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ヴィクトリアに、家名はない。

元皇族の現ラウンズ第2席。

彼女が何故皇族をやめたのか、何故ラウンズになろうと決意したのか、俺にも……いや、俺は、わからない。



捨てられた忠犬




 二年ぶりの再会。

 こういう例えは、遠距離恋愛のカップルみたいで嫌いじゃない。

 今なら姫のピンチには、姫がどこへいても、トリスタンで駆けていける。

 尤も…そんなピンチになることは、姫はないんだけれども。

「ジノ、余所見するなよ」

 真後ろから、ハスキーな感じの声が、殺気と共に首に刺さる。

 ミラー越しにも、スザクが呆れた様子で座っているのがわかった。

「大丈夫だって。俺の運転は不安か?」

「余所見が危ないだけ…」

「アーニャのいう通りだ。ちゃんと運転しろ、馬鹿騎士」

 左後方と、左隣からも攻める声がする。

 後ろにはアーニャ、隣は麗しの我が姫。

 アーニャは携帯に向かって忙しく指を動かしている。姫はこの風景を無視して読書中ときた。

 帝都からわずか一時間の距離に位置するこの美しい湖水地方に、今日は景色の癒しをもとめてドライブ…のはずだ。。目的地は、ヴァインベルグ家所有の別邸。

 連なる湖を渡る風、景色も緑に溢れて癒し効果は抜群。同乗者も三者三様の魅力的な人々ばかり。

 目移りする環境をたしなめられても、我慢にも限界がある。それに、俺だけ運転手で自由がないというシチュエーションにも、若干後悔をおぼえていた。

 しかし、仕方がないのだ。我が姫は、自分の運転以外信じては下さらないのだから。

 付き合いはじめて早六年。一度も後部座席で二人…というシチュエーションにはお目にかかっていない。

 姫のため、と言い聞かせながら、後ろのスザクへ話をふる。

「こっちのうちに招くのは、スザクは初めてだよな?」

「あぁ、そうだね」

「このあたりは魚が美味くてさ、エリア11には魚を生で食べる文化があるんだろ?あとで教えてくれよ」

 連なる山々の麓に首飾りのように繋がる湖が、子供の頃からのお気に入りだ。山には狩りの獲物が多く、川や湖では釣りができる。

 帝都では息抜きさえ出来なかった隣に座る皇女を、かつて何度も連れ出した場所だった。

「あのねジノ、それは…」

「それは海の魚の話だろう。淡水魚まで生では食べないと聞くぞ」

 生真面目な姫。

 困り顔のスザクが、口をつぐんだ。

 だからあっけらかんと言ってみせる。

「わからないじゃないですか。実際には。で、実際はどうなんだ、スザク?」

「あぁ…生の海水魚は食べるけど、生の淡水魚はあんまり食べるって印象じよないよ。一部地方では生でも食べるみたいだけど。普通は塩焼きとか、蕎麦の上に乗せたりとか…」

「蕎麦?クレープとかにする粗食の?」

「そう。その粉を使った麺のこと。ラーメンみたいにたべるんだ」

「成程」

 スザクとの話が、ヴィクトリアへと渡る。

 このドライブ旅行は半分、スザクと姫の親睦会みたいなものだから、好都合。

 姫は根は優しい方だが、誤解されやすい。

 一方のスザクも、どちらかといえばポーカーフェイスで人当たりだけは良い、踏み込みにくい奴だから、姫も扱いに困るだろう。

 同じラウンズである以上、ライバルではあるが、同僚でもあるのだから、仲良くしてもらいたい。少なくとも、険悪なムードとかはいただけない。

『姫はその気ないだろうけど、今後万が一…ってこともあるし』

 爽やかな風があたるオープンカーが、緩やかな湖岸を離れて山へと向かいだす。

 振り替えって、湖をカメラでとるアーニャ。

『未だに皇帝のお気に入りだからな。皇太子指名される可能性はなくはない』

ちらりと横を見れば、姫は読書を辞めて、多少暗い森に視線を送っていた。



 皇位継承権を返上し、皇籍すら捨てた姫。ブリタニアの名を背負う聡明な彼女に仕えられる幸せを、この手にしたのは六年前。

 しかし、幸せは長くは続かず。わずか二年で騎士を解任された。

 理由は簡単。守られるより、守るほうがやりがいがありそうだ…だそうだ。

 俺が呆けている間に、父皇帝と取引をしてしまう。

 ラウンズとの勝負に勝ったら、ラウンズにすることで皇籍離脱を認めよう、と。

 引き留める間もなく、彼女はラウンズへと飛び込んだ。

『後に残されたら…追うしか他に道がなかった』

 言いようもない寂しさ。

 尊敬だけではなく、一時は本気で愛してもいたのに。



「どうしてやめちゃったのかなぁ…」

「なんの話だ?」

 口からうっかりと洩れた言葉を、姫が聞き逃そうはずもなく。

 こちらが呆けたような言い方だったから、姫自身もそれほどきつい言葉ではなく、思考の筋を追いかける。

「いや、何でもないです。独り言」

「嘘つけ。何でもなさそうな声じゃなかったぞ」

 そういう理解だけは賢い姫。誤魔化したら詰問がひどそうだと諦めて、ネタをばらす。

「どーして我が姫は次代皇帝レースを止めちゃったのかな~って」

「またその話か…もう諦めろ」

 そっけない言葉。

「夢だったんですよ?あなたを女王陛下って呼ぶの」

「そんな夢なら、第一皇女殿下にお願いしろ。迷惑だ」

「捨てた順位が、下から数えた方が早いなら、私も失礼ながら諦めもつきましたがね」

カーブの続く斜面を前に、ふて腐れたようなため息をつく。

「何番目だったんですか?」

「確か5番だったかな…」

 スザクの問いに、まるで宝くじの当たった等級を答えるように、面倒くさそうに答えるのだから、たまらない。

「五番ですよ!五番!スザク、どう思う?」

「え…それは、なんで降りたのか、不思議だとは思うよ」

 寂しいというレベルではない。

 五番なら、騎士の腕と皇女の野心ひとつで、神聖ブリタニア皇帝という世界でもっとも高い場所にいけたのに。

 二十歳を前に、そんな皇女の騎士になれる誉れを、どれくらい嬉しく思ったか。

「どうしてやめちゃったの?」

 アーニャの声に、姫は無言では居られないと悟ったらしい。

「…色々あって、皇宮に居たくなくなった。だから、ジノがやり直せる間に、降りたんだ」

 寂しい答えだった。

 しかし、何かを言う前に、別邸の門が見えてしまった。

 甘いはずのドライブは、せつない片道となって終わりを告げた。



「ジノ」

 夕飯の後、ジノが一人逃げ込んでいた部屋に、ノックをする。

 ドライブの終わりから、ジノの機嫌が最悪なのは、わかっている。

 アーニャやヴィクトリアと3人でカードゲームに興じているのに、二人を放置してホストがいなくなるのは、常の彼からは想像もつかない。

 試しにドアノブを回してみると、鍵はかかっていなかった。

 部屋のなかは、ナイトランプだけ。暗い室内に踏み込めば、ジノがベッドの端で俯いていた。

「ジノ…」

「…大切にしてたんだ」

 掠れた声を聞き逃さなかったのは、ジノが何か言うと構えていたから。

「初めて、俺個人を必要としてくれた人だったから……でも俺は騎士失格だな。主人の真意を図れずに、追いすがるなんて…」

 膝を折って、横から覗きこめば。

 見開いた目から、涙が流れていた。

「君に不手際はないよ。ジノ」

「そうかな」

「皇族は皆、勝手だから」

「それは、お前の主人との経験談か?」

 不思議と思い浮かんだのは、ユフィじゃなかった。

 まだ祖国が日本と呼ばれ、僕と彼らが対等であった眩しい時代。

 そして、アッシュフォード学園で過ごした短い日々。

 彼はいつも勝手で、いつのまにかゼロとなって……

「ユフィも…そうだね。勝手だった。あんなこと、言い出さなければ、僕もまだ…」

「…はっ、お互い、詮無いよな…」

 ジノは、涙を払うことなく、ただ表情だけが普段の軽口を叩くときのまま。

 頭をそのまま抱き寄せる。ジノは、抵抗しなかった。

 お互い、主を失った忠犬のようなものだったから。

 失われたことを理解できず。捨てられたことも知らず。

 ただ、互いに傷ついていることだけがわかる。

「泣き止んだら、キスしてよね…」





ごめんなさい、、、後半微熱にうなされながら作ってたから、おかしいかも。

でも、アップしちゃう決断力。。。そんなところも微熱パワー。