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 迷わずに生きることは難しい。

 自分の役割を知っているからこそ、ブリタニアの行く末にかかる影が恐ろしい。

 飲み込まれそうなそれがこわい。


確証の無い、それは違和感



 手綱を取る。

 人並みの恋すら知らない人間に、同時に二人の男を御せ、という。

「はぁ……」

 常々父のやることは難題だとはおもうが、ここにきて進退窮まったところがある。

 終着点のイメージは、ある。でも、そこまでたどり着くルートが思いつかない。

 自分に一途なジノのような人間を二人ならともかくも、スザクのそれは若干複雑で扱いづらい。

 会議室に向かい歩く自分と、並び歩くスザク。横目で見ると、熱っぽい視線を向けていた。

 ため息に反応して、過剰とも思える過保護さで声をかけてくる。

「大丈夫? 具合が悪いなら、僕が…」

「いや、今日の予定はこれだけだから、大丈夫。シュナイゼル殿下の戦略会議は重要だから、私も聞いておきたい。難攻不落のアムステルダムに、どう上陸するか。興味もあるし」

 笑顔で答えると、スザクはほっとしたように信頼の笑みを浮かべる。



 枢木スザクの転身は早かった。

 まず、ジノがいるときががっちりとジノをキープし、ジノがいなくなると待っていたように私の元へとやってくる。

 私の隣を占めようと躍起になっている姿が、子供の意地らしさのように愛らしかった。ジノの犬のような扱いやすさとは違う、独占欲。

 このロッテルダム攻略についても、今回の作戦への参加は、元々私だけだったのに、どこをどう話し込んだのか、スザクはビスマルクに同行許可を取ったらしい。

『ジノの方と距離が出来たのが気になるが、ここは先にスザクを御しておく方が先か…』

 一方でジノは、オデュッセウス兄上の夜会以来、拗ねたように避けようとする。それに輪をかけてスザクが妨害をするものだから、ほとんど会話らしい会話もできていない。

 スザクが同行許可がおりたことで、ジノは突発的にどこかの地方都市へ視察に出るという何番目かの異母妹の護衛任務についている。

 本人からすれば、あてつけなのだろうが、あまりに短絡的な行動にこちらとしても困っている。



「しかし物好きだな、スザクは」

「なにが?」

 尻尾を振るように、声をかけられたことに喜んで満面の笑みを浮かべるスザク。

「いくらラウンズとはいえ、後方観覧を希望するなんて、お前ぐらいだ。先陣を争うならともかく……」

 呆れるように言ってやると、苦笑しながらスザクが言葉を返す。

「中華連邦と2年も前線で戦っていたヴィクトリアの腕を見ておきたいんだ。指揮官としての腕は、僕はまだまだだから」

「…そう大したものじゃない。結果は出なかった。失敗も同じだ」

「でも、不敗だったんでしょう?」

 どうして。知りたい。そう瞳が語っていて、言葉に詰まる。

『どう説明しろと?スザクはギアスを知っている。けれど、私がその関係者であることは知らない。知っていたとして、ギアスを持たない私の力をどう説明すればいい…?』

 ギアスではない。しかし、ギアスを知らないわけではない。

 自分に出来ることは、たかがしれている。

 だからこそ、

「運が良かったんだ。それに、向こうは本腰ではなかった。こちらが本気でもないことをわかっていた。にらみ合っていただけだから…勝負になりもしない」

投げやりだとはわかっているが、軽くあしらいの言葉を投げる。

 スザクが不満に思う程度に、気にかけるのを一瞬やめる程度に。

 戦略的な話にすりかえて。

「にらみあい、ですか…」

「圧力をかけておくだけの持久戦だ、単純な。本当は持久戦は、精神的な消耗が激しいから、やらないに越したことは無い。もっとも、それを言い出すと…」

「戦争なんてやらないほうがいい、かな?」

 会議室に向かう道の後方から、会議の主催者の声を聞く。

 振り返ると、そこに兄がいた。



「その通りでございます、シュナイゼル殿下」

 ヴィクトリアの声が硬くなる。

 礼をとる彼女に倣うと、殿下の口から笑みがこぼれた。

「そう硬くならないでおくれ、ヴィー」

「そう申されましても、貴方様は帝国宰相閣下でもあられるのですから、この礼は当然のものと心得ます」

「…そうかい。仕方が無いね。今日はまじめな席だからね。諦めるとしよう」

 頭をたれたまま、動かない彼女の横を、一瞬寂しげな様子を浮かべてから、殿下はいつもどおりの微笑を浮かべて通り過ぎる。

 今ならわかる。あの表情は、殿下の仮面。兄のふりをするのも、ヴィクトリアの本性を探る道具。

 殿下とその補佐たちが通り過ぎた直後に、すっと頭を上げて凛々しく歩き出す。

「作戦は、既にドーバーの入り口に展開中の艦隊と、詰めの協議に入っている。勿論君の意見も大いに反映させていく、ナイトオブツー」

「光栄です」

「情勢が動かないうちに、早速とロッテルダムを押さえて、海の出口を封じておきたいね。運河の出口を押さえることは、水運に多くを頼るEUを封じることにつながる」

「宰相閣下のご期待に添えますよう、善処いたします」

 二人の兄妹が演じる役。宰相と騎士。兄と妹。

 演じることを当然とした彼女に、少しだけ、違和感を覚えた。



「ねぇ、聞いてもいいかな?」

 会議が終わり、ラウンズの詰め所に戻ってきたあとで、誰もいない廊下でたずねる。

 彼女の目の前には、彼女自身の部屋の扉。

 僕の部屋は…もっと奥だ。

「なんだ?」

 不思議そうに振り返る

 ノブに手をかけたまま、なんでもなさそうに。

 声をかけた僕の、鼓動の高鳴りなど、お構いナシに。

「皇族をやめようとおもったのは、なぜ?」

 騎士になった理由より、そちらのほうが気になった。

 首を軽く傾げる彼女に、たたみかける。

「武芸を極めたかったなら、コーネリア皇女殿下のように、騎士や親衛隊を組織して、戦場を駆けることだってできたのに。君のことをみていると、騎士や武芸よりも、皇族であることを辞めなければならなかったようにみえるんだ。なぜ?」

 ジノに対して恋愛感情が無いのであれば、それはそれで良いことなのかもしれない。自分の気持ちを肯定するならば、だ。

 でも、夜会で二人の兄皇子から連れ戻されたとき、ドレス姿でジノにエスコートされるのは、まんざらではなさそうだった。

 ジノのために、皇族をやめたのだとしたら?

 そう考え始めてしまったのだ。

 実家に配慮して、何一つ個人的な感情を自由に出来ないジノを慮ったのだろうか。

 自分が皇族のままでは、ジノとの関係は一生変わらないから、降りる決意をしたのだろうか?

 でも、それならジノと騎士同士の関係を強要するのは何故?

 ぐるぐると思考がループにはまる。答えは自分で出せるものではないから。

「ヴィクトリア。君は…」

「スザク」

 問いかける声に、制止の意味がこめられて名前が呼ばれる。

 無表情を貼り付けた能面が、短く、

「純粋な強さに、肩書きは不要だ」

と返す。

 更に続けて、

「皇女であれば、と強要される全てが、私の求めた強さには不要だった。だから、捨てた。いけなかっただろうか?」

問い返される。

 求めたのは、強さ。

 ジノを求めたのではなく?

 あの好意的なジノを…捨てた?

 その言葉が本当ならば、自分のこの思いも、ヴィクトリアには受け入れられない?

 信じられなくて、瞳を見つめようとした。

 彼と同じ紫が、彼と同じように逸らされた。

 だから、わかる。

「嘘つきだね、ヴィクトリア」

 驚愕の色を浮かべて、声も出せないのか、ヴィクトリアが固まっていた。

「嘘……?」

「嘘だろう?他人の視線を受け止められないなんて。視線を逸らすなんて、君らしくないね」

 嘘をついた。

 ヴィクトリアが。ルルーシュと同じように。

 彼女がルルーシュと同じだと。いつか自分をまた裏切るのだと、暗示させた。

 それに少し腹が立って、一方的に始めた話を、一方的にやめにすることにした。

 懺悔は聞きたくない。あの時と同じ気持ちを、もう二度と味わいたくはないから。

 この想いは、やはり間違っているのだと結論付けて、彼女にくるりと背を向けて、ジノのことを考えようとした。

 でも、それはできなかった。

 数歩歩いたところで、背後でどさっと音がした。



 青白い顔で、ヴィクトリアが倒れていた。