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「前を歩かれるのは、皇帝陛下直属の秘書官、ベアトリクス様。後ろがあんたの相手、スリーのジノ・ヴァインベルグ卿よ」

 小声でカレンが舞台に上がってくる二人について語る。

 つむじ風のような威圧感が、そこに迫っていた。


永久の碧:上




「やぁ。今日の相手が君じゃないのが残念だよ。カレン」

 第一声の明るさと、戦いを前にした武人の空気のギャップが、力量を推し量ろうとするこちらの視線を誤魔化す。

「久しぶりね、ジノ」

 高位の方と聞いていたわりに、取り付く島も無いほどカレンの口調が刺々しい。

「つれないな。久々の逢瀬なのに」

「私は出来れば会いたくは無かったの。殿下の名代でもなければ、なんであんたなんかと…」

「ひどいな~、婚約者だろ?人前でくらいはもう少し言葉を包んでくれると助かるんだけど」

 相手はカレンの態度を面白がるように、涼しげにかわしてみせる。

 相手の主人の名代を務めるベアトリクス様が、咳払いをしたところで、ヴァインベルグ卿の言葉がとまる。

 マントの下には、すらりとした飾り気の無い白のスーツ。背丈は僕より頭1つは高いし、体格もいい。

 腰に下げられた剣が、おもちゃのように細そうなのが、気になった。

 4人の間に行事が入ってきて、カレンとベアトリクス様が舞台のすぐ下まで下がっていく。

 僕とヴァインベルグ卿の間で、行事が高らかに声を張り上げ、試合の宣言がなされる。

「これより、本年の公式武芸会決勝戦を執り行う。決勝戦に挑みし武人は、第十一皇子ルルーシュ殿下が二の騎士、枢木スザク。そして、唯一皇帝シャルル・ジ・ブリタニア陛下が円卓の騎士、ナイトオブスリー、ジノ・ヴァインベルグ卿」

 説明も長ければ、敬称まで格が違う。

 相手の名前が呼ばれた瞬間、どっと会場から声援が沸く。

 皇帝の騎士。強さが、その名に恥じない信頼を勝ち得ているであろう事を感じさせた。

「伝統により、この試合の結果いかんで主人の名誉を損なうことはなく、また結果を理由として名誉を損なうような言動をする者には、相応の処罰が行われる」

『成る程。皇帝の騎士だから、高位の皇族の騎士だから、と遠慮しないでいいのか』

 少しだけ、心が軽くなる。でも、その反対に、対等な騎士同士なのであればこそみっともない試合も出来ないだろうと心を戒める。

「お互いが個人の名誉をかけて、清廉なる宣誓を」

 両手を天にむけて広げ、言葉を待つ。

 ヴァインベルグ卿が、すらりと細い剣を引き抜き、眼前に構える。

「我が剣、我が名にかけて」

 さすがは皇帝の騎士。短く宣誓の言葉を紡ぐ。

 凛々しく、迷いの無い誓いだ。

 作法どおりに、自分も剣を抜く。

「我が剣と、我が名に誓って」

 誓いの後、静かに行司が部隊の中央から去る。

 それ以上の合図はいらなかった。

 お互いの、絶対零度の熱が、研ぎ澄まされた集中となって、空気を支配したからだ。



「さすがは皇帝の騎士、かな」

 視線だけ振り返ると、白に金糸のラインが入る正装で、C.C.が立っている。腰に下げられた警棒は、ブリタニアのパペットの中で皇帝に認められた証。

 ルルーシュ皇子の一の騎士である私でさえ、この場の武装は褒められたものではないというのに、普段は持ち歩かないそれを、さげている。

 左に並び立たれ、改めて舞台の上をみる。

 動きはまだない。お互い、構えたまま、間合いをはかっている。

「剣技だけで戦うような、高潔な人間か?お前の婚約者は」

「高潔も高潔。お坊ちゃまだもの」

「へぇ。顔良し、腕良し、家柄良し。いい男のようだな」

「まさか。性格は最悪よ。結婚なんて冗談じゃない」

 本当に。結婚なんて冗談じゃない。

 どんなに努力して、次代を担う皇子の片腕として一の騎士の椅子を射止めても、その数倍のスピードで、笑いながらこの男は皇帝の騎士になったのだ。嫌味以外の何者でもない。

 その上、面白がって貴族の女性をはべらせて遊ぶ癖がある。

「苦労するのが見えている男と、誰が」

「なぁ、カレン!!」

 舞台の上から、焦れたような声が投げられて、投げてきた相手を睨みつける。

 まじめそうに剣を正眼に構えたまま、スザクを越えて私を見ていた。

 視線が合うと、にんまりと嬉しそうに笑う。

「なぁ、殿下たちに便乗して、私たちも賭けをしないか?」

「はぁ?」

「私が勝ったら、一緒に教会に行って今日結婚しよう!」

「じょ、冗談じゃないわよ!あんた神聖な武芸会をなんだとおもってるわけ!?」

「殿下方が賭け事をなさってもいいなら、私たちの賭けが禁じられる謂れは無いだろう?」

 無表情だったC.C.の含み笑いが背後で聞こえた。

 私たちの応酬に、観衆がざわつきだしている。一瞬だけ視線を殿下の席に送る。

 …止めてくださる気配は無かった。いや、あの座り方は間違いなく面白がっている。

「いいだろう。私が見届け人になってやる」

「ちょ、C.C.!!!!」

「C.C.様が見届け人とは、光栄です」

 いけない。このままでは、話の流れが止められなくなる。

 ならいっそ。

「ちょっと待ちなさい!あんたにだけ美味しい話ってのはちょっとフェアじゃないんじゃない?」

「それもそうだな」

「こっちからもスザクが勝ったときの条件をつけさせてもらうわよ」

「あぁ、いいだろう」

 甘い。

 昔からそうなのだ。この男は、自分から口説く話術は巧みでも、他人の話術には抗えない。

 だから、しっかりと杭を打たねばならない。

「スザクが勝ったら、婚約を破棄すること。ただし、スザクは“力”をつかえないので、あんたも剣技一本で戦うこと」

「ふむ。ハイリスクハイリターン。いい条件だ」

 馬鹿だ。この男。

「うまいな、カレン」

「伊達にルルーシュ様の片腕はやってませんよ」



「スザク、速攻!!」

 カレンに急き立てられて、挑みかからざるを得ない状況に追い込まれる。

 場外で話がつけられ、この戦いが何故かカレンとジノの結婚を賭けた戦いになってしまった。

 元より負ける気はないが、結婚という甘い蜜をちらつかされて、目の前にいるジノの気迫が更に増した。

 スカイブルーの瞳が、冴えわたる。

 一瞬の重心移動さえ見逃さないように、今日一番の集中で、一投目を薙ぐ。

「甘い!」

 楽しむ余裕さえ感じられる速度で反射され、後ろに大きく一歩下がりながら右にかわされる。

 左に振りぬいた瞬間に右に入り込まれ、上段から叩き込まれるのを、なんとか返す刀で受け止める。

『重い!?』

 見た目以上に頑丈な細剣。刃こぼれひとつ起こさずに、細かい間隔で打ち付けてくる。

 カレンの剣の動きにも似ていたが、振り下ろされる際の衝撃が、比べ物にならないほど重いのだ。

 ものの10秒と連続では耐えられず、バックステップで間合いを取る。

 軽く息が乱れる激しさ。しかし、相手は口元の笑みを絶やさぬまま。

「この程度なのか?枢木スザクとやら。これは、祝勝会のキャンセル決定かな?」

 負けるという意味ではない。カレンと式を挙げるために、祝勝会を取りやめるといっている。

「ハンディをつけさせたんじゃないのか?」

「そのはずよ。スザク! ジノの動きをよくみなさい!!」

 カレンの怒鳴り声が聞こえてくる。

 息を整えて、再度剣をしっかりと構えなおす。

『相手は細剣…なら、やっぱりあれが!』

「うおおおおおおお!!!!」

 居合いの声をあげながら、自分自身を奮い立たせ、突進していく。

 今度は上段から、細剣自身に振り下ろす。初太刀の体重と勢いをこめた衝撃に、笑顔だった美丈夫の眉が寄る。

『いける!』

 細剣は、相手を翻弄させる細かい動きで、圧倒的な攻勢を続けられる間は、非常に有利だ。しかし、防戦になればなるほど、受けづらい形状が災いとなる。

 連続して数度打ち込むと、表情が硬くなる。

「いけー、スザク!!!」

 カレンの応援が聞こえる。

 ルルーシュがみている。

 勝てば、彼の望みが叶う。

 これで弾く。そう思って再び横薙ぎに剣を振るったそのとき。

「その程度で!!!」

 彼の怒号が、風を呼んだ。

 次の瞬間。



 僕の剣が、砕けていた。



『まずい、やられる…』

 柄だけを残して、砕け散った剣が、まだ地に落ちきっては居なかった。風に乱れ飛び、互いの肌を切り裂いていく。

 刀身が少しでも残っていれば、受けきることが出来ただろう。でも、一撃でふきとんだ剣にそんなものは残っていなかった。

 身をかわすには、あまりに懐深く入り込みすぎている。

 死を覚悟した。