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ピーター・ドラッカー氏が指摘する「ITより重要なもの」
〔出典 http://itpro.nikkeibp.co.jp/a/biz/shinzui/shinzui1122/shinzui_06_01.shtml〕

◇お具合はいかがですか?

 ご存知のとおり、私はちょっと体調を崩しており、まだ不安定な状態なのです。良い日も悪い日もあります。今日は普通です。さて、何の話題から始めましょうか、悪いことからにしますか?

◇良いことからお願いします。


■ITは重大な変化ではない

 あなたが重要と考えている「情報」「インフォメーション・テクノロジー(IT)」についてまず触れましょう。これらは重大な変化というわけではありません。質問の中では目立ちませんでしたが、もっとも重要なのは、「労働力構造の変化」と「人口」です。これら二つは、日本にとって特に重要です。

 知識労働力(ナレッジ・ワークフォース)へのシフトが急激に進み、製造業における従来のブルーカラー職は消えることになるでしょう。先進諸国においてブルーカラー職の数は急速に減少しております。ただし日本ではいまだに製造業が大量のブルーカラー労働力を雇用しています。名前は明かせませんが、ある日本の大企業では、中国工場における生産性が日本国内の工場の生産性を上回っています。にもかかわらず中国工場の給与は日本の7分の1、福利厚生なし、終身雇用制なしです。

 知的労働者(ナレッジ・ワーカー)は自らの仕事をブルーカラーの仕事とは大きく異なると考えています。日本の標準的なナレッジ・ワーカーは、経営管理者(マネジメント)への昇進を望んでいません。彼らはナレッジ・ワーカーとしてあり続けることを望んでいます。あなたもマネジメントだけでなく、今でもインタビュアーと執筆活動を続けていますよね。

◇ええ。半分ジャーナリスト、半分管理者です。

 世界の先進諸国では、私がナレッジ・ワーカーとか、ナレッジ・テクノロジストと呼ぶ労働力人口が急激に拡大しています。米国で一番成長が顕著なのが、医療業界のテクノロジストのグループです。日本については分かりませんが、欧州でも同じ傾向にあります。これらの人々は経営側に立つことを望んでいません。彼らは自分の専門の仕事を続けたいと思っています。

 世の中で一番複雑な組織は大病院です。そこまでいかなくても、ベッド数が350台程度の中規模病院なら、ナレッジ・ワーカー達の専門分野は20を軽く超えるでしょう。従来からある看護婦や事務スタッフに加え、理学療法士や呼吸器の専門家、X線技師や画像処理専門家が登場しています。

 こうしたナレッジ・テクノロジストの多くは病院が雇用しているわけではありません。彼らは理学療法あるいは臨床検査室といったそれぞれの科で雇用されます。各科が雇用しているナレッジ・ワーカーは3人から5人にすぎません。しかし、彼ら彼女らは現代の病院の要なのです。これは米国の話で、ヨーロッパでは事情は異なりますし、日本のことはよく分かりません。

 ナレッジ・テクノロジストは病院に雇われているわけではないのですが、10年、15年と同じ病院で働き続けることもあります。したがって、病院からマネジメントされる必要があります。一方、ナレッジ・テクノロジストは流動的でもあります。他の病院に同じ科があり、同じ仕事ができ、より良い条件があれば、今の病院を喜んで離れていくでしょう。同様のことがビジネス界でもますます多く見られるようになりました。

 私が非常に良く知っている、ある病院は、その地域の中で心臓医療、つまり循環器科が非常に優れていると評判です。その循環器科の部長が、今の給与を3倍にするから病院を運営する仕事に就かないかとオファーされました。彼女は断りました。自分は循環器の専門家であり、循環器医療の仕事に留まりたいというのです。といって彼女はその病院にずっと留まるつもりはありません。彼女はロサンゼルスのもっと大きい病院に移り、循環器科部長として就任することが決まっています。彼女の忠誠心は病院ではなく、循環器科という専門分野に向かっています。彼女は病院を運営したいわけではない。それは彼女が一番やりたくない仕事なのです。

 彼女のような人はたくさんいます。大学の同僚の何人かは、他の大学のビジネススクールを運営する職をオファーされましたが皆、ノーと答えました。教職と研究職には留まりたいが、学校の運営はしたくないというのです。経営職に就けば、今よりずっと良い給与をもらえるにも関わらずです。こうした人たちの登場は大きな変化の一つです。


■人口変化が多国籍企業を変える

 二つめの大きな変化は、2000年の歴史の中で初めて、先進国の出生率が死亡率とほぼ同じになった、または下回ったということです。これは老人の数が飛躍的に伸びる一方で、若者の数がもはや伸びなくなることを意味します。かつてない変化です。ここ300年ほどにおいて、すべての先進国の人口は増加を続けていました。出生率が死亡率を上回っていたからです。

 この人口の変化についてもまた、日本が初めて経験する国となりました。日本の人口は2年以内に減少を始めるでしょう。日本の若者の人口はすでに減少しています。

 我々はこうした事態に直面したことがないため、その意味が分からないのです。私は日本について十分知りません。ひょっとすると、すべての日本人が長く現役でいることを希望し、それまでと同じ仕事を続けるかもしれません。しかし、少なくとも欧米では50歳を過ぎた後の日々を同じ雇用主の下で過ごすということは必ずしもありませんし、そもそも誰かに雇用されている必要もないのです。日本でさえ、アウトソーシングが広く普及しています。このことが、正直な話、ITよりも重要な変化なのです。ITも重要ではあるのですが。

 人口の変化は、多国籍企業のあり方に変化をもたらしました。かつて多国籍企業の位置付けは、世界各地に子会社群を持つ親会社といったものでした。しかし現在、新しい多国籍企業は国境によって定義されません。多くの企業が、国別ではなく製品ライン別の組織編成に変化しつつあります。こうしたことが可能になるのも、情報とITがあるからです。多国籍企業は、中枢のトップマネジメントと、国境をまたがっている多国籍事業体によって構成される組織に変化しているのです。

 この傾向が一番顕著なのが、日本の商社です。商社で働く鉄鋼スペシャリストは、全世界で鉄鋼を取引しています。彼は東京でも、サンパウロでも、ニューヨークでも仕事をします。彼がどこにいようと、その場所が鉄鋼事業部門なのです。

 同じ変化は銀行でも見え始めています。シティコープはまさに、国別というより、製品ライン別の組織編成をしています。従来の多国籍企業はオーナーシップによってまとめられてきましたが、今では戦略によってまとめられています。


■カギはナレッジ・ワーカーの生産性向上

 そして、あらゆる先進国にとって、来る10年における大きな課題は、会社で働くすべてのナレッジ・ワーカーをマネジメントする方針を確立し、生産性を上げることです。ナレッジ・ワーカーの多くは、法的にはその会社の社員ではありません。

 例を挙げましょう。欧州を拠点とする多国籍企業です。25年前に初めて私がこの会社を知ったとき、欧州、米国、日本、南米で働くこの会社の従業員の8割が正規雇用の社員でした。今やその数字は3割にまで下がっています。残りの7割はパートタイム労働者で、派遣会社やアウトソーシング会社、コンサルタント会社に所属しています。

 誰も彼らをマネジメントしていません。我々は、会社で働くすべての人員をマネジメントする方法を学び、生産性を上げる必要がありますが、誰もまだそのやり方を知らないのです。来週、私は3日間かけて非常に大手の消費材メーカーを訪問します。ブランド消費材業界で世界最大と言われている企業の一つです。ここでも先に述べたようなことが大きな懸念材料になっています。

 この企業に働く多くの人が正式な社員ではなく、アウトソーシング会社からの労働力となりつつあります。誰も彼らをマネージしきれません。このことはますます中心的な問題になりつつあります。そしてこの問題にとって、情報は非常に大きな位置を占めます。なぜなら新しい労働力をマネジメントする鍵となるのは、すべての人員に共通の使命、共通のゴールを理解させることだからです。ただ、繰り返しますが、誰もまだそのやり方を知らないのです。

 ナレッジ・ワーカーの多くは、自分の知識をどのようにして仕事に活かそうかと考えますが、会社の使命についてはあまり真剣に考えていません。これからはナレッジ・ワーカーが、自らの仕事を会社の共通の目標に向けていくようにしなければなりません。私たちにはどうすればそれをうまくできるかを分かっていない。現在学びつつありますが、まだ不十分です。

 ですから私は、労働力の変化は情報の変化より重要、と言いたいのです。情報やITはツールに過ぎません。専門性を持つナレッジ・ワーカーの仕事内容に経営側は口出しできません。逆にナレッジ・ワーカーが経営側に教える立場なのです。マネジメントにとっては、こうしたナレッジ・ワーカーを一つのワーク・フォースにまとめ上げることが重要なのです。

 先ほどの病院の例に戻りましょう。循環器科部長の彼女に対し、こうすべきだ、などと誰も指示できません。内科医は自分の患者が抱える循環器系の問題について彼女に相談します。そして彼女は問題を解決します。彼女は内科医よりも循環器系の患者の扱い方を知っていますし、知っていることを期待されます。ただし、その患者を担当しているのはあくまでもその内科医です。ここに非常に定義しづらい新たな関係があります。

 経営者側はナレッジ・テクノロジストに対し、狭い専門分野について誰よりも高い知識を持つことを期待します。東芝を例に取りましょう。この会社は生産における卓越した競争力を基礎に、世界戦略を推進しています。

 東芝の生産テクノロジストは従属的な存在ではありませんし、ボスでもありません。彼らはサプライヤーの工場へ行き、その工場を再編成(リストラクチャー)します。そのうえで、彼らはサプライチェーン全体を東芝の戦略に統合しなければならないのです。東芝は、非常にうまくやっています。それでも、このような新しい労働力を開発し、マネジメントすることについて、我々は緒に就いたばかりです。


■金でつることはできない

◇組織に属したくないテクノロジストたちを経営者はどうマネージしていけばよいのでしょうか。

 大きな問題です。日本については十分知りませんが、西欧では過去20年、30年の間、財務的なインセンティブによって、テクノロジストのマネジメントを試みてきました。しかし実際にはあまりうまくいきませんでした。多少うまくいったとしても、それは株式市場が好調だったおかげでした。そして市場のブームが去った今、財務的インセンティブは全く機能しなくなりました。

 我々はナレッジ・テクノロジストの価値について十分認識しています。彼らにとって、もっとも重要なことは、彼らの専門分野と知識分野、そして継続的な学習に敬意を払うことです。従来の組織構造の中で、そうした能力を管理職へ昇進するチャンスとして活かす試みがありましたが、彼らはそういったことに興味を示しません。

 同時に、組織の方向性や基本戦略および基本的価値観を決定し、対外的に組織を代表する強力なトップマネジメントの重要性が、ますます増えてきています。これまでのところ、そうしたトップマネジメントは徐々に現れてきてはいますが、まだ十分ではありません。

 トップマネジメントと多国籍企業のあり方を考えてみます。世界最大手の土木機械メーカーを例に挙げてみましょう。米国企業です。業務内容はまさに土木機械の供給なのですが、世界中に50から80拠点の組み立て工場を持っています。いや、それほど多くないですね、全部で20拠点くらいでしょうか、世界の各地域に数カ所の組み立て工場があることになります。できるだけ市場に近いところで組み立てようという狙いからです。

 ただし、約20の組立工場の運営は外部に頼っており、彼らは自分では組み立てないのです。この結果、60もの協力会社がこの会社のために製造と組立を受け持っていたと記憶します。この企業の中枢は、こうした協力会社をすべて調整しなければなりません。最大の工場はアイルランド工場ですが、会社全体の人数に照らしても、そこで鍵となっているのはほんの数人です。

 これこそが将来の多国籍企業の姿だといえます。生産および組み立てのすべてを調整しているのは、基本的にトップマネジメントです。そして販売とサービス活動は完全に企業の中枢で行っています。中心となる仕事は自分達で製造することではなく、それを設計してマーケティングすることです。これにはあまり多くの人数を必要としません。研究と開発は、日本、南カリフォルニア、フランスで行われています。従来の基準からいうと、彼らは比較的小さな会社です。従業員が3000人ほどですから。しかし実際に売上高をみると、非常に大きな企業であると言えます。

 私がたまたま良く知っている日本のエレクトロニクス企業を見てみると、これと実に良く似た形式を取っています。最大のマーケットは日本ではなく米国、次がヨーロッパ、そして日本という順序です。今や中国本土の市場も台頭してきています。そして経営することはトップマネジメントの仕事ですが、グローバルな市場をにらんで実際にモノをつくることに関しては分散化しています。

 こうした組織運営をするために、トップマネジメントの仕事は、ますます厳しい、難しい仕事になっていきます。私はこのエレクトロニクス企業の経営幹部を非常に良く知っています。彼らは古くからの友人でもあります。彼らにとって最大の課題は、それぞれのスペシャリストの中から、企業のトップマネジメントを担える人材を見出し、育成することです。いってみれば、オーケストラの指揮者のような人材です。

 オーケストラの指揮者と企業のトップマネジメントとの最大の違いは、指揮者とすべての演奏者は同じ楽譜を見ているということです。そして楽譜はすでに彼らのために書かれている。ビジネスではCEO(最高経営責任者)自身がスコアを書きます。スコアを書くこともトップマネジメントの仕事なのです。


■オートメーションの真の意味

◇ご指摘の大きな変化とテクノロジーはどのような関係がありますか。

 テクノロジーがオートメーションを実現し、その結果として、ナレッジ・ワーカーの台頭を後押ししている側面があります。この傾向は、ほぼすべての組織で見られることと思います。

 製造業の品質管理を考えてみましょう。それは現場の工場で始まりました。今日、私たちは設計段階から品質管理を組み込んでおり、それがシックス・シグマ・アプローチにつながっています。もちろん私たちは、今後も品質管理に取り組む必要があります。

 非常に大勢の人々が現場で忙しく働いています。そして現在、品質管理は設計の段階、さらにはその前の企画段階から行われるようになりました。一部の日本企業はこの点において最も進んでいます。今やオートメーションは、あらゆるところで見られますが、ここでいう品質管理はオートメーションではできません。品質管理は現場の手を動かす段階から抜け出し、設計・企画段階へ移行したのです。

 今度は、小売業を例にとってみましょう。この業界はもっとも伝統的な分野です。例えば明日、私は買い物に行かなくてはなりません。私は近所の大手チェーン店に行くでしょう。そこではレジに支払いに行くまで、店員に会うことはありません。その店は消費者が必要なものを自分で見つけやすいように作られています。ディスプレイ自体が販売活動を担っています。自分が欲しいものが見つからないときだけ、サービスカウンターに行けばよいのです。

 かつてはお客にモノを売ろうとする販売員が店頭に20人くらいいて、レジの係は1人か2人といった状態でした。今では販売員はほぼゼロです。6人ほどのマネジャが店の各部分を管理していますが、欲しい物を見つけられない客が助けを必要とするまで、客と接触することはまずありません。かつていた多くの販売員が今ではほとんどいなくなり、代わりにデパートメント・マネジャが増えたというわけです。

 高等教育においても、テクノロジーによってオンライン学習が可能になり、その結果、個人に向けた高度な教育がますます重要視されるようになっています。私もオンライン学習の仕事に携わっていて、これまで1時間のオンライン教材を10種類ほど制作しました。おかげさまで日本で非常に良く売れましたね。余談ですが、今も三つほどオンライン教材の制作を手掛けています。

 それぞれの教材の制作には非常に時間がかかりました。大変な作業です。オンライン教材の最大の市場は中国です。中国は教職員が不足しているので、オンライン教材を使用するのです。もちろん、教員もいて、それぞれの生徒の個々の問題に対応します。ただ教材をオンラインで流すだけというわけではありません。

 病院の例をもう一つ挙げましょう。私の友人は世界で最も古く、大規模な精神病院をドイツで経営しています。歴史は700年を数えます。彼がその病院を25年か30年前に引き継いだとき、その病院には120人の患者と40人の看護士がいました。現在、患者の数は500から600人に増えましたが、看護士はほとんどいません。

 一方、引き継いだ時点で精神科医は彼1人でした。今では6人の精神科医が働いています。30年前はこれほどの数の精神科医を雇うことは不可能でした。医師の絶対数が少なかったからです。今ではこれらの精神科医が個々の患者に対応しています。それ以外の大病院にまつわる諸事の運営はオートメーション化されています。

 そして現在、精神病患者の治療に重点が置かれています。言い換えると、彼が引き継いだ当時、誰も患者を本当に治療してはいなかったわけです。これが典型的とはいいませんが、同じような現象があらゆる分野で見られると思います。

 銀行の例も必要でしょうか。私は32年前にクレアモントに引っ越して来て以来、同じ銀行と取引しています。当時から場所も外観も変わっていません。しかし私が銀行で行う用事のほとんどは、今や行員に頼らなくてもできるようになりました。小切手の入金、換金、標準的な銀行貸付でさえ、今はシステム化されています。

 25年前には本店でしかできなかったことが色々できるようになりました。外国通貨の小切手を換金したり、外国通貨を預金したりすることなどです。しかも行員の数は25年前の半分くらいになっていますから、行員1人あたりのルーティン処理の仕事量は3倍から4倍になっていることになります。ルーティン処理の大部分について自動化されているというわけではありませんが、顧客が自分で処理できるように体系化されています。今やルーティン処理は銀行にやってもらうのではなく、私自身が行えるようになりました。


■もっとも重要な「外部情報」

◇テクノロジストまたはナレッジ・ワーカーにとって重要な情報とは何でしょうか。

 外部の情報です。もっとも重要な外部情報の一つが「非顧客(ノン・ユーザー)」の情報です。自動車メーカーのゼネラルモーターズ(GM)はかつて米国市場の5割を占めていました。現在は28パーセントのシェアとなっていますが。同社の最盛期においても、5割の消費者がGMの顧客ではなかったわけで、GMは非顧客に関する情報を得ようと必死になりました。40年前は、どうすることもできませんでしたが、現在は工夫すれば入手可能になっています。

 重要な外部情報はほかにもあります。自分の顧客、自分の市場、見込み客、見込み市場、競合会社の情報。もっとも難しいこととして、最新かつ今までと異なるテクノロジーの情報が必要になります。

 ご存知のとおり電話会社は世界中に立派な研究所を有しています。電話技術を完全に変化させた技術が二つあります。一つはファイバーグラスケーブルで、もう一つは人工衛星です。ところが、いずれも電話会社から発生したものではありません。外部から来たものです。

 私はNECの経営トップと親しくさせていただき、この件について話したことがあります。NECのトップは、非常に多くの時間を割いて、電話業界以外で開発された技術を模索していました。彼は「そこに変化があるから」と言っていました。ファイバーグラスケーブルも人工衛星も、まさに電話通信の研究所の外で生まれたものです。

 だからこそトップは、外部の情報を必要とし、外部の情報を体系化すべきなのです。しかし、ビジネス界において外部情報の体系化に真剣に取り組んでいる人や企業はまだ非常に少ない、これが現実です。

 外部の情報として、関係会社、協力会社の情報も重要です。どの会社も関係会社と一つのグループとして仕事ができます。そして関係会社はこれまでに最高の仕事をしてきました。日本の大企業にいる私の友人は経済のすべてのサプライチェーンを知り尽くしており、どこでどの活動をすれば、最低限のコストで最高の品質を得られるかを知っています。

 これまで最も総合的な企業といえば、それはおそらく多種多様なアクセサリや部品を生産していたGMだったでしょう。しかし、以前は車の売り上げのうち半分がGMに支払われていたのに対し、今では売り上げの8割が外部のサプライヤーなど協力会社に支払われるようになってしまいました。かつては、車両1台の売り上げに対し、サプライヤー、販売店、ディーラーの取り分は4割程度だったのです。そのときGM幹部は、彼らの存在に気づきませんでした。

◇外部情報はインターネットから入手できませんか。

 外部の情報は全く混沌としています。それを得るには、自ら外へ出て実際に見て、検証することです。報告書に頼るのではなく、時間をかけて消費者を見ることです。長年の友人の一人が、日本の大手エレクトロニクス企業にいるのですが、そこではトップマネジメントが一日かけて消費者の一人ひとりを観察するのだそうです。あらゆる電化製品を販売している東京のある地区をご存知でしょう。経営トップはそこにでかけ、他社製品を買う消費者を観察したり、話かけたりするそうです。

 「なぜあなたはこの製品を買うのですか、どんな商品を探しているのですか、あなたが大事だと思う点は何ですか」という具合に。

 もちろん、自分の会社の製品を買う消費者とも話をします。消費者の答えは、価格が重要、20年間この会社の商品を使っていて満足している、とか、ここの広告が気に入ったとか、色々でしょう。

 そして3か月に1回、実際に大企業を動かしている20名ほどが一堂に会し、お互いに市場で見聞きしたことを報告し合います。集まるたびに新しい発見があります。1992年あたりから日本人は価格に敏感になりましたが、彼らはおよそ1年前にその兆候を察知していました。それまでの日本人は価格よりもブランドに敏感でした。

 私が話していることは、今まさに入ってきている情報なのですが、日本のエレクトロニクス製品の消費者は価格に敏感になってきたということです。もちろん、消費者が購入するエレクトロニクス製品は六つか七つほどあるブランドのうちの一つですが、消費者はもはやブランドをそれほど意識していません。ブランドの製品なら、それぞれ同じくらい良くできています。機能も同じです。となれば消費者は価格に非常に敏感になります。10年前はそうではありませんでした。

 先週、私は新しい電動カミソリを買いました。価格に興味はなかったのですが、3大ブランドのうちの一つを選ぼうと思っていました。私はブランドにこだわるたちなのです。そして私は三つのブランドの製品を比べました。店頭には九つのブランドがありましたが、私はもともと想定していた三つのブランドだけ検討し、他には見向きもしませんでした。

 検討した後で、私は価格を尋ねました。そのとき、そこにいた女性店員に、「人々は皆こんな風にして電動カミソリを買うのでしょうか」と尋ねました。彼女はイエスと言いました。南カリフォルニアでは人々は価格よりもブランドを意識します。


■インターネットの可能性

 変化は常に顧客ではなく、非顧客の間に起こっています。新しい顧客は購入方法も違います。そしてそれが新しい市場となります。ですから何よりも非顧客を観察する必要があるのです。インターネットは、まだそうした情報を教えてくれません。あと5年もすれば分かりませんが。

 もっとも、インターネット上で購買傾向を調べることは今でもできます。何が有効で、何が有効でないか。アマゾンドットコムをご存知でしょう。アマゾンは書籍の販売で成功を収めました。しかしアマゾンが他の商品を売ろうとしても、まだあまりうまくいっておりません。人々は本を買うところで赤ちゃんの下着を買いたいとは思わないものなのです。

 調べるといえば、米国では人々がどのように自動車を買うか知っていますか?彼らはインターネットで調べてから、ディーラーに出向いて実際に自動車を見て、試乗し、購入します。ですから、インターネットを学ぶ必要があります。どのような人々が、どのようにして、何を買うか、逆に、製品なりサービスをインターネットで買わない理由は何であるか、といったことを知るためです。

 しかし当面、ビジネスプランは依然として実店舗の中に設定されています。今から5年もすれば分かりませんが、今のところ、インターネットが実店舗を追随している状態です。それでも従来の購買チャネルから、eコマース(電子商取引)への移行は進むでしょう。そしてeコマース、インターネットは、これからますます情報源として発展していきます。今はまだまだですが、その方向にいくでしょう。

 別の例を挙げましょう。今日あなたをお迎えしたのは私の娘ですが、彼女は数日間ここに滞在して、日曜日にはシカゴに帰ります。彼女はインターネットを利用して航空会社とフライトを選びましたが、従来通り、紙のチケットを購入しました。理由は単純で、彼女が予定を変更したとき、従来のチケットなら変更し易いからです。インターネットで発券した場合、変更の手順がとても複雑なのです。

 今のところ彼女は日曜朝10時のフライトで帰る予定ですが、土曜の午後、あるいは日曜の午後になるかもしれない。従来のチケットなら問題はありません。しかしインターネットのチケットは、手続きに30分かかります。このように流通経路は複数あり、そのいずれにも気を配る必要があります。

◇ところで、あなたはこの資料を私に送ってくださいました。これは誰が見つけたのですか?

 私がインターネットで見つけました。ヤフーで検索したのです。

◇インターネットをご自分でお使いなのですね。

 私は旧いタイプのジャーナリストです。電話を使って情報を収集するやり方は知っています。分かってくださるでしょうか。私はもっぱら電話をかけ、インターネットはあまり使いません。妻は自分の用事のために活用しています。彼女は職業人ですから。しかし私は旧式のジャーナリストです。電話や、百科事典や、自分の記憶のほうを活用します。

 インターネットはたまにパチパチやります。私が何かを知りたかったとして、インターネットに向かうとします。出てくる情報が多すぎます。800ものエントリーが出てきます。時間がかかりすぎです。一方、私があなたのニューヨーク事務所やロサンゼルス事務所に電話すれば、5分で情報が得られるでしょう。私は旧い人間なのです。

 私の孫は建築家で、最近インドへ渡ったばかりです。インドとパキスタンの国境近くに大型の住宅地を建設する予定になっています。30歳の彼はインターネットをうまく活用します。彼は数年間、米国から出て仕事をしたいと思っていて、インターネットを使い、建築家を必要としている海外プロジェクトを探しました。彼はインドに行きたかったのです。それで彼はインターネットで何十ものインド企業を調べ、仕事を見つけました。しかし私はまだ旧式なのです。


■CIOは新しい機能ではない

◇ナレッジ・ワーカーの時代を迎え、改めてナレッジ・マネジメントというものをどのように評価しますか。ナレッジ・マネジメントはITによって進展するでしょうか。

 多くの企業がナレッジ・エグゼクティブを抱えていますが、大きな変化は昔からある分野で起こっています。最大の変化が進行しているのは会計(アカウンティング)分野です。会計分野には全く新しい概念があります。経営管理者は内部情報源および経済チェーン情報(エコノミック・チェーン・インフォメーション)のソースとして、新しい会計を学ぶ必要があります。

 現状のチーフ・インフォメーション・オフィサー(CIO)は、たいていの場合、かつての経理部長の新しい役職名です。会計はめまぐるしく変わります。ご存知のとおり、会計の歴史は700年に遡ります。前回の大変化は80年前でした。そして現在、新しい変化の時を迎えています。経済的付加価値分析(EVA)、総合的経済チェーン会計などは重要な要素です。これらは1959年に私が最初に使った言葉です。40、50年前のことでした。それらが今、現実のものになりました。もっとも私が発展させたわけではありません。

 私たちが今でも持っている唯一の系統立った情報システムは、会計です。そしてそれは急速に変化していますから、経営幹部は新しい会計を学ぶ必要がある。しかし最も重要なことは、経営幹部がどの情報が自分の仕事に必要かを自分自身に問いかけることです。これをしている人は非常に少ない。その上で、自らの情報を体系化することです。

 というわけで、ナレッジ・エグゼクティブでも、チーフ・インフォメーション・オフィサでもよいのですが、それらは従来の経理部長の新しい役職名なのですが、新しい機能ではありません。彼らは依然として会計の担当であって、ナレッジのマネジャではありません。ナレッジ・マネジャの定義もまだありません。ナレッジ・マネジャはいったい何を使えばよいのでしょう。企業のナレッジ・ベースは、私が見たところ、いまだに内部指向です。彼らはまだ本格的に外部情報を体系化できていません。

 企業のキーパーソンはむしろ、チーフ・ヒューマンリレーションズ・オフィサーです。ゼネラルエレクトリック(GE)社のジャック・ウェルチ、彼のことはご存知ですね。彼は巨大な複合企業体を経営しています。GEのトップマネジメント・チームの中心人物は、CEO(最高経営責任者)のウェルチとCFO(最高財務責任者)とチーフ・ヒューマンリレーションズ・オフィサーです。

 ある大手消費材メーカーを見ると、5年前に新しいCEOが就任して以来、難しい時期を非常に良く乗り切ってきました。彼も3人の中心人物に支えられています。CFO、チーフ・ヒューマンリレーションズ・オフィサー、そしてチーフ・テクノロジー・オフィサーです。

 ヨーロッパの企業では、これまで取締役会の議長は専ら会長でした。今では段々とCEOが議長を務めるようになってきています。米国の事情はまったく異なり、CEOを中心に取締役会を構成しているのです。強力なCEOがトップマネジメント・チームを決めるのです。

 どこの会社でも財務担当者とヒューマン・リレーション担当者が中心的な位置を占めています。また、ある会社ではチーフ・テクノロジストがトップマネジメントの中心で、ある企業ではマーケティング・マネジャ、私が知っているもう一つの会社ではプランナー、ストラテジストがナンバーツーを務めています。このように、何か公式に当てはめるのではなく、CEO自身が企業の性質に応じてトップマネジメント・チームを構築すればよいのです。


■経営トップは気付きが必要

 組織のためではなく、トップマネジメントのための体制作りが必要なのです。そこには特定の原則が存在します。最初にチャンスに焦点を絞り、次に問題に対処するという報告の仕組みを持つことは良い考え方です。従来のように毎週月曜日や毎月の最初の月曜日に、あなたの専門外も含めたすべての分野からの報告を受けてチャンスを放置してしまうよりは良いでしょう。最初の日はチャンスについて時間を割くことが得策です。あまりにも多くの人が一人に直属しないようにするのもいいアイデアです。

 日本で最も成功している小売企業では、各事業部門の長とマーケティング担当が最も重要な位置を占めています。この企業はスーパーマーケットからファションストア、家具店まで、数多くの異なる事業を展開しています。それぞれの中心的な仕事はマーケティングであり、それほど多種多様な財務管理は存在しません。この企業は、財務的に管理されるのではなく、マーケティングによってマネジメントされるべき企業なのです。

 一方、私が良く知っている他の日本企業を見てみますと、マネジメントの中心的な機能はテクノロジーに関するものです。世界的に展開している医療機器メーカーですが、その会社自体はいまだ家族経営です。しかし世界中で上級管理職についている20名それぞれがテクノロジー分野で5、6年の経験を積んでいます。このように、誰をキーパーソンにするか、どのようにマネジメントチームを作るかは、企業によって様々なのです。

 かつてのフォード・モーター・カンパニーを思い出してください。フォードでは、CFO自身がキーパーソンでした。これはうまく行きました。つまり財務部門の責任者はフォード本部の直属になり、財務部門内の長ではなかったのです。このやり方は普遍的なものではなく、お隣のGMには当てはまりませんでした。GMでは、ある部門の責任者は実際に部門を統括する立場の人間であり、CFOは実際に統括する人物のアシスタント的な役割でした。私がGMを初めて知ったとき、最も力を握っていたのはマーケティング畑の人でした。一方、トヨタ自動車を見た場合、昔の話になりますが、私が最初に知った1950年代において、非常に強力な製造のキーパーソンがいました。彼が会社で一番力を持っていました。

◇コンピュータによる中央集権化されたマーケティングを行っているウォルマートの場合はどうでしょう?

 ウォルマートの店舗を動かすのは現場のマネジャです。まさにマネジャが店舗を経営しています。企業の中枢にいる経営側はどこに店舗を置き、どの商品をどの店舗に置き、誰を店舗の責任者にするか決定します。いったん店舗の責任者が決まれば、その責任者が経営する店という形になります。しかし、どの商品を扱うかについて、店舗のマネジャが決定することはできません。これは本部が決めます。人事の方針も決定できません。これも本部が決めます。基本的な方針は企業の中枢が決めて、現場はそれを遂行するだけです。

 これに対し、米国最古の大手小売チェーンであるシアーズ・ローバックを見てみると、価格決定、ディスプレイ、宣伝、そしてどの商品の取り扱いを止めるかについて、現場のマネジャが非常に大きな決定権を持っています。どの商品が販売可能かについては企業の中枢が決定しますが、この商品はこの地域では売れないので扱わない、といった決断は現場のマネジャに任されています。人事的な裁量権はありません。これは企業の中枢で決めます。

 店舗について興味深い変化を思い出しました。ここ、クレアモントにある店舗は、非常に大型で利益を上げています。ここは学園都市で、高収入を得ている個人が非常に多いのです。したがって、この店舗は個人客向けの経営をする必要があります。3000人から4000人もの人々が買い物をしますし、大規模な金融業務が行われ、店舗側も商業金融の体制を整えています。けれども、クレアモントには、産業地区はありません。

 経営側にとって最も困難なことは、市場の変化を認識することです。かつてクレアモントには二つの大手銀行が存在していましたが、一方は事実上、撤退しました。彼らは15年前に市場が変化し、旧式の市場が消え去ったことを認識しなかったため、新しい市場に向けた体制づくりができなかった。だから生き残れなかったのです。旧い市場が変化したことを経営側が認識することは非常に困難だった。経営者に市場の変化を気付かせるのは私のようなコンサルタントの主な仕事の一つです。あなた自身が変わらなければならないのです。


■中国の強みと弱み

◇中国の台頭をどうみておられますか。

 中国の最大の弱点は教育を受けた人材が不足している点です。中国全土には十数億人もの人がいますが、大学教育を受けた者は人口の10分の1にも満たない。膨大な、良く訓練された生産性の高い労働力をどのように中国で活用するか、そしてマネジメントの仕事に耐える高等教育を受けた人材が不足している問題をどう解決するか。この二つが中国の大きな課題です。

 日本や米国の労働力をもって中国と競争しようなどと考えてはいけません。肉体労働については、中国の労働者は非常に優秀です。中国の高速道路建設など、低い賃金で、みるみるうちに生産力を上げます。私の教え子の話ですが、米国企業にいた彼は中国に戻ったのですが、給与面でいうと、米国で得ていた額の10分の1になったそうです。

 数週間前に私を訪ねてきた彼に、私は言いました。「君は月に2000ドルもらっている。年間にすると2万4000ドルだが、米国だったら月に1万ドル稼げるだろう」。すると彼はこう言いました。

 「米国に住んでいたときより、中国で月2000ドルもらって暮らす方がよっぽどいい暮らしをしています。お手伝いさんもいますし、家も広い。無料の鉄道乗車券ももらえて旅行もできる。私が中国に住み始めてからもらっている2000ドルは、ミシガンで稼いでいた1万ドルよりもずっと価値が高いです」

 これには日本も米国も対抗できないでしょう。対抗できるとしたら、対抗しなくてはならないとしたら、それは日本や米国に大勢いる高等教育を受けた人材に頼るしかありません。それこそ中国で不足しているものなのですから。中国企業にいる私の友人は、この3カ月というもの、冶金技術者を探しているのですが、良い人材が見つからないと言っています。中国で冶金技術を教えている大学はたった1校しかなく、技術者は年間50人ほどしか輩出されていないそうです。中国が必要としている数は5000人とも言われているにも関わらず、そういう状況です。

 その点、日本ではいまだに年間数百人単位で教育しています。米国は数千人単位でしょう。ところが日本でも米国でも冶金技術者は不足していません。でも中国では見つからない。私が中国で非常に優秀な会計士を見つけようとすれば、簡単にはいかないでしょう。そのようなわけで、我々は高い教育を受けた人材を活かし、その中から生産性向上や価値創造を得る方法を学ばなければならない。そうしないと中国とは競争できません。

 私の顧客であり、友人でもある、歴史の古い採掘技術企業の話です。この企業は中国に三つの事業所を持っており、今や、中国に向けて技術を輸出していません。中国市場への供給は中国の事業所で賄っているのです。先進国向けの仕事はすべて米国と日本の事業所が引き続き担っています。実際、米国企業と日本企業の間でますます提携が進んでいます。なぜなら高い教育を受けた技術者が他では得られないからです。

 この企業は、中国で技術者を必要としませんでした。なぜなら中国では日本や米国で既に5年も販売していた製品を売るだけだからです。製品は完全に成熟しているので、技術者を必要としません。サービス上の問題点も見込み客も既に分かっています。ですから、技術やサービス上のスキルは必要ないですし、そもそもそうしたスキルは中国で得られないのです。中国で必要なのは技術者ではなくて、良い運送人です。ご存知のとおり広大な国ですので、輸送機関が非常に未発達なのです。彼らは中国事業に必要な資金を中国で調達しません。調達の手続きが非常に複雑で費用も時間もかかるからです。そのかわり、英国で中国事業資金を調達しています。

 昔からの輸出企業にとって中国は非常に手強い競争相手になりつつあります。中国の最大の強みは、その素晴らしい労働力です。彼らは非常に素早く物事を学びます。彼らは命令に従うよう訓練されています。彼らにイノベーションを期待してはいけません。彼らは命令されるのに慣れているのです。そしてまた彼らは、行政上の問題、そして広大な土地における輸送問題を解決することに慣れています。

 繰り返しますが、マネジメントや技術者といった人材は非常に不足しています。我々はその点をうまく活用する方法を学ぶ必要があります。そして一つだけ避けなければいけないことがあります。初めての製品を中国で発売しないことです。売るのは完全に成熟した製品のみにすべきです。

 なぜなら中国人は製品の改良に慣れていないからです。彼らはその製品をどう生産するべきか正確に理解しています。いったん生産し始めたら、彼らは非常に巧く作りますが、それを改良することはありません。したがって、製品を中国市場に適合させる必要はありますが、改変はごくわずかに留めるべきです。

 中国を訪れ、「ああ、この国に必要なのは新しい製品だ」などと言う人は成功していません。成功者は大抵こう言います。「私は実績ある製品を持っている。これを中国で作ろう」と。中国で最も成功している外国企業はフォルクスワーゲンです。同社がこの10年間から15年間にわたって中国で生産した自動車はすべて、ヨーロッパでかつて生産したものばかりでした。


■日本へのメッセージ

◇日本企業は、日本的なマネジメントを踏襲しつつ、しかもグローバル企業を牽引できるでしょうか。

 イエスでもありノーでもあります。ソニーを見てください。ソニーは非常に巨大なエンターテインメント企業となり、独自のエンターテインメント製品を生産していますが、それらの製品を米国で、米国人マネジャの下で生産しています。ソニーのエンターテインメント製品に関しては、日本人のマネジャだとうまく行きませんでした。なぜならエンターテインメントは米国的な世界であり、エンターテインメント製品をつくるスキルや経験もまた、米国的なものだからです。

 一方で、ソニー本社はまさに日本国内にあり、意思決定も日本で行われます。あなたがソニーの人と話したら、日本本社と米国のエンターテインメント部門との間で、しょっちゅうぶつかるという話を聞かされるでしょう。彼らは異なる言語を話しており、互いに相手の概念を理解していないのです。この問題には、膨大な時間をかけて対処しなければなりません。

 全く違う例としてGEの医療機器事業を見てみましょう。医療機器事業はGEにとって最も利益率の高い事業です。従来的な医療製品の生産の中心は日本にあります。なぜなら日本は品質管理に優れているからです。この種の製品は品質に依存しています。

 シーメンスなどは同様の製品を低価格で販売していますし、そうした企業はいくつかあります。ですからGEは、品質で売るしかないのです。そしてGEの新製品開発やイノベーションの中心はドイツにあります。なぜならドイツはそうした人材が豊富だからです。そしてミルウォーキーのGE本社は規格品を全世界に販売しています。ここではマーケティングのスキルが必要です。

 このように日米欧の三カ所に本拠地が分かれた状態で会社を運営するのは簡単ではありません。しかしGEにおいては機能しています。ですから私の友人のほとんどは出張が非常に多いです。移動している間は仕事ができません。一つの会社の中に異なる文化を抱えるのはとても難しいことです。特に日本企業にとっては非常に難しい。しかし多くのケースでは、それが会社を動かしていくための唯一の方法なのです。

◇日本の問題をどうとらえておいでですか。問題は、経済ではなく、社会システムにあると指摘しておられますが。

 過去50年ほどにおける日本の大きな強みは終身雇用でした。これが大きな強みの一つでした。そして今、あなた方は柔軟な雇用が必要な時代に突入している。あえて言わせていただくと、日本の銀行行政に対する批判のほとんどは間違っていると私は思います。日本の銀行には、本当は50万人位いれば十分なところに250万人もの人が雇用されている。200万人はどうすればいいでしょうか。ところが日本の財務大臣や日本銀行は、大量の失業者を出さないと決めています。できるだけ長く今のシステムを続けていくとしています。あなた方は、変化させる必要があります。

 あなたは日本の輸出量が非常に少ないことにお気づきですか。日本の国際取引は国民総生産の8パーセントです。これはあらゆる主要国と比較しても最小またはかなり低い数字です。ドイツは40パーセントです。米国は12パーセントです。つまり、純粋に国内でビジネスをしている中規模企業が大量に存在するわけで、そうした企業がこれからは国際的に競争することを学ばなければいけないのです。

 日本は移行期にあるのです。終身雇用、年功序列、系列といった、過去50年間の日本において非常に良く機能していた制度は変化の途中にあります。行き着く先はまだ分かりません。

 日本には世界市場でも非常に高い競争力を持つ企業がいくつかあります。しかし大部分の日本企業は国内企業です。そしてこれらの企業は、目覚しい速さで競争の仕方を学んでいます。日本企業は労働コストで競争することはできません。しかし労働生産性で競争することは可能です。現在、日本の大企業数社の生産性は、他国の会社、米国企業やドイツ企業の生産性を大きく上回っています。あなた方はこれを武器に戦うのです。あなた方は中国と比較して、1時間当たり3倍から4倍の仕事結果を得られるでしょう。

 すでに日本は10年間もの移行期を経験しています。その中で、日本企業は海外の中国企業と提携し、他のどの国よりも中国におけるビジネスを推進しています。いまだ中国企業の生産性は概して低く、かつ一貫性がありません。しかし日本企業は、ヨーロッパで競争する方法を学ぶのと同じように、中国で競争する方法を学ばなくてはならなくなります。

 それには、これから10年かかるでしょう。同じことが米国企業にも当てはまります。来る10年は、動揺と、混乱と、急激な変化が見られるでしょう。それは間違いありません。こうした時代に、最もしてはいけないことは、すべての企業に同じ答えを当てはめることです。私が学んだのは、それぞれの会社は、すべて異なる答えを必要としているということです。

 すべての企業は、何が自らの一番の強みはなのかをじっくり考える必要があります。世界で自分達が一番になれる分野は何かということです。何か一つ、小さなことでいいのです。皆多くのことで一番にはなれません。それは何でしょうか。何が自分達を差別化し、傑出した存在にできるでしょうか。

 一部の日本企業はその答えを既に見つけています。思うに、トヨタは自らの主な強みを生産と位置づけることについて、またそれについて考え抜くことについて、世界のほとんどの企業よりも抜きん出ています。そしておそらく生産においては他のどの企業よりも数段先を行っています。

 GEについては何が本当の強みなのか、私ははっきり把握することができません。異なる事業が非常に多いからだと思います。私から見れば、彼らは自らを分化していると思います。一方、GMは何が強みなのかを考え抜いているように見えます。同社はアクセサリの生産から撤退し、サービス企業に転換しつつあります。そしてそれはうまく行っています。

 ですからこの10年のうちに、企業は何が自らの本当の強みなのかを十分考えなくてはなりません。一番になれるのはどの分野か?すべての分野で一番になろうとすると、完全に失敗してしまいます。しかし一番にならないと生き残れません。お分かりでしょうか。

 私たちが現在経験している変化はこれまで経験した何よりも急激です。まるで1780年から1930年ごろの時代です。非常に似ていると私は見ています。その時代は鉄道の登場により、幕を閉じました。私たちは新しい経済を形成する急激な変化という意味で非常に当時と似た時代を生きています。そんな中、日本はある意味で非常に早く動いている。金融セクターは非常にスローですが。そしてこれら一連の変化は、もっと大きな変化のほんの始まりに過ぎないと私は思うのです。