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第九章





9.
11月に入り、秋の心地よい風がここ最近冷たい。
「もうじき冬か・・・」
結局なんだかんだで進路のことを全然決めてない。三者面談なんてしたって話は進まない。やりたいことが無い俺にも問題が在るとは思うが・・・
そんな事を吉岡に話してみた。、
「お前もちょっとは進路のことくらい考えろよ」
かと言って吉岡が進路を考えてるとは思えない。
「そーゆーお前は考えてんのかよ?」
「人の事はいいんだよ!」
 お前は保護者か。
先生やら親やらに相談したところ、
とりわけ頭がいいわけでもないのでとりあえず公立の工業高校へと進もうかと思う。
けども九表が定まったからといってあまり勉強をする気にはなれなかった。
「このまま生きていると将来何をしているのかすごく不安だ」
そんな事をつぶやいた。
それからはたいしたことも無く、寒くなってきたのでよく図書室に行くようになった。
かといって勉強をしている訳ではなかった。ただ岩城と話をしたり、そこに桐嶋がやってきたりと本当に他愛も無い日常だった。

そんな調子で12月に差し掛かった。
その日、俺が目を覚ますと夕方だった。
「…はぁ?」
 俺はしばらくの間、時計と睨み合っていたがどうも納得いかない。昨日、特に夜更かしをしていたわけでもないし、ここの所疲れていた訳でもない。
「あ~あ、俺の皆勤賞が…」
 行事系サボってる時点で皆勤賞はないのだが。仕方がないのでとりあえず風呂に入る。シャワーを浴びて風呂から出るとチャイムが鳴った。
「どうせ今日のプリントだろうな…」
 玄関のドアを開けるとそこには岩城が立っていた。
「ごくろーさん」
「うん…」
あからさまに岩城の表情が暗い。
「どーかしたか?」
「ちょっと、上がって話していい?」
言われて俺は家のほうを見る。誰もいないらしい。
「ああ、いいけど?」
 俺は岩城を部屋に入れて話を聞くことにした。
「とりあえずコレ、今日のプリントね?」
「あいよ」
 ん~?保健だよりに図書だより?ご丁寧に数学の宿題までついてやがる…。
「返却っていうのは有り?」
「多分できない」
 う~ん、冗談にも付き合ってくれそうにない。
「で、なんかあったのか?」
「うん、実はね、今日、真弓が授業中に倒れたの…」
 真弓…ああ、桐嶋か。
「倒れたって言っても貧血とかだろ?」
「あたしも最初はそう思って珍しいなぁって思ったんだけど、真弓、それからぜんぜん教室に戻ってこなくて…」
 岩城の目には涙が浮かんでいた。すさまじく縁起が悪いんですが、岩城さん?
「昼休みに救急車が来て、まさかとは思ったんだけどやっぱり真弓それに乗って行ったみたいなの」
 岩城が言い終わると同時に俺たちの間に長い沈黙が訪れる。この沈黙がなぜかとても嫌で俺は無理矢理笑顔を作った。
「でもまだ桐嶋が死んだと決まったわけじゃないんだぜ?」
「そうだけど…なんか凄く不安なの」
「気長に待てよ。クヨクヨしたって何にもなんねぇぞ?」
「でも…」
「でももクソもない。取りあえず用事はそれだけか?」
「…なんだか冷たいね?」
「そーゆー難しいことは一回寝てから考えたほうがいいんだよ」
「…分かった。じゃあ、また明日ね?」
「ああ、明日な」
 玄関まで岩城を見送って俺は部屋に戻ってベットに寝転がった。
「岩城にああいったもののなぁ」
 そんなもん、俺だって桐嶋が倒れるなんて考えもつかなかった。滅多な事ではないというのは分かっている。
テレビでは外国で地震があったしくあわただしくキャスターが喋っている。まったく、俺の寝坊を通り越した寝坊といい、桐嶋といい、
「今日は人類の厄日か…?」
 心の隅に不安を抱きながら眠ろうとしない目蓋でもう一度眠りにつこうと思った。

次の日、学校に行くと桐嶋は来ていなかった。
見舞いにも行こうかと思ったがどこの病院かわからないし、わざわざ先生や親御さんに聞くのも気が引けた。
なんだか納得の行く形の答えが得られないまま時間は過ぎていった。
けれど、桐嶋は一向に学校に姿を見せなかった。
もう冬休みに差し掛かろうかという時に、岩城が話しかけてきた。
「今日の放課後ちょっと一緒に来て」
「どこに?」
「真弓の所」
「お前、アイツがどこにいるのか知ってんのか?」
「うん」
「そうか」
「じゃあ、放課後に」
そう言って岩城は自分の席に戻っていった。
その話を聞いてからは授業なんて耳に入らなかった。
そして放課後、俺は岩城と市民病院へと向かった。
その病院の一室に桐嶋はいた。
「やあ」
普通に振舞う桐嶋に少し驚いて俺も普通に
「おう」
とだけ返した。よく見るとややこしそうな機械がベッドのそばに置いてあった。
それを見てあまり普通には振舞えなかった。
話をしている途中、桐嶋は
「あはは」
なんて桐嶋はうれしそうに、俺達の話を聞いていたが俺は内心それどころじゃ無かった。
面会時間が過ぎたので俺達は帰る事にした。
帰り道、やっぱり俺はどうしても気になって岩城に桐嶋のことを聞いた。
その答えは俺が聞きたくないものばかりだった。
桐嶋が学校に来れるようにならないこと。
かなり前から桐嶋自身は分かっていたこと。
そして、あまり長くないこと。
一気にそんなことを、しかも急に聞かされた俺は
「そうか」
としか返す言葉が見つからなかった。
そのまま岩城と二人で何も話さずに別れた。
「じゃ、またね。アキラ君」
「ああ」
帰り道、俺は一人で考えていた。
もう後どれくらいの時間が残されているのだろう。そう思うと俺の心臓はキュッと音を立てて縮む。まるで涙を搾り出すかのように。
けれど、俺の目からは何一つとしてこぼれ落ちない。
アイツのために泣いてやる事もできないのか・・・
決して泣いてやる事が最良の方法だとは俺も思ってはいない。ただ、今は何故かそうするしかないと思った。
それ以外に何も方法が思いつかなかった。

まもなくして冬休みに入ったが、遊ぶ気にもなれなかったし、何もする気にもなれなかった。
ただ、正月に届いた桐嶋の年賀状が何故かすごく悲しかった。
三が日が過ぎた辺りに吉岡が家にやって来た。
俺は一応、吉岡にも言っておこうと思い、桐嶋のことを話した。
話を聞き終えた吉岡はやはり複雑そうな顔をしていた。
しばらく無言で考えていた吉岡が口を開いた。
「まぁ、言ってしまえば人間いつかは死ぬよな・・・」
「ああ」
「形あるものいつかは壊れるって考えるしかないのかな・・・?」
何か、そんなもので納得したくない
「俺、帰るよ」
吉岡がそう言った。
「そうか、悪かったな。正月からこんな話聞かせて」
「いや、むしろ知っておきたかった」
「そうか」
「じゃ、またな」
「ああ」

ほどなくして新学期が始まり、入試も終わった。
一応は合格したが、そんな事はどうでもよくなっていた。

まだ俺にはどうしても解らなかった。今までそばにいた人が突然いなくなり、そして、もう2度と会えなくなるということが。
その時が来たなら、俺の心は何かを得ることができるのかな・・・。ふと、そんなことを思った。
「人生経験の少ないやつはこんなとき本当に不便だな…」
 俺は一人呟いた。

病院に行く回数もだいぶ増えた。
桐嶋は相変わらずだがやはり少しこけて見える。

そのまま月日は流れて2月に入った。
また病院に来ていた俺は桐嶋と話をしていた。
すると、桐嶋が突然、屋上に行きたいと言い出した。
俺は桐嶋を車椅子に乗せ、屋上へと向かった。
外はもう夕暮れで寒かった。俺は自分の上着を桐嶋に着せた。
「ありがと」
それだけ言うと桐嶋はじっと空を見つめている。
「キレイだね」
「そうだな」
空を眺めているとふと、前に吉岡が言った言葉を思い出した。
「形あるものいつかは壊れる、か・・・」
アイツはそう割り切るしかないと言っていたが、やはり何か納得できない。すると、
「そんなことないよ。その人の心の中に在る限りそれは決して壊れたりはしないよ。」
だが、そう言った桐嶋の瞳には今にも溢れそうな涙がきらきらと輝いていた。
俺はその輝きを素直に綺麗だとおもった。
「だから、あたしもアキラの心の中に残しといてね。」
そういうと桐嶋は無理に笑った。
「当たり前だろ」
俺は震えた声で言った。
 その後、俺たちは何も話さず、ただじっと夕日に染まっていく空を眺めていた。
日も落ちて俺は桐嶋を病室に帰し、俺も家にもどることにした。

翌日の朝の5時ごろ、俺は電話のベルに起こされた。寝ぼけている頭を少しづつ覚醒させていく。
電話の相手と内容は聞かなくても分かる気がする。けど、ちゃんと聞いておきたかった。
 俺の予想通り、相手は桐嶋の母親だった・・・。ついさっき桐嶋が死んだ。それを伝える桐嶋の母の声はかなり疲れているように聞こえた。
そして、俺の側から桐嶋がいなくなった。
けれど、不思議と心は落ち着いている。多分、分かってたから、そんな気がしてたから。今の俺は涙すら出ない・・・。
 このまま眠る気にもなれず俺は昨日の会話を思い出した。そして窓を覆っていたカーテンを払った。
カーテンを開けると一面に明るく、青い朝が広がっていた。俺はこの色の空がとても好きだ。
「桐嶋もこの空を見ながら眠ったのかな…」
俺は一人つぶやいた。




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