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スザルルで真空のダイアモンドクレバス



 雪にはまだ暖かすぎて、窓を叩くのは控えめな雨の音だった。

それでも、わずかに曇り始めた窓に舌打ちをして、キャビンを乱暴に開け放った。

「スザク?」

 多忙な中、天候不順で公務がひとつキャンセルとなり、久々にゆとりというものに出会っていたルルーシュは、僕の急変に少し驚いているようだった。

 相変わらず、自分のことには鈍いのだ。そう眉を寄せて、キャビンからケープをとりだして、彼の肩にかける。

「冷えてまいりましたので」

「あぁ。助かる」

 控えめにそう言ってはいるものの、元々低体温のルルーシュだ。ケープ一枚で足りるとは思えない。

 しかし、常よりはゆったりととはいえ、政務の最中。執務室をギアスのかけられた事務官が、何人も出入りしている。

「陛下」

「なんだ?」

「顔色が優れないようですので、今日の政務はここまでにしましょう」

「は?」

 丁度事務官がでていくので、足早に追いかけて入り口に内側から執務室を締め切ってしまうと、さすがにルルーシュは、怒った。

「スザク!いきなりなにを…っ」

 その怒りさえ押さえ込むように強引に、ナイトオブゼロのマントの中に包み込む。頭をかき抱くようにうなじに手を添えると、案の定、その首筋は冷え切っていた。

「…冷たい」

 うなじから輪郭をなぞり、頬を両手で包むと、真っ白だったルルーシュの頬はうっすらと朱に染まった。

「お前、が、体温高すぎなんだ…」

「基礎体温が低いのはいいけど、それならそれなりに暖かくしなきゃね」

 昔からそうだとはいえ、この状況になってようやく、彼の危うさを再認識していた。

 自分の事を顧みない。既に数ヵ月後には世界に命を捧げる決意を持っているとはいえ、そこにたどり着くまでに死んでしまっては何にもならない。

 そんなことは、とっくに彼もわかっているはずなのに。

「と、とりあえず、何か着るから、離せ…」

「嫌だ」

 顔を胸にうずめさせて、その血の気の感じられない頬が温まるようにぎゅっと腕で閉じ込める。

 殺すつもりでいた時期もあったのに。こうして心が通い合えば、何にも増して愛おしく、大切な存在。

 散らしてしまうには惜しい命。

 少し冷やしただけでも、稀有な美しさが損なわれるかと思うと、ぞっとする。

『僕には…死ぬなっていうのにね』

 彼がいたから、ギアスをくれたから、僕は今ここで生きている。彼を愛している。

 彼のために、世界のために、出来る最善をしようとしている。

 でも…それは、最後の幕引きは……


「ルルーシュ」

 おとなしく腕の中で黙っていたルルーシュが、身動ぎし、顔を上げる。

 少し怯えたような顔。

 強張りを解くように、ついばむようなキスをいくつも降らせると、ようやく皇帝の仮面を脱いだ。

 困ったような、ただのルルーシュの微笑み。

「ルルーシュ」

 再び呼びかけると、視線でなんだと返してくる。



「君がいたから、君だから、僕は今ここにいる」



「好きだよ。ルルーシュ」