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騎士にとっての剣は、獣にとっての牙に等しい。

決して高潔なものではなく、誰かを屠るための道具。


偽りの牙



「さすがにまだ、風が冷たいな」

 洋上の戦艦。その甲板に出た彼女は、強い風に吹かれて、硬いコートをなびかせていた。

 立てた襟は、重々しい禁色の紫。ナインのエニアグラム卿も紫だが、ヴィクトリアのそれは藍にも近い暗さだった。

 はためくコートから、白い騎士服が見えるのが、くっきりとコントラストを演出している。

「滑らないように気をつけてね。ヴィクトリア」

「煩いな。子供じゃないんだぞ、私は」

 そういう割に、時化の波しぶきを楽しげにみている様子は、やけに子供っぽい。

『そういえば、ルルーシュもこういう自然現象を前にすると楽しそうにしてたっけ…』

 甲板の柵に捕まりながら、すいすいと歩いていくのを、おとなしくついていく。

 時折風に煽られて足を止めているが、滑って転ぶようなこともなく、強風の中をもろともしない。

 つい数日前に倒れたばかりだというのに、この体力の復活の仕方は、間違いなくルルーシュではありえない。

 でも…

『ルルーシュにもこれくらい体力があったら、一緒にあちこち回れるのになぁ…』

 驚異的な回復力と、自分に勝るとも劣らぬ運動能力を見せられると、どうしてもふつふつとかつての恋人に対する不満というか…こうであったらいいのにという希望ばかりがわきあがってくるのだ。

 何も知らぬヴィクトリアには悪いが、釈然としないものがそこにあった。



『不機嫌だな』

 誰が、とは勿論後ろをついてくる同僚が、だ。

 時化る海を航行する戦艦の、甲板に出て散歩すると言ったときに一瞬見せた青い顔を忘れてはいない。

 危ないことをさせたくはない、ということなのだろうが、そのあとの歯切れの悪い対応を見る限り、どうやらそれだけではないようだ。

 この間“ぼろを出した”時から、スザクの様子がおかしい。

 心配させたから、私を見る目が変わったのかと思ったが、そうではない。そうではなかった。そう、気がついた。

『見る目が変わったのは、私じゃなく、ルルーシュ』

 スザクが、自分になびきかけている証拠だとすれば、いい傾向であると思う。

 弱みを見せることが自分をルルーシュに近づけるのであれば、ルルーシュがどれほど弱弱しい存在かがわかる。

『強くあらねば』

 強くあることで、彼を遠くへ追いやることが出来るなら。

 波しぶきを浴びながら、甲板に歩を進めていた私の背後で、スザクが足を止める。

「どうした?スザク」

 振り返って声をかけると、スザクは一瞬動きを完全にとめた。

 始終揺れる甲板で動きを止めればどうなるか…




「あぶない!」

『え?』

 惚けていたんだろう。

 かなり高い波に揺られた拍子に、僕は海へと投げ出されるところだった。

 とっさに手がさし伸ばされる。

 見上げたアングルが、どこかで見た光景。

 確かあの時、落ちようとしていたのは彼で。僕が手をさし伸ばそうとしていた。

 長い髪をきれいに編みこんでいて、ぱっと見たシルエットがあのときの彼にダブった。

 だからだろう。

 がむしゃらに、つかまねばならないと思ったのは。



「まったく、どっちがお目付け役なんだか…」

 結局二人して(というよりはスザクの方がひどく)海水まみれになってしまい、散歩の続きどころではなくなってしまった。

「すみません…ぼうっとしてしまって…」

「…まぁ、いい。海に落ちなくて良かった」

 ラウンズが乗れるだけの装備がある旗艦ではあったが、居住空間は旧式で、シャワールームは最低限、士官クラスと一兵卒の区別がある程度でしかなかった。

 そんな場所だから、男だろうが女だろうが、気にもしていられなくて。

 冷たい春先の海水をあびたままのスザクを外で待たせるわけにも行かず。

 シャワールームのついたてを挟んで、二人並んでいたりする。

 編みこんでいた髪をやっとの思いでほどくと、シャワーの音に瞳を閉じた。

「スザクは、」

「はい」

「ユフィの騎士…だったんだよな」

「…はい」

 踏み込んでほしくない、心の痛い場所を突いている自覚があった。

「何故胸を張らない?ユフィは確かに国益に反することをしたかもしれない。だが、お前がユフィの騎士であったことに変わりは無いだろうに」

「最後まで、お守りすることができませんでした。自分は、最も近くに居るべきでした。皇女殿下を止めるべきでした。そして、銃弾の盾になるべきでした」

 湯気とついたての向こうで、スザクがどんな表情をしていたかはわからない。

 けれど、確信があった。

『慰めれば、泣くな』

 妹と同じように、真綿に包んで。

 兄であるか弟であるかわからない彼のように、隣に寄り添えば。

 この男に首輪をつけるのは簡単だ。思い出の中の二人を、時々に自分のなかに見せればいい。

 だが、それを是としない自分がいた。

「こういうのは、不謹慎かもしれないが」

 わざと明るい声を出してみる。

「私は自分が狂ったとして、銃弾に倒れようとした自分をジノが庇えば怒るぞ」

「え…」

「どんなに狂ったと思われようと、自分の進む道に決着をつけるのは自分だ。自分が味わうべき痛みに、身代わりを差し出すなど、誇り高きブリタニア皇族の行いではない」

 皇族。

 自分があのままであったなら、今こうして腹を立てたりはしない。

 どんな形であれ、私はあの華やかな舞台を去り、死臭ばかりの戦場へと住処を移したのだ。

 ユフィのように、蝶よ花よと美しいものだけ見てきたわけでもない。

「ユフィはユフィなりに、自分の一生を生きた。後ろ向きになるな」



『どうして、ブリタニア皇族はこんなにも強いのだろう』

 ついたての向こうを凝視しながら、優しかったユフィや、幼馴染となったルルーシュのことを考える。

 ユフィは、ギアスにかかった。最後まで、平和な世界を祈りながら、日本人を殺戮せよというギアスに縛られ、綺麗な翼は崩れ落ちた。

 そして、ギアスをかけたルルーシュは、神根島で仮面を割るまで、一人で全てに嘘をつき続けていた。嘘をついてでも、前に進もうとしていた。

『そして…僕がその嘘をはぎとった』

 皇帝の前に跪かせて、記憶を奪い取る。

 あれから彼がどうしているか。何一つ聞かされては居ないけれども、皇帝の監視下にあり、新しい…優しい場所に居るんだと信じている。

 本心は優しい君が、牙をむかずに済む世界を、僕が作るんだと、決意して。

「…後ろ向きなんじゃないですけど」



「ユーフェミア皇女殿下が優しい方だったってことを、忘れてはいけないんです。僕だけは…最後まで信じていたいんです」

 髪から海水の匂いが消える頃に、ようやくスザクが言葉を紡ぐ。

 石鹸の泡が髪を滑り落ちていく間、ついたてを凝視した。

『成る程。筋金入りの“盾”だ。ルルーシュが側に居なければ、日本制圧も危うかったか…』

 まっすぐな声がふりかかった瞬間の、あの力。

 魂を震わせてくる力。

 巨大な力…8年前の日本制圧戦の少し前まで、自分がねじ伏せるのだと、遠くブリタニアからにらみを利かせた初めての戦う相手。

 神の名を持つ男。

 偽りの牙で、ラウンズまで上り詰めた男。

 同じ偽りで喉笛にかみついたらどうなるだろうか。

 無為なことを思いついているのに気がつき、虚しくなる。

「そうか…信じてやれ。お前の主を」

「はい」

 自分には、そうして信じられる相手も、偽りに奮い立たせる思い出も、なにもないことを思い知らされる。





とりあえず、ヴィーとスザクの…ちっとも色っぽくないシャワーシーン。

だってねぇ、色々描写したら押し倒すしかないじゃない!

ヴィーはそんな粗野な子じゃないしね…スザクにリードさせるわけにもいかないしね…


軽く、二人きりにしてみたら、書き手すら思いもよらぬ方向に転がっていきました。

ルル出てくるんでしょうか…

そして、ジノスザのはずなのについにジノが出てこない(;゜д゜)

ジノ書きたいよ…スザクにいいこいいこされるジノが書きたい…