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 渡された白いそれは、置き去りにされた私を今へと至らせる鍵だった。

夏を目の前に4話



 携帯電話には、非常に多くの機能がある。
 電話に始まり、メール、テレビ、ネット、ラジオ、等々…
 禁じられたはずの外との繋がりは、思わぬ形で自分の心に時を刻む。
 情報の洪水に投げ出されて3日。

 スザクは、戻ってこない。


「お前がいてくれて良かったよ、アーサー」
 猫とつつく甘いものの大軍は、なかなかの強敵だった。
 アーサーが逃げもせずに付き添っていてくれたおかげで、二人分の菓子をそこそこに食べきることができたわけで。
 そして、一人なら、下せるはずも無い結論を出せてしまったわけで。
「スザクが来たら、ちゃんとご褒美を出すように言うからな。猫だから、魚とかな…」
 手足に寄り添われ、甘えられる。それが少しうれしくて、少しくすぐったい。
 寒々しかったここも、そろそろ夏らしく多少は暑くなる頃だ。ただそれでも、朝晩の冷気は変わらない。
 それが、一匹の猫のおかげで、その寒さを感じなくなった。

 しかし。

 …無性に寂しくなった。
 日本に来てから、一度も寂しいなんて思ったことはなかったのに…
 だから気がついてしまうのだ。自分の居場所の意味に。
「…やっぱり、決断しなければならないんだな。私は」
 スザクのために。
 渡された道具が、どんな意図をこめられてのものだったのか、あまり理解せずに。



「スザク君ってば!アーサーどこに連れてっちゃったわけ?」
「それは…」
「ひょっとして、動物好きで有名な皇女殿下に献上しちゃったとか」
「逃げちゃったなら、早めに言わないとダメだからね、スザク君。明日から夏休みなんだから」
 学校で、生徒会の皆に囲まれる。
 テストあけの解放感と共に、封じられていたテンションが一気に吹き出していた。
 特に、生徒会長ミレイ・アッシュフォードは。
「明日から全寮制のうちも夏休み! 9月の終わりまで学校の大半が封鎖なのよ? アーサーが一人で帰ってきても、世話できないじゃない」
「いつもはミレイ会長が預かって帰るんですよね」
「そっ。どうせうちは敷地内だしね」
 理事長の孫娘であるミレイ会長は、休みで学校の施設が封鎖される間もクラブハウスの鍵を預かっている。勿論そこにはルルーシュとナナリーがいるから、完全無人というわけではないのだけれど。
「すみません、週末実家に一度戻ったんですが、そのときについてきちゃって…」
「珍しいわね。スザク君が帰省なんて」
 曖昧に頷く。
「枢木の実家って、租界のお屋敷じゃなくて、富士のあそこでしょ?」
「えぇ」
 苦笑して返すと、高校からの付き合いのシャーリーが首をかしげた。
「会長知ってるんですか?」
「一度呼ばれたことがあるんだけど…」
「もう5年以上前ですね」
「すごかったわよ。ブリタニア本国でもあんな敷地構えてる貴族はいない!」
 へぇ、とシャーリーのため息がこぼれる。
 ミレイ会長はブリタニアの元貴族だ。一応8年前まで爵位をミレイの祖父が持っていた。ルルーシュやそのお母さんの後見人をしていた人で、ルルーシュがブリタニアを出奔するのと同時に、爵位を返上している。今は悠々自適に学校経営をする傍らで、日本で資産家として再起を図っているらしい。
「でもあそこに行くのスザク君嫌ってなかった?」
「嫌ですよ」
「じゃあ何で戻ったのかな~?お姉さんはそっちが気になるな~」
 いずれはわかること。
 秘密にしてきたことが、彼女を苦しめている。
「婚約者が、出来まして」



『まさかお前が連絡をよこすとは思わなかったぞ、ヴィクトリア』
 顔は見えないが、声はあまり変わっていなかった。いや、少しは大人の艶が出てきているのだろうか。テレビでみかけた姉の姿は、昔より…
「連絡の道具を寄越したのは、枢木の人間です。私はそれを、少し使ってみただけです」
『リスクをとってでも連絡をくれたのは嬉しいが、…元気なんだろうな?』
 気遣わしげな声。
 躊躇いの混じったそれを、足元でじっと自分を見るアーサーを見下ろしながら、受け止める。
「健康ですよ」
 自虐的な響きにならぬように、そう聞こえぬように、声だけ笑わせた。



 夕方、ミレイ会長たちと別れて、ルルーシュと鞄を持って外回廊を歩く。
「ヴィクトリアの様子はどうなんだ? 携帯は渡せたのか?」
「行ってからあまり話ができないうちに呼び出されたから、渡すだけしか出来なかったけど」
「そうか、渡せたのか」
 ほっとルルーシュが安心したように笑う。
 携帯を持たせるように勧めてくれたのはルルーシュだ。
 毎週のように本領に戻り、自分の時間を上手く持てない僕を見かねて、携帯の買出しまで率先してやってくれた。
 何だかんだ言って、いいお兄さんじゃないかと思う。
「ケーキだけど、きっと食べてくれてると思うんだ。ちょっと量が多いとおもうけど……ヴィクトリア様も、一応ルルの妹だしね。ルルの作った手料理を残すとは思えないから」
「そんなかわいらしいやつじゃない」
 むっとするルルーシュ。
 苦笑して、彼の綺麗な顔を見つめる。
 本当にそっくりで整った顔。どんな表情をしていても、そして彼が男でも、好きになってしまった相手なのだと納得する。
 でも何故だろう。姫と接するようになってから、彼にあっているときも、姫に会っているときも、心のどこかが痛む。
 彼とのこの関係が、どう考えても許されるものではないとわかっていたはずなのに。
「ねぇ、ルル」
 足を止める。
 横を歩いていたルルーシュも、数歩先で足を止める。
 小首を傾げられて、西日の中の彼に真剣に問う。
「僕たち…僕たちの関係って、恋人、だよね?」
 友達じゃない。
 親友でもない。
 僕らは…
「あぁ、当たり前だろ?」
 答えとともにさわやかな笑顔を返されると、非常に心が安らいだ。
 僕も笑顔を返すと、ルルーシュも満足げに微笑んでいた。
「スザク。それで…」
「何?」
「大事な話があるんだ。ちょっと俺の部屋によっていかないか?」
 改まった話なのか、笑顔でわかりあえたはずの彼の声が硬かった。
 断る理由は無い。
 頷いて、手をつなごうとしたとき、携帯が鳴った。
 音楽を聴けばわかる。
 こんなときに、一番聞きたくない音だった。
「ルルーシュ、ごめん…いかないと」
 彼の笑顔が曇る。
「あぁ。呼び出しか」
「ごめんね?」
「いいんだ。早く行けよ」
 急かされて、駆け出しながら、着信に出る。
 彼がどんな顔で、立ち尽くしているのか、知らないまま…



『お前の決意が、無駄になっている状況には、心痛めている』
 黒の騎士団。
 出身不明の謎の指揮官、ゼロに率いられ、ブリタニアの保護を受けて立つ現在の日本政府を否定し、独立国家としての日本の創造を望む者。
 8年前の、自分の失敗が、日本の戦後に不穏な情勢を生み出している。
 こうなることも、想定していた。自分も、戦争を仕掛けることを決めた兄姉も。そのために、数段構えで兄は策を用意していたはずだ。
 でも、その策は一切とられなかった。
 父である皇帝が、その全てを認めなかったのだ。
「主義主張は、皆同じでは在りません。ブリタニアも、この国も。名前は残っても、その実を奪われた。そうなるように、最低限兄上たちは手を打ち、それを枢木は見落とした。気がつく者がいれば、腹を立ててもおかしくないでしょう」
『争いを肯定するのか?』
「そうではありませんが…私の贖罪は密約の中でのお話です。一般レベルで私がここにいることは、公表されていません」
『それは、そうだが…国同士の問題は解決したはずだ』
「国同士はそうかもしれませんが、人の心とは皆同じではありません」
 姉の問いかける調子自身は、昔と変わらない。
 そこに存在する厳格さは、何一つ。
『…変わらないな』
「姉上も。お変わりないようで、安心しました」
『私は、枢木がお前を約束通り幽閉しているのがわかって、少し腹立たしい気分だ』
 正義を貫くこと、王道の剣を体現しようと励む姉の思考は、彼女からすればもっともなものだった。
『今からでも、兄上や父上にお前のことをどうにかしてもらえるように手を回そう。そうすれば…』
「いえ、今日はそのようなことをお願いする為に連絡をしたのではありません」
 いらぬ気を回そうとしていた姉の言葉を、慌てて差し止めると、言葉には無い戸惑いが感じられた。
「枢木スザクのこと。姉上にちゃんとお願いしたくて、ご連絡を差し上げました」
 姉の怒りを買うことを、なんとなく予期していた。



 先日の成田での黒の騎士団の勝利。
 あれが、細々とながら日本を存続させてきた政府に、ひびを入れようとしていた。
「ランスロットの開発引き上げ!?」
 沈痛な表情のセシルさんが、呼び出した僕に向かってそう宣告したのだ。
「日本政府の方針転換で、開発援助がストップすることになってしまって…本国ではサクラダイトの関係で研究を続けるのが難しいから、こちらで続けられないかどうか、コーネリア皇女殿下に掛け合ってもらっているのだけれど…」
 どうなるかわからない。
 そう暗に言われて、落ち着かなくなった。
 しかし、ランスロット命であるはずの、開発主任がいないことに、違和感を覚えた。
「それで…その、セシルさん。ロイドさんは…?」
 恐る恐る聞くと、
「ショックで寝込んでるわ」
とあっさりと溜息とともに返され、彼女の苦労が思いやられた。
「まぁ、こういうことでもないとゆっくり休めないし、どうせ居ても役に立たないんだから休んでてくれた方が助かるんだけど」
 言葉尻から、そう深刻ではなさそうなので、頭を切り替えていくことにする。
「引き上げるとすれば、いつ頃になりますか?」
「このまま援助が止まると、何も実験できないから、すぐにでも引き上げたいってロイドさんが言い出すと思うのよ。勿論、向こうで開発が続けられる目処が立てばの話よ」
「立ちそうなんですか?」
「コーネリア皇女殿下は勿論、第二皇子のシュナイゼル殿下もランスロットには期待してくださってるし、デヴァイサーの件がどうにかなれば、向こうでもなんとかなるかもしれない。でも…元々その件もあってこちらに来たわけだし…」
 ランスロットの企画が上がった際、ロイドとセシルはデヴァイサーを求めてブリタニアのあらゆる方面に、最適な人材を探して回った。そんな中で、半植民地状態の日本の、僕のところにお鉢が回ってきたという経緯がある。
 勿論サクラダイトが豊富に存在するという環境も、それを後押しした。
 事実上、彼らの研究はここでしかできないし、自分にしか手伝えないのだと、思っていた。
「…父に、お願いしてみます」
「でも…」
「このまま、ランスロットが僕にしか乗れない機体のままじゃ、量産はできません。研究を援助したのは、量産配備時を見越してのことのはず。なら、打ち切りはお互いの為にならない」
「スザク君…」
 それに、ここでブリタニアとの交渉の足がかりを作れば、姫のことも何か良い方向へ動いてくれるかもしれない。
 それはさすがにセシルには言わなかったが、今ランスロットの研究が、自分のかかわりの無いものになってしまうことに、個人的な危機感を感じていたのは確かだった。
「お願いしても、いいのかしら?」
「はい。確約は出来ませんが、自分にも、出来ることをさせてください」
「…じゃあ、お願いね。私は、ロイドさんの様子を見てくるから」
 セシルが出て行った後。狭い研究室の、ガラス越しにおかれたランスロットを見上げる。
『出会うまでは、どうにかできる力が欲しいなんて、思わなかったのに…』
 ランスロットのことは、きっかけは親友であり後に恋人となった彼の頼みだった。でも、手伝うと決めたのは自分だった。
 もう二度と、この国が無用な戦火に焼かれることが無いようにと。そう願って、協力をはじめた。
 でも今は…
『好きな人たちを守る力が欲しい…』
 軍という暴力的な力でも、そこで名を成すことで、少しでも守れるのならば。
 平和を望む心と、矛盾していても。



『…わかった。お前がそう望むなら』
「すみません。ワガママなお願いを…」
 長い説得だった。自分のことを差し置き、他人のことを頼もうとする妹に、怒りを露にした姉は、切々ともっと自分のことを考えろと説教をはじめたのだ。
 しかし、理由をきっちりと話すと、姉は言葉に詰まった。そして、最後には自分の願いに従った。
『枢木ゲンブがお前に執着するのは、そういうことか…』
「彼には、黙っておいてください」
『わかった、ということにしておく。ヴィクトリア。出来る限りのことはするよ。だから、たまにでいい。ちゃんと連絡しなさい』
「わかりました。姉上こそ、お気をつけて」
 短く別れを告げる。
 元気で、ではなく、気をつけて。
 戦場に身を置く彼女に向けた、別れの言葉。
 電話を切ってから、ずっとその場を動かなかった。
「話して、しまった。姉上に…」
 言わなければ、義理堅く情にもろい姉が折れることは無かった。
 でも、出来うるならそのことは、その事実は、ブリタニアの人間に伝えたいものではなかった。
 伝えれば、自分の罪が、酷く色褪せてしまいそうで、怖かった。
 でも、伝えてしまった以上、この道はもう引き返せない。
 最後のその瞬間まで、償い続けなければならない。



本編とのリンクとすると、前回と今回の間にナリタでの戦いが入っていると思ってください。まぁ、色々な人の役職や情勢が異なるので、若干違いはあるのですが。。。

本編自体は、夏場とは思えないわけですが、R2最終話の会長とリヴァルの会話の前後に雪の描写があったので、それを冬と置くと、シャーリーの死亡前の服装とかが丁度9月~10月くらいで、その前の学園祭が9月頭(だって8月だと学校ないじゃないですか)。R2自体のストーリー内時間は9月だとおもって書いてます。
その一年前なので…実はスザクの誕生日後、8月にブラックリベリオンだったのじゃないかなーと。。。


絶対暑いだろうけど!


きっとトウキョウ租界は全域に冷房が…

だってカグヤちゃんとかカレンは薄着じゃないですか…

そういう話はさておき。

コーネリア様はかいていて面白い!

まっすぐなところが清清しい!!!


本編では幸薄い方でしたが、三十路になるまえにギルフォードが幸せにしてくれると信じてます!