平成15年(ワ)第11512号:不正競争行為差止等請求事件(大阪地裁平成16年7月15日判決)

主文

1 被告は、原告に対し、533万0827円及びこれに対する平成15年11月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用はこれを10分し、その9を原告の、その余を被告の各負担とする。
4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第1 請求

被告は、原告に対し、1億0800万円及びこれに対する平成15年11月14日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要

本件は、原告が、自己が使用する商品等表示が著名ないし周知であり、被告がこれと類似する商号、営業表示及びドメイン名を使用していたと主張し、被告のこれらの行為が不正競争防止法2条1項2号ないし1号及び12号の不正競争行為に該当するとして、損害賠償を請求した事案である。
1 前提となる事実(当事者間に争いのない事実は証拠を掲記しない。)
(1) 当事者
 原告は、昭和25年に日東電気工業の一部門として発足し、昭和35年9月3日に日東電気工業から独立し、「マクセル電気工業株式会社」の商号で設立登記され、昭和39年1月1日に現商号に変更された株式会社であり、カセットテープ、ビデオテープ、CD、MD、DVD等の記録媒体及び乾電池の製造販売等を業としている。
 被告は、平成11年3月16日に「有限会社マクセルコーポレーション」の商号で設立され、平成15年8月26日に現商号に変更され、同年9月2日にその登記がされた有限会社であり、飲食店(ただし、風俗営業である。)の経営等を業としている(甲9)。
(2) 原告の商品等表示
ア 原告は、その前身である日東電気工業マクセル部門が昭和25年に設立されて以来、「マクセル」、「MAXELL」及び「maxell」の表示(これらをまとめて以下「原告商品等表示」という。)を原告の商品等表示として、自らの商号中に使用する他、その製品であるコンピュータテープ、放送用ビデオテープ、CD-R、CD-ROM、DVD-R、DVD-R/RAM、DVD-ROM、MOディスク、フロッピーディスク、メモリカード、ICカード、RFIDシステム、プリンタ用光沢紙、ラベルカード、MD、オーディオテープ、ビデオテープ、リチウムイオン電池、ポリマーリチウムイオン電池、小型二次電池、リチウム一次電池、各種ボタン電池、アルカリ乾電池、マンガン乾電池、小型電気機器、電鋳・精密製品などに付して販売し、又、テレビCM、ネオン塔、新聞雑誌広告、パンフレット等に付して使用している。
 なお、原告商品等表示は、創業時の製品である乾電池の商品表示である、「Maximum Capacity Dry Cell」の最初と最後の3字ずつを用いた造語である。
 また、原告の32社に上る子会社の多くも、原告商品等表示のうち「マクセル」ないし「maxell」を商品等表示として使用している。
 さらに、原告は、原告商品等表示は、商標登録第1079986号「maxell」(昭和45年1月8日出願、昭和49年8月1日登録)をはじめ、多数の商標登録を受けており、平成7年以降、上記登録商標を基本登録商標として、31の防護標章登録も受けている(甲6)。また、財団法人日本国際知的財産保護協会発行が平成10年に発行した「FAMOUS TRADEMARKS IN JAPAN 日本有名商標集」や、特許庁の電子図書館における「日本国周知・著名商標検索」でも、「maxell」が原告の商標として掲載、登録されている(甲7、8)。
イ 原告の昭和45年度ないし平成13年度の売上高は別紙売上一覧表記載のとおりである。
 磁気テープについて、昭和63年の国内における原告のシェアは、第2位の22パーセントであった(甲16の2)。
 また、乾電池について、昭和63年の国内における原告のシェアは、マンガン乾電池では第3位の10.1%、アルカリ・マンガン乾電池では第5位の9.0%、酸化銀電池では第1位の31.8%であった(甲16の2)。
 また、フロッピーディスクについて、平成6年度の国内における原告のシェアは第1位の31.0%、平成7年度の国内における原告のシェアは第1位の30.5%であった(甲16の3)。
ウ 原告は、別紙広告宣伝費一覧表(ただし、昭和45年以降について記載したものである。)記載の広告宣伝費を用いて、広告塔、新聞雑誌広告、駅貼りポスター等において、原告商品等表示を用いた広告宣伝を行った。テレビコマーシャルは昭和49年から開始し、A出演のコマーシャルやB出演のコマーシャルが、原告商品等表示とともに全国に放映された。
 また、原告に関する新聞記事は、全国紙、地方紙、業界紙に数多く掲載され、それらの記事において、原告は「マクセル」と表示されることが多かった。
(3) 被告の行為
ア 被告は、「有限会社マクセルコーポレーション」の商号(以下「被告旧商号」という。)を平成11年3月16日から平成15年8月26日まで使用した。
イ 被告は、「マクセル」、「マクセルグループ」、「maxell」、「maxellcorporation」、「MaXell」及び「MaXell CORPORATION」の各営業表示(これらをまとめて以下「被告営業表示」という。)を、被告が開設したインターネット上のウェブサイトにおいて使用したことがある。
ウ 被告は、「maxellgrp.com」(以下「被告ドメイン名」という。)というドメイン名を使用し、ウェブサイトを開設して、その経営する飲食店の宣伝を行ったことがある。
2 争点
(1) 不正競争防止法2条1項2号ないし1号の不正競争行為の成否
[原告の主張]
ア 前期「前提となる事実」(2)の各事実によれば、原告商品等表示は、遅くとも原告がテレビコマーシャルを開始した後である昭和50年ころには、原告及びその関連会社を表すものとして著名となり、少なくとも周知となっていたものである。
イ 被告旧商号である「有限会社マクセルコーポレーション」並びに被告営業表示である「マクセル」、「マクセルグループ」、「maxell」、「maxellcorporation」、「MaXell」及び「MaXell CORPORATION」において、その要部は「マクセル」、「maxell」ないし「MaXell」であるというべきであり、いずれも原告商品等表示と類似する。
ウ 原告商品等表示と上記被告旧商号及び被告営業表示の類似性、原告の営業区域の広範性、原告商品等表示の著名性と顧客吸引力、原告及び原告の関連会社の複合企業としての広範な事業範囲等を考慮すると、取引者又は需要者において、原告と被告が同一の営業主体であるとか、両者間に親会社、子会社の関係あるいは系列会社関係などの緊密な営業上の関係が存在するものと誤信し、混同を生じて、原告の営業上の利益が害されるというべきである。
エ したがって、被告による被告旧商号及び被告営業表示の使用は、不正競争防止法2条1項2号ないし1号の不正競争行為にあたる。
[被告の主張]
ア 原告商品等表示が著名であること、これらに顧客吸引力があること、原告商号と被告の営業表示等がそれ自体として類似することは、強く争わない。
イ 被告は、その営業場所である店舗において、被告旧商号及び被告営業表示を使用していない。被告は「maxell」等を商標として使用したことはない。
ウ 女性の接待を伴う飲食店を経営する会社である被告が、全く競業関係にない工業製品の製造販売をする会社である原告と類似する商号を付けることによって、特段の利益を得るものではなく、被告旧商号や被告営業表示を使用することにより、原告の関連会社と思われたこともない。
 原告商品等表示は、工業製品の商標として有名であり、風俗営業とは全く結びつかないから、被告の商号が原告の商品名と同じであることを理由にして被告の店舗に来るものは皆無に等しく、同様に、原告の商品を購入する者が、同名の商号を有する風俗営業の会社があることにより影響を受けることも考えられず、一般需要者が原告について誤った企業イメージを持つことも考えられない。
エ したがって、原告主張にかかる被告の行為は不正競争防止法2条1項2号ないし1号の不正競争行為にはあたらない。
(2) 不正競争防止法2条1項12号の不正競争行為の成否
[原告の主張]
ア 上記(1)原告の主張アと同じ
イ 被告ドメイン名である「maxellgrp.com」のうち、「com」の部分は多くのドメイン名に共通するものであり、「grp」は一般にグループを示すために用いられる略号であるから、被告ドメイン名の要部は「maxell」であるというべきであり、原告商品等表示と類似する。
ウ 「maxell」とは、前記「前提となる事実」(2)アのとおりの造語であることに加え、被告が、被告ドメイン名を使用して開設したインターネット上のウェブサイト上で、著名ないし周知な原告商品等表示と類似する被告旧商号及び被告営業表示を用いていることに照らせば、被告が、原告商品等表示の顧客吸引力にフリーライドして、不正の利益を得る目的ないし原告に損害を与える目的があったことは明らかである。
エ したがって、被告による被告ドメイン名の使用は、不正競争防止法2条1項12号の不正競争行為にあたる。
[被告の主張]
ア 上記(1)被告の主張アないしウと同じ
イ 被告は、不正の利益を得る目的も他人に損害を与える目的も有していなかった。
ウ したがって、原告主張にかかる被告の行為は不正競争防止法2条1項12号の不正競争行為にはあたらない。
(3) 損害
[原告の主張]
ア 不正競争防止法5条3項は、営業上の利益を侵害されたものに、最低限損害の填補を法定するものであり、推定規定ではなく、みなし規定である。
 ここで、原告が原告商品等表示の使用を許諾する場合の使用料は、売上額の3パーセントを下らない。
 被告の平成12年8月以降の売上額は、少なくとも年間11億円を下らず、平成12年8月から平成15年7月までの売上額は合計33億円を下らない。
 したがって、原告が被告の不正競争行為によって通常受けるべき金銭の額は、9900万円を下らない。
イ 被告が「maxellgrp.com」という被告ドメイン名を使用してインターネット上のウェブサイトを開設し、「マクセル」、「マクセルグループ」、「maxell」、「maxellcorporation」、「MaXell」及び「MaXell CORPORATION」の各被告営業表示を表示し、同ウェブサイト上において、風俗店の広告宣伝をするなど原告の信用を毀損する内容の表示をしていたものであり、このような被告の行為によって、原告は、一般需要者に誤った企業イメージを持たれ、原告商品等表示の一般需要者に与える印象を害された。
 上記のような営業上の信用毀損による損害額は1970万5401円を下らない(なお、不正競争防止法5条4項参照)。
ウ 原告が本件訴訟を追行するために必要な弁護士費用は900万円を下らない。
[被告の主張]
 原告の主張は否認ないし争う。
 仮に、原告が主張するように通常の使用許諾料の請求ができるとしても、総売上の3パーセントという原告の主張には根拠がなく、近時の銀行普通預金の利息を上回ることはない。
最終更新:2007年11月18日 17:38
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