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 どうしてか、失望したいほど酷く抱かれた日に限って、あの日のことを夢に見る。

 ルルーシュのことを、信じようと決めたあの日を。


Sword Lily



 ブリタニアにきて、もう3年がたつ。

 少年の抜け殻を着ていたような年月は、主人と決めた彼によって打ち捨てられた。

 好きだった。本音を言えば、愛していたのかもしれない。

 そうでなければ、ほとんど一生を捧げるような騎士を志願しなかったし、異性型のパペットを持つ実験だって、了承しなかった。

 本当のところを言えば・・・・・・、ランスロットとの行為を見てみぬふりをしようと決めたことだって、彼が・・・・・・・・・



「・・・ザク、ちょっと!」

「ふぇっ・・・」

 間抜けな声を出して上半身を起こすと、そこには呆れ顔のカレンがいた。

 黒い礼服に、鮮やかなフラムルビーの勲章。

 黒の皇子の筆頭騎士、紅月カレンの紋章を兼ねたそれが、豊かな胸の左側を飾っていた。

「なにやってるのよ、今日は殿下の大事な日だって言っておいたじゃない!」

「今何時!?」

「もう9時半よ。時間がないわ。早く着替えて! もう~、ランスロットも二人してなに寝ぼけてるのよ!!」

 頭が覚醒してきて、思い出す。

 今日は確か、皇族が揃う閲兵式で、確か時間は・・・

「10時から、式典!!」

「思い出したなら手ぇ動かしなさいよね!!」

 存外言葉遣いの荒いカレンが、クローゼットから礼服を投げてよこす。

 顔面でそれを受け取ることになったが、悩ましいことを忘れて、慌しく動き出す。



 数百体の軍属パペットが整列する。

 その間に巨大な機械兵器が並び、旗持ちのパペットが巨大な旗を掲げる。

 ブリタニアの国旗。皇帝の紋章を掲げる近衛軍はわずか。

 その大半は、意匠の若干異なる数種の旗がひらめいていた。

 スザクとカレンは、その最も左端に置かれた、兵器の上に立つ、ルルーシュの背後に控えた。

「すごい・・・」

「ブリタニアの全軍のうち、ここに集まってるのはほんの一割くらいよ。でも、皇族直属の軍は主力がほとんど揃ってるとおもっていいわ」

 初めてこの場に立つスザクに、カレンが告げる。

「あの燃える天馬の紋章はコーネリア皇女殿下、その側のフリージアはユーフェミア皇女殿下の軍よ」

「遠くの白い花は・・・」

「あれはシュナイゼル皇子殿下の軍よ。白薔薇と蛇の紋章」

「よく覚えておくといい。旗の数ほど、ブリタニアでの勢力の強さとほぼ等しい」

 厳しい顔つきのルルーシュが、静かに告げる。

 旗をおおまかに数えていたカレンが、ぼそりと、

「今年は白薔薇が増えたわね」

と呟く。

 殺気はなかったが、忌々しげな表情に気圧された。

「失脚したクロヴィスの穴を埋めただけだ」

「しかし、それにしても多すぎる気が・・・」

「奴は冷戦が得意だ。外に向けて攻勢を貫くコーネリアよりも、民衆向けの顔がうまい。それだけだ」

 淡々と言い切る主人の顔は冴えなかった。

「殿下。夜更かしはほどほどにしないと」

「カレンにはバレバレか」

「当たり前です。しゃきっとなさってくださいね」

 カレンは何も気づいていない。

 敬愛する皇子が、戯れに男を抱くような趣味を持つことも。



 皇族が自分の勢力図を競い合う。それが閲兵式。

 皇帝が直接、目に見える形で、その力を見る機会。

 スピーカーを通して、皇帝の低い威厳に満ちた声は聞こえたが、スザクの耳にはあまりそれは意識されなかった。

 千はあろうかという軍旗の、4割を占めようかという白薔薇。

 それに追随する燃えたつ天馬。

 ルルーシュが掲げる青紫のグラジオラス。

 スザクが見上げた剣のような蒼い花は、白薔薇の半数ほどに留まっていた。



 ルルーシュがスザクに騎士の印として送ったもの。

 それは、花冠のような意匠の指輪。

 主の瞳を思い出す高貴な色の主石が花で、茎にあたる一筋に、小さなエメラルドが散りばめられる。

 あまりの贅沢さに眩暈さえしそうな、剣の花は、今も彼の左手にある。

 皇帝の言葉は、聞きたくなかった。

 元々ブリタニアの拡大路線は好きじゃない。

 ただ、自分は、あの日のルルーシュの『騎士になってはくれないか』という言葉に応じただけ。

 自分の過ちを、やり直せばいい、と言ってくれた彼に甘えただけ。

 目の前の、美しい君を、追いかけたい。

 そのためになら、どんなことでも・・・・・・。

『そう、思ったのに』

 ちらりと視線を下ろす。

 そこにいたのは、自分と同じ栗色のふわりとした癖毛。

 翡翠の瞳。すらりとした身体は、愛されることの出来る女。

 ランスロットは、彼に与えられた、大事な分身。

 それなのに。

 視界に入ると、笑えない。

 愛されている感じると、心が焦げてしまいそう。

 どす黒い感情。

『でも、僕は・・・・・・』

「スザク、ちゃんと前を向いてろ」

 ルルーシュに窘められて、我に返る。

「スザクも寝不足?」

「え、えぇ、まぁ・・・」

 曖昧に頷くと、あれだけ寝坊して、と呆れる呟きが聞こえた。

 丁度皇帝のスピーチが終わり、割れんばかりの拍手が起こる。

 地面が揺れるほどの拍手。

 聴覚が狂うその中で、スザクはルルーシュだけを見ていた。





推敲ナシ。

勢い100%で書きましたが、書いてる間あっちを消しこっちを消ししているので、元に書きたかったものとはまるっきり違うエピソードに。

ちょっと別の設定を思いついてしまい、忘れないうちに、冷めないうちに嫉妬で狂いそうなスザクを書いておきたかったので。