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任務は失敗、「月の石」は紛失。最新の論文は発表禁止。講義は無期限停止。
というわけで彼は暇を持て余していた。
暇な貴族ほどタチの悪いものはない。
一族の財産はマルボード市を丸ごと買えるほどあり、運用は使用人任せ。
使用人の監督は長兄と次兄(およびその妻)の仕事。
ダラ・ハッパ人貴族社会の宿業とも云える「ダート戦争」も、彼には関係ない。(一族からは最初から「役に立たない」と正確に理解されている。さりとて他家の的になるには彼は「ヤバすぎ」た。・・・彼が得た宗教的的知識は帝国の監視下にあった。)
というわけで彼は副業である文筆業に精を出していた。
めずらしく。
彼には一つの疑問があった。
「何故、英雄は、英雄的行動を取り得たのか?。」
一人の人間が、本能である自己保存の欲求を超え、犠牲的行為を成し遂げるプロセス。
勿論彼も知っている。人間の自我の強さというものを、社会規範の個体への強制力の強さを。
「しかしそれでは面白くない。」
そこで彼は個人的に知り得たある事例に基づき、仮説を立てた。
そしてその仮説に基づき、良く知られた物語をリライトした・・・匿名で。
彼は書き上げた作品を、彼の個人的な知人である高名な宗教画家に読ませ、その画家は挿絵を書く事に同意した・・・匿名で。
彼の著述を請け負った写本業者は、その作品の豪華装丁本の出版を請け負った・・・匿名で。
その写本を進呈された、画家の個人的知人である高名な彫刻家は、その作品の名場面の彫像化に喜んで取りかかった・・・匿名で。
別の写本を進呈された、彼の個人的知人である劇作家は、その作品を戯曲化し、自らの小劇団で上演した・・・貴族のサロンでの、内輪のお愉しみとして。
そう、その筋書きはこういった内容だった。
一人の童女が英雄となる物語だった。
童女の仲間には高潔な騎士がいたが、彼は重度の幼女性愛者だった。
童女の仲間には英邁な賢者がいたが、彼は重度の幼女性愛者だった。
親友であった彼等は、後に童女を巡り深刻な対立関係に陥る。
童女の仲間には悪辣な盗賊がいたが、彼は重度の死体性愛者だった。
童女の仲間には優雅な魔女がいたが、彼女は重度の同性愛者だった。
童女の仲間には非道な魔女がいたが、彼女は重度の異常性愛者であり、彼女が使い魔である魔物と「契約」する場面には丸々一章が費やされた。
童女の敵には魔道帝国の大魔道師がいたが、童女が大魔道師に拉致監禁され恥辱の限りを尽くされる場面には二章分もの文章が費やされた。
童女が後に彼女の使い魔となる蝙蝠の悪魔と出会い、襲われ、そして屈服させる章には、実に571回に渡り「触手」という単語が使用された。(余談ではあるが、この場面の再現に苦悩した劇作家は、魔術学園へ秘密裏に依頼し、<ソーセージ形成>と<ソーセージ動作>という魔道呪文を開発させたと言う。)
そう、それはポルノグラフィーであった。
彼にも一応、常識及び政治感覚は存在していたのか、登場人物の名前は全て伏字になっていた。(戯曲では仮名を当てられていた。)
売れたらしい。
ものすごく。
写本につぐ写本により、どれくらい普及したかというと、ミリンズ・クロス女子修道院の舎監が没収した位。
作家と画家と彫刻家と劇作家がどうなったかは良く知られていない。
写本業者の作業場がある日突然穀物問屋の事務所になっていた事はその筋では有名である。(終)----
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「或るダラ・ハッパ貴族の優雅な休暇」
任務は失敗、「月の石」は紛失。最新の論文は発表禁止。講義は無期限停止。
というわけで彼は暇を持て余していた。
暇な貴族ほどタチの悪いものはない。
一族の財産はマルボード市を丸ごと買えるほどあり、運用は使用人任せ。
使用人の監督は長兄と次兄(およびその妻)の仕事。
ダラ・ハッパ人貴族社会の宿業とも云える「ダート戦争」も、彼には関係ない。(一族からは最初から「役に立たない」と正確に理解されている。さりとて他家の的になるには彼は「ヤバすぎ」た。・・・彼が得た宗教的的知識は帝国の監視下にあった。)
というわけで彼は副業である文筆業に精を出していた。
めずらしく。
彼には一つの疑問があった。
「何故、英雄は、英雄的行動を取り得たのか?。」
一人の人間が、本能である自己保存の欲求を超え、犠牲的行為を成し遂げるプロセス。
勿論彼も知っている。人間の自我の強さというものを、社会規範の個体への強制力の強さを。
「しかしそれでは面白くない。」
そこで彼は個人的に知り得たある事例に基づき、仮説を立てた。
そしてその仮説に基づき、良く知られた物語をリライトした・・・匿名で。
彼は書き上げた作品を、彼の個人的な知人である高名な宗教画家に読ませ、その画家は挿絵を書く事に同意した・・・匿名で。
彼の著述を請け負った写本業者は、その作品の豪華装丁本の出版を請け負った・・・匿名で。
その写本を進呈された、画家の個人的知人である高名な彫刻家は、その作品の名場面の彫像化に喜んで取りかかった・・・匿名で。
別の写本を進呈された、彼の個人的知人である劇作家は、その作品を戯曲化し、自らの小劇団で上演した・・・貴族のサロンでの、内輪のお愉しみとして。
そう、その筋書きはこういった内容だった。
一人の童女が英雄となる物語だった。
童女の仲間には高潔な騎士がいたが、彼は重度の幼女性愛者だった。
童女の仲間には英邁な賢者がいたが、彼は重度の幼女性愛者だった。
親友であった彼等は、後に童女を巡り深刻な対立関係に陥る。
童女の仲間には悪辣な盗賊がいたが、彼は重度の死体性愛者だった。
童女の仲間には優雅な魔女がいたが、彼女は重度の同性愛者だった。
童女の仲間には非道な魔女がいたが、彼女は重度の異常性愛者であり、彼女が使い魔である魔物と「契約」する場面には丸々一章が費やされた。
童女の敵には魔道帝国の大魔道師がいたが、童女が大魔道師に拉致監禁され恥辱の限りを尽くされる場面には二章分もの文章が費やされた。
童女が後に彼女の使い魔となる蝙蝠の悪魔と出会い、襲われ、そして屈服させる章には、実に571回に渡り「触手」という単語が使用された。(余談ではあるが、この場面の再現に苦悩した劇作家は、魔術学園へ秘密裏に依頼し、<ソーセージ形成>と<ソーセージ動作>という魔道呪文を開発させたと言う。)
そう、それはポルノグラフィーであった。
彼にも一応、常識及び政治感覚は存在していたのか、登場人物の名前は全て伏字になっていた。(戯曲では仮名を当てられていた。)
売れたらしい。
ものすごく。
写本につぐ写本により、どれくらい普及したかというと、ミリンズ・クロス女子修道院の舎監が没収した位。
作家と画家と彫刻家と劇作家がどうなったかは良く知られていない。
写本業者の作業場がある日突然穀物問屋の事務所になっていた事はその筋では有名である。(終)----