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 閲兵式を皮切りに、皇位継承権を持つ者たちの集まり、武芸会、茶会、披露会…等々。

 数えればきりがない公式行事の数々が始まると、主人のいたずらもぴたりと止んだ。

 それを喜ばしく思う反面…寂しく感じる。


背反二律




 去年騎士の位を得た自分は、初めて参加する公式行事ばかりだった。

 明るい庭に集まる大勢の皇族や貴族たち。

 大輪の薔薇が咲き乱れるそこは、微笑みと嘲笑がさざめく。

 今日の茶会は、パペットの同行を許されない、人間だけの場所。

 特別な場所だからこそ警備は万全に、とカレンはナナリーの付き人となり、スザクは初めての会う人ばかりのそこで、ルルーシュの騎士としての仕事を一人でこなすことになった。

 ルルーシュの背後に立ち、時折主人に紹介されて話に加わる以外は、黙って殺気を出さずに気配を探る。

 至極気の張る仕事だ。



「今年もまた順位を上げたな、ルルーシュ」

「光栄な話です。まだ大したこともしていないのに私を、陛下は青田買いしてくださったのですから」

 余所行きの笑みを張り付けたルルーシュが語り合うのは、異母姉コーネリア皇女殿下。

 燃え立つ天馬を旗印に、前線を走り抜ける麗しの女傑。

 剣の腕、指揮官としての有能さ、高いカリスマ性。どれをとっても、英雄にふさわしい人物。

 皇女の中では、最も帝位に近いと言われる存在。

『成る程。堂々としている』

 普通ルルーシュと相対する人で、彼に怯えない人は二種類居る。

 ルルーシュを下に見ている人か、ルルーシュから害を受けないと信じている人。

 彼女はどちらだろうか。背後に立ちながら、失礼がない範囲で観察する。

“コーネリアは、皇帝にはなれないさ。つまらん騎士道精神を発揮して、肝心なところで甘いからな”

 以前こっそりと、ルルーシュが語った言葉を思い出す。

『騎士道精神のある、いい人だと思うんだけどな…』

 こきおろされた彼女の評価は、的を得ているとは感じる。

 音に聞く彼女の評判は、騎士道精神そのまま。

 その騎士ギルフォードの忠節ぶりといい、彼女の抱える騎士たちは、皆女神のように彼女を崇拝し彼女のために戦う姿は、どこか昔の絵巻物にも匹敵する。

 そんなどこか優しいそれは、戦場での残酷さを冷たく笑うルルーシュには、理解できないものなのだろう。

『でも…僕には理想だよ』

 初めはそうだと思っていたのだ。自分も、ルルーシュのことを。

 それが何より辛いから、彼のことを捨てられない。

 夢見た言葉を、本物にできる力があるのに、一緒に夢を見てはくれない。



「その年で二人目の騎士を得るなんてこと、滅多なことじゃない。父上はちゃんとお前を評価していらっしゃるんだ。謙遜するものじゃない」

「ご冗談を。評価とは、姉上のようにブリタニアに貢献できているものに下されるものですよ」

『腹の底じゃ、そんなこと思ってもいないのに』

 腹黒。

 今のルルーシュの評価は、この言葉に尽きる。

 ぼんやりと二人の話に意識を預けそうになっていると、急にコーネリアが話を変えた。

「ところで、例の話だが、考えなおすつもりはないか?」

 殺気のような威圧的な感覚を、目の前の主人が放つ。

 和やかな探りあいが終わったのだと、唐突に悟る。

 その背が、ピリッと冷たい空気を纏ったから。

 向こうに気を張る意思はなさそうだが、完全にルルーシュの方が敵対心むき出しだった。

「お前の騎士も増えたわけだし、パペットの一体くらい…」

「くどいですね、姉上。あれは私のパペット。既に起動済みだ。いくら姉上の頼みでも、お譲りするわけにはいきません」

 言葉尻は丁寧だが、とりつくしまもない拒絶。

 自分ならたじろき、見下されてもおかしくない状況で、姉皇女は、引かなかった。

「ならルルーシュ。賭けをしようじゃないか」

 勝負なら、問題なかろう?

 そう諭しながら、じりじりと自分の意図へとルルーシュの心をたぐろうとしている。

 不敵に微笑む姿が、攻め手を得意とする皇女らしい。

「賭け?」

 不満そうな彼の問い返し。

「そうだ。お前の持つパペットを賭けて」

「何度目ですか。第一、パペットを賭けても私には何の得にも…」

「ギルフォード、あれを」

 あれ。

 代名詞で合図されると、背後に控えていた細い体躯の騎士が、懐から絹布に包まれた何かを取り出した。

 丁寧にほどかれ、中から出てきたのは、親指の爪ほどの翠玉。

 サイズもさるものの、輝きや透明度が桁外れに良いものだと一目でわかる。

「それはっ…」

 ルルーシュが息をのんだ。

 その様子を悠然と微笑んでみていたコーネリアが、だめ押しとばかりに言葉をつむぐ。

「エバーグリーン。以前お前にねだられたフラムルビーに勝るとも劣らない、貴石中の貴石だ」

 これを賭ける。

 その一言で、ルルーシュの纏うオーラが更に変わる。

『あぁ、このひとは』

 間違いない。

 この主人は、賭けにでる、それも、負けるつもりのない賭けに。

「いいでしょう。何で賭けます?」

 ほら。 綺麗な横顔の笑みは、もう勝負師の顔。

 そんな表情の彼は…嫌いじゃない。

 みとれていると、賭けをふっかけた本人が満足げに、とんでもないことを言い出した。



「では、そこにいるお前の新しい騎士が武芸会でどこまでいけるか…賭けようか」