていないのはわかる。俺達も同様なのだからな」 「何よ……雪彦に手を出した私を、馬鹿な女だと思ってるんでしょ。  決して結ばれない関係なのに、って……」 「別に。軽蔑はしない。今しがた言った筈だろう? お前の雪彦に対する気持ちは、わからんでもないとな」 「……? どういう……」 一瞬の虚をついて、椿が奇羅々を押し倒した。 「なっ……! 何すんのよ、椿!」 「生まれながらに自我を保有する雪彦を、テメェが弟して見られないのは当然だよ。  けどな、それを言うなら……俺らだって、テメェの事を妹として見た事なんざ、一度も無ぇんだぜ?」 その瞬間、奇羅々は寒気がした。 自分が雪彦に対して抱いた劣情を、兄達が自分に対して抱いていると言う恐怖。 自分より圧倒的に力のある兄達が、次に何をする気なのか、融合していなくても手にとるようにわかった。 「やだぁ……助けて、雪彦ぉ……」 右狂と椿に押えつけられ、奇羅々は泣きじゃくった。 雪彦が相手だった時と違い、兄達の事はいくら何でも『兄』としか見る事が出来なかった。 兄に犯されて喜ぶ女は殆どいない。 奇羅々は、その美貌故に、無限城に入ってきた当初は、下衆な男達に厭らしい目で見られる事もあった。 しかしその時はまだ他の兄弟と融合していた時だったので、夏彦に睨みつけてもらえば、相手はそそくさと逃げたものだ。 仮に不意に襲われたとしても、奇羅々の腕前があれば、暴漢など難なく撃退出来た。 しかし、今自分を取り囲んでいるのは、頼りにしていた兄達そのものだ。抵抗する事さえ出来なかった。 「やめろ……兄さん達……」 「うるさいな……お前は『中』でじっと見ていろ」 夏彦に押えつけられていた雪彦は、兄達に技を出す事を躊躇っている内に、夏彦の中に取り込まれた。 そして、元々夏彦を含む彼ら弥勒は、魂の存在位置を同じくする一族である。 夏彦の中に取り込まれたという事は、他の兄弟達の中に取り込まれたという事でもあった。 「へへへ、聞こえるぜぇ……雪彦の叫び声がよぉ……お前にも聞こえるだろ? 奇羅々ぁ」 先程雪彦にしゃぶられた奇羅々の乳首を、今度は右狂が貪っていた。 雪彦の悲痛な叫びは、奇羅々の心にも聞こえていた。 ごめんね、雪彦…… あんたに、私の初めて、あげたかったんだけどな…… 私、兄貴達にレイプされちゃう…… ごめんなさい…… 「しかし、まさかこの無限城で、積極的に雪彦と融合する事になるとはな……」 兄弟の中で最も雪彦を疎ましく思っている時貞が、胸の中で暴れる雪彦に、吐き気を覚えた。 無限城に来れば雪彦と融合しておいてやる理由はどこにも無い……そう考えていた時貞にとっては意外な展開だった。 買ったばかりのお気に入りのパンティを口の中にねじこまれ、奇羅々は叫び声をあげる事すら出来ず、仰向けに寝かされた。 「さぁて……そいじゃ俺は、その綺麗なお手手でしごいてもらうとしますか」 椿が奇羅々の左手に自分の陰茎を握らせると、右狂もそれにならって、奇羅々の右手をとった。 目の端からボロボロと涙をこぼす奇羅々の表情を無視して、時貞は彼女の胴体の上に乗った。 一瞬、奇羅々が苦しそうな表情を見せる。 「重いか? まぁそうだろうな。だが我慢しろ」 一方的に言い放つと、時貞は奇羅々の両胸を鷲づかみにし、無理矢理パイズリの体勢にさせた。 さすがに両手は右狂と椿の陰茎で塞がっているので、時貞自身が奇羅々の胸を動かしてやらねばならないが、 インセストかつレイプなのだから、そのぐらいの無理矢理さは、アリだと思えた。 口で息を出来ない奇羅々は、鼻で荒々しく酸素を取り入れた。既にパンティには涎が染み込んでおり、濃く変色している。 奇羅々は、とても自分からすすんで手を動かす気にはなれなかった。 「おいおい、雪彦ん時は積極的に手コキしてたくせに、俺らには出来ないってかぁ?」 当たり前でしょ……あんた達は、あくまで兄貴なんだから…… 奇羅々はそう反論したかったが、口を塞がれているせいで、それも不可能だった。 椿はナイフを取り出すと、驚いて目を丸くする奇羅々の首筋に、その冷たい刃の腹を当てた。 「んむぅ~!」 「はっ、さすがのテメェも、いくら実戦経験を積もうと、こんな状況じゃナイフ一本にもビビるってか」 それは、明らか過ぎる脅しだった。さっさと手を動かせという、無言以上に雄弁な脅迫。 奇羅々はもう一度、心の中で嗚咽をもらす雪彦に「ごめんね……」と謝ってから、恐る恐る手を動かし始めた。 「おぉぉ……やっぱ自分ですんのとは、ワケが違うぜぇ……」 「まったくだ……しかもこいつ、普段俺らのオナニーを体感して勉強してるだけあって、良いテクだぜ」 一方、時貞も奇羅々の巨乳を堪能していた。 「むぅ……我が妹ながら、中々見事な柔らかさ……それに弾力……」 時貞に関しては、奇羅々の胸を用いた自慰に過ぎないかもしれなかったが、それでも三人は、三十秒ともたずに射精した。 兄達の精液が勢い良く飛び散り、奇羅々の顔面を所狭しと白く埋めていく。 鼻の穴にも精液が入り込んだため、奇羅々の呼吸はいっそう苦しくなった。 一方、弥勒の精神世界で、辛うじて意識を保っていた雪彦も、兄達の得た快楽を、リアルタイムで経験していた。 精神世界には実体が無いために射精こそしなかったが、実際の射精と全く変わらない感覚に襲われた。 日ごろの自慰の時もそうなのだが、彼らは意識をリンクさせている限り、あらゆる感覚を共有する事になる。 と言っても痛覚までリンクさせていては、実戦において逆に困るので、通常は視覚と聴覚ぐらいしかリンクさせていない。 しかし、既に一度絶頂に達して快感を得ていた雪彦の意識は、平生と違って若干弱まっており、 本人が意識のリンクを切りたいと思っても、他の兄弟にリンクを強制されれば、抗う事は出来なかった。 そうして兄達は、奇羅々をいたぶる感覚を雪彦にも押し付ける事で、雪彦をもいたぶっていた。 奇羅々の右手に握られる右狂の陰茎の感覚、奇羅々の左手に握られる椿の陰茎の感覚。 そして奇羅々の胸に挟まれ刺激される、時貞の陰茎の感覚。それら全てを、雪彦は無理矢理共有させられていた。 一瞬で三人分の射精感覚を共有させられた雪彦の精神力は余計に弱まり、リンクは更に強くなった。 「う……あ……にい……さん……」 もはや雪彦の自我など、殆ど残っていなかった。 「次は、我々の番だな……」 長兄・夏彦と、次兄・緋影が、観戦をやめて立ち上がった。 意識の朦朧とした奇羅々の下半身を抱き起こすと、夏彦は妹の陰部を舐め始めた。 あくまで下半身だけであり、上半身は抱き起こされず、後頭部が床にすれていた。腰だけ浮いている状態である。 緋影は奇羅々の口のパンティを取り出すと、丁寧に伸ばして畳みなおし、脱ぎ捨ててあったブラジャーと一緒に 奇羅々用のコートと衣服と、並べて床の上に置いてやった。 相手のためにここまで丁寧なレイプ犯など、普通はいない。緋影生来の自愛か、或いは妹に対する気遣いか。 しかし、その直後に緋影がとった行動には、自愛などカケラほどもなかった。 数分ぶりに口で呼吸が出来て、思わず「ぷはぁっ」と息をもらした奇羅々の口の中に、緋影は自分の陰茎をねじこんだ。 「んっ? んむぅっ、ん~!」 「……くれぐれも、歯を立てるなよ。我ら兄弟に、楯突くような真似をしたら……」 その閉じられた盲目の目は、殺気を放って見開いているようにさえ、錯視出来た。 奇羅々は、諦めて緋影の陰茎を舐め始めた。 普段兄弟達とリンクしている奇羅々は、どうすれば男性を喜ばせる事が出来るか、熟知していた。 尿道口、裏筋、カリ、そして自らの顔面にヒタヒタと擦れる睾丸。その全てを、指と舌と唇で、丁寧に攻めた。 一方夏彦にも、どうすれば奇羅々が悦ぶかは、わかりきっていた。 大陰唇をなるべく左右に開くようにしながら、その内側のプルプルした肉を、舌で蹂躙する。 「どうだ……兄に犯される心境は……?」 レズビアンは、自分がどうされるのが気持ちいいかを知っているため、相手に対する攻めも卓越している。 夏彦は今、そのレズビアンという人種と遜色無い程のテクニックで、奇羅々にクンニしていた。 程なくして緋影は、奇羅々の口内に思い切りよく射精した。 仰向けになっている奇羅々には、喉の奥にぶち当たる精液の奔流を、吐き出す事は出来なかった。 先程までずっとパンティを口の中に突っ込まれていたのは、ある意味幸いだった。 それによって口の中に唾液が溜まっており、精液を飲み下しやすかったのである。 「うぅ……うぇえ……」 子供のように泣き出しそうになりながらも、奇羅々は必死で声を抑えた。心までは犯されたくないと思った。 まさか実の兄達相手に、そんな風に考える日が来るとは思っていなかった。 無限城になど、来るべきではなかったとさえ後悔した。 意識とは裏腹に、既に奇羅々の体は出来上がってきた。 奇羅々は、もうここで終わりにして欲しいと思ったが、そんな事は夏彦が許さないであろう事も、わかっていた。 「もう……やめて……それだけは……」 自らの貞操の保全を必死で懇願する奇羅々に、夏彦は耳打ちした。 「落ち着け……俺の言う通りにしろ」 だが、奇羅々は一層涙をこぼすだけだった。 精神世界の雪彦も、もはやミイラのような状態だった。誰も彼女を助けられない。 「落ち着けと言うのがわからんのか……俺の言う通りにすれば、お前は雪彦と愛し合う事が出来るというのに……」 その言葉に、一瞬奇羅々は反応した。 「ゆき……ひこ、と……?」 「あぁ、そうだ。良いか、俺達は今、雪彦に強制的に意識をリンクさせている。させていないのはお前だけだ」 夏彦は奇羅々の上半身を抱き起こすと、彼女の陰部を優しく撫でてみせた。 「試しに、今雪彦とお前がリンクしたら、どうなると思う……?」 「あ……」 言われた通りに、奇羅々は衰弱した雪彦の精神と自分の精神を、リンクさせてみた。 すると、精神世界の雪彦は、今まで自分が感じた事のない感覚を覚えた。 それは、奇羅々が今まさに感じている快感だった。 「あぅ……に、兄さん……これは……?」 「聞こえるか、雪彦。お前が、俺と奇羅々、両方と意識をリンクさせれば、どうなるかわかるか?」 答えは明瞭だった。 奇羅々に挿入する夏彦の感覚と、夏彦に挿入される奇羅々の感覚。その両方を、雪彦は味わう事が出来る。 更に言えば、奇羅々も雪彦を通じて夏彦の感覚と繋がる事が出来るし、夏彦も奇羅々と繋がる事が出来る。 普通の人間ならばまず味わう事は不可能な、両性の快楽を、彼らは同時に味わう事が出来るという事である。 「夏彦、あんた……」 夏彦は、これまでに無い程雪彦と同化してから、奇羅々の中に挿入を開始した。 破瓜の痛みを、奇羅々はおろか、夏彦と雪彦も感じとっていた。 「く……うっ……いた……っ」 目の端に涙をためながら、奇羅々は自分の中の夏彦・雪彦と抱き合って、痛みに堪えていた。 と同時に、そんなきつい膣の中にズブズブと挿入していく夏彦の感覚をも、奇羅々は味わっていた。 「すご……男の人でも、痛いんだ……」 「あぁ……まるで、本当に僕自身が奇羅々の中にいれていってるみたいだよ……」 「雪彦……今度からはあんたも、私がオナニーする時は、リンクしててごらんよ。きっと、気持ち良いから……」 愛の言葉を投げかけあう二人を、夏彦は精神世界ですら無言で見つめていた。 たとえ実際に奇羅々を犯しているのは自分だとしても、この二人の間に割って入る程、彼も野暮ではない。 「お前達は……リンクさせなくても良いのか?」 「へっ、そういう時貞も、今はリンクを解いてんじゃねぇのか?」 右狂と椿は、元々奇羅々で性欲を処理したいだけでしかなかった。夏彦のように、奇羅々と雪彦を思っての行為ではない。 緋影は、奇羅々が夏彦に心を開きやすくするための前戯の手伝い程度にしか考えていなかったし、 時貞にいたっては、兄達に便乗して楽しんでみただけに過ぎない。 奇羅々を除けば、兄弟の中で最も雪彦を慈しんでいたのが夏彦である。もっとも、本人は否定するだろうが。 今、夏彦と雪彦、そして奇羅々の三人が、本当の意味で繋がろうとしている。 そこにリンクして水を差すつもりは、誰にも無かった。 「どうだ、奇羅々……奥まで、入ったぞ……」 純潔の血が夏彦の陰茎と睾丸を汚していた。 「うん……良いよ、動いても……」 奇羅々はそう言ったが、雪彦がそれを拒んだ。 「まっ、待って兄さん……僕、まだ痛いよ……」 女性器を持たない雪彦が破瓜の痛みに堪えるなど、弥勒の業あってのものである。 「しょうのない奴め……女の奇羅々でさえ、もう覚悟を決めているというのに……」 夏彦は、あくまで雪彦に優しく接しようとはしなかった。少なくとも、表面上の態度だけは冷たくあたった。 屈折した兄心である。彼が雪彦を嫌ってはいなかったという事実は、 後に奪還屋達との決着がついた時に判明する事になるが、それはまた別の話である。 クオリア計画が成功してしまえば、こうやって同じ痛みを、三人別々のレベルで感じる事も無くなる。 それは今の三人にとって、決して好ましい事とは言えないだろう。 「……良いよ、兄さん……動いても……」 男の雪彦にそんな事を言われても、本来なら気持ちが悪いだけなのだが、夏彦は気にしなかった。 暗がりの中で、最初はゆっくりと、そして徐々にペースアップしながら、奇羅々に腰を打ち付ける。 陰茎が膣の中をズルズルとピストン運動する感覚。三人とも、それぞれに同じ快楽を味わっていた。 本当なら処女の奇羅々は、そう簡単に感じる事など出来なかったに違いない。 しかし、男性である夏彦と雪彦が、挿入によって感じている気持ちよさを、奇羅々も感じ取っていた。 そのため、本来なら時間をかけて中和されていく筈の痛みが、すぐに消え去った。 「あぁっ、もっと!もっと突いて!夏彦!雪彦ぉっ!」 やがて夏彦は、奇羅々の膣内に自らの精液を大量に注ぎ込んだ。 雪彦は、他の兄達とリンクさせられて感じていた分も含めて、今日五度目の射精を味わった。 最後の射精を、現実の夏彦の分と精神世界の自分の分とで別計算すれば、合計六回にも及ぶ。 くわえて、奇羅々の、女性としても快感も同時に得られた。男性のオルガズムとは、全く異なる感覚だった。 それらの相乗効果は、もはや白目をむきそうな程の快楽の波だった。 「ん……ふっ……くぅ……」 「あぁ……良いよ、姉さん……」 暗闇の中で、奇羅々が一人、自慰にふけっていた。 ただし、その中には他の兄弟達が、分離する事なく融合されていた。 女性の自慰の感覚というものを、雪彦は生まれて初めて感じ取っていた。 「だからよ、テメェもさっさと、意地張らずにリンクしてりゃ良かったんだよ。たまんねぇぜ? 女のオナニーってのはよ」 奇羅々と同じ快楽を覚えながら、だらしの無い顔で右狂が雪彦に話しかける。 しかしそれも全て、奇羅々の『中』における会話だった。 「あぁ……イく……イっちゃうぅ~……!」 統合者になれば、奇羅々との関係もどうなるかわからない。 統合された弥勒がどのようなものか、一族から伝え聞いた事はあるが、実際に経験するまでは飲み込めない。 雪彦は、奇羅々のオルガズムと感じ取りながらも、せめて統合されるまでの間は 奇羅々を、体の外と中から、懸命に愛そうと誓った。
単純な解離性同一性障害――いわゆる多重人格――と違って、弥勒兄弟の事情は複雑だった。 通常の多重人格にも統合人格、即ち弥勒兄弟で言うところの雪彦に相当する者は、大抵存在する。 いわゆるホスト人格と呼ばれるもので、この人格は一般的に、その個人が有する複数の人格の中では 最も常識的で、最も現状を理解しており、それ故に他の人格を統合して 普通の、一人の人間、一人の人格に戻ろうという意識が強い。 その為に他の人格と長期間の対話を重ね、説得あるいは懐柔し、一人ずつ融合していく。 雪彦も、いつかは他の兄弟達を統合せねばならないという気構えはあった。 問題は、他の兄弟達の意識である。 エリスを知らない雪彦に、兄達は温かく接しようとはしなかった。協力しあおうとも思わなかった。 エリスを知らない雪彦に統合されては、エリスへの皆の想いが、消滅してしまうような気がしたのだ。 人格の統合は、人格間の協調と理解が無ければ不可能だ。 体内で無理矢理他の人格を消滅……殺害する事も可能ではあったが、雪彦自身がそれを望まない。 協調を望む末弟と、そんな末弟を隔離しようと画策する他の六人。 そんな彼らが、無限城に来れば分離してしまう事は、自明の理だった。 「兄さん達! 僕らは協力しあうべきだと言うのが、何故わからないんだ!」 夏彦は答えなかった。緋影は黙して語らず、右狂は床に唾を吐き、椿は呆れたように雪彦を一瞥した。 時貞にいたっては最初からそっぽを向いており、奇羅々だけが、困り顔の雪彦に歩み寄ってきた。 「協力なら、いくらでもしてあげるわよ。美堂蛮を殺すためなら、ね」 奇羅々は、挑発するように、上目遣いで弟の顔を見上げた。 「天野銀次に毒されたかしら? あなた自身は会った事も無い美堂蛮を、信じる気にでもなった?」 「……美堂蛮を信じたいわけじゃない。姉さん達を信じたいんだ。  けど今のままじゃ……エリスの事を、何一つ詳しく教えてくれないままじゃ……」 「信じられん……と言うわけか」 この中で最も口を開かないであろうと思われた緋影が、以外にも言葉を発した。 「別に信じる必要なんざ無ぇよ、馬ぁ鹿! テメェは俺らに言われた通りにしてりゃ良いんだ!」 「右狂の言う通りだな。俺らは別に、お前に信じてもらわなくても、不都合は無ぇ」 右狂と椿が、それぞれ言葉を繋ぐ。 こう言われてしまっては、もはや議論にならない。お互いのスタートラインが違い過ぎた。 もっとも、ここは無限城であり、いつもは融合している七人が、珍しく分離している状態である。 最強の弥勒である雪彦は、その気になればここで六人全員を、力づくで従わせる事も出来た。 だが、心根の優しい雪彦では、そんな事は出来なかった。 元々、弥勒の統合者とは、器の大きい者でなければならない。 でなければ、他の兄弟を自分の精神の中に同居させる事など、出来はしないからだ。 その心の広さと優しさが、雪彦を縛り付けていた。 その夜は、七人ともそれぞれ別々に行動する事になった。 元々は仲の良い兄弟だったが、エリスが死に、雪彦が生まれてからは、単純に仲良しこよしというワケにはいかなくなった。 気まずい空気を抱えたまま、常に融合して生活していた。しかし分離してしまえば、その必要は無くなる。 父に呼ばれて無限城に来訪したは良いものの、その目的はデル・カイザーを守る事だ。 今のところ、奪還屋達が訪れるまでまだ日数がかかる見込みだし、自分達自身、まだロウアータウンに入ってきたばかりだ。 夜営をするにも、ここはジャングルや草原ではない。建物の中だ。 雨露は放っておいても凌げるし、七人とも、賊に狙われて不覚をとるような心配は無い。 雪彦以外の六人にしてみれば、七人で固まって行動する理由など、どこにも無いのだ。 気晴らしに、無限城の下層階を少し散策してみようと思い立った雪彦は、若い女が店員を務める服屋の前で、足をとめた。 というより、その若い店員に声をかけられて、足をとめさせられたと言った方が正しい。 「あらぁお兄さん。良い服着てんじゃないの。ここじゃそんなの着てたら、狙われちゃうよ?」 雪彦としては、露出の多い服を着たその女の方が、余程狙われやすそうに思えたが、その事は口にしなかった。 「それにしても、その服装と言い……さっきのお客さんに、似てるなぁ……」 どうやら、他の兄弟もこの店を訪れたようだ。 「その人は、どんな感じの人でしたか? 男性? それとも女性?」 「女の子だったよ。あんたと一緒で、可愛らしい顔立ちだったわね。まだ店にいる筈だよ」 言われて店内を見回してみると、棚の向こう側に奇羅々の横顔が視認出来た。 雪彦は、声をかけようか迷った。声をかける程、仲睦まじくはない。しかし姉弟ならば、無視するわけにもいくまい。 「や、やぁ、姉さん。お買い物かい?」 周囲に訝しく思われないように、なるべく気さくに話しかけたのだが、奇羅々は予想外に戸惑いの表情を見せた。 「なっ、ゆ、雪彦! あんた、こんな所で何してんのよ!」 「何って……店の前を歩いていたら、店員さんに呼び止められて……」 「馬鹿、気付いてないの? ここ、女ものの服とか下着を扱う店なのよ?」 そう言われてみれば、確かに周囲の棚には、妙にヒラヒラした服や、普段滅多に見かけない、女性用下着が陳列されていた。 冷静に眺めて見ると、周囲にも女性客しかいない。そしてそれらの客は、皆雪彦をジロジロと怪しんでいる。 雪彦は「だって店員さんが……」と弁解しようとしたが、よく思い出してみると、店員は 奇羅々がまだ店の中にいる筈、と言っただけで、声をかけてみたら? などとは一言も言っていないのである。 「す、すみません……」 雪彦は、あわてて店を飛び出した。奇羅々は、なるべく他人のフリをしたかったが、この容姿のせいでは不可能だった。 「ったく、あんたのせいで私まで恥かいたじゃないの」 そそくさと会計を済ませて店を出てきた奇羅々は、悶々としながら道を歩いていた雪彦に追いついた。 「ご、ごめん……ところで、姉さんでも女性っぽい服に、興味あるんだね?」 話題を逸らそうとした雪彦だったが、それは逆に奇羅々を苛立たせた。 「私が買ってたのはね、服じゃないのよ。これよ、これ!」 そう言って、紙袋の中から、薄いピンク色の、可愛らしいブラジャーと、揃いのパンティを差し出してきた。 「なっ……! ちょっと、ここでそんなもの……」 狭い廊下の中に所狭しと立ち並んでいた男達が、野次るように口笛をふいた。 雪彦は奇羅々の手をひいて、人気の無いところまで小走りに移動した。 「はぁ……はぁ……」 「ちょっと、痛いわよ! 手を離してっ」 「あ、ご、ごめん……」 しばらく、二人は息を整えるように無言で立ち尽くしていた。しばらくして、先に口を開いたのは、奇羅々の方だった。 「……こういうの、少し憧れてたのよ」 「え?」 「女の子っぽい格好をするのが、さ。ほら、普段あんた達と一緒にいると、こういうの着れないし」 確かにそうだ。普段融合している時は、全員が納得出来るように、服装は中性的なものを着用していたし 下着に関しては、ボクサーパンツを穿いていた。女性でも体育会系の人は着用するので、彼女もギリギリ妥協出来たのだ。 だが、やはり女の子としての、人並みの憧れはあったようだ。だからこそ、この機会に購入したというわけだ。 人がいないのを良い事に、奇羅々は着ている服を脱ぎ始めた。 「ちょっと……」 気まずくなりながら目を逸らす雪彦を尻目に、奇羅々は下着姿になった。上半身はトップレス、下半身はボクサーパンツだ。 「さっそく着てみたいのよ。別にあんたになら、裸を見られたって、今更関係無いわ。  元々、私達兄弟は、裸どころか、オナニーまで毎日見せ合ってるわけだしね?」 融合して生活する以上、それは仕方の無い事だった。彼らの間に、隠し事などという概念はきかない。 食事にしても同様で、七人全員が別々の肉体を保有しているため、一食で全員分の栄養やエネルギーは賄えなかった。 本当なら食費だけでかなりの額がかかるのだが、弥勒一族には金銭的なバックボーンがあったため、然程困らなかった。 しかし、性欲の処理だけはどうにもならない。 男性の場合は、定期的に処理しなければ夢精する事になる。 その為彼らは、傍から見れば一日に六回も連続して自慰をしているように見えた事だろう。 もっとも、六回分で済むから自慰はまだマシな方で、食事や排便は、全て七人分の時間がかかった。 一人分の時間で済むのは、睡眠ぐらいのものだった。一人が寝ている間、他の全員も寝ていれば良かったのだから。 毎日の日課である自慰のローテーションに、奇羅々が参入したのは十三歳の頃だ。 右狂や椿が、自分達は他の兄弟にオナニーを見られるという恥ずかしい思いをしているのに、奇羅々だけずるい、と言い出した。 女性も、自慰によって定期的に性欲を処理しておかなければ、下着にシミが出来たりするのだが、 普段滅多に表に出てこない奇羅々では、その心配が殆ど無かったのだ。 それに自慰を見られるくらいなら、シミを見られた方がまだマシだという気持ちもあった。 しかし残りの六人に関しては、ちゃんと処理しておかないと、朝起きた時にシミどころの騒ぎでは済まない。 そうまでして、他の兄弟に迷惑をかけないためだけに、六人は恥を忍んで処理しているのに、 奇羅々だけが愉快そうに、他の兄弟の自慰を精神世界から眺めて、楽しんでいた。 当初奇羅々は自分の自慰を嫌がったが、他の兄弟達は奇羅々が自慰を済ませるまで、表に出ようとしなかった。 雪彦でさえ、右狂に押えつけられて、表に出現出来ないようにされていた。 時貞と緋影は、例え相手が女性でも、自分の家族の自慰などに興味は無かったが、元々表に出る事が少なかったために さしたる不平も言う事なく、いつも通り精神世界で、茶をすすって暮らしていた。 本来ならば表に出て食事をとらないと、いざという時に活動エネルギーが枯渇して困る筈なのだが その頃は戦いも無かったし、表に出る事さえしなければエネルギーも消費しないので、特に不都合は無かったのだ。 奇羅々は、最初は一人の生活を楽しんだ。 別に他の兄弟が表に出て来なくても困らなかったし、むしろ自慰を我慢し続けるだけで 他の兄弟からの介入を一切受ける事無く生活出来るのなら、彼女にとってデメリットは何も無いと思われた。 しかし、どんな女性でも普通、年頃であれば自慰をする。 いつまでも我慢し続ければ体に毒だし、ムラムラする。落ち着きが無くなる。 道行く見知らぬ若い男を見るたびに、欲求不満の溜息をもらす奇羅々を、右狂と椿はせせら笑った。 「とっととオナニーしちまえよ。そしたら楽になるんだぜ?」 耐え切れなくなった奇羅々は、夜中他の兄弟達が寝ている隙を見計らって、こっそりと股間に手をのばした。 しかし執念深い右狂は、寝たフリをして、実は起きていた。彼は奇羅々がイくまで待った。 そうして、奇羅々が絶頂を迎えた後で堂々と姿をあらわし、彼女を思い切り笑い飛ばした。 その時、奇羅々は自分の敗北を悟った。 彼女はそれ以来、我慢する程の理由は無いと吹っ切れて、気がむいた時は普通に自慰をするようになった。 -2- そんな事を思い出しながら、雪彦はそれでも奇羅々から顔を背けていた。 どんないきさつがあろうと、女性の着替えはまじまじと見るものではない。紳士のマナーだ。 しばらくすると、下着を着替え終わった奇羅々が、雪彦の肩をトントンと叩いた。 「どう? 似合う?」 「いや、どうって……言われても……」 肉親の下着姿など、普通は見て気持ちの良いものではない。雪彦はげんなりしがら、再び顔を背けた。 「もう、気のきかない男ねぇ。可愛いよ、とか。似合ってるよ、とか。そのくらい言えないのかしら?」 「……弟に、下着姿を褒めてほしいかい?」 「だって、他に手頃な男がいないんだもの。右狂や椿は厭らしい目で見てきそうだし。  夏彦や時貞だって、褒めてはくれないわ。緋影はまぁ、お世辞くらいは言ってくれるかもしれないけど、反応薄いだろうし。  あんたが一番、からかい甲斐があるのよ」 やはりこの姉は、兄達同様、自分をまともに扱う気は無いのだと、雪彦は悟った。 奇羅々は下着姿のままで、先ほどまで着ていたコートを羽織った。タートルネックのトップスや、ズボンは着用しなかった。 「どう? こういうのも色っぽいでしょ?」 それじゃ単なる露出魔だよ……とは思ったが、雪彦はその言葉を飲み込んだ。 奇羅々はその格好のままで、昼間と同じように、雪彦の顔を上目遣いで見上げた。 一瞬ドギマギしかけた雪彦の隙をついて、そのまま彼の首に両腕をまわし、爪先立ちした。 そうして、そのまま口付けする。雪彦は、初めて女性の柔らかい唇に触れて、一瞬思考回路が途切れた。 ゆっくりと唇を離した奇羅々の表情を凝視しつつ、雪彦は当然の疑問を口にした。 「……一体、何のつもり? 姉と弟でこんな事……悪ふざけのつもりかい?」 だが、それに対する奇羅々の返答は、雪彦の予想を上回っていた。 「あら、私、あんたの事は、兄弟だと思った事なんて無いわよ」 その言葉を聞いた瞬間、雪彦は陰鬱な気持ちになった。やはり、エリスを知らない自分は除け者という事だろうか。 「勘違いしちゃ、だーめ。別にあんたの事が嫌いなわけじゃないわよ」 「え? じゃあ……」 「むしろ聞きたいわね。どうやったら、あんたの事を弟として見られるのか。  だってそうでしょ?兄貴達は、私が生まれる前から存在してた。けどあんたは、エリスが死んでから生まれた。  それも、弥勒一族の、長兄以外の者の宿命として、生まれながらに自我と知識を備えてね。  私の前に現れた時のあんたは、既に私達と同じ年の、同じ精神年齢を備えた存在だったのよ。  そんな相手を、どうやって『弟』として見ろっての? 美堂蛮みたいな、幼馴染としてならまだしも」 奇羅々の説明を、雪彦は黙って聞いた。 奇羅々の言う事も、一理あると思った。弥勒兄弟でも、ちゃんとドイツで学校に通っていた事はある。 その頃は当然、クラスメートというものも、彼らの周囲には存在した。 奇羅々からしてみれば、雪彦は突然転校してきた新しい級友のような感覚だというのだろう。 「私達には、弟という存在を認識する感覚が欠如してるのかもしれない。  まぁ、長兄である夏彦だけは、他の弥勒と違って普通に赤ん坊として生まれて、0歳から育ってきたわけだから  私達とは更に感覚が違うのかもしれないけど?」 最初から兄や姉が存在していて、弟も妹も持たない雪彦にとっては、それは新鮮な意見だった。 弟の立場からしてみれば、自分が生まれる前から、自我を確立した兄や姉が存在している事は、当たり前の事だ。 しかし兄達の立場からしてみれば、後から生まれてきた弟が既に自分達と同程度の自我を備えているのは、不自然な事だ。 「この際だからさ、もう一つ、良い事教えてあげよっか?」 半裸のままで雪彦の腰に両腕をまわしてきた奇羅々が、胸をぴったりとくっつけて言った。 「私達全員、あんたの事が嫌いってわけじゃ、無いのよ……」 雪彦は黙ってその言葉の続きを待った。 「……だって、ねぇ、受け入れられないわよ、そんなの。  あんたが弥勒と関係のない、普通の人間だったら良かった。あんたが普通の赤ん坊として生まれて、  段々と大きくなっていきながら、少しずつ歩けるようになって、少しずつ言葉を覚えていって……  普通の兄弟みたいに、そうやって大きくなっていくあんたの成長を見守る事が、私達に出来ていたなら……」 雪彦は、切なそうに俯く奇羅々に……愛しい姉の背中に手をまわして、なだめるようにさすってみた。 「あんたの事を、本当に弟だと思う事が出来ていたなら……  たとえあんたが、エリスの事を知らないくせに統合者になる運命だったとしても、きっと構いはしなかった。  けど、無理だもん、そんなの……。出会った時から既に自我を備えていた相手を、どうして弟と見る事が出来るの?」 奇羅々はもう一度爪先立ちすると、やはり唐突に、雪彦の唇を奪った。 「……ごめんね、私達……あんたの事……ただの、ぽっと出の他人にしか、思えなかった……」 雪彦は奇羅々のコートを優しく脱がせると、再び露わになったか細い肩を、そっと抱きしめた。 奇羅々の事をしっかりと姉として認識している雪彦にとっては、彼女を抱きしめる事にまだ抵抗があった。 しかし、今日のこのか弱い奇羅々の表情を見て、考えを変えた。 妹だと思えば良い。そうすれば、温かく抱きしめてやる事ぐらい、抵抗を感じる必要は無い。 ただ、妹を甘えさせてあげるだけ。 と同時に、末弟の雪彦にとっては、『妹』というのは新鮮な感覚だった。 「奇羅々……」 ぼそっと、普段『姉さん』と呼んでいる相手の、名前を直接呼んでみる。 「ばっ……! い、いきなり何言ってんのよ……あんたにそんな呼び方されたら、困るじゃないの……」 買ったばかりの可愛らしい下着姿を再び晒した奇羅々は、それまでは感じなかった恥じらいを、突然感じた。 元々雪彦の事は、幼馴染に近い感覚で見ていた。それを、強く思い起こした。 「やばい……私、あんたにだったら……抱かれても良いかも……」 今度は、雪彦の方から唇を重ねた。そのまま、様子をうかがうように少しずつ、舌をいれていく。 「あ……は……」 奇羅々は他の兄弟同様、異性経験を持たなかった。それは多分に、弥勒一族の特異体質が邪魔くさかった事による。 男に貫かれてヒィヒィ声を荒げる様など、いくら何でも見られたくはなかったのだ。 程度の差はあれ、他の兄弟も大体同じような心理から、奇羅々以外の女性を避けてきたのだろう。 例外はエリスだったが、あの頃はセックスなどという観念はまだ備わっていなかった。 兎も角奇羅々は、今生まれて初めて、セックスを体験しようとしていた。 そんな彼女の不安を、雪彦はなるべく和らげてやろうと思った。 「大丈夫だよ、奇羅々……僕が、優しくしてあげるから」 初Hの場所がこんな廃墟の暗がりではムードが台無しだったが、他の兄弟達と離れられる機会は他に無い。 和姦よりも輪姦の方が圧倒的に多いと言われる無限城では、男女が泊まってコトをすすめる事の出来る施設も無いだろう。 奇羅々は大人しく、この埃とカビの匂いの充満した廃墟で、雪彦に抱かれる事を選んだ。 ブラのホックを外し、その柔らかい乳房に少しずつ触れる。 「ちょ……雪彦、あんたビビり過ぎ……くすぐったいし……」 「あ……ご、ごめん……」 雪彦は、あまり強く触ると奇羅々に痛い思いをさせてしまうのではと危惧したが、この様子ならば もう少し力を込めて揉んでも、大丈夫のようだ。 こんな事なら、融合時に奇羅々が自慰をする時だけ意識のリンクを強くして、 彼女がどの程度の強さで自らの乳房を揉んでいるのか、研究しておけば良かったと、後悔した。 兄弟の中では緋影に次いで紳士的である雪彦は、彼女が自慰をする時は、なるべく意識を切り離すよう心がけていたのだ。 確か、奇羅々は普段、こんな風にいじっていた筈…… 微かに記憶に残る奇羅々の自慰を思い出しながら、雪彦はその記憶の通りに、乳首を弄んだ。 奇羅々は、さすがに自分でする時程でないにしろ、微妙に快感を覚えた。 雪彦は次に、おもむろに奇羅々の乳首に吸い付いた。そのまま、赤ん坊のようにちゅうちゅうと吸う。 生まれた時から既に物心のついた少年であった雪彦には、夏彦や緋影のように、母の母乳を吸うという経験が無かった。 その埋め合わせをするかのように、懸命に奇羅々の乳首を吸う。 「はぁん……ばか……強すぎぃ……」 「あっ、ごめん! もう少し加減するよっ」 「……ほんと、馬鹿。良いのよ、強くっても……」 「え……そ、そういうものなの……?」 やはり、いくら奇羅々の事を妹と思おうとしても、雪彦が奇羅々をリードする事は、不可能のようだ。 「ね……雪彦」 奇羅々のパンティを脱がしにかかっていた雪彦に、奇羅々が提案した。 「あのさ……手マンとか、クンニとか、してみない?」 好んで成人向け雑誌を講読する椿の影響で、雪彦でもそれらの単語は知っていた。 「ほら、私達いつもオナニーばっかりだし……他人にしてもらうのって、どんな感じなのかなぁって……」 「……それを言うなら……僕だって、他人にしてもらった事、無いんだけど……」 そんなわけで、二人は互いに相手の陰部を弄ぶ事にした。 雪彦の指先が、奇羅々の陰部を撫でる。 「おかしいわね……不慣れだからかしら? それとも緊張してるから?  何だか、自分でしてる時の方が気持ち良いんだけど……」 男としては、そんな事を言われるのは悔しい。しかしそれを言うなら、奇羅々も立場は同じの筈……。 そう思っていた自分の考えが、いかに浅はかであったか、雪彦はすぐに思い知った。 意外にも、奇羅々の手コキは、抜群に気持ちよかったのだ。 握り具合、握る角度、擦るスピード……全てが、熟練の風俗嬢のように巧みだった。 「き、奇羅々……なんでそんなに……」 「あら、不思議がる事も無いでしょ? 毎日あんた達がオナニーする時、意識をリンクさせてるんだもの。  あんたと違って勉強熱心な私は、このぐらいなら要領はもう掴んでるってわけ」 なるほど、雪彦達が自分自身の陰茎を刺激する時の力加減を、精神世界で自分の腕に覚えこませているというわけだ。 童貞の雪彦は、どれほど虐めても顔色一つ変えない奇羅々に焦りを感じながら、 とうとう奇羅々のテクニックに負けて、射精してしまった。 -3- 「やだ、もうベトベト」 手に付着した雪彦の精液を舐め取りながら、奇羅々は恥ずかしさに打ち震えている雪彦を、小馬鹿にするように眺めた。 「あ、あの……奇羅々……」 「ほら、さっさと次よ次。まだクンニしてもらってないし、フェラもしてあげてないんだから。  一人でする時じゃ得られない感覚を、今日はとことん味わってやるんだから、ね?」 そう言うと奇羅々は、愛しい弟であり幼馴染でもある雪彦に、もう一度キスしてみた。 だがその時、物陰から五人分の気配が近づいてきた。 「ようようお二人さん。よろしくヤってんじゃねぇか」 それは、見慣れた兄弟達だった。 「右狂! それに椿……夏彦も、緋影も、時貞も……!」 「兄さん達……ひょっとして、ずっと見てたのかい?」 「そんなわけ無かろう。夏彦や緋影ならまだしも、俺や右狂や椿に、お前に気取られないように近づく技量は無い」 一線を越えた弟と妹を侮蔑するように、時貞が睨みつける。 「要するに、俺達は今来たばかりと言うわけだ」 どう言葉を発して良いかわからずに困惑する雪彦を無視して、夏彦は奇羅々に話しかけた。 「……お前が雪彦を、弟して見ていないのはわかる。俺達も同様なのだからな」 「何よ……雪彦に手を出した私を、馬鹿な女だと思ってるんでしょ。  決して結ばれない関係なのに、って……」 「別に。軽蔑はしない。今しがた言った筈だろう? お前の雪彦に対する気持ちは、わからんでもないとな」 「……? どういう……」 一瞬の虚をついて、椿が奇羅々を押し倒した。 「なっ……! 何すんのよ、椿!」 「生まれながらに自我を保有する雪彦を、テメェが弟して見られないのは当然だよ。  けどな、それを言うなら……俺らだって、テメェの事を妹として見た事なんざ、一度も無ぇんだぜ?」 その瞬間、奇羅々は寒気がした。 自分が雪彦に対して抱いた劣情を、兄達が自分に対して抱いていると言う恐怖。 自分より圧倒的に力のある兄達が、次に何をする気なのか、融合していなくても手にとるようにわかった。 「やだぁ……助けて、雪彦ぉ……」 右狂と椿に押えつけられ、奇羅々は泣きじゃくった。 雪彦が相手だった時と違い、兄達の事はいくら何でも『兄』としか見る事が出来なかった。 兄に犯されて喜ぶ女は殆どいない。 奇羅々は、その美貌故に、無限城に入ってきた当初は、下衆な男達に厭らしい目で見られる事もあった。 しかしその時はまだ他の兄弟と融合していた時だったので、夏彦に睨みつけてもらえば、相手はそそくさと逃げたものだ。 仮に不意に襲われたとしても、奇羅々の腕前があれば、暴漢など難なく撃退出来た。 しかし、今自分を取り囲んでいるのは、頼りにしていた兄達そのものだ。抵抗する事さえ出来なかった。 「やめろ……兄さん達……」 「うるさいな……お前は『中』でじっと見ていろ」 夏彦に押えつけられていた雪彦は、兄達に技を出す事を躊躇っている内に、夏彦の中に取り込まれた。 そして、元々夏彦を含む彼ら弥勒は、魂の存在位置を同じくする一族である。 夏彦の中に取り込まれたという事は、他の兄弟達の中に取り込まれたという事でもあった。 「へへへ、聞こえるぜぇ……雪彦の叫び声がよぉ……お前にも聞こえるだろ? 奇羅々ぁ」 先程雪彦にしゃぶられた奇羅々の乳首を、今度は右狂が貪っていた。 雪彦の悲痛な叫びは、奇羅々の心にも聞こえていた。 ごめんね、雪彦…… あんたに、私の初めて、あげたかったんだけどな…… 私、兄貴達にレイプされちゃう…… ごめんなさい…… 「しかし、まさかこの無限城で、積極的に雪彦と融合する事になるとはな……」 兄弟の中で最も雪彦を疎ましく思っている時貞が、胸の中で暴れる雪彦に、吐き気を覚えた。 無限城に来れば雪彦と融合しておいてやる理由はどこにも無い……そう考えていた時貞にとっては意外な展開だった。 買ったばかりのお気に入りのパンティを口の中にねじこまれ、奇羅々は叫び声をあげる事すら出来ず、仰向けに寝かされた。 「さぁて……そいじゃ俺は、その綺麗なお手手でしごいてもらうとしますか」 椿が奇羅々の左手に自分の陰茎を握らせると、右狂もそれにならって、奇羅々の右手をとった。 目の端からボロボロと涙をこぼす奇羅々の表情を無視して、時貞は彼女の胴体の上に乗った。 一瞬、奇羅々が苦しそうな表情を見せる。 「重いか? まぁそうだろうな。だが我慢しろ」 一方的に言い放つと、時貞は奇羅々の両胸を鷲づかみにし、無理矢理パイズリの体勢にさせた。 さすがに両手は右狂と椿の陰茎で塞がっているので、時貞自身が奇羅々の胸を動かしてやらねばならないが、 インセストかつレイプなのだから、そのぐらいの無理矢理さは、アリだと思えた。 口で息を出来ない奇羅々は、鼻で荒々しく酸素を取り入れた。既にパンティには涎が染み込んでおり、濃く変色している。 奇羅々は、とても自分からすすんで手を動かす気にはなれなかった。 「おいおい、雪彦ん時は積極的に手コキしてたくせに、俺らには出来ないってかぁ?」 当たり前でしょ……あんた達は、あくまで兄貴なんだから…… 奇羅々はそう反論したかったが、口を塞がれているせいで、それも不可能だった。 椿はナイフを取り出すと、驚いて目を丸くする奇羅々の首筋に、その冷たい刃の腹を当てた。 「んむぅ~!」 「はっ、さすがのテメェも、いくら実戦経験を積もうと、こんな状況じゃナイフ一本にもビビるってか」 それは、明らか過ぎる脅しだった。さっさと手を動かせという、無言以上に雄弁な脅迫。 奇羅々はもう一度、心の中で嗚咽をもらす雪彦に「ごめんね……」と謝ってから、恐る恐る手を動かし始めた。 「おぉぉ……やっぱ自分ですんのとは、ワケが違うぜぇ……」 「まったくだ……しかもこいつ、普段俺らのオナニーを体感して勉強してるだけあって、良いテクだぜ」 一方、時貞も奇羅々の巨乳を堪能していた。 「むぅ……我が妹ながら、中々見事な柔らかさ……それに弾力……」 時貞に関しては、奇羅々の胸を用いた自慰に過ぎないかもしれなかったが、それでも三人は、三十秒ともたずに射精した。 兄達の精液が勢い良く飛び散り、奇羅々の顔面を所狭しと白く埋めていく。 鼻の穴にも精液が入り込んだため、奇羅々の呼吸はいっそう苦しくなった。 一方、弥勒の精神世界で、辛うじて意識を保っていた雪彦も、兄達の得た快楽を、リアルタイムで経験していた。 精神世界には実体が無いために射精こそしなかったが、実際の射精と全く変わらない感覚に襲われた。 日ごろの自慰の時もそうなのだが、彼らは意識をリンクさせている限り、あらゆる感覚を共有する事になる。 と言っても痛覚までリンクさせていては、実戦において逆に困るので、通常は視覚と聴覚ぐらいしかリンクさせていない。 しかし、既に一度絶頂に達して快感を得ていた雪彦の意識は、平生と違って若干弱まっており、 本人が意識のリンクを切りたいと思っても、他の兄弟にリンクを強制されれば、抗う事は出来なかった。 そうして兄達は、奇羅々をいたぶる感覚を雪彦にも押し付ける事で、雪彦をもいたぶっていた。 奇羅々の右手に握られる右狂の陰茎の感覚、奇羅々の左手に握られる椿の陰茎の感覚。 そして奇羅々の胸に挟まれ刺激される、時貞の陰茎の感覚。それら全てを、雪彦は無理矢理共有させられていた。 一瞬で三人分の射精感覚を共有させられた雪彦の精神力は余計に弱まり、リンクは更に強くなった。 「う……あ……にい……さん……」 もはや雪彦の自我など、殆ど残っていなかった。 「次は、我々の番だな……」 長兄・夏彦と、次兄・緋影が、観戦をやめて立ち上がった。 意識の朦朧とした奇羅々の下半身を抱き起こすと、夏彦は妹の陰部を舐め始めた。 あくまで下半身だけであり、上半身は抱き起こされず、後頭部が床にすれていた。腰だけ浮いている状態である。 緋影は奇羅々の口のパンティを取り出すと、丁寧に伸ばして畳みなおし、脱ぎ捨ててあったブラジャーと一緒に 奇羅々用のコートと衣服と、並べて床の上に置いてやった。 相手のためにここまで丁寧なレイプ犯など、普通はいない。緋影生来の自愛か、或いは妹に対する気遣いか。 しかし、その直後に緋影がとった行動には、自愛などカケラほどもなかった。 数分ぶりに口で呼吸が出来て、思わず「ぷはぁっ」と息をもらした奇羅々の口の中に、緋影は自分の陰茎をねじこんだ。 「んっ? んむぅっ、ん~!」 「……くれぐれも、歯を立てるなよ。我ら兄弟に、楯突くような真似をしたら……」 その閉じられた盲目の目は、殺気を放って見開いているようにさえ、錯視出来た。 奇羅々は、諦めて緋影の陰茎を舐め始めた。 普段兄弟達とリンクしている奇羅々は、どうすれば男性を喜ばせる事が出来るか、熟知していた。 尿道口、裏筋、カリ、そして自らの顔面にヒタヒタと擦れる睾丸。その全てを、指と舌と唇で、丁寧に攻めた。 一方夏彦にも、どうすれば奇羅々が悦ぶかは、わかりきっていた。 大陰唇をなるべく左右に開くようにしながら、その内側のプルプルした肉を、舌で蹂躙する。 「どうだ……兄に犯される心境は……?」 レズビアンは、自分がどうされるのが気持ちいいかを知っているため、相手に対する攻めも卓越している。 夏彦は今、そのレズビアンという人種と遜色無い程のテクニックで、奇羅々にクンニしていた。 程なくして緋影は、奇羅々の口内に思い切りよく射精した。 仰向けになっている奇羅々には、喉の奥にぶち当たる精液の奔流を、吐き出す事は出来なかった。 先程までずっとパンティを口の中に突っ込まれていたのは、ある意味幸いだった。 それによって口の中に唾液が溜まっており、精液を飲み下しやすかったのである。 「うぅ……うぇえ……」 子供のように泣き出しそうになりながらも、奇羅々は必死で声を抑えた。心までは犯されたくないと思った。 まさか実の兄達相手に、そんな風に考える日が来るとは思っていなかった。 無限城になど、来るべきではなかったとさえ後悔した。 意識とは裏腹に、既に奇羅々の体は出来上がってきた。 奇羅々は、もうここで終わりにして欲しいと思ったが、そんな事は夏彦が許さないであろう事も、わかっていた。 「もう……やめて……それだけは……」 自らの貞操の保全を必死で懇願する奇羅々に、夏彦は耳打ちした。 「落ち着け……俺の言う通りにしろ」 だが、奇羅々は一層涙をこぼすだけだった。 精神世界の雪彦も、もはやミイラのような状態だった。誰も彼女を助けられない。 「落ち着けと言うのがわからんのか……俺の言う通りにすれば、お前は雪彦と愛し合う事が出来るというのに……」 その言葉に、一瞬奇羅々は反応した。 「ゆき……ひこ、と……?」 「あぁ、そうだ。良いか、俺達は今、雪彦に強制的に意識をリンクさせている。させていないのはお前だけだ」 夏彦は奇羅々の上半身を抱き起こすと、彼女の陰部を優しく撫でてみせた。 「試しに、今雪彦とお前がリンクしたら、どうなると思う……?」 「あ……」 言われた通りに、奇羅々は衰弱した雪彦の精神と自分の精神を、リンクさせてみた。 すると、精神世界の雪彦は、今まで自分が感じた事のない感覚を覚えた。 それは、奇羅々が今まさに感じている快感だった。 「あぅ……に、兄さん……これは……?」 「聞こえるか、雪彦。お前が、俺と奇羅々、両方と意識をリンクさせれば、どうなるかわかるか?」 答えは明瞭だった。 奇羅々に挿入する夏彦の感覚と、夏彦に挿入される奇羅々の感覚。その両方を、雪彦は味わう事が出来る。 更に言えば、奇羅々も雪彦を通じて夏彦の感覚と繋がる事が出来るし、夏彦も奇羅々と繋がる事が出来る。 普通の人間ならばまず味わう事は不可能な、両性の快楽を、彼らは同時に味わう事が出来るという事である。 「夏彦、あんた……」 夏彦は、これまでに無い程雪彦と同化してから、奇羅々の中に挿入を開始した。 破瓜の痛みを、奇羅々はおろか、夏彦と雪彦も感じとっていた。 「く……うっ……いた……っ」 目の端に涙をためながら、奇羅々は自分の中の夏彦・雪彦と抱き合って、痛みに堪えていた。 と同時に、そんなきつい膣の中にズブズブと挿入していく夏彦の感覚をも、奇羅々は味わっていた。 「すご……男の人でも、痛いんだ……」 「あぁ……まるで、本当に僕自身が奇羅々の中にいれていってるみたいだよ……」 「雪彦……今度からはあんたも、私がオナニーする時は、リンクしててごらんよ。きっと、気持ち良いから……」 愛の言葉を投げかけあう二人を、夏彦は精神世界ですら無言で見つめていた。 たとえ実際に奇羅々を犯しているのは自分だとしても、この二人の間に割って入る程、彼も野暮ではない。 「お前達は……リンクさせなくても良いのか?」 「へっ、そういう時貞も、今はリンクを解いてんじゃねぇのか?」 右狂と椿は、元々奇羅々で性欲を処理したいだけでしかなかった。夏彦のように、奇羅々と雪彦を思っての行為ではない。 緋影は、奇羅々が夏彦に心を開きやすくするための前戯の手伝い程度にしか考えていなかったし、 時貞にいたっては、兄達に便乗して楽しんでみただけに過ぎない。 奇羅々を除けば、兄弟の中で最も雪彦を慈しんでいたのが夏彦である。もっとも、本人は否定するだろうが。 今、夏彦と雪彦、そして奇羅々の三人が、本当の意味で繋がろうとしている。 そこにリンクして水を差すつもりは、誰にも無かった。 「どうだ、奇羅々……奥まで、入ったぞ……」 純潔の血が夏彦の陰茎と睾丸を汚していた。 「うん……良いよ、動いても……」 奇羅々はそう言ったが、雪彦がそれを拒んだ。 「まっ、待って兄さん……僕、まだ痛いよ……」 女性器を持たない雪彦が破瓜の痛みに堪えるなど、弥勒の業あってのものである。 「しょうのない奴め……女の奇羅々でさえ、もう覚悟を決めているというのに……」 夏彦は、あくまで雪彦に優しく接しようとはしなかった。少なくとも、表面上の態度だけは冷たくあたった。 屈折した兄心である。彼が雪彦を嫌ってはいなかったという事実は、 後に奪還屋達との決着がついた時に判明する事になるが、それはまた別の話である。 クオリア計画が成功してしまえば、こうやって同じ痛みを、三人別々のレベルで感じる事も無くなる。 それは今の三人にとって、決して好ましい事とは言えないだろう。 「……良いよ、兄さん……動いても……」 男の雪彦にそんな事を言われても、本来なら気持ちが悪いだけなのだが、夏彦は気にしなかった。 暗がりの中で、最初はゆっくりと、そして徐々にペースアップしながら、奇羅々に腰を打ち付ける。 陰茎が膣の中をズルズルとピストン運動する感覚。三人とも、それぞれに同じ快楽を味わっていた。 本当なら処女の奇羅々は、そう簡単に感じる事など出来なかったに違いない。 しかし、男性である夏彦と雪彦が、挿入によって感じている気持ちよさを、奇羅々も感じ取っていた。 そのため、本来なら時間をかけて中和されていく筈の痛みが、すぐに消え去った。 「あぁっ、もっと!もっと突いて!夏彦!雪彦ぉっ!」 やがて夏彦は、奇羅々の膣内に自らの精液を大量に注ぎ込んだ。 雪彦は、他の兄達とリンクさせられて感じていた分も含めて、今日五度目の射精を味わった。 最後の射精を、現実の夏彦の分と精神世界の自分の分とで別計算すれば、合計六回にも及ぶ。 くわえて、奇羅々の、女性としても快感も同時に得られた。男性のオルガズムとは、全く異なる感覚だった。 それらの相乗効果は、もはや白目をむきそうな程の快楽の波だった。 「ん……ふっ……くぅ……」 「あぁ……良いよ、姉さん……」 暗闇の中で、奇羅々が一人、自慰にふけっていた。 ただし、その中には他の兄弟達が、分離する事なく融合されていた。 女性の自慰の感覚というものを、雪彦は生まれて初めて感じ取っていた。 「だからよ、テメェもさっさと、意地張らずにリンクしてりゃ良かったんだよ。たまんねぇぜ? 女のオナニーってのはよ」 奇羅々と同じ快楽を覚えながら、だらしの無い顔で右狂が雪彦に話しかける。 しかしそれも全て、奇羅々の『中』における会話だった。 「あぁ……イく……イっちゃうぅ~……!」 統合者になれば、奇羅々との関係もどうなるかわからない。 統合された弥勒がどのようなものか、一族から伝え聞いた事はあるが、実際に経験するまでは飲み込めない。 雪彦は、奇羅々のオルガズムと感じ取りながらも、せめて統合されるまでの間は 奇羅々を、体の外と中から、懸命に愛そうと誓った。

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