■ギャルゲーエンディング風味ネタSaga3

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[[■ギャルゲーエンディング風味ネタ]] [[■ギャルゲーエンディング風味ネタSagaII]] #contents *ウェヌス・ドーン編 「ウェヌスさま、どこかに遊びに行きませんか?」 「どこか、ではわかりませんわよ」 「じゃあ、えっと……」 【海に行きましょう】 【山に行きましょう】 **【ウェヌスの好感度が1000以上】 ***【海に行きましょう】 「お待たせ致しました」  太陽で丸焼けになるくらいの時間待って、やっと更衣室から出てきたウェヌスさまは水着の上から白いパーカーを着て、しかも前をしっかり閉めていました。  そして上品なしぐさでパラソルの下、レジャーマットに腰を下ろします。 「ウェヌスさま、こちらに来て一緒に泳ぎませんか?」 「だ、だめですわっ!」 「せっかく【わたくしとお揃いの水着】なのに……一緒に買いに行ったのに」 「ええ、ですから自分のを見ればいいかと思いますよ?」 「わたくし、ウェヌスさまの着てる姿が見てみたいです…… 脱いでしまいましょうよ」  わたくしはウェヌスさまのパーカーをはぎ取りました。 「ぬぎぬぎ♪」 「やめ……やめなさ……」 「うわぁ」  目に飛び込んできたのは鮮やかなマリンブルーのワンピースに咲いたアイボリーのハイビスカス。  でも、微妙に歪んでいるような……?  しばらく見て、その理由に思い当たりました。  筋肉。  ウェヌスさまの全身をくまなく覆う鎧のようなきんのにくが水着の上からでもしっかりと分かるほどに盛り上がっているのです!  チラリと見たおなかはしっかりと割れていました。四段腹でした。  いつだったか、床に寝そべっておなかにモーニングスターを乗せて跳ね上げていらっしゃいましたっけ……  わたくしの個人的な理由でワンピースにしましたが、ビキニにしなくてよかったです。 「そんなにジロジロ見ないで頂けませんか?」  ウェヌスさまははにかみました。頬を微かに染まっていますが、肌は健康的に日焼けしているからちょっとわかりづらいです。 毎日屋外で修行しているからですね。 「あ、ごめんなさい……」  そして、全身には幾多の傷が見えました。  ウェヌスさまは武芸を趣味にしていますから、いつだって生傷が絶えません。ファンデーションで隠していますけど、限界があります。 「大丈夫ですよ!」 「何がですか?」 「ウェヌスさまはすごくかわいいですっ! ええとそのムキムキボディーも……」 「口に出して言うなんてデリカシーのない事ですわね……」 「け、健康的でいいですよっ! 」  ウェヌスさまはふっと表情をゆるめて言いました。 「でも、あなたならきっとそう言ってくれると信じていたから、勇気が出たのかもしれませんわね」 「え?」 「なんでもありませんわ。……さ、泳ぎましょうか」 「え? 泳いで大丈夫なのですか? 塩水は傷に染みるんじゃ……」 「これしきの傷、塩水に浸かっているうちに直りますわ」 「あ……そうなんですか……」  さすがです。すごいです。 「ああ、あの島…… あそこまで競争しましょう!」 「【……報酬を頂けますか?】」  はるかかなたに小さな島が見えました。わたくしは生きて帰って来れるのでしょうか? -ウェヌス・ドーン編 グッドエンドA- 『筋肉は波のように』 ***【山に行きましょう】 「せえぃやぁっ!」  ウェヌスさまの正拳突きが見上げるような大熊に突き刺さりました。  そして少し遅れて轟音が山間に鳴り響きます。  音速を超えた拳が繰り出す必殺技、通称『ウェヌスどーん!』です。  本来はモーニングスターで繰り出す技なのだそうですけれど、今は素手で出す修行の最中らしいです。 様々な武器で出せるようにする事で、モーニングスターで使った時の威力が飛躍的に上昇するのだそうですが、ホントでしょうか?  突き抜けた衝撃が後ろにそびえ立っていた大岩を砂に変えて、もうもうと砂ぼこりが舞い上がる中、熊はゆっくりと倒れました。 「うふふ、失礼致しますわね」  ウェヌスさまがわたくしの側に置いていたモーニングスターを取り上げて振り上げました。  熊さんさようなら。  わたくしはとっくに目を逸らしてしっかりつぶっていましたが、おぞましい音がします。 きっとわたくしの後ろでは、モーニングスターがかわいそうな熊の血肉や魂を喰らっているのでしょう。 「まあ! また生えてきましたわ。ほら、ここ。ご覧になって」  決して見たくはなかったのですが、見ないと今度はわたくしがモーニングスターの糧になりそうなので頑張って見ました。  プラチナを思わせる不気味なほど美しく輝く球面がほんの少し盛り上がり、新しいとげが生えはじめているのがわかります。  最初はかわいい大きさでとげもなかったというモーニングスター。  それが今の大きさになり、とげが表面を覆い尽くしているという事は、いったい何千人の命を吸っているのか……ちょっと考えたくないです。  とげの表面に犠牲者の苦悶の顔が浮かんできたのでまた目を逸らすと、ウェヌスさまが言いました。 「ああ……わたしの相手になるような猛獣はいないものかしら」 「いないと思いますよ」 「ねえ」 「しませんよ! 相手なんてしませんよ!」 「……つまらない」  つまってくださいっ!  ウェヌスさまがモーニングスターとからだを洗ったうちのお風呂場は肉片や髪の毛で排水口がつまってしまいましたが……  視線を逸らし続けていたら、諦めてくれたみたいで大きくため息を吐きました。 「さて、そろそろおなかが空いて参りましたわね…… 今日はイノシシカレーにしましょうか」  ウェヌスさまの視線の先では親子連れのイノシシが蛇ににらまれた蛙のように凍りついていました。  イノシシさんさようなら。 -ウェヌス・ドーン編 グッドエンドB- 『Non-Stopping Venus Dawn』 **【ウェヌスの好感度が1000未満】 「面白い映画でしたわね」 「ええ、そうね……」 「血湧き、肉躍りましたわ!」  ウェヌスは拳を振り回しながら言いました。  見ている間はそれはお上品に、気品を漂わせていたけれど、外に出るやこの調子。  わたくしは、マトリエルさんが滴るほど思い出し涙でぐっしょり濡れたタオルを握りしめて勧めてくれた恋愛映画の方が見たかったんですけど、ウェヌスが見たがったのは十二歳未満お断りの戦争アクション映画。  極星帝国には映画がなかったみたいで、映画を見るのは生まれて初めてだったという話です。初めて見る映画が楽しいものになるようにわたくしもない頭を絞って考えましたから、楽しんでくれたのはうれしいですが、少し気持ち悪くなってしまいました…… 「……っ」 「【MB名】、顔色が悪いけれど冷房にあたったのかしら?」 「ううん、そうじゃないけど……」  ウェヌスが顔を近づけてきたのでわたくしはあわててそう言いました。  まだ心臓が少しドキドキしてるところにこの気温、そこにこんなに顔を近づけられたら気絶してしまいそう。 「そう? ならいいけれど……」  顔を離したウェヌスは名残の太陽に手をかざしてから、くるくる回って見せました。 「ああ……冷えたからだにはこの暑さも心地よく感じられるわ! それも数分の事だろうけど」  通行する皆さんにぶつからないか心配だったけれど、映画館を出て少し歩いていたから、その範囲内には他のひとはいませんでした。  パステルブルーのワンピースから伸びる、精巧な人形のようなやわらかくてしなやかな手足。  あんなに重たい、わたくしには持ち上げる事も出来ないモーニングスターを振り回しているのにとても細くて、傷の一つもなく、芸術品のようで。  海風がウェヌスの金髪を揺らしていて。  沈む夕日に照らされてきらきら光る金色の髪がとても素敵でした。  手を伸ばすと金髪がなでていって、くすぐったいけれど気持ちいい。 「ふふ、もっと高速で当ててあげましょうか?」 「やめた方が……傷みますよ。ただでさえ潮風にあたっているのだし」 「そんなヤワなからだはしていませんわよ」 「そうみたいですね。ここまで歩いて来るつもりだったなんて……」  ウェヌスにとってはちょっとした散歩なのかもしれないけど、わたくしにとっては苦行に近いです。  帰りには無くなってるから行きは水上バスにしたいってお願い、なんとか聞き入れてもらえて本当によかった。 「今度は泳ぎに来るのもいいかもしれませんわね」 「あ、でもここ遊泳禁止ですよ」 「あら、そうなの? なら別の海に行きましょう…… でも山もいいわね。山籠もりでもしたいものですわ」 「……独りで行ってください」 「あら」  ふいにわたくしの手を取って、逃げられないようにして下から見上げて。 「つれない事を言うのね」  そんな状態で、こんなにも愛らしい顔をしてそんな事を言うのは、卑怯だと思います。  熱射病のふりをして。  その小さなからだを押し倒してしまおうとか。  口づけてしまおうとか。  いっその事、一緒に海に転がり落ちてしまおうか(もちろんウェヌスは実戦泳法の達人だと知っているからですけど)とか。  そんな事も思いましたけど。 「冗談よ。海はくらげが出るし山は熊が出るものね。阿羅耶識の武闘家達と手合わせでもして過ごすわ」  ウェヌスの友達のリリアさんは泳ぎに行って、その、水着の中にくらげが入って大変な事になったらしいし、そのパートナー?のシュリーさんは北極の古代遺跡で北極熊と死闘を繰り広げたとか、おつかれさまです。 「おなかが空いたわね。何か頂きません事?」  左手を掴んだまま、わたくしのプリンセスは歩き出しました。  早くもなく遅くもなく、行く手を切り拓いて道を示してくれる速さで。 「そうですね。いろいろあるみたいですよ」  昔、本気で握手された時には右手が地球の医学では再生不可能なまでに破壊されて、ネクロマンシー技術がなければ 今こうして繋ぐ事も出来なかった、それくらい力強いウェヌスの手は、今はとても優しくて、温かい手でした。 -ウェヌス・ドーン編 ノーマルエンド- 『Grande lumiere』 **【ウェヌスの好感度が0未満】 &size(36){グシャッ} -ウェヌス・ドーン編 バッドエンド- 『Swing Morningstar』 ---- *長谷川綾乃編   喉が渇いたな。少し身体が冷えてしまったから温かいものがいい。  そう考えてここ、台所にやってきたのは数分前の事。  一瞬の油断が命取りだった。俺の目の前にはうっかり手を滑らせて粉々に割れたティーポットが。  そう、綾乃が大事にしているティーポットだ。 【俺のせいだ】 【綾乃が悪い】 **【綾乃の好感度が1000以上】 ***【俺のせいだ】  やっぱり俺のせいだよな。  綾乃が大事にしてたティーポットを使ったりしなければ……あるいはもっと丁寧に扱っていれば。  接着剤で付いたり……しないよな。そもそも接着剤がどこにあるのかも知らないし、綾乃に訊けばわかるのかもしれないけどそれじゃ意味が……って接着剤で完全に直るならそれでもいいのかもしれないけど。  まずは土下座か? 「ああ、どうすればいいんだ」 「心配ご無用ですわよ!」  後ろからよく通る声をかけられて、まさか綾乃がとびびりながら振り向くとリリアがいた。  健康サンダルを突っかけた靴下を履いてないほんのりと桃色に染まった足はちょっと不思議な香りがするけど、これはたぶん通販で買った足湯マッサージマシンのしわざだ。  また使いながらテレビショッピングでも見ていたんだろう。 「ふくげんぴろしきー」  なにやら青いタヌキのような声としぐさでどこからともなく取り出したのは、古くさいふろしきだった。つーか今ピロシキって言ってたよな? 「これで包むとぉ……」  なんて事だ。裏面がピロシキの生地そっくりのプリントになってやがる。 「まじかるぷいぷいー」  手を掲げて妖しい動きをする。  ずるずるぐちゃぐちゃばきばきべきべき。  もんのすごくあやしい音がする。なんだ、何が起こっているんだ。エイリアンでも誕生するのか?  でもよかった。ピロシキとはいえ揚げたり茹でたりはしないみたいだ。ティーポットは食えないけど。  等と心配しながらみていると、リリアの手がとっておきのあやしい形で止まった。 「はぁいできあがりぃ」  しゅるしゅるとピロシキを開けると中からは元通りのティーポットが。 「お、おお、すげえ! 元通りだ」  これで綾乃に八つ裂きにされないですむ! 「驚くのはまだ早いですわ。ウェヌスさん!」 「漸く出番ですのね」  リリアがティーポットをテーブルの上に置きながら発した声に応えて、ゆらりと擬音が聞こえるような、まるで用心棒のようにウェヌスさんが冷蔵庫の影から現れた。  ウェヌスさんが取り出したモーニングスターは相変わらず……いや、でかくなってるぞ! 前よりでかくなってる! 明らかに! 「ふふふふふ、ウェヌスさんのモーニングスターは犠牲者の血肉を喰らって質量やとげを増やしていきますのよ。私としてはとげをドリルに改造したいのですけど……ぎゅいーんって」 「えい」  トンボでも捕るつもりなのかリリアは楽しそうに指を高速回転させたが、ウェヌスさんは無視してそのモーニングスターをティーポットに叩きつけた。  音速をはるかに越える一撃が衝撃波と共にティーポットを粉砕する。あわれ復活していたのは10秒ほど……っておい。 「なんて事を! せっかく直したのに! リリア先生もう一度頼んます」 「うろたえるものではありませんわよ小僧。慌てず騒がず御覧なさい」  ティーポットを見てみると、ズルズル動きながら寄り集まっていき、かけら同士がくっついていくではないか。 「あっ! ティーポットが再生していく!」 「そう。このふろしきで包まれた物は自己再生能力を具えるのですわよ!」 「す、すげえや! ありがとうリリア先生、ウェヌスどん!」  ドアがノックされた。俺は反射的にびくっとなったが、何か言う前にリリアが悠長な口調で答えた。 「はい、空いてますわよ。どうぞ」 「失礼します……」  ネグリジェの上にカーディガンを羽織った綾乃が入ってきた。 「あの、さっきからなんだか物音が……まゆさんが起きてしまいますよ」 「おはよう綾乃。なんでもないわよ」 「そうなんですか? なら、いいんですけど」  いいと言いながらもどこか疑わしげに見回している。 「本当になんでもないんだ。だいたい、俺がこの二人に手出しできる訳が痛!」  ウェヌスさんが俺の尻をつねった。電信柱を引きちぎれるつねり力でつねった。 「テレビショッピングを見ていたら喉が渇いたからお茶を淹れに来たのだけれど、勝手がわからなくて困っていたら彼がやってきたのよ。ちょうどいいわ。お茶を淹れてくださらない? 私達では勝手がわからないもの」 「かしこまりました」 「ねえ」  回れ右しかけた綾乃にリリアがいたずらっぽい声をかける。 「このポット割ってしまったら大変よね?」  声を上げそうになったがなんとか堪えた。 「それは……困りますね。以前ご奉公していた斎木本家で私に紅茶のいろはを教えてくださった方が、こちらにお仕えする時に餞別に下さった物ですから」 「へぇ……なかなかの逸品だものね」 「おほめ頂きありがとうございます。リリア様のお眼鏡に適い光栄です。斎木家御用達の窯で焼いて頂いたものだそうです。では着替えて参りますので少々お待ち下さい」 「ええ、よろしく」  綾乃は一礼して髪とネグリジェを翻し部屋に戻っていった。  いつもはメイド服の綾乃だけど寝間着姿も可愛いよな。あんなに可愛い子にお茶を淹れてもらえるなんて俺はなんて幸せなんだろう。 「ねえ、なにニヤニヤしてんのよ」 「は……!?」  肩を叩かれて振り向くとほっぺたに指が触れていた。 「実戦だったら死んでたね」 「実戦って、指」言いかけて、首筋に鞘に入った短剣が当てられているのに気付いた。指はフェイクだったのか。  してやったりって感じのシュリーを無視して、ティーポットを指ではじくと澄んだ音がした。  もちろん割れたりなんてしなかった。 -長谷川綾乃グッドエンドA― 『ずずっと』 ***【綾乃が悪い】  おのれ長谷川綾乃!  これはもう処刑するしかないな。  膿は早いとこ出すのに限る。そうと決めたら速くしよう。兵法は拙速を旨とすべしって言ってたしな。  そして朝がやってきた。  綾乃最後の朝だ。さらば綾乃。せいぜいいつも通りに過ごすがいい。 「おはよう綾乃」  待ちに待って扉を開けて入ってきた綾乃に声をかけると驚いたような返事が帰って来た。 「旦那様! おはようございます。お早いのですね」 「ああ、朝風呂を使おうと思ったんだよ」 「まあ。江戸っ子ですわね」 「んむ」  本当は隣県出身だけどな。 「だがどうも調子が悪いようだ。昨日君が入った時には問題なかったかい?」  我が家では最後に綾乃が風呂に入って、お湯を抜いて掃除をする事になっている。メイドだからだ。俺は気にしなくてもいいと思うんだが本人がそうしたいものを断る理由もあるまいて。 「ええ……」 「ちょっと見てくれ、こっちなんだが」 「私でわかると良いのですけど。あら……? この香りはまるで紅茶のようですね」  蓋をくるくるガバッと開けるとそこには茶色い水。 「色も紅茶色ですね……」 「実は壊れてはいないんだ。これを綾乃に見せてやりたくてね」 「まあ。ありがとうございます…… 素敵な入浴剤ですね」 「いや、それは本物なんだよ」  紅茶おたくの綾乃だけど、浴槽を満たすものは食品ではないという先入観に捕らわれていたようだな。くくくくく。 「えっ!? それは……どういう」 「綾乃、昔俺に話してくれた事を覚えているかい?」 「ええと、なんでしょう」  しばらく考えてから答えた。『何を』と聞いていないのだからそう答えるのは当然だろう。 「君が斎木家で修行していた時、卒業した君にメイド長がお茶を飲ませてくれたという」 「あのお茶は美味しかったですねぇ……わたしも紅茶には自信があるつもりでしたが、まだまだだと思い知らされました。茶葉も勿論ですが」  このまま放っておくと永遠に喋り続けられそうだったので俺は綾乃の頭をつかんで浴槽に押し込んだ。 「!? な、なんですか旦那様っ!」  片側で結ったポニーテールが垂れ落ちてぴしゃんと水面を打ち、すぐに沈んでいった。 「お戯れはおよしになってくださいっ!」 「冗談なもんか。紅茶、好きだろ?」 「好きですけ」 「ああ、その言葉が聞きたかった……!」  綾乃の貯金を下ろして、空間歪曲でイギリスまで行ってハニエルが買って来た最高級の茶葉をふんだんに使用した紅茶風呂だ。  しょせん風呂だから温度はそんなに高くないけど、玉露とか高級なのはぬるめに淹れろっていうしな。  ああ、芳醇な香りがたまらないね。俺も早く飲みたいぜ。  クラッキングしてくれたラプンツェルとメーュに後でお礼を言っておかないと。な、綾乃。  全体重をかけると綾乃の顔は水中に沈んだが、隙あらば水上に戻ろうと全身であがき続ける。意外に力あるなこの女。そういえばビールケースを運んだりしていたっけ。 「こら、じたばたするな」  飛沫が飛んで染みになるじゃないか。  手桶でぶん殴り、しばらく押さえつけると大人しくなった。シャンプーやボディソープの容器は使わない。 「はーい息を大きく吐いてー吐いてー吐いてー」  ざぶん。 「吸ってー吸ってー吸ってー」 「がぼっ!」  息をすまいと頑張っていた綾乃だが、ついに耐えきれず大きく息をした。気管に最高級紅茶が吸い込まれてゆく。  苦しさがこちらにも伝わってきてたまらない。心を読めるマインドブレイカーならではの醍醐味だな。  毛細管現象で綾乃の白い袖やエプロンが紅茶の紅に染まっていく。よごれていく。  緑色の胸当ては紅に染まるときたない色だ。 「そうだ……じっと味わうんだ、じっくりな。綾乃、美味しいかい?」  返事はない。ゆっくり味わっているんだな。最高の紅茶だからゆっくり味わわなきゃ損だよな、うん。 「そうだ綾乃、俺は綾乃のポニーテールを引っ張りたくてたまらなかったんだよ」  引っ張って水揚げする。 「だん……なさま……」  荒く息をつきながらも何か言いたそうだ。でも面倒なので口を開く前にまたぶち込む。  今度はより深く押し込んだ。  それを何度か繰り返して、ぴくりとも動かなくなった綾乃を一旦引き上げてから仰向けにして浴槽に押し込み、全部浸かったのを見届けてから手でかき混ぜてやる。子供の頃熱い風呂をこうやってかき回して冷ましたっけ。懐かしいなあ。  浮かび上がってくるので掌底をかましたりしていると、ようやく満足のいく浮かび方になった。  かつては可愛かった長谷川綾乃も、いまや虚ろな瞳で口をぽかんと開けて紅茶風呂に浸かってる。  ……ぷっ。口の中に紅茶が溜まってるぜ。そんなに紅茶が飲みたかったのか。綾乃はまったくしようがないな。  そんなに飲みたきゃ勝手に飲めよ。これだけあるからな。飲み放題だ。  浴槽から直接、ポットと揃いのカップですくって飲む。  うん、うまい。綾乃味だ。  もう一杯。  もう一杯。  綾乃、とても美味しいよ。  紅茶風呂の中で髪を海草のようにたなびかせ、絶妙な表情で紅茶の海にたゆたう綾乃にささやく。  聞こえているかい。水中にいても外の音は聞こえるって話だからきっと聞こえてるよな。  やっぱり、綾乃のお茶は最高だ。 「おかわり!」 -長谷川綾乃 グッドエンドB- 『だんなさまおねがい』 **【綾乃の好感度が1000未満】  真夜中のどが乾いた俺は台所にやってきて水を飲んだ。  東京の水道水は最高にうまいぜ。このぬるさがたまらないな。  む、足音だ。  電気を消してステルスシステム発動! 誰だか知らんが用事を済ませて出てったら300数えてこっそり帰るつもりだ。  頼むから用事は簡潔に済ませてすぐ失せてくれ。見つかったら恥ずかしいからな。  なんといっても、面倒だったから服を着たりしていない。上はTシャツで下はトランクス、スリッパも履いていないから素足がぺたぺた音を立てる。裸足で外を歩いてきたマヤや、窓から帰って来た未依奈に、お仕事を終えたルネがよく廊下を汚しては綾乃を嘆かせているけど、きっと俺の足跡も残っているに違いない。  辺りを伺いながら入ってきたのは綾乃だった。  風呂上がりらしく、胸に「にょ」とか言ってる小娘の染め抜かれたTシャツにスパッツを履いている。  綾乃は注意深くあたりを見回すようにして、冷蔵庫から取り出したミネラルウォーターをやかんに注いで沸かしはじめ、戸棚から海苔の缶を取り出した。  お茶漬けでも食うつもりか? 夜こっそり食べるお茶漬けはうまいからな。  しかし海苔の箱から出てきたのは茶筒……開いた茶筒から漂う香りは……これは!  鼻唄を歌いながら、扇形の頂点を切ったような紙を取り出し、手際よく隅を折ってぴったり合う形の器具にセットして、茶筒の中身をスプーンで五杯入れて、お湯を注ぐ。蒸らしに続いて三度に分けてお湯を注ぎ、抽出された液体を氷の満たされたグラスに一気に空けた。  氷が砕ける音と、マドラーに混ぜられた氷がお互いとガラスを叩く硬質な音がハーモニーを奏でるそれを、綾乃は杏色のくちびるに当てて傾けた。 「ごきゅっごきゅっ」  一息で飲み干し、恍惚とした表情で万感の思いを込めて抑え気味に叫んだ。 「ああ……アイスコーヒーほど美味しい飲み物がこの宇宙にあるのでしょうか? これに比べれば紅茶なんか……」  俺は綾乃が去るまで待つのを諦め、足音を殺しつつその場を後にした。 -長谷川綾乃 ノーマルエンド- 『きれいなコーヒーを注いでる』
[[■ギャルゲーエンディング風味ネタ]] [[■ギャルゲーエンディング風味ネタSagaII]] #contents *ウェヌス・ドーン編 「ウェヌスさま、どこかに遊びに行きませんか?」 「どこか、ではわかりませんわよ」 「じゃあ、えっと……」 【海に行きましょう】 【山に行きましょう】 **【ウェヌスの好感度が1000以上】 ***【海に行きましょう】 「お待たせ致しました」  太陽で丸焼けになるくらいの時間待って、やっと更衣室から出てきたウェヌスさまは水着の上から白いパーカーを着て、しかも前をしっかり閉めていました。  そして上品なしぐさでパラソルの下、レジャーマットに腰を下ろします。 「ウェヌスさま、こちらに来て一緒に泳ぎませんか?」 「だ、だめですわっ!」 「せっかく【わたくしとお揃いの水着】なのに……一緒に買いに行ったのに」 「ええ、ですから自分のを見ればいいかと思いますよ?」 「わたくし、ウェヌスさまの着てる姿が見てみたいです…… 脱いでしまいましょうよ」  わたくしはウェヌスさまのパーカーをはぎ取りました。 「ぬぎぬぎ♪」 「やめ……やめなさ……」 「うわぁ」  目に飛び込んできたのは鮮やかなマリンブルーのワンピースに咲いたアイボリーのハイビスカス。  でも、微妙に歪んでいるような……?  しばらく見て、その理由に思い当たりました。  筋肉。  ウェヌスさまの全身をくまなく覆う鎧のようなきんのにくが水着の上からでもしっかりと分かるほどに盛り上がっているのです!  チラリと見たおなかはしっかりと割れていました。四段腹でした。  いつだったか、床に寝そべっておなかにモーニングスターを乗せて跳ね上げていらっしゃいましたっけ……  わたくしの個人的な理由でワンピースにしましたが、ビキニにしなくてよかったです。 「そんなにジロジロ見ないで頂けませんか?」  ウェヌスさまははにかみました。頬を微かに染まっていますが、肌は健康的に日焼けしているからちょっとわかりづらいです。 毎日屋外で修行しているからですね。 「あ、ごめんなさい……」  そして、全身には幾多の傷が見えました。  ウェヌスさまは武芸を趣味にしていますから、いつだって生傷が絶えません。ファンデーションで隠していますけど、限界があります。 「大丈夫ですよ!」 「何がですか?」 「ウェヌスさまはすごくかわいいですっ! ええとそのムキムキボディーも……」 「口に出して言うなんてデリカシーのない事ですわね……」 「け、健康的でいいですよっ! 」  ウェヌスさまはふっと表情をゆるめて言いました。 「でも、あなたならきっとそう言ってくれると信じていたから、勇気が出たのかもしれませんわね」 「え?」 「なんでもありませんわ。……さ、泳ぎましょうか」 「え? 泳いで大丈夫なのですか? 塩水は傷に染みるんじゃ……」 「これしきの傷、塩水に浸かっているうちに直りますわ」 「あ……そうなんですか……」  さすがです。すごいです。 「ああ、あの島…… あそこまで競争しましょう!」 「【……報酬を頂けますか?】」  はるかかなたに小さな島が見えました。わたくしは生きて帰って来れるのでしょうか? -ウェヌス・ドーン編 グッドエンドA- 『筋肉は波のように』 ***【山に行きましょう】 「せえぃやぁっ!」  ウェヌスさまの正拳突きが見上げるような大熊に突き刺さりました。  そして少し遅れて轟音が山間に鳴り響きます。  音速を超えた拳が繰り出す必殺技、通称『ウェヌスどーん!』です。  本来はモーニングスターで繰り出す技なのだそうですけれど、今は素手で出す修行の最中らしいです。 様々な武器で出せるようにする事で、モーニングスターで使った時の威力が飛躍的に上昇するのだそうですが、ホントでしょうか?  突き抜けた衝撃が後ろにそびえ立っていた大岩を砂に変えて、もうもうと砂ぼこりが舞い上がる中、熊はゆっくりと倒れました。 「うふふ、失礼致しますわね」  ウェヌスさまがわたくしの側に置いていたモーニングスターを取り上げて振り上げました。  熊さんさようなら。  わたくしはとっくに目を逸らしてしっかりつぶっていましたが、おぞましい音がします。 きっとわたくしの後ろでは、モーニングスターがかわいそうな熊の血肉や魂を喰らっているのでしょう。 「まあ! また生えてきましたわ。ほら、ここ。ご覧になって」  決して見たくはなかったのですが、見ないと今度はわたくしがモーニングスターの糧になりそうなので頑張って見ました。  プラチナを思わせる不気味なほど美しく輝く球面がほんの少し盛り上がり、新しいとげが生えはじめているのがわかります。  最初はかわいい大きさでとげもなかったというモーニングスター。  それが今の大きさになり、とげが表面を覆い尽くしているという事は、いったい何千人の命を吸っているのか……ちょっと考えたくないです。  とげの表面に犠牲者の苦悶の顔が浮かんできたのでまた目を逸らすと、ウェヌスさまが言いました。 「ああ……わたしの相手になるような猛獣はいないものかしら」 「いないと思いますよ」 「ねえ」 「しませんよ! 相手なんてしませんよ!」 「……つまらない」  つまってくださいっ!  ウェヌスさまがモーニングスターとからだを洗ったうちのお風呂場は肉片や髪の毛で排水口がつまってしまいましたが……  視線を逸らし続けていたら、諦めてくれたみたいで大きくため息を吐きました。 「さて、そろそろおなかが空いて参りましたわね…… 今日はイノシシカレーにしましょうか」  ウェヌスさまの視線の先では親子連れのイノシシが蛇ににらまれた蛙のように凍りついていました。  イノシシさんさようなら。 -ウェヌス・ドーン編 グッドエンドB- 『Non-Stopping Venus Dawn』 **【ウェヌスの好感度が1000未満】 「面白い映画でしたわね」 「ええ、そうね……」 「血湧き、肉躍りましたわ!」  ウェヌスは拳を振り回しながら言いました。  見ている間はそれはお上品に、気品を漂わせていたけれど、外に出るやこの調子。  わたくしは、マトリエルさんが滴るほど思い出し涙でぐっしょり濡れたタオルを握りしめて勧めてくれた恋愛映画の方が見たかったんですけど、ウェヌスが見たがったのは十二歳未満お断りの戦争アクション映画。  極星帝国には映画がなかったみたいで、映画を見るのは生まれて初めてだったという話です。初めて見る映画が楽しいものになるようにわたくしもない頭を絞って考えましたから、楽しんでくれたのはうれしいですが、少し気持ち悪くなってしまいました…… 「……っ」 「【MB名】、顔色が悪いけれど冷房にあたったのかしら?」 「ううん、そうじゃないけど……」  ウェヌスが顔を近づけてきたのでわたくしはあわててそう言いました。  まだ心臓が少しドキドキしてるところにこの気温、そこにこんなに顔を近づけられたら気絶してしまいそう。 「そう? ならいいけれど……」  顔を離したウェヌスは名残の太陽に手をかざしてから、くるくる回って見せました。 「ああ……冷えたからだにはこの暑さも心地よく感じられるわ! それも数分の事だろうけど」  通行する皆さんにぶつからないか心配だったけれど、映画館を出て少し歩いていたから、その範囲内には他のひとはいませんでした。  パステルブルーのワンピースから伸びる、精巧な人形のようなやわらかくてしなやかな手足。  あんなに重たい、わたくしには持ち上げる事も出来ないモーニングスターを振り回しているのにとても細くて、傷の一つもなく、芸術品のようで。  海風がウェヌスの金髪を揺らしていて。  沈む夕日に照らされてきらきら光る金色の髪がとても素敵でした。  手を伸ばすと金髪がなでていって、くすぐったいけれど気持ちいい。 「ふふ、もっと高速で当ててあげましょうか?」 「やめた方が……傷みますよ。ただでさえ潮風にあたっているのだし」 「そんなヤワなからだはしていませんわよ」 「そうみたいですね。ここまで歩いて来るつもりだったなんて……」  ウェヌスにとってはちょっとした散歩なのかもしれないけど、わたくしにとっては苦行に近いです。  帰りには無くなってるから行きは水上バスにしたいってお願い、なんとか聞き入れてもらえて本当によかった。 「今度は泳ぎに来るのもいいかもしれませんわね」 「あ、でもここ遊泳禁止ですよ」 「あら、そうなの? なら別の海に行きましょう…… でも山もいいわね。山籠もりでもしたいものですわ」 「……独りで行ってください」 「あら」  ふいにわたくしの手を取って、逃げられないようにして下から見上げて。 「つれない事を言うのね」  そんな状態で、こんなにも愛らしい顔をしてそんな事を言うのは、卑怯だと思います。  熱射病のふりをして。  その小さなからだを押し倒してしまおうとか。  口づけてしまおうとか。  いっその事、一緒に海に転がり落ちてしまおうか(もちろんウェヌスは実戦泳法の達人だと知っているからですけど)とか。  そんな事も思いましたけど。 「冗談よ。海はくらげが出るし山は熊が出るものね。阿羅耶識の武闘家達と手合わせでもして過ごすわ」  ウェヌスの友達のリリアさんは泳ぎに行って、その、水着の中にくらげが入って大変な事になったらしいし、そのパートナー?のシュリーさんは北極の古代遺跡で北極熊と死闘を繰り広げたとか、おつかれさまです。 「おなかが空いたわね。何か頂きません事?」  左手を掴んだまま、わたくしのプリンセスは歩き出しました。  早くもなく遅くもなく、行く手を切り拓いて道を示してくれる速さで。 「そうですね。いろいろあるみたいですよ」  昔、本気で握手された時には右手が地球の医学では再生不可能なまでに破壊されて、ネクロマンシー技術がなければ 今こうして繋ぐ事も出来なかった、それくらい力強いウェヌスの手は、今はとても優しくて、温かい手でした。 -ウェヌス・ドーン編 ノーマルエンド- 『Grande lumiere』 **【ウェヌスの好感度が0未満】 &size(36){グシャッ} -ウェヌス・ドーン編 バッドエンド- 『Swing Morningstar』 ---- *長谷川綾乃編   喉が渇いたな。少し身体が冷えてしまったから温かいものがいい。  そう考えてここ、台所にやってきたのは数分前の事。  一瞬の油断が命取りだった。俺の目の前にはうっかり手を滑らせて粉々に割れたティーポットが。  そう、綾乃が大事にしているティーポットだ。 【俺のせいだ】 【綾乃が悪い】 **【綾乃の好感度が1000以上】 ***【俺のせいだ】  やっぱり俺のせいだよな。  綾乃が大事にしてたティーポットを使ったりしなければ……あるいはもっと丁寧に扱っていれば。  接着剤で付いたり……しないよな。そもそも接着剤がどこにあるのかも知らないし、綾乃に訊けばわかるのかもしれないけどそれじゃ意味が……って接着剤で完全に直るならそれでもいいのかもしれないけど。  まずは土下座か? 「ああ、どうすればいいんだ」 「心配ご無用ですわよ!」  後ろからよく通る声をかけられて、まさか綾乃がとびびりながら振り向くとリリアがいた。  健康サンダルを突っかけた靴下を履いてないほんのりと桃色に染まった足はちょっと不思議な香りがするけど、これはたぶん通販で買った足湯マッサージマシンのしわざだ。  また使いながらテレビショッピングでも見ていたんだろう。 「ふくげんぴろしきー」  なにやら青いタヌキのような声としぐさでどこからともなく取り出したのは、古くさいふろしきだった。つーか今ピロシキって言ってたよな? 「これで包むとぉ……」  なんて事だ。裏面がピロシキの生地そっくりのプリントになってやがる。 「まじかるぷいぷいー」  手を掲げて妖しい動きをする。  ずるずるぐちゃぐちゃばきばきべきべき。  もんのすごくあやしい音がする。なんだ、何が起こっているんだ。エイリアンでも誕生するのか?  でもよかった。ピロシキとはいえ揚げたり茹でたりはしないみたいだ。ティーポットは食えないけど。  等と心配しながらみていると、リリアの手がとっておきのあやしい形で止まった。 「はぁいできあがりぃ」  しゅるしゅるとピロシキを開けると中からは元通りのティーポットが。 「お、おお、すげえ! 元通りだ」  これで綾乃に八つ裂きにされないですむ! 「驚くのはまだ早いですわ。ウェヌスさん!」 「漸く出番ですのね」  リリアがティーポットをテーブルの上に置きながら発した声に応えて、ゆらりと擬音が聞こえるような、まるで用心棒のようにウェヌスさんが冷蔵庫の影から現れた。  ウェヌスさんが取り出したモーニングスターは相変わらず……いや、でかくなってるぞ! 前よりでかくなってる! 明らかに! 「ふふふふふ、ウェヌスさんのモーニングスターは犠牲者の血肉を喰らって質量やとげを増やしていきますのよ。私としてはとげをドリルに改造したいのですけど……ぎゅいーんって」 「えい」  トンボでも捕るつもりなのかリリアは楽しそうに指を高速回転させたが、ウェヌスさんは無視してそのモーニングスターをティーポットに叩きつけた。  音速をはるかに越える一撃が衝撃波と共にティーポットを粉砕する。あわれ復活していたのは10秒ほど……っておい。 「なんて事を! せっかく直したのに! リリア先生もう一度頼んます」 「うろたえるものではありませんわよ小僧。慌てず騒がず御覧なさい」  ティーポットを見てみると、ズルズル動きながら寄り集まっていき、かけら同士がくっついていくではないか。 「あっ! ティーポットが再生していく!」 「そう。このふろしきで包まれた物は自己再生能力を具えるのですわよ!」 「す、すげえや! ありがとうリリア先生、ウェヌスどん!」  ドアがノックされた。俺は反射的にびくっとなったが、何か言う前にリリアが悠長な口調で答えた。 「はい、空いてますわよ。どうぞ」 「失礼します……」  ネグリジェの上にカーディガンを羽織った綾乃が入ってきた。 「あの、さっきからなんだか物音が……まゆさんが起きてしまいますよ」 「おはよう綾乃。なんでもないわよ」 「そうなんですか? なら、いいんですけど」  いいと言いながらもどこか疑わしげに見回している。 「本当になんでもないんだ。だいたい、俺がこの二人に手出しできる訳が痛!」  ウェヌスさんが俺の尻をつねった。電信柱を引きちぎれるつねり力でつねった。 「テレビショッピングを見ていたら喉が渇いたからお茶を淹れに来たのだけれど、勝手がわからなくて困っていたら彼がやってきたのよ。ちょうどいいわ。お茶を淹れてくださらない? 私達では勝手がわからないもの」 「かしこまりました」 「ねえ」  回れ右しかけた綾乃にリリアがいたずらっぽい声をかける。 「このポット割ってしまったら大変よね?」  声を上げそうになったがなんとか堪えた。 「それは……困りますね。以前ご奉公していた斎木本家で私に紅茶のいろはを教えてくださった方が、こちらにお仕えする時に餞別に下さった物ですから」 「へぇ……なかなかの逸品だものね」 「おほめ頂きありがとうございます。リリア様のお眼鏡に適い光栄です。斎木家御用達の窯で焼いて頂いたものだそうです。では着替えて参りますので少々お待ち下さい」 「ええ、よろしく」  綾乃は一礼して髪とネグリジェを翻し部屋に戻っていった。  いつもはメイド服の綾乃だけど寝間着姿も可愛いよな。あんなに可愛い子にお茶を淹れてもらえるなんて俺はなんて幸せなんだろう。 「ねえ、なにニヤニヤしてんのよ」 「は……!?」  肩を叩かれて振り向くとほっぺたに指が触れていた。 「実戦だったら死んでたね」 「実戦って、指」言いかけて、首筋に鞘に入った短剣が当てられているのに気付いた。指はフェイクだったのか。  してやったりって感じのシュリーを無視して、ティーポットを指ではじくと澄んだ音がした。  もちろん割れたりなんてしなかった。 -長谷川綾乃グッドエンドA― 『ずずっと』 ***【綾乃が悪い】  おのれ長谷川綾乃!  これはもう処刑するしかないな。  膿は早いとこ出すのに限る。そうと決めたら速くしよう。兵法は拙速を旨とすべしって言ってたしな。  そして朝がやってきた。  綾乃最後の朝だ。さらば綾乃。せいぜいいつも通りに過ごすがいい。 「おはよう綾乃」  待ちに待って扉を開けて入ってきた綾乃に声をかけると驚いたような返事が帰って来た。 「旦那様! おはようございます。お早いのですね」 「ああ、朝風呂を使おうと思ったんだよ」 「まあ。江戸っ子ですわね」 「んむ」  本当は隣県出身だけどな。 「だがどうも調子が悪いようだ。昨日君が入った時には問題なかったかい?」  我が家では最後に綾乃が風呂に入って、お湯を抜いて掃除をする事になっている。メイドだからだ。俺は気にしなくてもいいと思うんだが本人がそうしたいものを断る理由もあるまいて。 「ええ……」 「ちょっと見てくれ、こっちなんだが」 「私でわかると良いのですけど。あら……? この香りはまるで紅茶のようですね」  蓋をくるくるガバッと開けるとそこには茶色い水。 「色も紅茶色ですね……」 「実は壊れてはいないんだ。これを綾乃に見せてやりたくてね」 「まあ。ありがとうございます…… 素敵な入浴剤ですね」 「いや、それは本物なんだよ」  紅茶おたくの綾乃だけど、浴槽を満たすものは食品ではないという先入観に捕らわれていたようだな。くくくくく。 「えっ!? それは……どういう」 「綾乃、昔俺に話してくれた事を覚えているかい?」 「ええと、なんでしょう」  しばらく考えてから答えた。『何を』と聞いていないのだからそう答えるのは当然だろう。 「君が斎木家で修行していた時、卒業した君にメイド長がお茶を飲ませてくれたという」 「あのお茶は美味しかったですねぇ……わたしも紅茶には自信があるつもりでしたが、まだまだだと思い知らされました。茶葉も勿論ですが」  このまま放っておくと永遠に喋り続けられそうだったので俺は綾乃の頭をつかんで浴槽に押し込んだ。 「!? な、なんですか旦那様っ!」  片側で結ったポニーテールが垂れ落ちてぴしゃんと水面を打ち、すぐに沈んでいった。 「お戯れはおよしになってくださいっ!」 「冗談なもんか。紅茶、好きだろ?」 「好きですけ」 「ああ、その言葉が聞きたかった……!」  綾乃の貯金を下ろして、空間歪曲でイギリスまで行ってハニエルが買って来た最高級の茶葉をふんだんに使用した紅茶風呂だ。  しょせん風呂だから温度はそんなに高くないけど、玉露とか高級なのはぬるめに淹れろっていうしな。  ああ、芳醇な香りがたまらないね。俺も早く飲みたいぜ。  クラッキングしてくれたラプンツェルとメーュに後でお礼を言っておかないと。な、綾乃。  全体重をかけると綾乃の顔は水中に沈んだが、隙あらば水上に戻ろうと全身であがき続ける。意外に力あるなこの女。そういえばビールケースを運んだりしていたっけ。 「こら、じたばたするな」  飛沫が飛んで染みになるじゃないか。  手桶でぶん殴り、しばらく押さえつけると大人しくなった。シャンプーやボディソープの容器は使わない。 「はーい息を大きく吐いてー吐いてー吐いてー」  ざぶん。 「吸ってー吸ってー吸ってー」 「がぼっ!」  息をすまいと頑張っていた綾乃だが、ついに耐えきれず大きく息をした。気管に最高級紅茶が吸い込まれてゆく。  苦しさがこちらにも伝わってきてたまらない。心を読めるマインドブレイカーならではの醍醐味だな。  毛細管現象で綾乃の白い袖やエプロンが紅茶の紅に染まっていく。よごれていく。  緑色の胸当ては紅に染まるときたない色だ。 「そうだ……じっと味わうんだ、じっくりな。綾乃、美味しいかい?」  返事はない。ゆっくり味わっているんだな。最高の紅茶だからゆっくり味わわなきゃ損だよな、うん。 「そうだ綾乃、俺は綾乃のポニーテールを引っ張りたくてたまらなかったんだよ」  引っ張って水揚げする。 「だん……なさま……」  荒く息をつきながらも何か言いたそうだ。でも面倒なので口を開く前にまたぶち込む。  今度はより深く押し込んだ。  それを何度か繰り返して、ぴくりとも動かなくなった綾乃を一旦引き上げてから仰向けにして浴槽に押し込み、全部浸かったのを見届けてから手でかき混ぜてやる。子供の頃熱い風呂をこうやってかき回して冷ましたっけ。懐かしいなあ。  浮かび上がってくるので掌底をかましたりしていると、ようやく満足のいく浮かび方になった。  かつては可愛かった長谷川綾乃も、いまや虚ろな瞳で口をぽかんと開けて紅茶風呂に浸かってる。  ……ぷっ。口の中に紅茶が溜まってるぜ。そんなに紅茶が飲みたかったのか。綾乃はまったくしようがないな。  そんなに飲みたきゃ勝手に飲めよ。これだけあるからな。飲み放題だ。  浴槽から直接、ポットと揃いのカップですくって飲む。  うん、うまい。綾乃味だ。  もう一杯。  もう一杯。  綾乃、とても美味しいよ。  紅茶風呂の中で髪を海草のようにたなびかせ、絶妙な表情で紅茶の海にたゆたう綾乃にささやく。  聞こえているかい。水中にいても外の音は聞こえるって話だからきっと聞こえてるよな。  やっぱり、綾乃のお茶は最高だ。 「おかわり!」 -長谷川綾乃 グッドエンドB- 『だんなさまおねがい』 **【綾乃の好感度が1000未満】  真夜中のどが乾いた俺は台所にやってきて水を飲んだ。  東京の水道水は最高にうまいぜ。このぬるさがたまらないな。  む、足音だ。  電気を消してステルスシステム発動! 誰だか知らんが用事を済ませて出てったら300数えてこっそり帰るつもりだ。  頼むから用事は簡潔に済ませてすぐ失せてくれ。見つかったら恥ずかしいからな。  なんといっても、面倒だったから服を着たりしていない。上はTシャツで下はトランクス、スリッパも履いていないから素足がぺたぺた音を立てる。裸足で外を歩いてきたマヤや、窓から帰って来た未依奈に、お仕事を終えたルネがよく廊下を汚しては綾乃を嘆かせているけど、きっと俺の足跡も残っているに違いない。  辺りを伺いながら入ってきたのは綾乃だった。  風呂上がりらしく、胸に「にょ」とか言ってる小娘の染め抜かれたTシャツにスパッツを履いている。  綾乃は注意深くあたりを見回すようにして、冷蔵庫から取り出したミネラルウォーターをやかんに注いで沸かしはじめ、戸棚から海苔の缶を取り出した。  お茶漬けでも食うつもりか? 夜こっそり食べるお茶漬けはうまいからな。  しかし海苔の箱から出てきたのは茶筒……開いた茶筒から漂う香りは……これは!  鼻唄を歌いながら、扇形の頂点を切ったような紙を取り出し、手際よく隅を折ってぴったり合う形の器具にセットして、茶筒の中身をスプーンで五杯入れて、お湯を注ぐ。蒸らしに続いて三度に分けてお湯を注ぎ、抽出された液体を氷の満たされたグラスに一気に空けた。  氷が砕ける音と、マドラーに混ぜられた氷がお互いとガラスを叩く硬質な音がハーモニーを奏でるそれを、綾乃は杏色のくちびるに当てて傾けた。 「ごきゅっごきゅっ」  一息で飲み干し、恍惚とした表情で万感の思いを込めて抑え気味に叫んだ。 「ああ……アイスコーヒーほど美味しい飲み物がこの宇宙にあるのでしょうか? これに比べれば紅茶なんか……」  俺は綾乃が去るまで待つのを諦め、足音を殺しつつその場を後にした。 -長谷川綾乃 ノーマルエンド- 『きれいなコーヒーを注いでる』 *リース・メリディアーナ編 何故か俺は最近、異様な疲労感に苛まれるようになっていた。 ちょっと歩くのもひどく疲れ、ぶつけてもいないのに青あざが出来ていて、頭がボーッとして考え事すらまともに出来ず、視覚や聴覚等も弱まってきている。 ただ一つ衰えていないのは、マインドブレイク能力だけだった。 助けて、と願うとすぐ癒しの力を持つ魔術師や霊能力者や天使達が集まり、俺を助けようと最大限の努力をしてくれた。しかし・・・ 「駄目です、回復が間に合いません!!何か不自然なものが生命力を奪っています」 「これは・・・傷跡の一つから、死霊の力を感じます」 この力は要するに、死ぬと死体がゾンビになって勝手に人を襲い始めるという事らしい。 「(MB)さん、何か心当たりは?」 そう言えば、極星で死霊術師やアンデッドと戦ったな。一番大きな傷は確か、リース・メリディアーナというアンデッドから受けたっけ・・・ 「なあ、この呪いを解く事って出来ないのか?」 「呪いをかけた本人に解き方を教えてもらえれば、一番手っ取り早いのですが」 【他の方法を探す】 【リースに頼んで呪いを解いてもらう】 【リースを倒す】 **【他の方法を探す】 攻撃に乗せてこっそり呪いをかけて来るような奴が、解き方を教えてくれるとは思えない。 確か、アンデッド化したランスロットを灰にした「解除の術」があったよな。 俺が死ぬ前にそれを使えば、ひょっとして!? 「うまく行くという保証は無いし、下手すればゾンビどころか・・・」 「覚悟の上だ!時間が無い、頼む!!」 賭けは、成功した。 ずっと混濁していた意識も、ハッキリしている。体も軽い。脈も有る。 「やったぁー!!」 「ありがとう、みんな本当にありがとう」 しかし油断は出来ない。こういう何かをやって力を使い果たした直後というのは、このタイミングで敵がやって来るというお決まりのパターンでもあるのだ。 ほら、遠くから駆け寄って来るあれは、呪いを解かれたから別の方法で俺を倒しに・・・ 「・・・元気だった?」 あれ? 「うん、元気そう。良かった」 何故かリースからは戦う意思が全く感じられない。 「あのね、良かったら今度・・・何でもない。じゃあね」 結局何もせず、ただ、残念そうな・・・寂しそうなそぶりだけを見せて、リースは帰って行った。 良かったら今度遊びに来てね、とでも言いたかったのだろうか。 だが、極星は基本的に俺たちとは敵対する存在。彼女とも何度となく戦った。 友好的な関係を築くのは、まだまだ時間がかかるだろう。 -リース・メリディアーナ編 ノーマルエンド- 『友達まで、まだ遠い』 **【リースに頼んで呪いを解いてもらう】 「へ?呪い!?ご、ごめんなさい、そんな力があったなんて全然気づかなくって・・・こんな事になるなんて」 何てこった、リース本人にも解き方がわからないどころか、それ以前の問題だったとは!! と、その時。 「こうなったら・・・最後の手段に賭けるしかありません」 俺の呼ぶ声に集まったうちの一人、イェルハュクという三つ目の治癒術師が、何か知っているそぶりを見せた。 「完全に死んでしまう前に、別のアンデッド化の術を上書きしておけば、動くか動かないかの違いしかないただの死体にはならずに済むかと」 早速、死霊術師達が儀式を用意してくれた。 「グレースさん、よろしくお願いします」 アルシノエの他にも、このグレース・ディアディムなる女もベテランの死霊術師らしい。 彼女達なら、俺をアンデッドとしつつも元の人格を完全に保ったままにする事などたやすいという。 「あなたが(MB)ね。イェルハュクとリースから話は聞いているわ」 え、リース? 「ええ。あの子、あなたの事が気に入っちゃったみたいでね。ずっとそばに居てほしくて、無意識のうちに自分と同じアンデッドに変える呪いを発動してたけど、どうやら失敗だったって訳」 アンデッド。死んだのに死なない、生命の摂理を外れた存在。 何千年も前から、命有るもの達が次々と天寿を全うして、自分の前から去っていく・・・。 その孤独を考えると、急に彼女が愛しくなってきた。 「ではお願いします、くれぐれも記憶や人格をいじらないで下さいね・・・あの子の事、忘れたくないから」 「はいはい」 そんなやりとりをしている間にも、俺の命の灯火は限界を迎えてきた。 心臓の鼓動がどんどん弱まっていくのがわかる。 手足が冷たく、全身の痛みが痺れに変わっていく。 死霊術師達が目の前で唱える呪文が、やけに遠く聞こえる。 息が出来なくなる。なのに苦しくない。 どんどん霞む視界に、あの少女の笑顔が浮かんだ様な気がして・・・ 「おはよう。えへへ」 目が覚めた時、俺の手を握っていた冷たい手は・・・もちろん彼女だった。 -リース・メリディアーナ編 グッドエンド- 『ずっと、ずっと一緒』 **【リースを倒す】 ※グロ注意 「(MB)なの?」 探すまでもなく現れたあの少女は・・・間違い無い、リースだ。 どうやら桐原まなやその他の件以来、俺は完全に敵として認識されているらしい。変な呪いをかけていくくらいだし。 そんな相手に今更頭を下げたところで、交渉に応じてくれるか?そもそも呪いをかける時に、解く事なんか想定しているか? だがその割には何だか様子がおかしい様な・・・。 「来てくれたのね・・・嬉しい」 まさか、まなを誘拐したせいで例の5人を敵に回したのに懲りて、代わりに俺を実験台に選んだ? だがマインドブレイカーたる俺が、敵の奇襲に備えずにこんな危険な場所をうろつく訳が無い。すぐさま仲間をブレイク! 次から次へと仲間達の攻撃が繰り出され、少女型アンデッドに傷を与える。 「こいつに勝てば、きっと呪いが解ける!」 「どうしたの(MB)?逃げないでよぉ〜!」 だが流石に最古参のアンデッドなだけあって、リースは壁に叩き付けられて全身の骨を折られようが真っ黒に焼かれようが側頭部を吹っ飛ばされようが首をはねられようが・・・とにかくどんな致命傷を受けてもお構い無しに、追いかけて来ながら蘇生していく。 もしかして、俺の他にもマインドブレイカーが!? 「彼女に力を与えてる供給源が近くに居るかも知れない!まずそいつを!」 だがそれに気づくタイミングが悪すぎたようだ。 「うふふ、捕まーえたぁ」 仲間が散開して敵マインドブレイカーを叩きに行っている隙に、追いつかれてしまった。 気づいた仲間が応戦するも、腕を切り落としたそばからくっついて元通り等、結局時間稼ぎにしかならずに終わった。 ドスッ!! 彼女の手が、俺を一撃でしとめようとして、腹膜を突き破って来た! 「ぐあぁっ!!」 「ふふっ、(MB)のお腹の中、あったかいね」 さらに、メキメキと音を立てて、冷たい手が俺の内臓を圧迫する。死霊の呪いの傷ごと潰しながら。 「うぐっ・・・の、呪い・・・やっぱり、俺・・・ゾンビ・・・つもりで」 「えっ!?そ、そうなの?知らなかった・・・あ、でも」 激痛とともに、ますます傷は広がる。 「そしたら、ずーっと一緒に居られるね」 抵抗するかのように、俺の心臓が必死に早鐘を打つ。それをリースの手が力ずくで押さえつけ・・・ 「もう、離さない」 ブチブチッ!! -リース・メリディアーナ編 バッドエンド- 『あなたは、私のもの』

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