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第二章




2,
 学校がだるくなってくる6月、またこの季節がやってきた。梅雨だ。
ただでさえ湿度が高い国として有名な日本がますます湿度を上げるこの時期、うっとうしくてたまったもんじゃない。
 「で、あれからなんか進展あったか?」
俺が屋上で心地よくコロッケパンをほおばっていた途中、耳元で突然、吉岡がつぶやいた。慌てた俺は急いでコロッケパンを飲み込み、聞き返した。
「なにが!?」
「なにがって、岩城とだよ」
「いや、あれから何もねえよ」
 俺はまたコロッケパンに噛り付いた。
「な~んだ、そうか」
 吉岡は俺の横に座り込んだ。
「じゃあ、結局は何も分かってないままなんだな」
「ああ、聞くにしてもどうしていいものやら」
「それにしても暑くなってきたな」
 吉岡はカッターシャツをパタパタ扇いでいる。
「ここはまだマシな方だろ、日陰だし風通しがいいからな」
「よく弁当が持ってくれたもんだ」
「ああ、地味だがリアルに怖いことだな・・・」
 すると後ろから声がした。
「こんなところで男二人で話してて楽しい?」
 そこには呆れた顔をした桐嶋がいた。すると吉岡が、
「しょうがねぇだろ、皆、『進路、進路』って相手してくれないんだから」
「それが普通なの!」
 しばらく吉岡と桐嶋のにらみ合いが続いた後、桐嶋が俺に聞いてきた。
「そういえば、アキラは将来何になるの?」
「え?いや、突然聞かれましても…」
「まーいいじゃない。で、何?」
「…別に何も」
「したいことぐらいでてくるでしょうが?」
「…強いて言うなら…絵描く仕事かな」
 なんとなくやりだした美術が唯一の取り柄だった俺にはそれくらいしか出てこなかった。
「なに?」
「そこまでは決めてねぇよ」
「まぁアキラ絵描くの上手だしいいじゃない。あたしアンタの絵嫌いじゃないよ」
 と桐嶋は笑顔で言った。
「そらどーも…」
 すると今までパンに食らい付いていた吉岡が、
「あの~桐嶋さん、お取り込み中悪いのですがもうとっくにチャイムなってますよ?」
 その言葉を聞いた途端、桐嶋の顔から笑顔が消えていった。
「まじ?」
 吉岡がうなずいて
「まじまじ」
 すると、我を取り戻したのか今度は勢いよく言った。
「何で言わないのよ!」
「いや、普通聞こえるだろ」
「とにかく急げ!」
 といったものの俺はまだコロッケパンにかじりついていた。
「アキラ、なにしてんの、遅れるよ!?」
 もう遅れているんですが…
「…サボる」
「は!?」
 横に座っていた吉岡も寝転がり、
「右に同じ」
 すると桐嶋はプルプルと震えながら、
「義務教育を盾にするなー!」
 と言って一目散に走って行った。
「どんな捨て台詞だ・・・」
 すると横で寝転がっていた吉岡が、
「そんなに授業っておもしろいんかねぇ、俺にはわかんないけど」
「頭使うのが好きなんだろ」
「ふーん、そりゃまた難儀なことで・・・まあいいや、オヤスミ~」
「はい、オヤスミ」
 しばらくしてコロッケパンを食べ終えた俺は次に控えている焼きそばパンの袋を開けた。
 そのとき、ガチャっと扉が開く音がした。
俺はとうとう先生が怒鳴りに来たのかと焦って隣で寝ている吉岡を置いて逃げようとしていたが、聞き覚えのある声が聞こえてきて俺は振り返った。
「アキラ君?」
「いふぁしろ?」
「焼きそばパン咥えたまま何してんの?」
 ドアから顔を出した岩城が呆れた顔で言った。俺は咥えていた焼きそばパンを口から離し、聞き返した。
「「何してんの?」はこっちの台詞だ」
「保健の授業だしサボっちゃった」
「サボるなよ・・・」
「人の事言える立場ですか?」
「・・・スマン」
「あたしも座っていい?」
「どーぞ、ご自由に」
俺の横に座った岩城は手をパタパタとさせながら、
「しかし暑いねー」
「いちいち言うなよ、ますます暑くなるだろ・・・」
「だってまだ6月だよ?この調子で8月になったらどうなるのよ~」
「俺に聞いてもしょうがないだろ」
「湿度も高いし最悪だよ」
「ホントなぁ・・・」
「あ、そうだ!こんな所じゃなくてもっといいところ行こうよ」
「はい?」
「いいから、コッチコッチ!」
 俺は岩城に手を引っ張られ、校舎の中をずいぶん走らされた。
「どこに行きたいんだよ~」
「ここ!」
 岩城が堂々と指差したのは図書室だった。
「・・・クーラー狙いか?」
「そゆこと」
「・・・でも鍵は?」
 俺の質問に対し岩城は、ふふん、と鼻を鳴らし、
「あたし図書委員長になったから鍵持ってるのよね」
 岩城は図書室の鍵を指でくるくる回しながら偉そうに突っ立っている。
「授業サボって遊んでる図書委員長なんて始めて聞いたぞ・・・」
 岩城はさっさと図書室の鍵を開けていた。俺の話なんか聞いちゃいねー。
「さぁ、どうぞ」
「さも自分の家のように扱うな」
「さ~て、クーラー、クーラー」
 ・・・頭の中にはクーラーしかないのか?俺はとりあえず図書室の中に入った。
「・・・図書室なんて初めて入ったな」
「ホントに?」
「本は読むんだけどな。なんか図書室ってあまりに静かで逆に落ち着かないんだよ。なんていうかこう、叫びたくなっちゃうんだよな」
「ヘンなの・・・」
「うるせぇよ」
 ふと、岩城のほうを見ると物凄く真剣な顔でリモコンを見つめている。
「う~ん、コレかな?」
「かな?」
 ピッっと言う音と共に俺の真上にあったエアコンからとても生暖かい風が吹いてきた。
「暖房つけてどうすんだよ・・・」
「きゃー、暑い~!」
 その後、リモコンとの格闘の後、何とかクーラーをつけたのだが、岩城はとても機械に弱いということが分かった。
「あ~、涼し~」
「エアコンの使い方くらい普通分かるだろ・・・」
「いや~、どれも同じボタンに見えるんだよね」
「そりゃあ、かなり重症だ・・・」
「うっさいわね・・・」
「それにしても涼しいねぇ~、何℃に設定したんだ?」
「さぁ?」
「は?」
「だってわかんないんだもん」
 まぁ適度な温度に設定されているはずだ。そこまで心配することでもないか・・・
「ちょっと寝る」
「寝ちゃうの~? つまんないなぁ・・・じゃあ、あたしは本でも読んでるね」
「寝込みを襲うなよ」
「しないよ・・・・」

 あれ?
なんで俺ブランコなんかこいでんだ?
あ、手がすべる・・・目の前に女の子が一人・・・。
「アキラくん!アキラくん!」

「アキラ君!おきて!ちょっと!」
「ん・・・?」
 また夢か・・・
「ちょっと大変なの!」
 とりあえず身を起こす。そしてあることに気づいた、
「寒ッ!!!」
「クーラー壊れちゃったのかな?」
「こんな壊れ方しねぇよ・・・」
「凍え死ぬ~」
「大げさだろ、リモコン貸してみろ」
「あい・・・」
 鼻声になった岩城が震えた手でリモコンを手渡した。
「げ、15℃になってるぞ!」
 ていうか、クーラーって15℃なんか出たか?
「れーぞーこ一歩手前だね」
 へラっと岩城が笑った。その笑顔が微妙にムカついた。
「お前がしたんだろ~が~!」
 俺はニューンと岩城の冷えたほっぺたを両手でつねった。
「ごめんらはい~」
 そうだ、こんなことをしている場合ではない。とりあえず俺はクーラーの電源を切った。
「とりあえず外出るか」
「う゛ん」
 外に出るととても暖かかった。
「風邪引くかもな・・・」
「夏風邪はつらいよ~。あ、でも馬鹿は風邪引かないって言うじゃない」
 さらっと言ってさっさと歩いていく岩城を俺はじっと見ていたが、もう何を言っても意味がないような気がしたのでしぶしぶついていくことにした。
「次はドコ行く気だ?」
「ん~どうしようかなぁ?」
 しばらく俺は岩城の散歩に付き合う羽目になった。大分歩き回り、教室がざわついてくるのが分かった。
「・・・今、何時?」
 岩城が腕時計を覗いて言った。
「もう3時過ぎだから、6時間目が終わってもう皆STしてるんじゃない?」
「そっか、とりあえず今日は帰るわ・・・」
「そう?じゃあね~」
 すたこらさっさと岩城は走って行ったが、何かを思い出したのかまたこちらのほうに向かってきた。
「コレさっき見つけたからあげるね」
ぽんと俺の手に乗せてきたのは一冊の本だった。
「俺、恋愛小説なんて読まねぇぞ?」
「まぁ頑張ってみなさいよ」
「ふーん」
「あ、それ返さなくていいから~」
 また岩城はさっさと走って逃げていった。そして一人残されてから気づいた。
「・・・図書室から盗んだのか?」
 呼び止めようとしたが、どーせ一冊なくなったってバレる訳ないわよ、と言う岩城の顔が浮かんだのでやめる事にした。
岩城の盗品をズボンのポケットにつっこんで、とりあえず教室に入るともうSTは終わっていて、掃除をしているところだった。掃除をしている生徒に、
「お疲れさ~ん」
とか言ってさっさと帰ることにした。帰り道の途中、ふと何かを忘れているような気がしたが、どうせどうでもいいことだろう、と言い聞かせてまた帰路についた。

 その頃、屋上では吉岡が目を覚ました。隣にいたはずの湯浅が居なくなりキョロキョロとあたりを見回し、状況を把握できないでいた。




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