■ギャルゲーエンディング風味ネタSagaII

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[[■ギャルゲーエンディング風味ネタ]] [[■ギャルゲーエンディング風味ネタSaga3]] #contents *スレイブメイド ソフィエル編 【】内は条件で変動するつもりです。 ただし一人称や性別はいちいち指定すると読みづらくなるかと思いましたので便宜的に一人称『僕』の男性で。 お好みで『俺』『私』『あたし』など一人称や性別を変えてお読み頂ければ幸いです。 (規制食らって書き込めなくなってしまったのでまずこちらに書いてしまいますね)  今僕とソフィエルはふたりきりだ。  ずっと気になっていたんだけど、言ってしまおうかな。 「ソフィエル……」 【その首輪、外してみてくれない?】 「その首輪、外してみてくれない?」 「え? あ、はい……かしこまりました」  鍵でもかけられているのかと思ったけど、首輪はあっさりと外れた。  首輪が巻かれていた部分は赤くこすれていて痛々しい。 「……うん、ありがとう」  首輪をしてる彼女を見るのは辛いけど、この傷痕を見続けるのはもっと……  マフラーでも買ってあげようかと思ったけど、ソフィエルは躊躇なく首輪を再び着けていた。 「無いと落ち着かなくて……」  そう言って彼女は寂しそうに笑った。 【首輪もかわいいよな】 「ううん、なんでもない」 「そうですか。今日は野菜カレーをお作り致しますね」  また野菜かよ!  たまには肉が食べたいんだよ!  肉!肉!肉十八禁!  という言葉が喉まで出てきたけど、我慢、がまん。 **【好感度が1000未満】 「【MB名】さん、待ってくださーい……」 「ははっソフィエル、早くおいでよ!」  僕達はハイキングに来ている。  世界はなんて美しいんだろう、なんて柄にもない事を考えてみたりして。  この世界を守れたんだから、あの戦いも無駄じゃなかったんだ。 「ね、ソフィエル」  と思ったら、しゃがんで地面を見つめていたり。 「……何、やってんの」  ワンピースの裾がもう少しで地面につくよ。 「【MB名】さん、ふきのとうです!」  興奮気味に言う。少し前からは考えられなかったような明るい表情と声で。 「ふきのとう?」 「蕗の新芽です! 美味しいんですよ」 「ふき……」  知らない名前だ。何となく、窓や廊下のイメージが湧いてきた。 「うちに帰ったら天麩羅にしてあげますね!」  本当に美味しいんだろうか。  フキノトウを摘んでから持ち前の能力で再生させてよいしょと立ち上がるソフィエル。  彼女をそよ風が包んで、髪とワンピースを揺らした。  ……可愛い。  ソフィエルかわいいよソフィエル。 「……きゃっ」 「つかまえた」  ソフィエルを後ろから抱きしめる。  立ち上がるところを待ち構えたんだから楽なものだ。  新鮮で美味しい野菜みたいな、でももっといい香りだ。  胸の奥までソフィエルのにおいを吸い込んでうっとりする。少し危ない奴に見えるかもしれない……  でも今は僕とソフィエルの二人しかいないからたぶん大丈夫だろう。  だから、こんな事を言ったって、誰にも聞かれる心配はない。 「ソフィエル……大好きだよ」 「【MB名】さん……」  呼吸が聞こえ、鼓動が伝わる距離で待つ時間は長かったのか短かったのか。  ソフィエルが口を開く。 「わたしもです」  恥ずかしげに言う彼女の横顔はとても綺麗で、僕は。  ソフィエルの小さな体を力一杯抱きしめた。 -スレイブメイド ソフィエル編 ノーマルエンド-  『悠久の大地に豊穣齎す天使』 **【好感度が1000以上】 「これ…僕が持ってても持ち腐れだしさ」  【阿羅耶識に協力して戦った時、もらった勾玉。】 「これ、取ってもいいよね」 「あ、はい……」  外す時、内側に締めるとソフィエルの喉からかすかなうめき声が漏れる。 「大丈夫?」 「あ…大丈夫です、申し訳ありません……」  僕は首輪が取り去られたソフィエルの首に【勾玉】をかけた。 「とても似合ってるよ」 「あ…… ありがとう…ございます……」 ***【ソフィエルの首輪を外させていない】  【阿羅耶識の勾玉だけど、】ソフィエルには不思議に似合って見えた。それとも、それは僕の思い込みだろうか。  マインドブレイカーとしていろんな子を支配してきたけど、こんなに可愛い子は初めてだ。  思わず見とれてしまう……  顔を見るのが恥ずかしくて【勾玉】を見たら、ちょうど胸のあたりで揺れていてさらに恥ずかしくなったりして。 「あの……」  遠慮がちな声で我に返る。 「あの……えと……」  ソフィエルの視線は、僕の手の中の、まだ彼女のぬくもりを残した首輪に注がれている。 「これ?」 「御主人様、それ……取っておいてもよろしいですか?」 「うん? いいけど……」  ソフィエルが僕に頼みごとをする事なんてめったにない。どれだけの勇気を込めての言葉だったのだろう。  それに、外してからの事は全然考えてなかったんだ。ソフィエルがなんとかしてくれるならありがたい。 「極星帝国にも優しくしてくれる方はいらっしゃいましたから……」  ソフィエルは僕の手から受け取った首輪を慈しむように握って、遠くを見るような目をした。  思えば僕はその瞳に魅了されてしまったのかもしれない。  とてもせつなくて深い、汚れのない、寂しそうな…… 「そう」  極星帝国の奴隷だったソフィエル。その首輪にはどんな想い出が詰まっているんだろう。  気にはなるけど、その頃の事は聞いちゃいけない気がする。  やっと極星帝国に見いだした居場所を、再び奪ってしまったのは僕なんだから。 「ところでその、御主人様ってのやめてくれないかな……」  僕の抗議に、ソフィエルは少しいたずらっぽく微笑んだ。 「主人っていうのは、一番大好きなひとを対外的に呼ぶ時にも使うんですよ」 「それは違う気が……」 「この間、お肉屋さんで『主人が肉好きなので』って言ったらおまけして頂けました」  ああ、この間の肉野菜炒め、かすかなカレー風味が美味しかったけど肉が多めだと思ったらそういう…… 「えええっ!? ちょっ……」  道理で、なんだかみんなが僕を変な目で見ていると思った。  幼稚園児に『ごしゅじんさまー』とか言ってじゃれられたし……あああああ……  と、とりあえず。これまでは仕方ないとしても善後策を講じよう。 「家の中ではいいけどさ、外ではもっと……【MB名】さんとかさ」 「……【MB名】さ…は、恥ずかしいです……」  御主人様の方がよほど恥ずかしいと思うのは僕だけだろうか。  自分の名前をさん付けで口にした僕も恥ずかしかったけど。 「申し訳ありません…御主人様……」  だから、その顔で謝られると、僕は…… 「御主人様でいいよ、とりあえずは」  ああ、メイドに逆らえないなんて、僕は御主人様には向いてないのかも。  でも。 「はいっ。御主人様っ!」  この笑顔。  この笑顔があれば、細かい事はどうでもいいかなって思えちゃうもんな。 -スレイブメイド ソフィエル編 グッドエンドB-  『アダムが耕しイブが紡いだ時誰がメイドだったか』 ***【ソフィエルの首輪を外させた】 「ソフィエル……僕、ずっとソフィエルに言いたい事があったんだ……」 「は、はい……」 「死ね」  そして力一杯締め上げる。僕の精一杯の力で。 「え……っ?」  羽を大きく羽ばたく。風が巻き起こり、羽根が舞った。 「御主じ……」  ぎりぎりぎりぎりぎり。  【さすが阿羅耶識の勾玉だ。これだけ力一杯引っ張ってもなんともないぜ。僕の手は少し痛いけどな。】  ソフィエルはすぐに抵抗をやめた。手で掴む事もせず、従容となすがままにされた。  苦しくないわけではないらしく、羽はピンと張って強張っている。  でも、もっと泣くとか叫ぶとかいろいろ反応してくれなきゃ面白くないだろうが。つまらない奴だ。  メイドの最後のご奉仕なんだ、僕を最高に喜ばせろよ。  せっかく殺してやるのにさ。一回しか死ねないんだぞ。もっと楽しめよ。  おっと極星帝国ではネクロマンシー技術があるから何度でも死ねるのか? うれしくないけどな。 「か……かはっ…… ごしゅじ……ま……」 「お、なんだ? 断末魔の叫びか? 辞世の句なら聞いてやるぜ。すぐ忘れるけど」 「ありがとうございます……」 「はぁ?」  耳を疑った。この女、歪んだ顔で無理に笑顔を作って。何を言ってやがる。  いつもそうだ。いつだって微笑んでやがる。辛い時はもっとちゃんと辛そうな顔をしろよ。 「これで……やっと……かい……ほ」  急に重くなったかと思うと、すぐに軽くなった。見ればソフィエルは空気に溶けるように消え始めていた。 「おい! 死ぬならもっとちゃんと……」 (ありがとうございます……わたしの……御主人様……  あなたのメイドになれて……あなたの手で解放してもらえて……わたしは……) 「おい!」  最後に、僕の心に直接思念を伝えて。  これまで見たどの顔よりも可愛く笑って。  ソフィエルは消えて無くなった。  後に残ったのは僕の手の中の【勾玉】と、いくつかの羽根。そして首輪だった。  想い出? そんなもの。残るわけがない。  そうだろう? ソフィエル。  おっと、もういないんだったか。 (御主人様……わたしはあなたのメイドで幸せでした……)  風が吹いた。羽根が散らされ、ソフィエルのにおいが消えていく。  その時まで、ソフィエルのにおいになんて気づかなかった。消え始めて初めてわかった。  さっきまでこんなにも強く僕を包んでいたのに。ずっと側にあって、自分のものだとばかり思っていた。  僕はとっさに手を伸ばして羽根を掴もうとしたけれど、わずかに届かず飛ばされて行った。  伸ばした右手から首輪が落ちそうになって握りしめる。今度はしっかり掴んだ。  左手に【勾玉】を。  右手に首輪を。  両手を握りしめたまま、僕はしばらく風に吹かれた。 「また被害者が出たらしい……」 「今度は阿羅耶識だそうだ……」 「今月に入ってもう三人か……」  それからしばらくして、各勢力間であるマインドブレイカーの話が噂されるようになった。  手駒にするではなく、支配した能力者を片っ端から殺害しているという恐怖のマインドブレイカー。  性別すら闇に包まれているが、ただひとつ、殺された能力者は全て絞殺されている。  そして、その首には首輪が一番内側の穴に合わせ、肉に食い込むほどに巻かれているのだという。 「ねえ、君」 「はい? なんですか?」 「似合いそうだね」 「首輪」 -スレイブメイド ソフィエル編 グッドエンドA-  『願い星 流れ星』 ---- *ロュス・アルタイル編  今日も勝利して、私達はミッドタウンのレストランに入った。  ええと、今日は何にしようかしら……? 「おっ! 和風カレー御膳だってさ」  フェアメニューの案内を見てうれしそうに言うロュス。  ちょっと、朝がカツカレーで昼がタイカレー、おやつがカレーパンだったわよね? 「あんたって本当、カレー好きよね」 「なんだよ。おまえだって好きだろ?」 【まあね】  んー……嫌いじゃないし、むしろ好きな方かもね。 「まあね」 「ほらみろ」  うれしそうな顔が少し悔しかったけど、私もカレーを注文した。 【食べられればなんでもいい】 「食べられればなんでもいいわ……」 「おいおい、張り合いないなあ……」 「でもどっちかっていうとハヤシライスの方が好きかしらね」 「なんだとこのやろ! いいかカレーってのはな……」  ぷぷっ。おもしろい。何度やっても新鮮な反応をしてくれる。 **【好感度が1000未満】 「ま、待て! やめるんだ!」  模擬店で封じられながらもロュスが叫んで、極星帝国民お気に入りのカレーショップに声が響く。  ちっ、なかなかしぶといわねこの女。魔力を無効化する第三の目の力のおかげかしら。 「バカにしないで! 私だってこれくらい大丈夫なんだからっ!」  世界最強のマインドブレイカーさまをなめてもらっては困るわね。  終極激辛カレーがなによ!  だいたいっ、大盛りで何倍も平らげてるあんたが制止したって説得力ゼロどころか振り切ってマイナスよ。 「行っくわよー」 「やめろ! 行くんじゃない【MB名】!」 「勝つのはあたしよー!」 「勝たんでいいっ! てか何に勝つんだっ!」  あら、わからないの? 意外とバカね。  あんたよ。あんた。  私は戦闘能力じゃあんたには勝てない。  だからせめて……並ぶだけの事はしたい。あんたの一番の得意分野でっ!  そうじゃなきゃ私はあなたの隣では笑えない。  私はスプーンにたっぷり乗せたカレーを口に 「!   」  その瞬間、口の中にダークベインが広がったようだった。  心臓が脈打つたびに全身にダメージが行き渡るわ……  もう、らめらろ(もう、だめかも)  思い浮かべる言葉も舌がもつれるわ…… 「うわあ【MB名】! おいソフィエル!」 「はい? ああっ! ご主人様がピンチが危険ですぅ!」 「違うそっちじゃない!」 「あうぁぅ、首輪巻いても手枷をしてもスレイブメイドにはなれませぇん」 「ちっ……うわっ!」 「ご主人様がレッドで真っ赤なクリムゾンですぅ!」  そんな愉快なやりとりを見ながら私の意識は暗黒のかなたへと消えていった。  まるでスローモーションでもかかるかのようにゆっくりと…… 「……落ち着いたか?」  うん、まあね。 「そうか。まあ大事に至らなくてよかったよ」  ほっとしたようにうんうん頷くけどちょっと待て!  私の口の中が激痛でいっぱいなのは大事じゃないっていうの? 「【MB名】……文句はしゃべれるようになってから聞くから今はゆっくり休んでろ」  ううう……自業自得だとはいえ情けないわ……  でも、私はあきらめない。  いつかきっと必ず、終極激辛カレーを制覇してみせる!  あの戦いに勝利した私だもん、きっと大丈夫よ! 「……いや、諦めた方が身の為だと思うぞ……」  うっさい! -ロュス・アルタイル編 ノーマルエンド- 『最後の闘い』 **【好感度が1000以上】 ***【食べられればなんでもいいと答えた】  今日もこの店は賑わっている。  疲れた時。  ごはんを作るのが面倒な時。  泣きたい時。  ご飯を炊き忘れた時。  うれしい時。  食費を節約したい時。  私はこの店に足を運ぶ。 「こんばんは、【MKII】。今日もご馳走になるわね」 「いらっしゃいませ。【MB名】様。」  【大きすぎるほどの長身にちょこんとエプロンを付けたMKIIが厨房に声をかける。】 「【マスター】、【MB名】様が御来店です。」 「ああ、らっしゃい」  額の目を隠すようにバンダナをパイレーツ巻きに巻いたエプロン姿の女がこっちを向いて言う。  ここの店長さんだ。そして昔、私と一緒に戦った、三つ目族の勇者でもある。 「【姉ちゃん】何にする?」 「いつもの」 「りょーかい」  そしてすぐに出てくる、私好みのスペシャルカレー。  いろんな具が豪華に乗ってて、しかも値段は無料。ふふふ、恩を売っておいてよかったわ。マインドブレイカー能力最高! 「いただきまーす」 「……あのさあ、他のお客さんの手前ちったあ遠慮しろよな……」 「はいはい、わかってるって」  まずはちゃんと付けてくれたフォークでロースカツを端っこの部分から。カレーソースを半分くらい付けて。  もぐ。さっくりとして軽い衣に、柔らかくほぐれて肉汁豊かな肉がカレーソースとよく合っている。  うん、今日もいつもと同じく美味しい。  毎日同じ味を出すって事がどれだけ大変なのか、よくわかんないけど大変だって事だけはわかる。  こんなに美味しいんだもん、この店がいつも賑わってるのも当たり前だと思う。  この間、夕方に来た時は藤宮真由美や茗子ちゃんに望ちゃんといった面々がテーブルくっつけて盛り上がっていたし、今日だって……  私服なのでわかりづらいけど、メイドばかり大勢集まったテーブルではメガネのド長が熱弁をふるっている。 「いいですか? 斎木家のメイドたるもの常にメイドとしての誇りを持って……」 (ちょっと絵梨奈、なんでメイド長が来てるのよ) (知らないよ真理奈、気づいたらいたんだよ) (今日はメイド長抜きでのーんびりのびのびする予定だったのに……)  少し迷惑そうな鷺沢姉妹を、はるかがなだめすかす。 (まあ、いいじゃないですか) 「そもそもメイドとは!」 「藍子様、少々飲みすぎなんじゃ……」  この中では綾乃が一番真剣に藍子を心配しているように見える。このふたり、『あいこ』と『あやの』で名前も似てるのよね。実は生き別れの姉妹だったりして。 「メイドとはー!」 「藍子様、本日は下着姿になって踊らないようにお願い致します。」  隣でぼそりと言ったアイナを一瞬にらんだが、視界の端に店内を行き来するソフィエルを認めて人指し指を突きつけた。 「そこのハネつきメイド! 羽根を撒き散らしてはいけませんよっ!」 「は、はいっ! 重々っ…気をつけております……っ!」 「ならよろしい! 行きなさい!」 「はいっ!」 「ああもう……店員さんにまで絡む……」  モーリーが頭を抱えた。  そしてナナが膝を抱えている。実際にはちゃんと椅子に座ってるんだけどイメージ的にね。  機械だから食事ができないけど一緒にテーブルを囲むのが楽しいんでしょうね。その気持ちはわかるわよ。 「ここのカレーは旨いよな。要の姉ちゃんの程じゃねえけど」  む、聞き捨てならないわね。褒めてはいるんでしょうけど。 「素人とプロを比べるなよ」  たまにはいい事言うわね悪魔少年。 「智律さんのカレーも美味しいよね」 「ありがとう、つかさ。でもその道を修め生業として日々修練を積んでいるひとと軽々しく比べてはいけないよ」 「父上、もちろん僕におごってくれますよね」 「自分の分は自分で払いなさい」  あらあら、司馬坊ちゃんは吝嗇家ねえ。 「コ、コラ! 水に唐辛子を入れるんじゃない!」 「おごってくれますよね」 「妹よお兄様のおごりだ、遠慮しないで食え」  両脇に妹ふたりを座らせようとして拒否された各務兄はそれでもめげずに笑顔で言った。  だけど明るいお兄ちゃんと対照的に妹ちゃんたちのテンションは低い。 「といってもカレーではな……」 「カレーじゃね……」 「おいおい好き嫌いしないでちゃんと食わないと大きくならないぞ? ボン! キュッ! ボーン!」 「これ以上大きくなりたくないよ。ハイヒールはけないじゃん」 「あんなものは履かんでいい。チャラチャラした服など着ずにもっと鍛練に励め。だいたい……」  どこから出てきたのか、美晴ちゃんの声が各務姉のそれにかぶる。 「秋成さんおごりって本当ですか?」 「え? ああ、美晴ちゃん……美鈴ちゃんも」 「マスター、カキフライカレー大盛りでっ!」 「いや、おごるのはうちの愚妹たちにであって……なぁ美鈴ちゃん」  同意を求められた美鈴が笑顔で言う。 「私もカキフライカレーを。……秋成殿、ご馳走になります」 「おい」 「ありがとうございまーす」 「でも申し訳ないです」 「ですよね……」  幸と違って気後れした様子のあざかちゃんと清音ちゃんに遙が言う。 「あざかも清音も、こういう時には遠慮しないのが礼儀なんだぞ?」  それでやっと安心したように、ふたりは顔を突き合わせてメニューを指さしはじめた。 「遙さんがそう言うのなら……これがおいしそうですよ、清音様」 「私はこの甘味が気になります。半分ずつどうですか、あざか様」  きゃいきゃい騒ぐ女の子達の様子に、各務兄は注文を取りに行った【アルテア】に向かって苦笑しながら肩をすくめた。でもやっぱり、誰も隣には座ってくれなかった。 「カレーを食べると大きくなるのですか?」 「隊長はどちらかとゆーとカレーまんを仕込んだ方が」 「……何を言っているのかしら? どこに仕込むって言うのかしら? ぜんぜんわからないわ?」 「あのー隊長、もしかして試したことあるんですか?」 「馬鹿な事を言うものではありません。熱いんですよあれ」 「隊長、あれは直接乗せるんじゃないのでは」  ソフィアとルツィエのやりとりの向かいでは、黒髪の少女が魔女っ子の黒い衣装をおしぼりで叩いている。 「ほらミナ、こぼしちゃってる。カレーはしみになるから気をつけなきゃ」  黒だとそんなに目立たないと思うけど…… 「舞ちゃん、ありがと」 「ミナ……あ、当たり前じゃない、こんな事! お礼を言われるような事なんて、ないよ……」  湯上谷の舞ちゃんはアウェイにも関わらず一歩も引いていない。さすがだわ。 「……これ、ちょっと辛いですね」  ドライカレーに顔をしかめたディーナをステラが鼻で笑う。 「ふん……この程度で音を上げるとは白の大魔導師様も大した事がないな」 「あなたこそ、こんな辛いものばかり食べているから舌も頭も愚化してしまうのですよ」 「負け犬の遠吠えにしか聞こえんな」  ステラとディーナはいつも通り口喧嘩をしていて、その間でソニアが呆れたように、ジリアンは無表情に黙々と食べている。  ジリアンは食べる時にも音を立てない。ケルト人ってマナーいいのね。  隣のテーブルではクラリスがworks274にWorks317とチカ・タイガーフィートを侍らせている。 「マスター、何をなさっているのですか?」 「マヨネーズにケチャップに砂糖味噌味醂……やっぱり外食はいろんなもので味をアレンジしてこそよねー!」 「店長に見られたら怒られますよ」 「にゃあ」  それ、全部持ち込んだの? すごい量だけど。きっとworks274とWorks317に持たせたのね…… 「シヴァ様、今日もかっこいいですわ……」 「ったくうるせえ女だな、黙れ」  言ってシヴァはカレーをすくったスプーンでパールヴァティの口をふさぐ。 「あーん♪ シヴァ様のスプーンで食べるとカレーのおいしさもひとしおですっ」 「オイ、口に物入れてしゃべると怖ぇ店長さんに怒られんぞ? いい加減に黙らねえと次は俺のくちびるで塞いで息も出来なくしてやるからな」 「きゃーっ、シヴァ様ったら……! 呼吸を忘れさせてくださいっ!」 「窒息死しても知らねぇぞ?」 (パールヴァティ! 替わんなさい!) (……あんた達……公衆の面前で……!) 「いいものじゃのう……」 「そーかなー……」  仲むつまじい二人の様子が羨ましそうな鈴鹿御前にアシュタルテーが呆れたように相槌を打ち、ゴモリーが一口水を飲んで言う。 「仲よき事は美しき哉、ですよ」  エキゾチックな彼女の笑顔にはカレースプーンが妙に似合うと思う。 「二人とも、女性との仲でしたらいつでも取り持ってあげますよ」 「ありえぬな」 「ないない」 「ないですか」  鈴鹿とアシュタルテーは思わず顔を見合わせて吹き出して、ゴモリーはにこにこしながらカレーをすくった。 「カレーはいらないから肉だけちょうだい」 「肉ー」 「にくー」 「ニクー」 「にーく! にーく!」 「にーく! にーく!」  カレーが苦手な獣人達はそんな事を言う。 「へいへい」  あんたもいちいち対応するんじゃないの。  そのせいで、ステーキやポークチョップがこの店の名物になっちゃったじゃない。 「いっき、いっき!」  お酒の一気飲みは減少傾向にあるらしくて、子供の頃マンガとかで見たような居酒屋の光景は遠い過去の物になっているらしい。  その代わり、ここではカレーの一気食いが繰り広げられている。 「極星帝国十将軍筆頭! レイナ・アークトゥルス、参る!」  掛け声を背に、レイナが大盛りのカレーを平らげる。 「……ふっ、まだ腹八分目にも達せぬわ。全然足りぬ。勢い付けにSMサラダでも食べておくか」 「おおーっ! さすがは姫将軍!」  SMサラダはこの店で一番高級なサラダで、たっぷりの野菜にチーズやハムなど具がどっさり乗っているボリューム満点の一品だ。ちなみに、SMはスペシャルミラクルとかの略で、断じてここの店員さんの事ではないしある性癖の事を指すわけでもない。命名した私が言うんだから間違いない。仮にここの店員さんの事を指す場合はきっとスプリームメイドなんだろう。 「姫は相変わらずすごいな」 「シャルルにいちゃんも食べればいいじゃない。いっぱい食べて早く良くなってよ」 「まあ、そうだがなぁ……戦場に出てた頃のようにはいかないよ」 「そうだけど……」  ちょっと寂しそうなソフィーの声はレオナの大音声にかき消された。 「レオナ・レグルス行きます! はいっ!」 「むむむ、これはまた見事な食べっぷり」 「ロュスさん、わたしにもSMサラダくださいっ!」姉妹品に野菜のみのMAサラダもあるのよ、知ってる? 「アルフハイムのいいところを見せてやりなさいロビン!」 「は、はいティタニア様……」 「店員さん、ロビンにソフィエルカレーを」 「はい…只今……!」  ソフィエルカレーはガーリックライスのオムライスにカレーをかけたものに、MAサラダのミニサイズとスープがついて来る。さらに希望すればオムライス部分に絵や文字を書いてもらえる人気メニューである。作るのは大変みたいだけど。 「オモシロスー……と」  そしていつからかロビンの場合は何も言わなくても書かれるようになっている。  手慣れた様子でケチャップボトルを繰るソフィエル。  でも野菜しか食べなかったイレイザー時代と比べて肉も食べる今の彼女には、なにか禁忌的な雰囲気を感じなくもない。草食動物に同類の肉や骨を食らわせた罪過とその結果を連想させる。もっとも彼女の場合野菜を食べるのも共食いっぽいけどね。  それはそうと巧いものだわ。私にもコツを教えてほしいくらい。そしてすごいボリューム。 「食べきらなきゃ……願いはかな……うっ……」  かなうの? 「ロビン! ファイト!」 「今、いくらですの?」 「概算で十一万ちょいですかね」  リリアに訊かれてシュリーが答える。最初に満腹になって降参した者が全員分を払うのがルールだ。ロビンは蒼白になってかきこんだ。 「ま、負けられない…… んぐっぐっ……た、たべました!」  続いて、ヒナとウェヌスにはさまれたレナスが挑戦を開始した。 「たまにはカレーもよいものですね」 「そうか? ハヤシライスの方が旨いと思うがな…… なぜこの店にはないのだ?」 「それは極星帝国の方のお店ですから……看板通りですね」  看板にはちゃんと『カレーショップ』って書いてあるもんね。 「総司令、顔が赤いですよっ!」 「な、なんでもないっ!(辛い! 辛いいいいい!)」 「参謀長、総司令殿が食べているのは中辛か?」 「いえルシフェル様、確か甘口かと」  ルシフェルが口の端で笑い、店内はもちろん路上も禁煙で禁断症状が出始めたレティクルが震えてる。 「カ、カン違いしないでよねっ! ソフィエルが食べに来いって言うから仕方なく来てあげたんだからねっ! カレーなんか食べたくないんだからねっ!」 「あ、ソフィエル」 「……ありがとうラツィエル…… わたしなんかのために……」 「べ、別にあんたなんかのため…あんたのためじゃっ……」 「うおー、プリンにボクの顔が描いてあるのだー。かわいいのだー。でもこんなに眉毛ふとくないのだー」 「いや、こんなもんだろ」 「もっとほそいのだー。ヤナギマユなのだー。さかまくのだー」 (それは『りゅうび』って読むのよ…そして柳眉は逆立つのよラシエル……) 「でも眉毛はチョコレートでできてるからいいのだー。ふといとたくさんでおいしいのだー」 「私の髪の毛はラズベリージャムか……ふふふ……」 「いっただきーますなのだー」 「あ、崩れた。ぶっさいくだな」 「カーたんひどいのだ! カーたんもこうしてやるのだ! やるのだ!」 「ちっ、血まみれぇっ!?」 「いーひひひひひひー、りゅうけつのだいさんじなーのだー!」 「あの子達は元気でいいわね」 「そうかなぁ」 「おまえが言うなウリエル」 「ウリエルも昔はああだったものねえ」 「ラファエル、おまえも服くらい着たらどうだ」 「だって、暑いし。カレー食べると体温上がるのよね」 「だからって後宮の服のままで来るか?」  ラファエルが着ているのは極星皇帝の妾やってたころのスケスケの寝間着。下着は着けていない。  でも眼鏡だけはしっかりかけている。 「大丈夫よ、アストラル化して来たから誰にも見られていない。あなたもそうでしょう、ミカエル」 「む……」 「ここにいるのはみんな知っている顔だしね」  ラファエルはミカエルを黙らせて紅茶を口に運んだ。  その隣のテーブルではエルムティムベルが楽しそうにカレーを食べている。 「ライトニングスプーン号はっちん! しゅごーしゅごーしゅぼっぶぶぶぶばばばばばばばどどどばひゅーんどどどどどど通信! 前方にご飯山脈を発見! 突入します! 吶喊! どっかーん! がひゅーんしゅばばばばばばきゅーんばきゅーんどかーんばしーんずぎゃーんむっ! 燃料が少ない! 帰投する! カレー燃料補給! 口洞窟に突入する!」 「隊長、美味しいですか?」 「ほいひい」 「よかったです。でも、口に物を入れてしゃべっては、いけません。」 「さいはっちん!」  振り回したスプーンから飛んだカレーがラファエルに当たったが、服ではなく二の腕だったので拭き取って終わる。 「ほら、薄着も役立つでしょう」 「あら、本当」 「む……」  ラファエルは得意気に笑い、ガブリエルが首肯し、ミカエルが渋面を作る。  そしてラファエルの眼鏡に第二波が直撃した。  ラファエルが命より大事にしているっぽい、下着以上に肉体の一部で入浴時もかけているともっぱらの噂の眼鏡をカレーが滴り落ちていく。 「ずばばーん!」 「ずばばーん。」  テーブルも、椅子も、見ようによっては気色悪い東南アジア風の鉢に植わった観葉植物も。  隅に置かれたなんかオーラ放ってるトーテムポールも。  どれもこれも店長はじめスタッフの愛が感じられて、とても愛おしく思える。  そしてこの、個性的なお客達。  この店に集まって来るのはみんな面白おかしい連中ばかり。  折角店長さんが額の目を隠して一般人のふりをしても、お客がこれじゃあまり意味はないような気がするわ。  周りのテーブルは誰もが輝いているように感じる。手をかざせば、照り返しが映るくらいに。  スパイスの調合が大事なカレー粉みたいに、ここに集まるみんながこの店の雰囲気を作っているんでしょうね……  一匙ごとにカレーは減っていく。  食べ過ぎた時のつらさを思い出すといつまでも食べ続けるのは遠慮したい。  だけど、だけどなんだか、食べ終わってしまうのが少し惜しい様な、そんな気分…… 「ねえ」 「ん?」 「いい店だわ。本当、いい店だわ」 「なんだよ、気色悪いな……」 「本当よ。ここがあるから、私きっと頑張れてるんだわ……」  今日は少し疲れすぎたのかもしれない。そんな事を言ってしまう。  マインドブレイカー、精神を支配するのが私の能力。  だから、まずは自分の精神を支配して、決して本心は明かさないように、胸の奥の奥のあそこに仕舞い込んでおいたはずなのに。  ロュスや【MKII】と一緒に戦ってた頃は、今私がいる日常が貴く輝いて見えて、何を措いても取り戻したかった。  それなのに、それを取り戻した今の私は、戦いの日常がこんなにも懐かしくて。  戻りたい。  そう思う事が多くなってきて。  ロュスのカレーはいつもと同じ味。一緒に戦っていた頃、戦闘の合間に作ってくれて、みんなで食べた時と変わってない懐かしい想い出の味。あの頃と全然変わってないわ。 「あのさ、いつでも来いよ。あたしはここで待ってるからさ」 「……うん……ありがと。今日も美味しいわ」  でも少しスパイス効き過ぎかな。目に来る辛さだわ。  だいたい、あんたのカレーはいつも辛過ぎなのよ。私の為のスペシャルだっていうならもう少し甘くしてよ。  まったく……私がどんなに言っても、カレーの味だけは変えてくれなかったわよね。頑固なんだから……  でも、辛いけど美味しいから、いいのかな…… 「……ここ、置くわね」  デザートと食後の飲み物まで完食した私は三百円置いて席を立った。 「……珍しいな。今日は払うのか」  全然足りてないけどね。値段を聞いた事はないけれど、メニューからの概算ではたぶん千円は下らない。さらにドリンクデザートつき。  だけど財布の中の百円玉全部なんだからありがたく頂戴しなさいよね。  あーそこ、財布の中身を軽くしたかったからとか言わない。  それに、いいって言ってくれてるけど、あとで払う気は無いではないのよ。  ツケを残しておけばここに来る大義名分が出来るって、そんな訳でも無いけど。 「何となく、今日はそんな気分だったのよ。また来るわ」 「おう、また来い。……待ってるからな」 「ん、待ってなさい」 「【MB名】さん、またお茶をご一緒しましょうね」寝込んだメイド長を介抱しながら綾乃。 「さようなら。また逢えますよね、父上?」ねえカイム、【私これでも女だよ。】 「またな。あーあ、うちの妹も【MB名ちゃんみたいだったらなあ】」そういう事は妹の前では言わない方がいいと思うよ各務兄。 「またねー」おかわりのカレーを前に美晴が手を振ってくれた。 「お疲れ様でございます」さすが宮廷魔術師、優雅なのよね。【これで私の胸を恨めしそうに見る癖がなければなあ……】 「メロンパン……」「ミナ起きて! ミナアアアアア!」舞ちゃんも大変よね。 「……」ジリアンは今日も無言で静かに微笑むだけ。だけど、その微笑みは千の言葉より雄弁に彼女の深い内面を現している事、私は知ってるから。 「あばよ! きっとまたすぐに会えるよな」夫婦寄り添いながらシヴァが言って片手をあげ、ディーヴィが手を振った。 「おやすみなさい。きっといい夢が見られますよ」あなたに言われると本当にそうなる気がするわ、ゴモリー。 「おやすみー」とガルム。ちょっと犬が飼いたくなる笑顔だわ。 「カレーとブルマは永遠なり!」レイナ…… 「またねっ。今度洞窟にも来てよ。赤ちゃん竜がかわいいんだっ」ちょっと、私をエサにする気じゃないわよね? うそうそ、冗談よソフィー。 「おやすみなさい。夜道は危ないからこれを持ってお行きなさい」リリア、それまた爆発したりしないわよね? 「ハヤシライスならいつでも食べれるぞ。今度一緒に食べよう」涙目で声もちょっと震えてるわね総司令。 「私もおまえもこのそらの下で生きているのだ、また会う事もあるだろう」うん、前回から一週間経たずに再会したわね、ルシフェル。 「べ……別にあんたになんか会いたくなんかないんだからね! せいせいするわ! 早く行っちゃいなさい!」はいはい、わかったわラツィエル。 「さよならーなのだー」ラシエルの口調は伝染るから意識を強く持たないと! 「眼鏡かけてる? 眼鏡はいいわよ!」ええ、時々かけてるわラファエル…… 「おやすみなさいませ【MB名】様…… またの御来店を心よりお待ち申し上げております」何だかんだ言ってメイドに最敬礼されるのは悪い気がしないわね。この間メイドカフェまとめサイトの番外編の部にこの店が紹介されてたけど、結構評判がよくて私もちょっと鼻が高かったのよ、ふふん。  私がさっき見ていた事を知ってか知らずか、面白おかしいみんなは口々に声をかけてくれた。  そうだよね。私には帰って来る場所があって、待ってくれているかけがえのないひとがいて。  だから、私は。  私は……  うん。  暖簾を潜って外に出ると星が綺麗だった。  でも、まだアルタイルの季節には早いかな。  っていうか、どれがアルタイルかもわかんないんだけどね。  星空を見上げるたびにロュスが説明してくれたのに、適当に聞いてた私は忘れちゃったわ。  また、夏が来たら。  ふたりで一緒に星を見よう。  そして私が覚えるまで、ちゃんと説明しなさいよね。聞いてあげるから、たまには。  星空に手をかざす。  今なら星にも失くしかけた夢にも手が届いて、握りしめれば何かを掴めそうな気がした。 -ロュス・アルタイル編 グッドエンドB- 『星空のアルタイルとカレーの楽園をめぐる冒険』 ***【まあねと答えた】  とん。  ざく。  とんとん。  包丁の音だけが響く。  ぶす。  ぎちぎち。  だん。  とん。  テレビかラジオでも点けとけばよかったわ。沈黙が重い……  今からでも点けようかしら?  いやでもそれってなんかわざとらしいし。 「……」 「……」  もう耐えきれない。  てゆーかなんで黙ってるのよ! 口はしゃべるためにあるのよ! 酸素は鼻から吸え。根性で皮膚呼吸しろ! 「……言えばいいじゃない。言いなさいよ! どうせ私は手際悪いわよ! ゆで卵もまともに作れないわよ! あんたみたいにはいかないのよ!」  カレーを作ってる時のロュスはとってもかっこいい。そして可愛い。女の私から見ても悔しいくらいにね。男だったら嫁にしたいくらいだわ。 「そんな事思ってねえよ」  あーもーその顔がむかつくムカプー! 謙遜ってのは、しすぎると厭味になんのよ! 「だいたいっ!」  振り向いて、指さして、言ってやる。包丁で指さしたらなんかやばいというかそもそも指でさしてないけど気にしない。 「あんたが作ればいいじゃないのよー!」  さっきから、自分ならこうするって目で見てて。作りたいってオーラが出てるのよ。  それをじっと耐えて。ちょっと辛そうなくらいに。  そんな我慢してまでなんで私の苦しむところを見たがるかな、この女はっ! 「うっ……」 「なーによー、作りたくないの?」 「そんな事あるもんか! カレーづくりはあたしのライフワークだっ!」  額の目を輝かせて力説するロュス。文字通り光を放ってるから少し怖い…… 暗い時には便利だけど。  この間も電気消してから【携帯電話】探す時に役立って……ってそれはどうでもいい。 「じゃああんたが作れ。あんたも楽しい私も美味しい万事オーケーじゃない」 「それは……」 「それは何よ。言わないならマインドブレイクして変な事させるわよ。【レジェンディア】でも着せて町を練り歩かせてやろうかしら」  ちなみに私のお古よ。大事に着なさいよね! 「ま、待てよおい……」 「じゃあ言え! 言いなさい!」  気まずそうに、言いづらそうに。三つの視線全部を私から逸らして言った。 「……おまえの作ったカレーが食べたかったんだよ!」 「ふーん、私の……え?」  えーっと…… 「あたしのカレーはいつも食べてもらってるけど……おまえのカレーは食べた事ないだろ?」 「そ、そうなんだ……」 「そうだよ悪いか文句あるか」  あー、なんで私達視線逸らしあってんだろ。中学生じゃあるまいし、ねぇ…… 「じゃ……じゃあ仕方ないわね。特別に作ってあげるわ。感謝しなさいよね!」 「ああ……ありがたく頂くよ」  この玉葱、少し目に染みるわね。  とん。とん。とん。  ざく。とん。  ぎちきしだん。  背中に三つの目の視線を感じるけど。  嫌じゃなかった。 「でも、今度はあんたが作んなさいよね」 「ああ。任しときな」  ロュスはそう言って笑った。  何よこのうれしそうな顔。  私まで笑顔になっちゃうじゃない……  玉葱がこんなに目に染みてるのに。 -ロュス・アルタイル編 グッドエンドA- 『美味しいカレーの作り方』
[[■ギャルゲーエンディング風味ネタ]] [[■ギャルゲーエンディング風味ネタSaga3]] #contents *スレイブメイド ソフィエル編 【】内は条件で変動するつもりです。 ただし一人称や性別はいちいち指定すると読みづらくなるかと思いましたので便宜的に一人称『僕』の男性で。 お好みで『俺』『私』『あたし』など一人称や性別を変えてお読み頂ければ幸いです。 (規制食らって書き込めなくなってしまったのでまずこちらに書いてしまいますね)  今僕とソフィエルはふたりきりだ。  ずっと気になっていたんだけど、言ってしまおうかな。 「ソフィエル……」 【その首輪、外してみてくれない?】 「その首輪、外してみてくれない?」 「え? あ、はい……かしこまりました」  鍵でもかけられているのかと思ったけど、首輪はあっさりと外れた。  首輪が巻かれていた部分は赤くこすれていて痛々しい。 「……うん、ありがとう」  首輪をしてる彼女を見るのは辛いけど、この傷痕を見続けるのはもっと……  マフラーでも買ってあげようかと思ったけど、ソフィエルは躊躇なく首輪を再び着けていた。 「無いと落ち着かなくて……」  そう言って彼女は寂しそうに笑った。 【首輪もかわいいよな】 「ううん、なんでもない」 「そうですか。今日は野菜カレーをお作り致しますね」  また野菜かよ!  たまには肉が食べたいんだよ!  肉!肉!肉十八禁!  という言葉が喉まで出てきたけど、我慢、がまん。 **【ソフィエルの好感度が1000未満】 「【MB名】さん、待ってくださーい……」 「ははっソフィエル、早くおいでよ!」  僕達はハイキングに来ている。  世界はなんて美しいんだろう、なんて柄にもない事を考えてみたりして。  この世界を守れたんだから、あの戦いも無駄じゃなかったんだ。 「ね、ソフィエル」  と思ったら、しゃがんで地面を見つめていたり。 「……何、やってんの」  ワンピースの裾がもう少しで地面につくよ。 「【MB名】さん、ふきのとうです!」  興奮気味に言う。少し前からは考えられなかったような明るい表情と声で。 「ふきのとう?」 「蕗の新芽です! 美味しいんですよ」 「ふき……」  知らない名前だ。何となく、窓や廊下のイメージが湧いてきた。 「うちに帰ったら天麩羅にしてあげますね!」  本当に美味しいんだろうか。  フキノトウを摘んでから持ち前の能力で再生させてよいしょと立ち上がるソフィエル。  彼女をそよ風が包んで、髪とワンピースを揺らした。  ……可愛い。  ソフィエルかわいいよソフィエル。 「……きゃっ」 「つかまえた」  ソフィエルを後ろから抱きしめる。  立ち上がるところを待ち構えたんだから楽なものだ。  新鮮で美味しい野菜みたいな、でももっといい香りだ。  胸の奥までソフィエルのにおいを吸い込んでうっとりする。少し危ない奴に見えるかもしれない……  でも今は僕とソフィエルの二人しかいないからたぶん大丈夫だろう。  だから、こんな事を言ったって、誰にも聞かれる心配はない。 「ソフィエル……大好きだよ」 「【MB名】さん……」  呼吸が聞こえ、鼓動が伝わる距離で待つ時間は長かったのか短かったのか。  ソフィエルが口を開く。 「わたしもです」  恥ずかしげに言う彼女の横顔はとても綺麗で、僕は。  ソフィエルの小さな体を力一杯抱きしめた。 -スレイブメイド ソフィエル編 ノーマルエンド-  『悠久の大地に豊穣齎す天使』 **【ソフィエルの好感度が1000以上】 「これ…僕が持ってても持ち腐れだしさ」  【阿羅耶識に協力して戦った時、もらった勾玉。】 「これ、取ってもいいよね」 「あ、はい……」  外す時、内側に締めるとソフィエルの喉からかすかなうめき声が漏れる。 「大丈夫?」 「あ…大丈夫です、申し訳ありません……」  僕は首輪が取り去られたソフィエルの首に【勾玉】をかけた。 「とても似合ってるよ」 「あ…… ありがとう…ございます……」 ***【ソフィエルの首輪を外させていない】  【阿羅耶識の勾玉だけど、】ソフィエルには不思議に似合って見えた。それとも、それは僕の思い込みだろうか。  マインドブレイカーとしていろんな子を支配してきたけど、こんなに可愛い子は初めてだ。  思わず見とれてしまう……  顔を見るのが恥ずかしくて【勾玉】を見たら、ちょうど胸のあたりで揺れていてさらに恥ずかしくなったりして。 「あの……」  遠慮がちな声で我に返る。 「あの……えと……」  ソフィエルの視線は、僕の手の中の、まだ彼女のぬくもりを残した首輪に注がれている。 「これ?」 「御主人様、それ……取っておいてもよろしいですか?」 「うん? いいけど……」  ソフィエルが僕に頼みごとをする事なんてめったにない。どれだけの勇気を込めての言葉だったのだろう。  それに、外してからの事は全然考えてなかったんだ。ソフィエルがなんとかしてくれるならありがたい。 「極星帝国にも優しくしてくれる方はいらっしゃいましたから……」  ソフィエルは僕の手から受け取った首輪を慈しむように握って、遠くを見るような目をした。  思えば僕はその瞳に魅了されてしまったのかもしれない。  とてもせつなくて深い、汚れのない、寂しそうな…… 「そう」  極星帝国の奴隷だったソフィエル。その首輪にはどんな想い出が詰まっているんだろう。  気にはなるけど、その頃の事は聞いちゃいけない気がする。  やっと極星帝国に見いだした居場所を、再び奪ってしまったのは僕なんだから。 「ところでその、御主人様ってのやめてくれないかな……」  僕の抗議に、ソフィエルは少しいたずらっぽく微笑んだ。 「主人っていうのは、一番大好きなひとを対外的に呼ぶ時にも使うんですよ」 「それは違う気が……」 「この間、お肉屋さんで『主人が肉好きなので』って言ったらおまけして頂けました」  ああ、この間の肉野菜炒め、かすかなカレー風味が美味しかったけど肉が多めだと思ったらそういう…… 「えええっ!? ちょっ……」  道理で、なんだかみんなが僕を変な目で見ていると思った。  幼稚園児に『ごしゅじんさまー』とか言ってじゃれられたし……あああああ……  と、とりあえず。これまでは仕方ないとしても善後策を講じよう。 「家の中ではいいけどさ、外ではもっと……【MB名】さんとかさ」 「……【MB名】さ…は、恥ずかしいです……」  御主人様の方がよほど恥ずかしいと思うのは僕だけだろうか。  自分の名前をさん付けで口にした僕も恥ずかしかったけど。 「申し訳ありません…御主人様……」  だから、その顔で謝られると、僕は…… 「御主人様でいいよ、とりあえずは」  ああ、メイドに逆らえないなんて、僕は御主人様には向いてないのかも。  でも。 「はいっ。御主人様っ!」  この笑顔。  この笑顔があれば、細かい事はどうでもいいかなって思えちゃうもんな。 -スレイブメイド ソフィエル編 グッドエンドB-  『アダムが耕しイブが紡いだ時誰がメイドだったか』 ***【ソフィエルの首輪を外させた】 「ソフィエル……僕、ずっとソフィエルに言いたい事があったんだ……」 「は、はい……」 「死ね」  そして力一杯締め上げる。僕の精一杯の力で。 「え……っ?」  羽を大きく羽ばたく。風が巻き起こり、羽根が舞った。 「御主じ……」  ぎりぎりぎりぎりぎり。  【さすが阿羅耶識の勾玉だ。これだけ力一杯引っ張ってもなんともないぜ。僕の手は少し痛いけどな。】  ソフィエルはすぐに抵抗をやめた。手で掴む事もせず、従容となすがままにされた。  苦しくないわけではないらしく、羽はピンと張って強張っている。  でも、もっと泣くとか叫ぶとかいろいろ反応してくれなきゃ面白くないだろうが。つまらない奴だ。  メイドの最後のご奉仕なんだ、僕を最高に喜ばせろよ。  せっかく殺してやるのにさ。一回しか死ねないんだぞ。もっと楽しめよ。  おっと極星帝国ではネクロマンシー技術があるから何度でも死ねるのか? うれしくないけどな。 「か……かはっ…… ごしゅじ……ま……」 「お、なんだ? 断末魔の叫びか? 辞世の句なら聞いてやるぜ。すぐ忘れるけど」 「ありがとうございます……」 「はぁ?」  耳を疑った。この女、歪んだ顔で無理に笑顔を作って。何を言ってやがる。  いつもそうだ。いつだって微笑んでやがる。辛い時はもっとちゃんと辛そうな顔をしろよ。 「これで……やっと……かい……ほ」  急に重くなったかと思うと、すぐに軽くなった。見ればソフィエルは空気に溶けるように消え始めていた。 「おい! 死ぬならもっとちゃんと……」 (ありがとうございます……わたしの……御主人様……  あなたのメイドになれて……あなたの手で解放してもらえて……わたしは……) 「おい!」  最後に、僕の心に直接思念を伝えて。  これまで見たどの顔よりも可愛く笑って。  ソフィエルは消えて無くなった。  後に残ったのは僕の手の中の【勾玉】と、いくつかの羽根。そして首輪だった。  想い出? そんなもの。残るわけがない。  そうだろう? ソフィエル。  おっと、もういないんだったか。 (御主人様……わたしはあなたのメイドで幸せでした……)  風が吹いた。羽根が散らされ、ソフィエルのにおいが消えていく。  その時まで、ソフィエルのにおいになんて気づかなかった。消え始めて初めてわかった。  さっきまでこんなにも強く僕を包んでいたのに。ずっと側にあって、自分のものだとばかり思っていた。  僕はとっさに手を伸ばして羽根を掴もうとしたけれど、わずかに届かず飛ばされて行った。  伸ばした右手から首輪が落ちそうになって握りしめる。今度はしっかり掴んだ。  左手に【勾玉】を。  右手に首輪を。  両手を握りしめたまま、僕はしばらく風に吹かれた。 「また被害者が出たらしい……」 「今度は阿羅耶識だそうだ……」 「今月に入ってもう三人か……」  それからしばらくして、各勢力間であるマインドブレイカーの話が噂されるようになった。  手駒にするではなく、支配した能力者を片っ端から殺害しているという恐怖のマインドブレイカー。  性別すら闇に包まれているが、ただひとつ、殺された能力者は全て絞殺されている。  そして、その首には首輪が一番内側の穴に合わせ、肉に食い込むほどに巻かれているのだという。 「ねえ、君」 「はい? なんですか?」 「似合いそうだね」 「首輪」 -スレイブメイド ソフィエル編 グッドエンドA-  『願い星 流れ星』 ---- *ロュス・アルタイル編  今日も勝利して、私達はミッドタウンのレストランに入った。  ええと、今日は何にしようかしら……? 「おっ! 和風カレー御膳だってさ」  フェアメニューの案内を見てうれしそうに言うロュス。  ちょっと、朝がカツカレーで昼がタイカレー、おやつがカレーパンだったわよね? 「あんたって本当、カレー好きよね」 「なんだよ。おまえだって好きだろ?」 【まあね】  んー……嫌いじゃないし、むしろ好きな方かもね。 「まあね」 「ほらみろ」  うれしそうな顔が少し悔しかったけど、私もカレーを注文した。 【食べられればなんでもいい】 「食べられればなんでもいいわ……」 「おいおい、張り合いないなあ……」 「でもどっちかっていうとハヤシライスの方が好きかしらね」 「なんだとこのやろ! いいかカレーってのはな……」  ぷぷっ。おもしろい。何度やっても新鮮な反応をしてくれる。 **【ロュスの好感度が1000未満】 「ま、待て! やめるんだ!」  模擬店で封じられながらもロュスが叫んで、極星帝国民お気に入りのカレーショップに声が響く。  ちっ、なかなかしぶといわねこの女。魔力を無効化する第三の目の力のおかげかしら。 「バカにしないで! 私だってこれくらい大丈夫なんだからっ!」  世界最強のマインドブレイカーさまをなめてもらっては困るわね。  終極激辛カレーがなによ!  だいたいっ、大盛りで何倍も平らげてるあんたが制止したって説得力ゼロどころか振り切ってマイナスよ。 「行っくわよー」 「やめろ! 行くんじゃない【MB名】!」 「勝つのはあたしよー!」 「勝たんでいいっ! てか何に勝つんだっ!」  あら、わからないの? 意外とバカね。  あんたよ。あんた。  私は戦闘能力じゃあんたには勝てない。  だからせめて……並ぶだけの事はしたい。あんたの一番の得意分野でっ!  そうじゃなきゃ私はあなたの隣では笑えない。  私はスプーンにたっぷり乗せたカレーを口に 「!   」  その瞬間、口の中にダークベインが広がったようだった。  心臓が脈打つたびに全身にダメージが行き渡るわ……  もう、らめらろ(もう、だめかも)  思い浮かべる言葉も舌がもつれるわ…… 「うわあ【MB名】! おいソフィエル!」 「はい? ああっ! ご主人様がピンチが危険ですぅ!」 「違うそっちじゃない!」 「あうぁぅ、首輪巻いても手枷をしてもスレイブメイドにはなれませぇん」 「ちっ……うわっ!」 「ご主人様がレッドで真っ赤なクリムゾンですぅ!」  そんな愉快なやりとりを見ながら私の意識は暗黒のかなたへと消えていった。  まるでスローモーションでもかかるかのようにゆっくりと…… 「……落ち着いたか?」  うん、まあね。 「そうか。まあ大事に至らなくてよかったよ」  ほっとしたようにうんうん頷くけどちょっと待て!  私の口の中が激痛でいっぱいなのは大事じゃないっていうの? 「【MB名】……文句はしゃべれるようになってから聞くから今はゆっくり休んでろ」  ううう……自業自得だとはいえ情けないわ……  でも、私はあきらめない。  いつかきっと必ず、終極激辛カレーを制覇してみせる!  あの戦いに勝利した私だもん、きっと大丈夫よ! 「……いや、諦めた方が身の為だと思うぞ……」  うっさい! -ロュス・アルタイル編 ノーマルエンド- 『最後の闘い』 **【ロュスの好感度が1000以上】 ***【食べられればなんでもいいと答えた】  今日もこの店は賑わっている。  疲れた時。  ごはんを作るのが面倒な時。  泣きたい時。  ご飯を炊き忘れた時。  うれしい時。  食費を節約したい時。  私はこの店に足を運ぶ。 「こんばんは、【MKII】。今日もご馳走になるわね」 「いらっしゃいませ。【MB名】様。」  【大きすぎるほどの長身にちょこんとエプロンを付けたMKIIが厨房に声をかける。】 「【マスター】、【MB名】様が御来店です。」 「ああ、らっしゃい」  額の目を隠すようにバンダナをパイレーツ巻きに巻いたエプロン姿の女がこっちを向いて言う。  ここの店長さんだ。そして昔、私と一緒に戦った、三つ目族の勇者でもある。 「【姉ちゃん】何にする?」 「いつもの」 「りょーかい」  そしてすぐに出てくる、私好みのスペシャルカレー。  いろんな具が豪華に乗ってて、しかも値段は無料。ふふふ、恩を売っておいてよかったわ。マインドブレイカー能力最高! 「いただきまーす」 「……あのさあ、他のお客さんの手前ちったあ遠慮しろよな……」 「はいはい、わかってるって」  まずはちゃんと付けてくれたフォークでロースカツを端っこの部分から。カレーソースを半分くらい付けて。  もぐ。さっくりとして軽い衣に、柔らかくほぐれて肉汁豊かな肉がカレーソースとよく合っている。  うん、今日もいつもと同じく美味しい。  毎日同じ味を出すって事がどれだけ大変なのか、よくわかんないけど大変だって事だけはわかる。  こんなに美味しいんだもん、この店がいつも賑わってるのも当たり前だと思う。  この間、夕方に来た時は藤宮真由美や茗子ちゃんに望ちゃんといった面々がテーブルくっつけて盛り上がっていたし、今日だって……  私服なのでわかりづらいけど、メイドばかり大勢集まったテーブルではメガネのド長が熱弁をふるっている。 「いいですか? 斎木家のメイドたるもの常にメイドとしての誇りを持って……」 (ちょっと絵梨奈、なんでメイド長が来てるのよ) (知らないよ真理奈、気づいたらいたんだよ) (今日はメイド長抜きでのーんびりのびのびする予定だったのに……)  少し迷惑そうな鷺沢姉妹を、はるかがなだめすかす。 (まあ、いいじゃないですか) 「そもそもメイドとは!」 「藍子様、少々飲みすぎなんじゃ……」  この中では綾乃が一番真剣に藍子を心配しているように見える。このふたり、『あいこ』と『あやの』で名前も似てるのよね。実は生き別れの姉妹だったりして。 「メイドとはー!」 「藍子様、本日は下着姿になって踊らないようにお願い致します。」  隣でぼそりと言ったアイナを一瞬にらんだが、視界の端に店内を行き来するソフィエルを認めて人指し指を突きつけた。 「そこのハネつきメイド! 羽根を撒き散らしてはいけませんよっ!」 「は、はいっ! 重々っ…気をつけております……っ!」 「ならよろしい! 行きなさい!」 「はいっ!」 「ああもう……店員さんにまで絡む……」  モーリーが頭を抱えた。  そしてナナが膝を抱えている。実際にはちゃんと椅子に座ってるんだけどイメージ的にね。  機械だから食事ができないけど一緒にテーブルを囲むのが楽しいんでしょうね。その気持ちはわかるわよ。 「ここのカレーは旨いよな。要の姉ちゃんの程じゃねえけど」  む、聞き捨てならないわね。褒めてはいるんでしょうけど。 「素人とプロを比べるなよ」  たまにはいい事言うわね悪魔少年。 「智律さんのカレーも美味しいよね」 「ありがとう、つかさ。でもその道を修め生業として日々修練を積んでいるひとと軽々しく比べてはいけないよ」 「父上、もちろん僕におごってくれますよね」 「自分の分は自分で払いなさい」  あらあら、司馬坊ちゃんは吝嗇家ねえ。 「コ、コラ! 水に唐辛子を入れるんじゃない!」 「おごってくれますよね」 「妹よお兄様のおごりだ、遠慮しないで食え」  両脇に妹ふたりを座らせようとして拒否された各務兄はそれでもめげずに笑顔で言った。  だけど明るいお兄ちゃんと対照的に妹ちゃんたちのテンションは低い。 「といってもカレーではな……」 「カレーじゃね……」 「おいおい好き嫌いしないでちゃんと食わないと大きくならないぞ? ボン! キュッ! ボーン!」 「これ以上大きくなりたくないよ。ハイヒールはけないじゃん」 「あんなものは履かんでいい。チャラチャラした服など着ずにもっと鍛練に励め。だいたい……」  どこから出てきたのか、美晴ちゃんの声が各務姉のそれにかぶる。 「秋成さんおごりって本当ですか?」 「え? ああ、美晴ちゃん……美鈴ちゃんも」 「マスター、カキフライカレー大盛りでっ!」 「いや、おごるのはうちの愚妹たちにであって……なぁ美鈴ちゃん」  同意を求められた美鈴が笑顔で言う。 「私もカキフライカレーを。……秋成殿、ご馳走になります」 「おい」 「ありがとうございまーす」 「でも申し訳ないです」 「ですよね……」  幸と違って気後れした様子のあざかちゃんと清音ちゃんに遙が言う。 「あざかも清音も、こういう時には遠慮しないのが礼儀なんだぞ?」  それでやっと安心したように、ふたりは顔を突き合わせてメニューを指さしはじめた。 「遙さんがそう言うのなら……これがおいしそうですよ、清音様」 「私はこの甘味が気になります。半分ずつどうですか、あざか様」  きゃいきゃい騒ぐ女の子達の様子に、各務兄は注文を取りに行った【アルテア】に向かって苦笑しながら肩をすくめた。でもやっぱり、誰も隣には座ってくれなかった。 「カレーを食べると大きくなるのですか?」 「隊長はどちらかとゆーとカレーまんを仕込んだ方が」 「……何を言っているのかしら? どこに仕込むって言うのかしら? ぜんぜんわからないわ?」 「あのー隊長、もしかして試したことあるんですか?」 「馬鹿な事を言うものではありません。熱いんですよあれ」 「隊長、あれは直接乗せるんじゃないのでは」  ソフィアとルツィエのやりとりの向かいでは、黒髪の少女が魔女っ子の黒い衣装をおしぼりで叩いている。 「ほらミナ、こぼしちゃってる。カレーはしみになるから気をつけなきゃ」  黒だとそんなに目立たないと思うけど…… 「舞ちゃん、ありがと」 「ミナ……あ、当たり前じゃない、こんな事! お礼を言われるような事なんて、ないよ……」  湯上谷の舞ちゃんはアウェイにも関わらず一歩も引いていない。さすがだわ。 「……これ、ちょっと辛いですね」  ドライカレーに顔をしかめたディーナをステラが鼻で笑う。 「ふん……この程度で音を上げるとは白の大魔導師様も大した事がないな」 「あなたこそ、こんな辛いものばかり食べているから舌も頭も愚化してしまうのですよ」 「負け犬の遠吠えにしか聞こえんな」  ステラとディーナはいつも通り口喧嘩をしていて、その間でソニアが呆れたように、ジリアンは無表情に黙々と食べている。  ジリアンは食べる時にも音を立てない。ケルト人ってマナーいいのね。  隣のテーブルではクラリスがworks274にWorks317とチカ・タイガーフィートを侍らせている。 「マスター、何をなさっているのですか?」 「マヨネーズにケチャップに砂糖味噌味醂……やっぱり外食はいろんなもので味をアレンジしてこそよねー!」 「店長に見られたら怒られますよ」 「にゃあ」  それ、全部持ち込んだの? すごい量だけど。きっとworks274とWorks317に持たせたのね…… 「シヴァ様、今日もかっこいいですわ……」 「ったくうるせえ女だな、黙れ」  言ってシヴァはカレーをすくったスプーンでパールヴァティの口をふさぐ。 「あーん♪ シヴァ様のスプーンで食べるとカレーのおいしさもひとしおですっ」 「オイ、口に物入れてしゃべると怖ぇ店長さんに怒られんぞ? いい加減に黙らねえと次は俺のくちびるで塞いで息も出来なくしてやるからな」 「きゃーっ、シヴァ様ったら……! 呼吸を忘れさせてくださいっ!」 「窒息死しても知らねぇぞ?」 (パールヴァティ! 替わんなさい!) (……あんた達……公衆の面前で……!) 「いいものじゃのう……」 「そーかなー……」  仲むつまじい二人の様子が羨ましそうな鈴鹿御前にアシュタルテーが呆れたように相槌を打ち、ゴモリーが一口水を飲んで言う。 「仲よき事は美しき哉、ですよ」  エキゾチックな彼女の笑顔にはカレースプーンが妙に似合うと思う。 「二人とも、女性との仲でしたらいつでも取り持ってあげますよ」 「ありえぬな」 「ないない」 「ないですか」  鈴鹿とアシュタルテーは思わず顔を見合わせて吹き出して、ゴモリーはにこにこしながらカレーをすくった。 「カレーはいらないから肉だけちょうだい」 「肉ー」 「にくー」 「ニクー」 「にーく! にーく!」 「にーく! にーく!」  カレーが苦手な獣人達はそんな事を言う。 「へいへい」  あんたもいちいち対応するんじゃないの。  そのせいで、ステーキやポークチョップがこの店の名物になっちゃったじゃない。 「いっき、いっき!」  お酒の一気飲みは減少傾向にあるらしくて、子供の頃マンガとかで見たような居酒屋の光景は遠い過去の物になっているらしい。  その代わり、ここではカレーの一気食いが繰り広げられている。 「極星帝国十将軍筆頭! レイナ・アークトゥルス、参る!」  掛け声を背に、レイナが大盛りのカレーを平らげる。 「……ふっ、まだ腹八分目にも達せぬわ。全然足りぬ。勢い付けにSMサラダでも食べておくか」 「おおーっ! さすがは姫将軍!」  SMサラダはこの店で一番高級なサラダで、たっぷりの野菜にチーズやハムなど具がどっさり乗っているボリューム満点の一品だ。ちなみに、SMはスペシャルミラクルとかの略で、断じてここの店員さんの事ではないしある性癖の事を指すわけでもない。命名した私が言うんだから間違いない。仮にここの店員さんの事を指す場合はきっとスプリームメイドなんだろう。 「姫は相変わらずすごいな」 「シャルルにいちゃんも食べればいいじゃない。いっぱい食べて早く良くなってよ」 「まあ、そうだがなぁ……戦場に出てた頃のようにはいかないよ」 「そうだけど……」  ちょっと寂しそうなソフィーの声はレオナの大音声にかき消された。 「レオナ・レグルス行きます! はいっ!」 「むむむ、これはまた見事な食べっぷり」 「ロュスさん、わたしにもSMサラダくださいっ!」姉妹品に野菜のみのMAサラダもあるのよ、知ってる? 「アルフハイムのいいところを見せてやりなさいロビン!」 「は、はいティタニア様……」 「店員さん、ロビンにソフィエルカレーを」 「はい…只今……!」  ソフィエルカレーはガーリックライスのオムライスにカレーをかけたものに、MAサラダのミニサイズとスープがついて来る。さらに希望すればオムライス部分に絵や文字を書いてもらえる人気メニューである。作るのは大変みたいだけど。 「オモシロスー……と」  そしていつからかロビンの場合は何も言わなくても書かれるようになっている。  手慣れた様子でケチャップボトルを繰るソフィエル。  でも野菜しか食べなかったイレイザー時代と比べて肉も食べる今の彼女には、なにか禁忌的な雰囲気を感じなくもない。草食動物に同類の肉や骨を食らわせた罪過とその結果を連想させる。もっとも彼女の場合野菜を食べるのも共食いっぽいけどね。  それはそうと巧いものだわ。私にもコツを教えてほしいくらい。そしてすごいボリューム。 「食べきらなきゃ……願いはかな……うっ……」  かなうの? 「ロビン! ファイト!」 「今、いくらですの?」 「概算で十一万ちょいですかね」  リリアに訊かれてシュリーが答える。最初に満腹になって降参した者が全員分を払うのがルールだ。ロビンは蒼白になってかきこんだ。 「ま、負けられない…… んぐっぐっ……た、たべました!」  続いて、ヒナとウェヌスにはさまれたレナスが挑戦を開始した。 「たまにはカレーもよいものですね」 「そうか? ハヤシライスの方が旨いと思うがな…… なぜこの店にはないのだ?」 「それは極星帝国の方のお店ですから……看板通りですね」  看板にはちゃんと『カレーショップ』って書いてあるもんね。 「総司令、顔が赤いですよっ!」 「な、なんでもないっ!(辛い! 辛いいいいい!)」 「参謀長、総司令殿が食べているのは中辛か?」 「いえルシフェル様、確か甘口かと」  ルシフェルが口の端で笑い、店内はもちろん路上も禁煙で禁断症状が出始めたレティクルが震えてる。 「カ、カン違いしないでよねっ! ソフィエルが食べに来いって言うから仕方なく来てあげたんだからねっ! カレーなんか食べたくないんだからねっ!」 「あ、ソフィエル」 「……ありがとうラツィエル…… わたしなんかのために……」 「べ、別にあんたなんかのため…あんたのためじゃっ……」 「うおー、プリンにボクの顔が描いてあるのだー。かわいいのだー。でもこんなに眉毛ふとくないのだー」 「いや、こんなもんだろ」 「もっとほそいのだー。ヤナギマユなのだー。さかまくのだー」 (それは『りゅうび』って読むのよ…そして柳眉は逆立つのよラシエル……) 「でも眉毛はチョコレートでできてるからいいのだー。ふといとたくさんでおいしいのだー」 「私の髪の毛はラズベリージャムか……ふふふ……」 「いっただきーますなのだー」 「あ、崩れた。ぶっさいくだな」 「カーたんひどいのだ! カーたんもこうしてやるのだ! やるのだ!」 「ちっ、血まみれぇっ!?」 「いーひひひひひひー、りゅうけつのだいさんじなーのだー!」 「あの子達は元気でいいわね」 「そうかなぁ」 「おまえが言うなウリエル」 「ウリエルも昔はああだったものねえ」 「ラファエル、おまえも服くらい着たらどうだ」 「だって、暑いし。カレー食べると体温上がるのよね」 「だからって後宮の服のままで来るか?」  ラファエルが着ているのは極星皇帝の妾やってたころのスケスケの寝間着。下着は着けていない。  でも眼鏡だけはしっかりかけている。 「大丈夫よ、アストラル化して来たから誰にも見られていない。あなたもそうでしょう、ミカエル」 「む……」 「ここにいるのはみんな知っている顔だしね」  ラファエルはミカエルを黙らせて紅茶を口に運んだ。  その隣のテーブルではエルムティムベルが楽しそうにカレーを食べている。 「ライトニングスプーン号はっちん! しゅごーしゅごーしゅぼっぶぶぶぶばばばばばばばどどどばひゅーんどどどどどど通信! 前方にご飯山脈を発見! 突入します! 吶喊! どっかーん! がひゅーんしゅばばばばばばきゅーんばきゅーんどかーんばしーんずぎゃーんむっ! 燃料が少ない! 帰投する! カレー燃料補給! 口洞窟に突入する!」 「隊長、美味しいですか?」 「ほいひい」 「よかったです。でも、口に物を入れてしゃべっては、いけません。」 「さいはっちん!」  振り回したスプーンから飛んだカレーがラファエルに当たったが、服ではなく二の腕だったので拭き取って終わる。 「ほら、薄着も役立つでしょう」 「あら、本当」 「む……」  ラファエルは得意気に笑い、ガブリエルが首肯し、ミカエルが渋面を作る。  そしてラファエルの眼鏡に第二波が直撃した。  ラファエルが命より大事にしているっぽい、下着以上に肉体の一部で入浴時もかけているともっぱらの噂の眼鏡をカレーが滴り落ちていく。 「ずばばーん!」 「ずばばーん。」  テーブルも、椅子も、見ようによっては気色悪い東南アジア風の鉢に植わった観葉植物も。  隅に置かれたなんかオーラ放ってるトーテムポールも。  どれもこれも店長はじめスタッフの愛が感じられて、とても愛おしく思える。  そしてこの、個性的なお客達。  この店に集まって来るのはみんな面白おかしい連中ばかり。  折角店長さんが額の目を隠して一般人のふりをしても、お客がこれじゃあまり意味はないような気がするわ。  周りのテーブルは誰もが輝いているように感じる。手をかざせば、照り返しが映るくらいに。  スパイスの調合が大事なカレー粉みたいに、ここに集まるみんながこの店の雰囲気を作っているんでしょうね……  一匙ごとにカレーは減っていく。  食べ過ぎた時のつらさを思い出すといつまでも食べ続けるのは遠慮したい。  だけど、だけどなんだか、食べ終わってしまうのが少し惜しい様な、そんな気分…… 「ねえ」 「ん?」 「いい店だわ。本当、いい店だわ」 「なんだよ、気色悪いな……」 「本当よ。ここがあるから、私きっと頑張れてるんだわ……」  今日は少し疲れすぎたのかもしれない。そんな事を言ってしまう。  マインドブレイカー、精神を支配するのが私の能力。  だから、まずは自分の精神を支配して、決して本心は明かさないように、胸の奥の奥のあそこに仕舞い込んでおいたはずなのに。  ロュスや【MKII】と一緒に戦ってた頃は、今私がいる日常が貴く輝いて見えて、何を措いても取り戻したかった。  それなのに、それを取り戻した今の私は、戦いの日常がこんなにも懐かしくて。  戻りたい。  そう思う事が多くなってきて。  ロュスのカレーはいつもと同じ味。一緒に戦っていた頃、戦闘の合間に作ってくれて、みんなで食べた時と変わってない懐かしい想い出の味。あの頃と全然変わってないわ。 「あのさ、いつでも来いよ。あたしはここで待ってるからさ」 「……うん……ありがと。今日も美味しいわ」  でも少しスパイス効き過ぎかな。目に来る辛さだわ。  だいたい、あんたのカレーはいつも辛過ぎなのよ。私の為のスペシャルだっていうならもう少し甘くしてよ。  まったく……私がどんなに言っても、カレーの味だけは変えてくれなかったわよね。頑固なんだから……  でも、辛いけど美味しいから、いいのかな…… 「……ここ、置くわね」  デザートと食後の飲み物まで完食した私は三百円置いて席を立った。 「……珍しいな。今日は払うのか」  全然足りてないけどね。値段を聞いた事はないけれど、メニューからの概算ではたぶん千円は下らない。さらにドリンクデザートつき。  だけど財布の中の百円玉全部なんだからありがたく頂戴しなさいよね。  あーそこ、財布の中身を軽くしたかったからとか言わない。  それに、いいって言ってくれてるけど、あとで払う気は無いではないのよ。  ツケを残しておけばここに来る大義名分が出来るって、そんな訳でも無いけど。 「何となく、今日はそんな気分だったのよ。また来るわ」 「おう、また来い。……待ってるからな」 「ん、待ってなさい」 「【MB名】さん、またお茶をご一緒しましょうね」寝込んだメイド長を介抱しながら綾乃。 「さようなら。また逢えますよね、父上?」ねえカイム、【私これでも女だよ。】 「またな。あーあ、うちの妹も【MB名ちゃんみたいだったらなあ】」そういう事は妹の前では言わない方がいいと思うよ各務兄。 「またねー」おかわりのカレーを前に美晴が手を振ってくれた。 「お疲れ様でございます」さすが宮廷魔術師、優雅なのよね。【これで私の胸を恨めしそうに見る癖がなければなあ……】 「メロンパン……」「ミナ起きて! ミナアアアアア!」舞ちゃんも大変よね。 「……」ジリアンは今日も無言で静かに微笑むだけ。だけど、その微笑みは千の言葉より雄弁に彼女の深い内面を現している事、私は知ってるから。 「あばよ! きっとまたすぐに会えるよな」夫婦寄り添いながらシヴァが言って片手をあげ、ディーヴィが手を振った。 「おやすみなさい。きっといい夢が見られますよ」あなたに言われると本当にそうなる気がするわ、ゴモリー。 「おやすみー」とガルム。ちょっと犬が飼いたくなる笑顔だわ。 「カレーとブルマは永遠なり!」レイナ…… 「またねっ。今度洞窟にも来てよ。赤ちゃん竜がかわいいんだっ」ちょっと、私をエサにする気じゃないわよね? うそうそ、冗談よソフィー。 「おやすみなさい。夜道は危ないからこれを持ってお行きなさい」リリア、それまた爆発したりしないわよね? 「ハヤシライスならいつでも食べれるぞ。今度一緒に食べよう」涙目で声もちょっと震えてるわね総司令。 「私もおまえもこのそらの下で生きているのだ、また会う事もあるだろう」うん、前回から一週間経たずに再会したわね、ルシフェル。 「べ……別にあんたになんか会いたくなんかないんだからね! せいせいするわ! 早く行っちゃいなさい!」はいはい、わかったわラツィエル。 「さよならーなのだー」ラシエルの口調は伝染るから意識を強く持たないと! 「眼鏡かけてる? 眼鏡はいいわよ!」ええ、時々かけてるわラファエル…… 「おやすみなさいませ【MB名】様…… またの御来店を心よりお待ち申し上げております」何だかんだ言ってメイドに最敬礼されるのは悪い気がしないわね。この間メイドカフェまとめサイトの番外編の部にこの店が紹介されてたけど、結構評判がよくて私もちょっと鼻が高かったのよ、ふふん。  私がさっき見ていた事を知ってか知らずか、面白おかしいみんなは口々に声をかけてくれた。  そうだよね。私には帰って来る場所があって、待ってくれているかけがえのないひとがいて。  だから、私は。  私は……  うん。  暖簾を潜って外に出ると星が綺麗だった。  でも、まだアルタイルの季節には早いかな。  っていうか、どれがアルタイルかもわかんないんだけどね。  星空を見上げるたびにロュスが説明してくれたのに、適当に聞いてた私は忘れちゃったわ。  また、夏が来たら。  ふたりで一緒に星を見よう。  そして私が覚えるまで、ちゃんと説明しなさいよね。聞いてあげるから、たまには。  星空に手をかざす。  今なら星にも失くしかけた夢にも手が届いて、握りしめれば何かを掴めそうな気がした。 -ロュス・アルタイル編 グッドエンドB- 『星空のアルタイルとカレーの楽園をめぐる冒険』 ***【まあねと答えた】  とん。  ざく。  とんとん。  包丁の音だけが響く。  ぶす。  ぎちぎち。  だん。  とん。  テレビかラジオでも点けとけばよかったわ。沈黙が重い……  今からでも点けようかしら?  いやでもそれってなんかわざとらしいし。 「……」 「……」  もう耐えきれない。  てゆーかなんで黙ってるのよ! 口はしゃべるためにあるのよ! 酸素は鼻から吸え。根性で皮膚呼吸しろ! 「……言えばいいじゃない。言いなさいよ! どうせ私は手際悪いわよ! ゆで卵もまともに作れないわよ! あんたみたいにはいかないのよ!」  カレーを作ってる時のロュスはとってもかっこいい。そして可愛い。女の私から見ても悔しいくらいにね。男だったら嫁にしたいくらいだわ。 「そんな事思ってねえよ」  あーもーその顔がむかつくムカプー! 謙遜ってのは、しすぎると厭味になんのよ! 「だいたいっ!」  振り向いて、指さして、言ってやる。包丁で指さしたらなんかやばいというかそもそも指でさしてないけど気にしない。 「あんたが作ればいいじゃないのよー!」  さっきから、自分ならこうするって目で見てて。作りたいってオーラが出てるのよ。  それをじっと耐えて。ちょっと辛そうなくらいに。  そんな我慢してまでなんで私の苦しむところを見たがるかな、この女はっ! 「うっ……」 「なーによー、作りたくないの?」 「そんな事あるもんか! カレーづくりはあたしのライフワークだっ!」  額の目を輝かせて力説するロュス。文字通り光を放ってるから少し怖い…… 暗い時には便利だけど。  この間も電気消してから【携帯電話】探す時に役立って……ってそれはどうでもいい。 「じゃああんたが作れ。あんたも楽しい私も美味しい万事オーケーじゃない」 「それは……」 「それは何よ。言わないならマインドブレイクして変な事させるわよ。【レジェンディア】でも着せて町を練り歩かせてやろうかしら」  ちなみに私のお古よ。大事に着なさいよね! 「ま、待てよおい……」 「じゃあ言え! 言いなさい!」  気まずそうに、言いづらそうに。三つの視線全部を私から逸らして言った。 「……おまえの作ったカレーが食べたかったんだよ!」 「ふーん、私の……え?」  えーっと…… 「あたしのカレーはいつも食べてもらってるけど……おまえのカレーは食べた事ないだろ?」 「そ、そうなんだ……」 「そうだよ悪いか文句あるか」  あー、なんで私達視線逸らしあってんだろ。中学生じゃあるまいし、ねぇ…… 「じゃ……じゃあ仕方ないわね。特別に作ってあげるわ。感謝しなさいよね!」 「ああ……ありがたく頂くよ」  この玉葱、少し目に染みるわね。  とん。とん。とん。  ざく。とん。  ぎちきしだん。  背中に三つの目の視線を感じるけど。  嫌じゃなかった。 「でも、今度はあんたが作んなさいよね」 「ああ。任しときな」  ロュスはそう言って笑った。  何よこのうれしそうな顔。  私まで笑顔になっちゃうじゃない……  玉葱がこんなに目に染みてるのに。 -ロュス・アルタイル編 グッドエンドA- 『美味しいカレーの作り方』

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