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*趣味 第32話部分リプレイ:星の瞳
ユスッパ。幾百もの塔、星へとつながる塔の立ち姿を遠目に、カルは港湾部の雑踏にいた。
ヤーナファルターニルズ、イリピーオントールにユーライジルの照会をしてみたものの、手がかりとなるような話は聞けなかった。
単なる異邦人でしかないカルの立場でそれ以上何かを引き出そうとすることはできない。
あてどなく街を彷徨いながら、時折空を見上げる。
抜けるような冬の青空の向こう、カルの目には夜の天蓋と星が見える。
もしかしたら、これは何か意味のあることなのかもしれない。
しかしカルにはわからない。
よう、兄さん。浮かない顔だね。
細見の長身。元の色もわからぬほどまだらに染め上げた髪を腰の後ろでたばね、パンキッシュなスタイルに星の銀をあしらった無数のアクセサリー。
そういうときは酒とクスリに限るさ。遊びにきなあ。
馴れ馴れしく肩を組んで顔を近づけてくる。
どこかで見た気がする。だけど思い出せない。
男は渋るカルをなんやかやと煙に巻きながら、地下酒場へと導いていく。
闇の中、無数のろうそくの明かりでたゆたう布の陰。
布の間をよろめき歩く彼に、ポルちゃんとかドクターポルと嬌声を挙げて酒場雀達が群がる。
占って!とか、一緒に飲んでいい?と絡みついてくる娘たちを手慣れた様子で捌くと、幾重ものカーテンの陰になったソファークッションに身体を沈めた。
ほら、座りなよ。
彼は粉の盛られた金属製の皿を燭台の上に置くと、ほとんど寝ころぶようにクッションに沈み込んだ。
カルはきょろきょろと周りを見回しながらクッションに腰をおろし、彼のことを思い出そうとする。
彼は占い師なんだろうか。
女の子を探してるんです。ご存じないですか。
ユーライジルといって……
彼は盃を軽くあおり、天井を見上げて目を細めた。
しばらくして首を起こしてカルを見つめる。
見えるかい?
悪戯っぽく笑う男に促されるように天井を見上げるカル。
天井の向こうに重なる天空の深淵と囁く星たちは、いま、カルに何も告げてはくれない。
貴方は……、何を知っているのですか?
数瞬の間。
俺は、そうだなあ……俺は何も知らない事なら知ってんなぁ
揺らめく世界。ろうそくの明かりのせいなのか、強く漂い始めた甘い香りのためなのか。
カルは自分の体に強い緊張と弛緩を同時に感じた。
足元の深い、深い、世界の中点から、天井の星へと透明な糸が張られたような感覚。
自分が世界に縫いとめられるような、世界が自分から湧き広がっていくような冷たさと熱さ。
目の焦点の定まらないカル。
彼はどこからか黒ずんだ銀の鎖を出すと、テーブルの上の黒い羅紗にさらさらと落とした。
悲しいねぇ。
ユーライジルのもののように見えるその鎖は、鎖の半分以上が黒錆に覆われてしまっている。
カルの目には、まるでその黒錆が血のように映る。
美しいねぇ。
鎖を人差し指の先でテーブルにこすり付けるようにもてあそびながら、陶然と酒を口に運ぶ。
不意に憤りを感じたカルは、珍しく強い語気でどこにともなく言葉を投げつけた。
「それは受け入れられません!」
カルは鎖を手に取ると、拳に握りこんで見つめた。
「彼女を救いたい。」
「確かに良い趣味とはいえないわね」
背後から高く造った声。
影が揺れて、ゆるやかな白いローブドレスを身にまとった女性──いや、おそらく男性──が、艶めかしげな仕草でDr.ポルとカルと三角形を作るように腰を降ろす。
彼女を見たDr.ポルは、おどけた笑みを浮かべてカルに鎖を渡すように手を出した。
ふう、と一つ息を吐くと、彼の顔から道化の仮面が消える。
彼が盃にゆっくりと鎖を沈めていくと、乳白色の液体に赤黒い染みが広がってゆく。
「貴方がユーライジルについて知っている事があれば教えてください。
彼女を助けるにはどうすればいいんでしょう。」
「……代償が、いる。
決まっていることを覆すには、相応の。
一人の命には一人の命。それともはるかに多く。
そして、力も──運も。」
Dr.ポルの言葉に、カルは思わずユーライジル以外に思いを馳せる。
「他にも、こういう子供たちがいるんですか。」
Dr.ポルはちょっと驚いた顔をして女性と目を見かわすと、また道化の口調に戻った。
「俺の仕事は出逢うことで識ることじゃねーわ。」
よくわからないが納得した顔のカルの目の前で、彼が黒い羅紗を広げ直し、ネックレスからゆっくりと糸を引き抜いてゆく。
ぽろん、ぽろ、ぽろろろん
羅紗の上に赤黒い粒、その中に一筋、数少ない光が星座のようにまたたく。
またたきは同じようでいて、いまこのときにも消えて、再び光らぬ点が増えてゆく。
無言でそれを見つめる三人。
Dr.ポルが指の先で一つづつ指し示すように光を追ってゆく。
細い。本当に細い道。今にも切れそうな飛び石。
「まだ、道はある。」
カルには、見えない。
だけど諦めるわけにはいかない。
「私は私のできることをやりましょう」
女装の麗人はゆったりと立ち上がると、再び布の陰へと歩み去った。
カルは鎖の粒を拾い集めると左手に握り締め、立ち上がった。
「僕は彼女の元に行かないと。」
Dr.ポルが悲しげに微笑み、目を閉じる。
彼が目を開けたとき、カルの姿はなかった。
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*趣味 第32話部分リプレイ:星の瞳
ユスッパ。幾百もの塔、星へとつながる塔の立ち姿を遠目に、カルは港湾部の雑踏にいた。
ヤーナファルターニルズ、イリピーオントールにユーライジルの照会をしてみたものの、手がかりとなるような話は聞けなかった。
単なる異邦人でしかないカルの立場でそれ以上何かを引き出そうとすることはできない。
あてどなく街を彷徨いながら、時折空を見上げる。
抜けるような冬の青空の向こう、カルの目には夜の天蓋と星が見える。
もしかしたら、これは何か意味のあることなのかもしれない。
しかしカルにはわからない。
よう、兄さん。浮かない顔だね。
細見の長身。元の色もわからぬほどまだらに染め上げた髪を腰の後ろでたばね、パンキッシュなスタイルに星の銀をあしらった無数のアクセサリー。
そういうときは酒とクスリに限るさ。遊びにきなあ。
馴れ馴れしく肩を組んで顔を近づけてくる。
どこかで見た気がする。だけど思い出せない。
男は渋るカルをなんやかやと煙に巻きながら、地下酒場へと導いていく。
闇の中、無数のろうそくの明かりでたゆたう布の陰。
布の間をよろめき歩く彼に、ポルちゃんとかドクターポルと嬌声を挙げて酒場雀達が群がる。
占って!とか、一緒に飲んでいい?と絡みついてくる娘たちを手慣れた様子で捌くと、幾重ものカーテンの陰になったソファークッションに身体を沈めた。
ほら、座りなよ。
彼は粉の盛られた金属製の皿を燭台の上に置くと、ほとんど寝ころぶようにクッションに沈み込んだ。
カルはきょろきょろと周りを見回しながらクッションに腰をおろし、彼のことを思い出そうとする。
彼は占い師なんだろうか。
女の子を探してるんです。ご存じないですか。
ユーライジルといって……
彼は盃を軽くあおり、天井を見上げて目を細めた。
しばらくして首を起こしてカルを見つめる。
見えるかい?
悪戯っぽく笑う男に促されるように天井を見上げるカル。
天井の向こうに重なる天空の深淵と囁く星たちは、いま、カルに何も告げてはくれない。
貴方は……、何を知っているのですか?
数瞬の間。
俺は、そうだなあ……俺は何も知らない事なら知ってんなぁ
揺らめく世界。ろうそくの明かりのせいなのか、強く漂い始めた甘い香りのためなのか。
カルは自分の体に強い緊張と弛緩を同時に感じた。
足元の深い、深い、世界の中点から、天井の星へと透明な糸が張られたような感覚。
自分が世界に縫いとめられるような、世界が自分から湧き広がっていくような冷たさと熱さ。
目の焦点の定まらないカルの前で、Dr.ポルはどこからか黒ずんだ銀の鎖を出すと、テーブルの上の黒い羅紗にさらさらと落とした。
悲しいねぇ。
ユーライジルのもののように見えるその鎖は、鎖の半分以上が黒錆に覆われてしまっている。
カルの目には、まるでその黒錆が血のように映る。
美しいねぇ。
鎖を人差し指の先でテーブルにこすり付けるようにもてあそびながら、陶然と酒を口に運ぶ。
不意に憤りを感じたカルは、珍しく強い語気でどこにともなく言葉を投げつけた。
「それは受け入れられません!」
カルは鎖を手に取ると、拳に握りこんで見つめた。
「彼女を救いたい。」
「確かに良い趣味とはいえないわね」
背後から高く造った声。
影が揺れて、ゆるやかな白いローブドレスを身にまとった女性──いや、おそらく男性──が、艶めかしげな仕草でDr.ポルとカルと三角形を作るように腰を降ろす。
彼女を見たDr.ポルは、おどけた笑みを浮かべてカルに鎖を渡すように手を出した。
ふう、と一つ息を吐くと、彼の顔から道化の仮面が消える。
彼が盃にゆっくりと鎖を沈めていくと、乳白色の液体に赤黒い染みが広がってゆく。
「貴方がユーライジルについて知っている事があれば教えてください。
彼女を助けるにはどうすればいいんでしょう。」
「……代償が、いる。
決まっていることを覆すには、相応の。
一人の命には一人の命。それともはるかに多く。
そして、力も──運も。」
Dr.ポルの言葉に、カルは思わずユーライジル以外に思いを馳せる。
「他にも、こういう子供たちがいるんですか。」
Dr.ポルはちょっと驚いた顔をして女性と目を見かわすと、また道化の口調に戻った。
「俺の仕事は出逢うことで識ることじゃねーわ。」
よくわからないが納得した顔のカルの目の前で、彼が黒い羅紗を広げ直し、ネックレスからゆっくりと糸を引き抜いてゆく。
ぽろん、ぽろ、ぽろろろん
羅紗の上に赤黒い粒、その中に一筋、数少ない光が星座のようにまたたく。
またたきは同じようでいて、いまこのときにも消えて、再び光らぬ点が増えてゆく。
無言でそれを見つめる三人。
Dr.ポルが指の先で一つづつ指し示すように光を追ってゆく。
細い。本当に細い道。今にも切れそうな飛び石。
「まだ、道はある。」
カルには、見えない。
だけど諦めるわけにはいかない。
「私は私のできることをやりましょう」
女装の麗人はゆったりと立ち上がると、再び布の陰へと歩み去った。
カルは鎖の粒を拾い集めると左手に握り締め、立ち上がった。
「僕は彼女の元に行かないと。」
Dr.ポルが悲しげに微笑み、目を閉じる。
彼が目を開けたとき、カルの姿はなかった。
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