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震えが止まらない。

何故か、わからない。


夏を目の前に 7話



 腕の中の、ただ抱きしめられているだけだったアーサーが、顔をあげた。

「どうしたの?」

 じっと外を見ている。

「何か、あるの?」

 微動だにしないアーサーの視線。

 不安になった。

 そのとき、携帯が着信を告げる。

 ディスプレイに映っていた通話の主は、非通知だった。

「…はい」

『ヴィクトリア・ヴィ・ブリタニアだな?』

 聞き覚えのない、低い声が、自分の名を断定するように言った。

「そうですが、どなたでしょうか」

『私は……ゼロ』

 携帯を落とさないでいられたのは、奇跡だった。

「ゼロ…!?」



 うろたえている彼女の声。

 元々高い声ではなかったが、アルトの落ち着いた声が不安がる様に、ほくそ笑む。

「初めまして、皇女ヴィクトリア。いきなり電話をかける非礼を許していただきたい」

 ナイトメアの中で、チェスの駒を手で玩びながら、電話越しの話を続ける。

『どうして、貴方が私の電話を…』

「私は、奇跡を起こす男。しかし、貴方の携帯の番号を調べる程度、奇跡ではない。造作もないことです」

 あくまで紳士に。あくまで、好意的に。

 ゼロの態度を“演技”する。

「皇女ヴィクトリア。私ついて、どの程度までご存知なのか、伺ってもよろしいですか?」

 電話の向こうで、困惑しているのか、彼女の返答は少しの間をおいて返された。

『現日本政府と、ブリタニア関係者に対し、独立を求めるテロリスト、と伺っています』

「成る程。報道レベルのことはご存知か。なら、話は速い」

 外のことを何も知らないか、スザクに色々と自説を吹き込まれていれば、対応を変えざるを得なかった。

 一番オーソドックスな確率に落ち着いたことに、深い笑みを浮かべた。

「私は日本を、そして貴女の処遇を憂いている」



「私の処遇に?」

 テロリストであるはずのゼロから、そんな言葉を言われて、首を傾げた。

 最も、そう考えるのに遠い人物だと、思っていたからだ。

「何か勘違いをされてはいないでしょうか。私はブリタニアの皇女。それに、日本から事実上の独立を取り上げた、きっかけをつくった張本人です。貴方が、憂いを覚えるのは、筋が通らない」

『筋。成る程。貴女はそう考えられているのですね』

 困ったな、とさも困ってなど居ないようにつぶやかれて、困惑は深まった。

「貴方と貴方の率いる黒の騎士団は、日本の独立のために、ブリタニアを憎んでいると聞いています。だから、シンジュクで兄クロヴィスを討ったのではないのですか?」

『確かに、クロヴィスを討ったのは私だ。だが、貴女を討つつもりはない』

「…どういう意味です?」

『貴女は、日本の独立のために、必要な方だからですよ』



『どういう、意味です?』

 意味がわからないと言いたげに、問い返す彼女に、笑いを抑えるのが必死だった。

 簡単に揺さぶられる、愚かな子供。

 昔は自分と鏡に写したように賢く、言葉の掛け合いを楽しんだものだが、外と触れ合う機会がなかったことが、これほどまでに差を生むとはおもってもみなかった。

「先ほども言ったとおり、私は貴女の処遇を憂いている。貴女ほど真摯に罪を認め、罰を受けることを躊躇わないブリタニア皇族を、私は他に知らない。高潔な貴女が、何故このような地で、正統な評価もなく、本来の罰も知らずに囲われているのか」

 当時子供であったヴィクトリアが、法の裁きを受ければ、それは子供であったことを理由に、ほとんどの罪を免れるだろう。

 しかし、それを許さずに囲い、永遠に贖罪の日々を送れと、冷酷な檻に入れる私刑を下したのは、枢木玄武そのひと。

 本来の、罰し方ではないのだ。

 それを、ゼロであるルルーシュ個人が憂いていることは、全くないわけだが。

「私は、貴女に正統な罰を届けに来ました」



 罰を届ける。

 先程からわけのわからない理論を展開する相手に、私は冷静になれと心に念じながら、反論する方法を考えていた。

「貴方の考える罰とは、私が国際法廷で戦争責任を問われることでしょうか?それなら無駄なことです。私は残念なことに、国際法で罪を裁ける年齢ではなかった。実際に命令を実行した将校たちであれば、話は違うと思いますが」

『そう。貴女を現状下で裁くことは不可能だ。だが、倫理上の問題を成人した貴女に問うことは可能なはずだ。幸い貴女は、私とこうして対等に論理を戦わせることが出来るほどに賢いようだ。しかし、枢木首相は、そして貴女の婚約者である枢木スザクは、それをしようとはしない。貴女は、それを考えたことがありますか?』

「いえ…」

 賢い。

 電話の相手は、今の自分ではまるで歯が立たないように思えた。

 外の世界を知っている。社会というものを知っている。

 人の営みから隔絶されて生きてきた自分など、きっと手のひらの上で転がすようなものなのだろう。

 だから、注意深く疑った。

「貴方は、それが何故だと考えたのですか?」

 相手は、至極淀みなく、用意していたように答えをひらめかせた。

『二人とも、貴女を利用しようと思っているからですよ』



 ナイトメアの中から、リビングで携帯を片手に固まっているのがよく見えた。

 しかし、慌ててはいけない。

 相手を罠に誘い込む為に、まだ…まだ足りない。

 徹底的に、スザクを憎み、このぬるま湯の檻の中から、格子を自分から蹴散らして、飛び出すまでは。

『枢木スザクが、私を利用する?』

「信じたくはないと考えても仕方がないでしょう。貴女の前で、枢木スザクは父親とは全く立場が違うように“演じている”。しかし、それは罠なのです」

『罠?』

「そう、幼い頃に受けた戦争の衝撃と、それを非難し完全に否定しようとする枢木ゲンブの言葉。これらに傷つき、冷え切った貴女の心を、意図的に暖め、信用させようとする。事実、貴女は枢木スザクを信用している」

 スザクを貶めるような言い方には、心が痛まないわけではなかった。

 ただ、客観的に見る角度を変えてやれば、スザクのその行動はヴィクトリアの心を手に入れないはずがないもの。

 派手な女性関係を持っていたスザクの過去を知っていれば、尚のこと、自分が遊ばれているか、利用されているだけだということはすぐに結びつく。

「実際、貴女だけでなく、ユーフェミア皇女も、枢木の罠にかかっていることをご存知か?」

『何?』

「彼女も、枢木スザクに近い皇女の一人。最近では、ナイトメア開発の資金打ち切りに反対し、帝国軍の予算枠から、かなりの額を彼の試作機に拠出させる根回しをしている。その上で、彼女が枢木スザクを専任騎士にするという噂がある」

『ユフィが…そんな馬鹿なこと…』

 そう。ユーフェミアの存在が、彼女の背を押すはずだ。



 知らないはずがないのだ。

 ユフィとて皇族の一人で、契約については幼い頃より教えられてきているからだ。

「いかなる人間も、皇族と結ぶ契約は、唯一絶対…それをあの子が知らないはずがありません。それは嘘です」

 私との契約と、ユフィとの契約が、同時に成立することはありえない。

 それは、皇族の内規に取り決められており、いかなる国籍の者であっても、それに違反すれば死罪。

『貴女の婚約と、ユーフェミア皇女の騎士契約。同時に成立しないことをわかっていて、枢木スザクはユーフェミアの騎士になろうとしている。おそらく、ゆくゆくは貴女との契約を正式には打ち切り、別の形を取り繕ってこの地に貴女を縛りつけ、口先では貴女に愛を囁き続けるのでしょう。貴女が気がつかなければ、ここは劇場も同然』

「私の人生は騙されたまま気がつかずに死ぬか、気がついて絶望の一生を送るか、二択というわけですか。枢木には、痛くもかゆくもないシナリオだ…」

 自分さえ騙せれば、スザクは綺麗なユーフェミアに仕え、名誉と今以上の富を手にする。ひょっとしたら、そのまま彼女と結婚し、幸福な家庭を築くこともありうる。

 自分を、この冷たい場所に閉じ込めて、時折暖めるフリをするだけで、何のリスクも負わずに、ヴィクトリア・ヴィ・ブリタニアという危険分子を世界から遠のけておける。

 こんなシナリオを準備したのは誰なんだろうか。枢木が自分から?ユーフェミアが独断で動いた偶然?それとも、自分が連絡をしたコーネリアが良かれと思い?

 それとも…

「でも、そのシナリオ。貴方個人が私に聞かせる為だけに創作した物語、という可能性もあるわけだ」

 足元はぐらついていた。

 身体は恐ろしいほど冷えていた。

 それでも、自分のどこかが警鐘を鳴らしていた。



 信じるな、と。



「ゼロ。貴方は外に詳しい。だから、私より賢い。でも、私はだから、貴方を信じてはいけないと、思う」

 何も知らないから、まずは疑う。

 相手に信用があるわけでもない。まして、相手はテロリスト。枢木を貶める為なら、ひょっとしたら嘘をつくかもしれない。

 自分を騙すのは、スザクではなく、電話の相手かもしれない。

「枢木スザクが、手放しに信用できる人物ではないことはよくわかりました。でも、だからといって、それは貴方も同じこと。面識もないテロリストの言葉を、鵜呑みにするわけにはいかない」

 決然とした態度でそう言い切ると、相手はわずかに残念そうなため息を漏らした。

『そうですか。残念です。貴女とは、理解しあえると思ったのですが』

 そのまま電話を切ってくれればいい。

 うずくまりたい衝動を必死に耐えながら、電話の向こうに、沈黙で答える。

『では、“生きていれば”、またご連絡を差し上げます』

「え…?」

 電話は唐突に途切れた。

 そして、その次に、沈黙ではなく爆音と衝撃が我が身を襲った。






恋するルルーシュは怖いさ~~♪

や、自分でも途中まで書いていて着地点が目指せるのか怪しかったわけですが。

ルルの話術を再現できているのでしょうか?怪しいです。


そして、殺意山盛りの襲撃。

スザクがかっこよく駆けつけてくれますかね?

ってか、ルルーシュは彼女一人殺すためにわざわざ本領まできたのでしょうか?


待て、次回(えっ