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【粛醒】ムー(R)
:基本情報|
|BGCOLOR(#FFD9B3):名前|【粛醒】ムー|
|BGCOLOR(#FFD9B3):種族|海種|
|BGCOLOR(#FFD9B3):ジョブ|マジシャン|
|BGCOLOR(#FFD9B3):降臨コスト|70|
|BGCOLOR(#FFD9B3):＜タイプ＞|守護者|
|BGCOLOR(#FFD9B3):タイプ|レムリアン|
|BGCOLOR(#FFD9B3):HP|700|
|BGCOLOR(#FFD9B3):ATK|180|
|BGCOLOR(#FFD9B3):DEF|200|
|BGCOLOR(#FFD9B3):アーツ|有/無|
|BGCOLOR(#FFD9B3):CV||
&br()
|>|BGCOLOR(#FFD9B3):アビリティ|
|BGCOLOR(#FF8383):CENTER:超覚醒|降臨『太陽石限界駆動』|
|~|転醒力ゲージを消費し、自軍マナタワーからのみ召喚できる。召喚すると一定時間(30c)後に戦場に【降臨】する。&br()攻撃力と移動速度が上がる。更に、自身が攻撃した敵ユニットと、その周囲にいる敵ユニット1体にダメージを与える。ただし、スマッシュアタックができなくなる。このアビリティの効果は一定時間後に消える。|
:ステータス|
|BGCOLOR(#FFD9B3):状態|BGCOLOR(#FFD9B3):HP|BGCOLOR(#FFD9B3):ATK/DEF|
|BGCOLOR(#FF8383):CENTER:超覚醒|700|230/200|
:DATA・フレーバーテキスト|
#region(close,Ver3.5)
|>|BGCOLOR(#FFD9B3):Ver3.5|
|BGCOLOR(#FFD9B3):身長|1.92[meter]|
|BGCOLOR(#FFD9B3):体重|91[kg]|
|BGCOLOR(#FFD9B3):最高速度|120[kt]|
|BGCOLOR(#FFD9B3):標的|キング・アトラス|
|BGCOLOR(#FFD9B3):素体|アトランティス人の体|
|BGCOLOR(#FFD9B3):素体の魂|ある獣の中に…|
|BGCOLOR(#FFD9B3):イラストレーター|あかぎ|
|BGCOLOR(#FFD9B3):フレーバーテキスト|
| episode：【粛醒】ムー&br()&br() （from "Ver.SS [[【海覇】ポセイドン>Ver3/【海覇】ポセイドン]]"）&br()&br()&br() 『アルカニア海戦 Ⅱ』 &br()&br()&br() 熱さを感じた。&br()&br() 海の深淵にあって、光の届かぬ世界を灯し続けた『黄金の太陽』は消え去り、代わりに燃え上がる炎が並び建つ金色の群塔を赤く照らしていた。&br()&br() 燃えているのだ。オレの目の前で、あの黄金の都が。&br() &br()「ほっほ、よく燃えるのぉ、海の中だというに」&br()&br() オレの横に立つ大きな体躯の老人が、王宮のバルコニーからそれを見下ろしている。&br() &br() 口調は悠々としているが、その目はとても悲しそうだった。&br()&br() オレはなんと声をかけてよいのかわからず、ただ黙って老人と同じように都を見下ろしていると、&br() &br()「のう、お前はあのアルカナの光――『紅蓮の炎』を覚えておるか？」&br()&br() そう、老人の方から語りかけてきた。&br() &br() "覚えて"？――見たことがあったのだろうか。初めて目にするような気もするし、かつてこの熱さを感じたことがあったような気もする。しかし、あれを「炎」と認識できているのだから、少なくとも知識はあるのだろう。&br() &br() オレがそう考えにふけっていると、&br()&br()「ふむ、まだ思考が安定せんか……しかしアトランティオイどもめ、自滅覚悟とは言え、なりふり構わずやってくれたわい。もはやわしの希望はお前たちだけじゃ。のう――」&br()&br() 老人は、白く長い髭を撫でながらゆっくりとオレの方に体を向け、&br()&br()「ムーよ」&br()&br() そう呼んだ。&br() &br() 『ムー』――どうやらそれが、オレの名らしい。&br()&br()「お前を造ったこと、後悔させんでくれよ？ これだけの犠牲を払ったんじゃ。金ぴかだけが取り柄の、生きながら死んでいるような都ではあったがの、こうして実際に失ってみると、"胸に穴が空く"っちゅうやつをまざまざと感じさせられるわい……結局、わしもこの景色が好きじゃったんじゃろうなぁ」&br()&br()「ラムウ様……」&br()&br() 口からそう衝いて出た。&br() &br() それが、この老人の名なのだろう。&br()&br()「ほっほ、そうじゃそうじゃ。良いぞ、ムー」&br()&br() 老人は嬉しそうに、皺だらけの顔にさらに皺をつくって頷くと、&br()&br()「わしは"祖国"が生きる道を探して旅立つ。じゃからお前はここで眠り、このレムリアの墓標を守ってやってくれ……安心せい、眠っとる間お前を守る護衛も設置済みじゃ。そして再び目覚めたとき――お前は、戦うことになる」&br()&br()「戦う……？」 &br()&br()「そうじゃ。それが『滅びの約定』よ――約定に従って、レムリアと共にあの国も亡ぶ。しかしその意思もまた、レムリアの化身たるお前と同じように生き続ける……お前は"あの者"を倒し、それを挫かねばならぬのじゃ」&br()&br() 老人はオレの肩を掴んだ。&br() &br() オレを見つめる老人の瞳、そのすぐ上の額にスッと切れ込みが入り、ガバリと開いた。&br() &br() 現れたのは、巨大な三つ目の瞳――その瞳にオレが映っている。&br() &br() 心を失くしたような、表情で。&br()&br()「よいか、しかと心に刻め。そやつの名は――」&br()&br()&br() ＊ ＊ ＊ ＊&br()&br()&br() ムーは、途切れた意識の回路を直ちに繋ぎ直した。&br()&br() ノイズだろうか、何かのヴィジョンのようなものがメモリーから検出されたが、そのようなことに気を回している余裕はない。とにかく今は、目の前の障害を排除せねばならなかった。&br() &br() 状況はひっ迫していた。&br() &br() かつて、記憶を失くし当て所なく海底を彷徨っていた彼を救ってくれた恩人――ポセイドンが、今、危機に瀕しているのだ。&br()&br() &br() ポセイドンは、古代遺産『ノア』の登録者となった人魚ハルフゥを自軍に迎えることを条件に、ハルフゥが所属する反乱軍『レムギアの牙』の危機を救うべく、艦隊を引き連れて皇帝軍の本拠地――アルカニア島へと向かっていた。&br()&br() 島東岸を守るアルビオン艦隊を難なく敗ったポセイドン艦隊の進軍は順調に見えた。しかしその直後、トラブルにより全機甲兵器が使用不能になったところに皇帝軍の空襲を受けてしまう。対空戦力の要である機甲『テンペスタ』を欠いた状態では不利と判断したポセイドンは、『海獣戦車』の船足を生かし強引に突破しようとするも、さらに島沿岸に配備された砲台の長距離射撃により、島に近づくどころかその場に釘付けにされてしまっていた。&br()&br() そこで、ポセイドンがこの窮状を打開するために打った手こそが、同盟者たる"海皇"が一人、『ムー』の単身特攻による砲台の撃破であった。&br() &br() &br() ムーは全身にエラーチェックを走らせ、砲台の"熱線"を避けた際に浴びてしまった電磁波の影響を調べた。&br() &br() 修復不能なエラーは――ない。&br() &br() 先程の射撃から予測するに、熱線から発生する電磁波の影響範囲は光軸を中心に約半径二十メートル――次射がくれば、熱線そのものを避けることはできても、やはり電磁波の影響までは防ぎきれないだろう。体のいたる箇所を機械化しているムーにとって、それは可能な限り避けたいところだった。しかもこれ以上近づけば、熱線そのものを避けることすら――。&br() &br() ムーは宙に浮かび上がると、約五百メートル先の海上にそそり立つ巨大な塔を見つめた。&br()&br()「……むごいな」&br() &br() 大闘台『ファロス』――二頭の海竜に引かれ、熱線を放つドームを天辺に戴いた天を突く程の巨塔。その塔には、塔と同じ程に巨大な精霊が鎖で縛りつけられていた。&br() &br() 先の一射の後、ぐったりと前のめりになって頭を垂れている様子を見るに、おそらくあの熱線は、精霊から吸い上げた何がしかの力をドームで混合し、撃ち出しているのだろう。&br()&br() 皮肉なものである。機械に命を組み込んだ『ファロス』と、命に機械を組み込んだ『ムー』とがこうして対峙するとは――。&br() &br() そんな思いに駆られていると、ビクンと精霊の上体が跳ね上がり、塔のドームが鈍い光を放ち始めた。&br()&br() 再びエネルギーの充填を開始したらしい。とはいえ、あれほど高出力の熱線をそう容易く連射できるはずもない。再充填の完了までには今しばらく時間がかかるはずだ――そう考えたムーは、そのままじっとファロスの様子を観察した。&br() &br() 充填に際し、精霊の顔は苦痛に歪み、体の至る箇所が鈍く光り脈打っている。その光は左右の手首に収束してゆき、そこをガチリと咥えこむ鎖に伝わって塔に吸収されているようだった。&br()&br() しかし、そのように精霊の力が急速に吸い取られていく一方で、頂上ドームにほとんど変化は見られない。&br() &br() 充填が上手くいっていないのだろうか――なら、今の内に近づくべきか。しかし、塔に取り付くまでに再び熱線が放たれれば――そのとき、不意にドーム上方に据え付けられた、大きな鏡のような板が向きを変えた。&br() &br() 鏡が向いた方向――そこには、厚い雲の切れ間から眩い光が覗いていた。&br()&br()「"太陽"、か――」&br()&br() 現在、戦場の上空は分厚い雲で覆われている。そうであるなら、充填に時間がかかるのも頷けた。つまり、熱線の正体は、太陽光と霊力を混合した高出力の指向霊熱線――、&br()&br()「ならば……！」&br() &br() ムーは呟くと、王錫を両手でしっかと握りしめて手前に突き出し、体内の『黄金機構』に火を入れた。&br() &br() 同時に、太陽光の恩恵を得たファロスのドームが、にわかに内に取り込んだ二つのエネルギーを循環、混合させて、強い輝きを帯び始める。そしてそれが地上に落ちた太陽の如き輝きを見せたとき、パシュンと乾いた音と共に、再び熱線が放たれた。&br() &br() ムーの背丈を優に超える極太い熱線が、空気を焼いてムーに迫る。&br() &br() しかし、ムーは王錫を握り締めたまま動かず――&br() &br() &br()「静かなれ――太陽石！！」&br()&br()&br() 叫ぶと共に王錫を掲げた。&br() &br() すると、輝く王錫の先から薄青い光の膜が広がり熱線を受け止めると、なんと、それを吸収し始めたではないか。&br() &br() 王錫はうわばみの如くみるみる光線を取り込んでいき、それと共にムーの体が次第に光を帯び輝いていく。&br() &br() そのまますっかり熱線を吸収しきると、&br() &br()「ムウウウ！！」&br()&br() ムーはさらに突き出した王錫の先から、先よりも倍程に太さを増した熱線を放った。&br() &br() そこまで、一瞬の出来事であった。&br() &br() 遠くでボンッとドームが弾ける間の抜けた音が聞こえ、塔が上方から崩れていく。&br() &br() 合わせて鎖がたわみ、精霊もまた力尽きたようにその巨体をゆっくり海へと横たえていった。&br() &br() 精霊は海に溶け消えながら、遠く離れたムーを見つめ、&br() &br()（……ありがとう……）&br() &br() そう告げているような気がした。&br()&br()――チリリ。&br()&br() ムーの頭に再びノイズが走り、思わずこめかみを押さえて上体を折る。&br() &br()「……少し、無茶をし過ぎたか」&br() &br() そのまま水面まで降りて神経回路の無事を確認すると、頭を振って身を起こし後方を振り返った。&br() &br() 遠く離れた沖で、空に向かい砲撃を続けるポセイドン艦隊が見えた。&br() &br() まるで束ねた針のような猛攻であったが、それをものともせず、曇天からは絶え間なく怪物の群れが降りてきている。&br() &br() 『ファロス』を倒したことで狙撃の危険が無くなり、島への進路は確保できたはずだ。だが、艦隊はすっかり敵に取り囲まれてしまっており、身動きが取れないようだった。&br() &br()「すぐに駆けつけたいところだが、この体の状態ではな……"彼"が、間に合ってくれればいいが……」&br() &br() そう呟くと、ムーは海に体を浮かべて目を閉じ、放出しきったエネルギーを『黄金機構』にて生成し始めた。&br() &br()&br() ＊ ＊ ＊ ＊&br()&br() &br()&br()&br()「ぅてーーーーい！」&br()&br() 船の甲板に仁王立つポセイドンの号令と共に、マーマンたちが一斉に鉾を振り水流の刃を撃ち出した。&br() &br() 次いですぐに赤い背びれを発光させたピュトンが、長大な体をくねらせて上空広域に「スプラッシュウェーブ」を放つと、その強振動波を受けたマーマンたちの水流がより鋭く大きな刃と化して広がり飛ぶ。&br()&br() 刃の向かう先は、海上いっぱいに広がる厚く黒い雲――いや、それは本当に"雲"なのだろうか？ &br() &br() 初めは確かに雲であった。しかしそこから無尽蔵に湧き出してきた"それら"は、ギチギチと昆虫のような牙と爪を鳴らしながら蠢き、今やぬらりとしたその表皮で空一面を覆い隠してしまっていた。&br()&br() そこに数百という水の刃が突き刺さり、群れ広がる怪物たちの三分の一を無惨に両断する。&br() &br()「どうだ……？」&br()&br() ポセイドンはその結果を見逃すまいと、目を大きく開いた。&br() &br() バラバラと裂けて落ちる怪物たちの骸――しかしそれらは、なんと、宙にてぐにゃりと粘土細工のように形を歪めたかと思うと、それぞれが小さいながらも"元の形"に戻り、尻尾と羽を震わせて再び上空へと舞い上がってしまう。&br() &br()「"まだ"分裂するのか……しかも小さくなった個体はこの短時間で少しずつ成長している。この『バイアクヘー』とかいうクトゥルー、なかなかに興味深いね。少し細胞をサンプリングしておきたいな……」&br()&br() そう顎に手をやり見上げていると、&br()&br()「ちょっとポセイドンさん！ 感心している場合じゃないでしょ！？ どうすんのよあんなに増やしちゃって！？」&br()&br()「でもなんかアレ、エビんこみたいでおいしそうかも……もうすこしちいさくならないかなー」&br()&br()「……キマ、もしあんなの食べたらあんたの友だちやめるから」&br()&br()「もーやだなー。おねーちゃんはとっくに"ともだち"じゃないよー。キマの"コジュート"なんだからー」&br()&br()「だ か ら、その"コジュート"ってのどれだけ引っ張るの！？」&br()&br() と、その後ろで人魚のハルフゥとセルキーの少女キマがのんきな会話を繰り広げる。ポセイドンは、「ああ、そういえばこの子らもいたんだっけね」と額に手をあて少し項垂れると、気を取り直して振り向いた。&br()&br()「キミたちさ、この状況でよくそう緊張感のない会話できるよね？ まぁいたずらに怖がってパニックになるよりはある意味正しい反応なんだけど……」&br()&br()「どういうこと？」&br()&br()「キマわかるよ！ やっぱりおいしそうってことだよね！ ほーら、がんたいのおねーちゃんもおいしそーだって！」&br()&br()「言ってないよね！？ ……つまりだね、見た目には増えてるけど、あいつら一体一体の力は低下してるってことさ。その証拠にほとんど攻撃を仕掛けてこなくなっただろう？ まあ、成長もしてるみたいだし"数を増やしてから一斉に"って腹なのかもしれないけどね」&br()&br()「そうなの？」&br()&br() ハルフゥが横を向き、少し離れたところでいかにも暇を持て余したというように一人指遊びをしている、奇妙な"箱"に乗った少女に問いかけた。&br()&br()『ピピピ――はい、各個体の能力は体積に見合った形に劣化していますね。暫くは大丈夫かと思います』&br()&br()「とまあ、『叡智の匣』である"ノア"もそう言ってることだし、ここは落ち着いて――」&br()&br()『けれど、結果的にそうなっただけで、生態のよくわかっていない異次元存在に『ぅてーーーーい！』とかよくやるなー、もしそうならなかったらどうするつもりだったんだろうなー、眼帯とかしちゃって司令官プレイ泥酔マックスなのかなー、怖いなー ――とも思ってました』&br()&br()「ぐぬ……こいつ、手に入れたら一回分解して言語中枢入れ替えてやろうかな――とにかくみんな！ 上空のバイアクヘーに照準合わせたまま臨戦待機だ！！」&br()&br() ポセイドンは片眉をヒクク震わせつつも、そうマーマンたちに指令を出すと、踵を返して船尾楼甲板中央に設えられた玉座に戻り、ドスンと腰を落とした。&br()&br()「何にせよ、この膠着状態を作り出せたのは良かったよ。けどそれもお互いが刃を突きつけあってる間だけの話さ。下手に動き出して矛先を逸らせば、やはり背後から一斉に襲いかかってくるだろう。ここからは"どちらが早いか"の我慢比べだね」&br()&br()「早い？」&br()&br()「ああそうだ――」&br()&br() ポセイドンはもう一度だけ上空の敵に動きがないことを確認してから、肘掛けにもたれつつ首を横に伸ばして一段下の甲板に向かい大声を飛ばした。&br() &br()「博士ーー！ 『ファロス』の方はどうだーーい？」&br() &br() その先では、全身を甲殻に覆われた異形の老人――ノーチラスが、珍妙な機械をなにやら楽しそうにいじくっていた。&br()&br()「ん？ あ～～～、ん～～」&br()&br() ノーチラスはその声が聞こえているのかいないのか、ひとり何やら呟きつつ、ツマミを回しながら機械を覗き込んでいたが、暫くすると、&br() &br()「ん～～、高エネルギー体の反応は消失しておるの～～」&br()&br() とモニターに目を向けたまま答えた。その言葉に大きく頷いたポセイドンは、&br()&br()「よし、やってくれたか。流石はムーだね」&br()&br() そう島の沿岸を見やる。ハルフゥもまた楼甲板の縁から手をかざして同じように島の方に目を凝らしてみると、確かに、先程まで恐ろしい光線を放っていた塔は影も形もなく消えていた。&br()&br()「へぇ～、あの人そんなに凄かったんだ。そういえばなんか雰囲気あったもんね」&br()&br()「そりゃあね。ああ見えて彼は、私と同じ『海皇』の名で称される古代レムリア科学の結晶だもの――」&br()&br()「ひょ～～～！！」&br()&br() 二人の会話にノーチラスの頓狂な声が混ざり、ポセイドンは再び甲板を見下ろした。&br()&br()「どうしたーー？ 博士ーー？」&br()&br()「うんうん、高エネルギー体の反応は消失しておるの～～」&br()&br()「それはさっき聞いたよーー」&br()&br()「ん～～、じゃがこりゃまた、ありゃりゃ～～」&br()&br()「何かあったかーーい？」&br()&br()「ふへ～、こりゃすごいの。フォッフォッフォッ」&br()&br()「はーーーかーーーせーーー？？」&br()&br() ズガンッ、と音が響き船体が一瞬右に傾いた。見ると、ノーチラスのすぐ横に、ポセイドンの三叉槍が煙を上げて突き刺さっている。&br()&br()「どおおしたのかなああ！？」&br()&br() 皆の度重なる無体な態度に溜まった憤懣が噴出したか、こめかみに青筋を浮かべてポセイドンが問う。しかしノーチラスはどこ吹く風で、&br()&br()「お、陛下。槍を落としましたぞ？ モノは大事にせんと。それと今いいところなんで静かにしてくだされ……ん～～、この光点がレムリアンの小僧じゃろ？ とすると、『ファロス』の反応は消えたが、やはりまだ同座標に何か残っとるのう……そんでさらに近づいて来とるこれは……と、よよい……」&br()&br()「何だって？ 博士、すぐにモニターを投影して！！」&br()&br() ポセイドンの要求に、ノーチラスが「え～、今見てるのにぃ……」とぶつくさ文句を言うが、さらなる殺気の込められた視線に渋々ツマミをいじる。するとモニターの様子が甲板中央に大きく表示された。&br() &br() そこには、ムーと思われる淡い光点が一つと、その傍で怪しい広がりを見せるエネルギー波らしきもの、さらに、急速にその座標へと近づいてくる二つの光点が映し出されていた。&br()&br() それを見たポセイドンが目を細め、&br()&br()「このタイミングで……これは――まずいな」&br()&br() と顔をしかめた。&br()&br()『まずいと言えばこっちもまずいですねー』&br()&br()「もう！ 今度はなにさ！？」&br()&br() さらに割り込んできた声に一同が振り向くと、ノアが膝を抱えたまま空を見上げている。&br()&br()『ほーら上上、ちょーまずい。マジ激辛』&br()&br() 釣られるように一同が上空を見上げると、ひしめき合うバイアクヘーの天蓋の一部が、ぷくりと逆さに膨らんでいた。&br()&br() 膨らみはみるみる大きくなっていき、それに纏わりつくバイアクヘーの隙間から、風船の空気が漏れ出すようにシューシューと音を立てている。&br() &br()『あっちの方が早かったようですねー』&br()&br() その音が突然、圧縮された空気が一気に噴き出されるような高音に変わり、激しい風となって膨らみを包んだ。&br()&br() 次いでバイアクヘーたちが現れた者への礼賛を示すように、ブブブブと一斉に羽と尾を震わせる。&br()&br() そして怪物で固められた"繭"が割れ――&br()&br()「ちっ……」&br()&br()『来ましたよ、"旧支配者"――≪ハスター≫です』&br()&br() 頭や手らしき部位から垂らした幾つもの触手を、風になびく長いスカートのようにひらめかせながら、バイアクヘーたちの主である上位のクトゥルーが姿を現した。&br()&br()「みんな何かに掴まるんだ！ 全隊、海中に潜れえええ！！」&br()&br() ポセイドンが叫ぶと同時に、ゴウッ、と横から巨大な何かで殴りつけられるような音がした。&br() &br() 同時に激しい高波が艦隊に覆いかぶさり、船体がひっくり返らんばかりに傾く。&br() &br() それは、風だった。&br() &br() 強烈な風はみるみる渦を巻き、一瞬にして巨大な竜巻となって一帯を包みこむと、凄まじい速度で回転する大渦を作り出し海水を宙へと巻き上げていく。&br() &br() 船を引く海馬、海獣たちが悲鳴を上げるようにいななきながら波を掻き、風にさらわれまいと必死に抵抗するが、渦と風はその巨体すらまるで意に介さず全てをねじ伏せ押し流す。&br()&br()「にゅ～～、ぐるぐるや～～～ん！」&br()&br()「バカキマ！ 水槽なんか入ってないでこっち来なさい！」&br()&br() ハルフゥがよろけつつも器用に尾びれで飛び跳ねて、水槽の中で回転しているキマに近づき抱き上げた――が、&br() &br()「わ、わわわわ！！」&br()&br() 風に煽られキマ諸共にふわりと体を持ち上げられてしまう。&br()&br()「キマ、ういてる！？ これが……"うわき"！？」&br() &br()「バカ言ってんじゃないの！！ やばっ――」&br() &br() その手がハシと掴まれ、強く引き下ろされた。&br()&br() 見ると、ポセイドンが玉座に掴まりつつ、ハルフゥの腕をしっかと握り止めていた。&br() &br()「あ、ありがと……」&br()&br()「キミにいなくなられたらここまでの苦労が水の泡だ、ちゃんと掴まっててね。しかし、やってくれるなあ」&br()&br() ポセイドンは二人がしっかり玉座にしがみついたのを見届けると、周囲を見渡して状況を確認した。&br() &br() "中"に引っ込んでしまったノアの『箱』は、積み上げられたロープの束に引っかかっており、ノーチラスは器用に多関節の腕で機械にしがみついたまま、未だモニターを覗き込んでいる。逃げ遅れたマーマンたちや『海獣戦車』の数騎が吹き飛ばされてしまっていたが、それでも艦隊の大半は無事に見えた。しかし皆、海中に逃げるどころか飛ばされないようにするだけで精いっぱいであり、いずれは力尽き、巻き上げられてしまうのは時間の問題だった。&br() &br() そこに、さらに追い打ちをかけるように、耳障りな羽音が大量に近づいてきた。&br() &br() どのような理屈か、吹き上がる豪風をすり抜けて、とうとうバイアクヘーたちが降下を開始したのだ。&br()&br() しかしポセイドンはそれをちらりと横目に収めただけで特に号令を出すことなく、素早く手すりを伝って甲板に降りると、突き刺さった三叉槍を掴む。そしてそのままじっと、下を向いて目を閉じてしまった。&br() &br() それを見たハルフゥが&br() &br()「ポポポセイドンさん！ あきらめちゃったの！？ なんか降りて来てるし反撃したほうが……！」&br()&br() 焦り呼びかけるが、ポセイドンはそのまま動かない。&br()&br()「無駄だよ。これ以上増えてもらっても困るし」&br()&br()「じゃあどうするの！？」&br()&br()「"待つ"んだ」&br()&br()「待つって――もうすぐそこに……！」&br()&br() ミシリと船体が軋んだ。バイアクヘーが船体に取り付いたのだ。&br() &br() 次第に軋みは増えていき、船首、外壁の至るところから軋みの合唱が立ち昇り、ボルテージを上げていく。&br() &br() そのとき、&br() &br()「――待ってたよ」&br() &br() ポセイドンは何かを感じ取ったように目を開くと、突き刺さった三叉槍を引き抜き、石突きにてガンっと力いっぱい甲板を突いた。&br()&br()&br() ボッ――。&br()&br()&br() それは合図であったのか、海面が小さくせり上がり、何かが飛び出した。&br() &br() &br() ボッ、ボッ、ボッ――ボッボッボッボッボボボボボボボ……！！&br()&br()&br() さらに同じように、何十、何百と、無数の影が海中より跳び上がり、降下してきたバイアクヘーの背や足にしがみつく。&br() &br() それは、一見人の形をしていたが、見開いたまま感情の読み取れない眼やずんぐりと大きな頭はまさに魚と蛙を足したそれであった。ではマーマンたちのような魚人なのかというと、鱗なく、緑や灰、青色と斑に濡れ光る表皮は混沌としていて、普通の魚人とは異なる存在であることを感じさせてやまない。&br()&br() そして、変化はそれだけではなかった。&br() &br()「……どう、なってんの！？」&br()&br() ハルフゥが驚きの声を上げたのも無理もない。&br() &br() あれ程荒れ狂っていた海が瞬時に静まり、それどころか、まるで時が止まったかのように波がうねり上げる形を保ったまま制止しているのだ。&br()&br() その光景に、艦隊の誰もが驚嘆の声を漏らした。&br() &br() ただ一人、ポセイドンを除いて。&br()&br()「ふふん、奴が"風"ならこっちは"水"。そして、『クトゥルー』には『クトゥルー』さ――さあ、頼んだよ！！」&br() &br() 待ちに待ったポセイドンの号令と共に、影――『深きものども』が一斉にバイアクヘーたちを海中へと引き下ろす。&br()&br() そして着水の瞬間、ドンッ！ と水柱がそこかしこで上がった。&br() &br() だが水柱は、ただ海水を跳ね上げたそれとは違い、赤く、大量の泡を伴ってシュウシュウと湯気を上げていた。&br() &br() 沸騰、しているのだ。海へ引きずり込まれたバイアクヘーは、どうしたことか、体の内から高熱を発し、風船のように体を膨らませて次々に破裂しているのである。&br() &br()「うわ……グロ……」&br() &br()「こわいよぉ………キマ、やっぱあのエビんこいらない……」&br()&br() ポセイドンは怯えるハルフゥたちに「安心しなよ」と声を掛けると、船縁に足を掛け、バイアクヘーの体液で赤く染まった海を見渡す。&br() &br()「これは同盟を結んだもう一人の"海皇"、『ダゴン』の力だ。彼は自由に水を操る。流体制御、温度、思いのままさ。それが"体内の水分"であってもね――――正直、ちょっと私もこわいけど……」&br()&br() すると、まっ赤に染まった海面の一部がぬぅとひと際大きく盛り上がり、その下から巨大な蛸を思わせる巨人の頭が現れて、にぃとポセイドンに笑いかけるように頭から垂れる触手を揺らした。&br() &br() ポセイドンは三叉槍を掲げて巨人に挨拶をすると、跳び上がって玉座に戻り、&br() &br()「さぁ、ここは彼らに任せて急いでムーの救援に行こう」&br()&br() と、魚人たちに全艦回頭の指示を飛ばす。その言葉にハルフゥは首をかしげた。&br()&br()「救援……って、あの人勝ったんでしょ？ それに、すごく強いんじゃ……」&br()&br()「うん、確かに彼は強いよ。彼の『黄金機構』に収められた『太陽石』は、深海のレムリアを地上のように照らした、かの『黄金の太陽』と同等のパワーを秘めているからね」&br()&br() ポセイドンが甲板に映し出されたままのモニターを見る。&br() &br() ムーを表す光点を囲むエネルギー波はより色濃くなっており、そこに向かって移動していた二つの光点もムーのすぐ傍まで近づいていた。&br()&br()「けどそれ故に、私の予感が的中したら――博士、『封印海溝』で見つけたアレの準備をしといてくれ。"最悪"が起こるかもしれない」&br()&br()&br() ＊ ＊ ＊ ＊&br()&br()&br() ムーは遠くのポセイドンの艦隊を見ながら、指と足に力を込めてみた。&br() &br()（問題なく動く。各所の情報伝達制御に遅延はない……『太陽石』も回復した。これなら――）&br()&br() そして、艦隊の頭上を覆う黒雲の如き敵の群れをねめつける。&br()&br() 群れは、彼が艦隊を後にした時よりもさらに大きくなっているように見えた。&br() &br() センサーログに新手の接近を示すものはない。だとすれば、"その場で増える敵"なのかもしれない。&br()&br()（ならば、『太陽石』で焼き払うのが効果的か――急ごう）&br()&br() そうムーが『黄金機構』に火を入れ浮かび上がろうとしたとき、&br()&br()「――っ！？」&br()&br() グンッ、と強烈な力で下に引っぱられ、海中へと引きずり込まれた。&br()&br() 急ぎ重力制御回路をブーストさせて制動をかけたが、その力は凄まじく、どんどん海底へと引きずり込まれていく。&br() &br()（なんだ……！？）&br() &br() ムーは足元を見た。『黄金機構』をものともしないその相手とは――&br() &br()（シーサーペント……こいつはさっきの……！）&br()&br() その足をがちりと咥えこむ巨大な顎――それは、先程破壊した大闘台『ファロス』を牽引していた海竜だった。&br() 主の仇というわけか、だが、ただの海竜如きにムーが後れを取る筈もない。ムーはもう一度その口から足を引き抜こうと試みたが、やはりビクともしなかった。&br() &br()（おかしい……）&br()&br() ならば、とムーは重力制御からセンサーに動力の七割を回し、海竜の解析を試みた。ヒレ、鱗、筋肉の動き、神経系――すると、&br() &br()（なんだ……この"黒い"、エネルギーは……？）&br()&br() 強い違和感を覚えた。脳を中心にその全身が、何と言い得たものか――"粘つくように悍ましい力"に汚染されているのだ。&br() &br() 例えるならば、"黒い光"――凄まじい力を持ちながら、それでいてあらゆる存在を吸い込み、喰らい尽くしてしまおうとするような闇の光――。&br() &br()（これを、オレは知っている……？）&br() &br() ――チリリ。&br() &br() かつて、このような力と対峙したことがあるような気がした――チリ――気づくとそこに在り、誰にも知られることなく"底"に潜み、世界を侵食していく汚泥――それは――チリリ――。&br()&br() 意識の管をむず痒いノイズが駆けずりまわる。&br() &br()（……先程から、なんだというのだ……この海に何がある？ だが、今は……！）&br()&br() ムーは『太陽石』を燃やして黄金回路に流し込む。そして金色の輝きを放つ王錫を振りあげると、渾身の力で海竜の鼻面を殴り飛ばした。&br() &br() ドウン、と鈍い音と共に海中に凄まじい衝撃が走り、海竜の頭が一気に消し飛んだ。&br() &br()（………）&br() &br() もうもうと立ち込める血塵に包まれて海底に沈んでいく海竜の胴体を見つめながら、ムーは眉根を寄せた。&br() &br() 未だ"黒い光"の感覚が消えないのだ。&br() &br() 不意に、背後に水の揺らぎ感じた。&br() &br() 振り向くとそこに、&br() &br()（………っ！）&br() &br() ムーの全身を超える程に巨大な顎が開かれていた。&br() &br() 二頭、いたのか、先程の海竜と寸分たがわぬ姿をしていた。&br()&br() ムーは身を固めつつも冷静に思考を巡らせた。&br()&br() 幸い充填したばかりの『太陽石』には十分余裕がある。しかしこの距離では多少の被害を覚悟しなければならないだろう。そう結論づけると、威嚇の為に突き出した左手に自己再生回路を集中させ、まだ光を湛えている王錫を引き絞り――&br() &br() だが、王錫の一撃が振るわれるより早く、海竜の顎が鈍く揺れ、"横"に流れた。&br() &br() そしてそのまま白目を剥くと、ボンッと爆発四散してしまう。&br() &br() 跡に広がった血煙の中に何か細長いものが浮遊しており、&br()&br()（……槍、か？）&br()&br() それを何者かが掴み取った。&br() &br() 次いで赤色に濁る水の膜の奥より、緑色の光点が浮かび上がる。それが、六つ――顔、なのだろうか。その下からさらににゅうと黒い腕が伸びて浮かぶ槍を引き掴むと、くるりと回して漂う血煙を掃った。&br() &br() 現れたのは、黒い人魚だった。&br() &br() しかしその姿は異様で、マーマンなどに比べると体が一回り大きく、全身が艶々とした機械で覆われていた。&br()&br() 今、この人魚はムーを助けてくれたのかもしれない。だがこの異様である。警戒を解くわけにはいかなかった。&br()&br() ムーは王錫に光を灯したまま静かに距離を取り、訊ねた。&br() &br()「何者だ？」&br()&br() 訝しむムーを、黒い人魚は六つの光る目で探るようにじっと見つめていたが、それを二回ほど瞬かせると、&br() &br()『≪ミューフ≫――ソレガ＜コードネーム＞ダ。アナタヲ探シテイタ』&br()&br() そう言って頭を下げた。&br()&br()「……探して？ ……敵を仕留めてくれた礼は言う。だが、オレはすぐに行かねばならぬのだ」&br()&br()＜仕留メテハイナイ。アノ闇ハ、アノ程度デハ消エハシナイ＞&br()&br()「お前は、アレが何か知っているのか……？」&br()&br()＜知ッテイル。アレハ形ヲ持タヌ形――≪混沌≫ダ＞&br()&br()「……"混沌"……」&br()&br() その言葉に、ムーは言い知れない不安と、その不安を生み出しているであろう失われた記憶への不吉な符合を感じた。&br() &br() ムーの瞳の揺らぎに何かを感じたか、ミューフがすぃと前に出て槍を構える。&br()&br()「≪レムリア≫ノ守護神ヨ、時ガ来タ」&br()&br()――チリ。&br()&br()「"レムリア"だと……では、お前はオレの素性を知る者だというのか？」&br()&br() ミューフの緑色に光る目が、緩やかに明滅を始め、&br()&br()『アナタハ"使命"ヲ果タサネバナラナイ』&br()&br()「"使命"……？ いったい何を……」&br() &br() その光に吸い取られるように、ムーの青い瞳から光が失われていく。&br() &br()『ソレハ、アナタガ知ッテイル』&br() &br() 光の瞬きが早くなり――&br() &br()『果タスノダ。大イナル≪レムリア≫ノ為二――』&br()&br()「≪レムリア≫の……」&br()&br()――チリリリ――意識が引っ張られる――奥へ、奥へ――その先にはいったい何が？――光――輝く、『黄金機構』の底へ――。&br()&br() そこで、急に意識が引き戻された。&br() &br()「ぬぅっ……！？」&br()&br() 同時に身をきりもませるほど激しい水流がムーを巻き込み、それを発生させた何者かが高速で傍らをすり抜けていく。そして勢いそのまま、ムーの手前まで迫っていたミューフへと突進した。&br()&br() 流されながらも、ムーは見た。&br()&br()（……碧の、海竜……）&br()&br() 先程の個体よりは小さいものの、全高がムーの二倍近くある四つ足の海竜がミューフの体をガシリと咥えこんでいた。"黒い光"の海竜と同じ類の敵だろうか――しかし、燈色の縞模様が入った長い尾を力強く振るい佇むその目には、あの海竜とは異なり、確かな意思のようなものが感じられた。&br()&br() ムーが重力制動を掛けて態勢を立て直し王錫を構える。すると海竜はぐったりとしたミューフを咥えたまま、すぐさま顔から垂れた長いヒレを振るい水流を放った。&br() &br() ムーは即座に重力波の膜を張り迫る激流を防ぐ――が、どうしたことか、それはムーの横を通り過ぎ、背後にて強い衝撃を発生させた。&br() &br() 衝撃に流されるまま振り向くと、いつの間にそこにいたのか、ムーのすぐ後ろにはまたもや四散したはずの二匹の海竜が、巨大な牙を剥き出して水流に貫かれているではないか。そして二つの頭は、闇色をした煙のように輪郭をぼやかすと海に溶け消えてしまう。&br() &br()≪愚か者！ 何をしている！≫&br()&br() ムーに強烈な念波がぶつけられた。&br()&br() 念波を発したのは当然"碧の海竜"であり、竜はミューフを咥えたまま、居丈高に鼻息荒くムーを見下ろした。&br()&br()≪ふん、こいつを追えば"どちらか"に行きつくとは思ったが、貴様が先だったか……しかしその様、なんと情けない≫&br()&br() 海竜の不躾な物言いにムーは顔をしかめると、王錫を構えたまま訊ねる。&br()&br()「どうにも今日は色々あるな……その人魚といい、いったい何者だ？」&br()&br() 海竜はもう一度鼻を鳴らすと、&br() &br()≪名は"フィンガル"、大海霊の血を引く者だ。大海の守護太母――アトランティス様の使いでここに来た≫&br()&br() そう答えた。&br()&br() "アトランティス"――その名に、ヂリリリ、と再び激しく頭が痛む。&br()&br()≪この『レムリアン』の残党と出会い貴様の目覚めを悟ったあの方は、私にお前のことを託して"遥けき地"へと向かわれた≫&br()&br()「では、お前もオレを知っているというのか……？」&br()&br()≪いいや、知らん。だが、貴様の"伝承"ならば聞き及んでいる――『裏切りの王子』よ、貴様には全て思い出してもらうぞ。無理やりにでもな≫&br()&br() 言いつつフィンガルはヒクヒクと顔のヒレを動かして周囲を探った。二人が話す間に周りの水が薄黒く濁り始めている。どうやらまた、溶けた闇が集まり形を成そうとしているらしい。&br()&br()≪とにかく、この海は『混沌』に染まっているようだ。すぐにここを離れ――ぐぶっ！？≫&br()&br() フィンガルの顔が苦痛に歪んだ。&br()&br() 見ると、咥えられたミューフが上体を起こし、フィンガルの喉に槍を突き立てていた。&br()&br() ミューフはその目を妖しく明滅させると槍を引き抜き、そして、ぐんと大きく振りかぶった。&br()&br()&br() ＊ ＊ ＊ ＊&br()&br()&br() 三っつめの瞳を大きく広げ、老人はオレに告げた。&br() &br()「――よいか、しかと心に刻め。そやつの名は、神聖アトランティス帝国最後の王――"キング・アトラス"」&br()&br()「……キング……アトラス……」&br()&br()「そうじゃ。わしは英雄を探し求めた。長い、長い間、混沌も、創世の楔をも振り払う、真の英雄をの――」&br()&br() 老人は目を細めてオレを見つめ、頬に手を当てた。&br()&br()「お前たちこそがナーカル碑文の体現者――その英雄の手により、祖国は救われる」&br()&br()「……英雄……」&br()&br() 老人の姿が紅蓮の炎につつまれ、&br() &br()「次に目覚めしとき、思いだせ、お前の使命を――レムリアを傷つけたもの、レムリアの光を奪う者、全てが敵だ。ムーよレムリアの守護神たれ、そして、"英雄"に――」&br()&br() 泡となって消え去った。&br()&br()「……"英雄"に……」&br() &br() オレはその泡を両手で掴もうとし、そして――&br()&br()&br() ＊ ＊ ＊ ＊&br()&br()&br() ミューフの手から放たれ、鋭い軌跡の波を引いて飛んだ高速の槍は、&br() &br()「ぐっ……！」&br() &br()≪しまった……！≫&br() &br() ムーの体の芯を貫いていた。&br() &br()≪すまぬ、アトランティス様……この、レムリアンめええ！！≫&br() &br() 怒りに任せ、フィンガルがミューフを噛み砕く。&br() &br() ミューフが無惨な二つの塊となり暗い海底へと落ちていく。しかしその仮面のように硬質な顔は、使命を果たし終えたことに満足し、笑っているように見えた。&br()&br() そしてムーもまた体を折り、沈んでいく。&br()&br() それを助けようと、フィンガルが強く水を掻き駆けだそうとしたその時、三度、闇が広がりフィンガルの行く手を遮った。&br()&br()≪『混沌』が……このようなもの！！≫&br()&br() フィンガルは大きくいななくと、ヒレを震わせて激流を放つ。しかし闇は、たなびくその端から海竜の姿を形作ると、大口を開けて激流を飲み干しつつ、そのままフィンガルをも飲みこもうと迫る。&br() &br() さすがのフィンガルもそのまま突進するわけにはいかず、退いて追いすがる顎を躱しながら、なんとか違う方向からムーに近寄ろうと駆けまわるも、闇より次々現れる海竜の頭に阻まれ思うように近づくことができない。&br() &br() そんな中、ひと際大きな顎の一つが沈みゆくムーへと鎌首を向けた。&br() &br()≪おい！ 目を覚ませ！！≫&br() &br() 気付いたフィンガルが必死に念波を送るも、ムーは動かない。&br() &br() そしてその凶牙がムーの体に突き立てられようとしたそのとき――ムーを貫く槍が光り、体に吸い込まれていった。&br() &br() &br() 同時に、光が放たれた。&br() &br() &br() 白く輝く光は、そこに太陽が生まれたかのように暗い海中を照らし、広がる闇を消し飛ばした。&br()&br() そして光は、大きく、大きく広がっていき――。&br()&br()&br() 暫くして光が収まると、ただ一人、柔らかな燐光に包まれたムーが海中に立ちすくんでいた。&br() &br() ムーは手のひらを見つめ、体の内から発せられる黄金の粒子に目を細める。&br() &br()「……そうか、そうなのだな」&br()&br() そして上を向き、一気に海上まで浮上すると、&br() &br()「そうだ"ラムウ様"……あなたはオレをお救いくださった……すべて、思い出したのです。そしてアレは、まごうことなき"レムリアの光"――」&br()&br() そう呟き、遠方に浮かぶポセイドン艦隊を睨んだ。&br()&br()「……それを奪いし者どもは、我が粛醒により滅する！！」&br()&br()&br() ≪ Continued to "[[【想い】ハルフゥ>Ver3/【想い】ハルフゥ]]（ver.ＫＫ）"≫|
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:考察|
タイプ海皇のトップとして君臨していた使い魔が[守護者]として生まれ変わり復活。&br()そしてまさかの降臨型使い魔。海種の 降臨コスト70マジシャンで降臨は30カウント。&br()基礎ステは180/200。召喚と同時に『太陽石限界駆動』が発動するが、230/200とマナ召喚の同コスト帯使い魔としては少し貧弱。しかし、追加効果として、時限付で攻撃力と移動速度が上がり、自身が攻撃した敵ユニットとその周囲にいる敵ユニット1体にダメージを与えられるようになる。&br()&br()このアビリティが中々優秀であり、スピードアップは+20%。そして追加ダメージは周囲の使い魔1体にATK230相当。周囲へのダメージが自身のATKと同値なので、実質ツインアタックをしているようなもの。スマッシュ封印も気にならない威力で根本を狩れるので、デメリットはほぼ無い。とはいえ時間制限が気になるところではあるが、こちらも破格の120カウント。最速で呼べたとしても大体230～220カウント程度なので、中盤優勢をとっておけば、190/200のマジシャンとして終盤も無駄なく働いてくれる。&br()&br()とはいえ中盤に優位をとっておかないとせっかくのアビリティが無駄になりかねない。降臨コスト70では降魔召喚はほぼ不可能なので、アルティメットスペルを絡めた戦術で短期決戦で勝負を決めてしまおう。
:キャラクター説明|
本文
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- 現Verでの効果時間は、120cを確認しました -- 名無しさん (2017-01-20 23:46:52)
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【粛醒】ムー(R)
:基本情報|
|BGCOLOR(#FFD9B3):名前|【粛醒】ムー|
|BGCOLOR(#FFD9B3):種族|海種|
|BGCOLOR(#FFD9B3):ジョブ|マジシャン|
|BGCOLOR(#FFD9B3):降臨コスト|70|
|BGCOLOR(#FFD9B3):＜タイプ＞|守護者|
|BGCOLOR(#FFD9B3):タイプ|レムリアン|
|BGCOLOR(#FFD9B3):HP|700|
|BGCOLOR(#FFD9B3):ATK|180|
|BGCOLOR(#FFD9B3):DEF|200|
|BGCOLOR(#FFD9B3):アーツ|有/無|
|BGCOLOR(#FFD9B3):CV|清水 秀光|
|BGCOLOR(#FFD9B3):備考|海種〔[[ムー>Ver3/ムー]]〕との同時登録不可|
&br()
|>|BGCOLOR(#FFD9B3):アビリティ|
|BGCOLOR(#FF8383):CENTER:超覚醒|降臨『太陽石限界駆動』|
|~|転醒力ゲージを消費し、自軍マナタワーからのみ召喚できる。召喚すると一定時間(30c)後に戦場に【降臨】する。&br()攻撃力と移動速度が上がる。更に、自身が攻撃した敵ユニットと、その周囲にいる敵ユニット1体にダメージを与える。ただし、スマッシュアタックができなくなる。このアビリティの効果は一定時間後に消える。|
:ステータス|
|BGCOLOR(#FFD9B3):状態|BGCOLOR(#FFD9B3):HP|BGCOLOR(#FFD9B3):ATK/DEF|
|BGCOLOR(#FF8383):CENTER:超覚醒|700|230/200|
:DATA・フレーバーテキスト|
#region(close,Ver3.5)
|>|BGCOLOR(#FFD9B3):Ver3.5|
|BGCOLOR(#FFD9B3):身長|1.92[meter]|
|BGCOLOR(#FFD9B3):体重|91[kg]|
|BGCOLOR(#FFD9B3):最高速度|120[kt]|
|BGCOLOR(#FFD9B3):標的|キング・アトラス|
|BGCOLOR(#FFD9B3):素体|アトランティス人の体|
|BGCOLOR(#FFD9B3):素体の魂|ある獣の中に…|
|BGCOLOR(#FFD9B3):イラストレーター|あかぎ|
|BGCOLOR(#FFD9B3):フレーバーテキスト|
| episode：【粛醒】ムー&br()&br() （from "Ver.SS [[【海覇】ポセイドン>Ver3/【海覇】ポセイドン]]"）&br()&br()&br() 『アルカニア海戦 Ⅱ』 &br()&br()&br() 熱さを感じた。&br()&br() 海の深淵にあって、光の届かぬ世界を灯し続けた『黄金の太陽』は消え去り、代わりに燃え上がる炎が並び建つ金色の群塔を赤く照らしていた。&br()&br() 燃えているのだ。オレの目の前で、あの黄金の都が。&br() &br()「ほっほ、よく燃えるのぉ、海の中だというに」&br()&br() オレの横に立つ大きな体躯の老人が、王宮のバルコニーからそれを見下ろしている。&br() &br() 口調は悠々としているが、その目はとても悲しそうだった。&br()&br() オレはなんと声をかけてよいのかわからず、ただ黙って老人と同じように都を見下ろしていると、&br() &br()「のう、お前はあのアルカナの光――『紅蓮の炎』を覚えておるか？」&br()&br() そう、老人の方から語りかけてきた。&br() &br() "覚えて"？――見たことがあったのだろうか。初めて目にするような気もするし、かつてこの熱さを感じたことがあったような気もする。しかし、あれを「炎」と認識できているのだから、少なくとも知識はあるのだろう。&br() &br() オレがそう考えにふけっていると、&br()&br()「ふむ、まだ思考が安定せんか……しかしアトランティオイどもめ、自滅覚悟とは言え、なりふり構わずやってくれたわい。もはやわしの希望はお前たちだけじゃ。のう――」&br()&br() 老人は、白く長い髭を撫でながらゆっくりとオレの方に体を向け、&br()&br()「ムーよ」&br()&br() そう呼んだ。&br() &br() 『ムー』――どうやらそれが、オレの名らしい。&br()&br()「お前を造ったこと、後悔させんでくれよ？ これだけの犠牲を払ったんじゃ。金ぴかだけが取り柄の、生きながら死んでいるような都ではあったがの、こうして実際に失ってみると、"胸に穴が空く"っちゅうやつをまざまざと感じさせられるわい……結局、わしもこの景色が好きじゃったんじゃろうなぁ」&br()&br()「ラムウ様……」&br()&br() 口からそう衝いて出た。&br() &br() それが、この老人の名なのだろう。&br()&br()「ほっほ、そうじゃそうじゃ。良いぞ、ムー」&br()&br() 老人は嬉しそうに、皺だらけの顔にさらに皺をつくって頷くと、&br()&br()「わしは"祖国"が生きる道を探して旅立つ。じゃからお前はここで眠り、このレムリアの墓標を守ってやってくれ……安心せい、眠っとる間お前を守る護衛も設置済みじゃ。そして再び目覚めたとき――お前は、戦うことになる」&br()&br()「戦う……？」 &br()&br()「そうじゃ。それが『滅びの約定』よ――約定に従って、レムリアと共にあの国も亡ぶ。しかしその意思もまた、レムリアの化身たるお前と同じように生き続ける……お前は"あの者"を倒し、それを挫かねばならぬのじゃ」&br()&br() 老人はオレの肩を掴んだ。&br() &br() オレを見つめる老人の瞳、そのすぐ上の額にスッと切れ込みが入り、ガバリと開いた。&br() &br() 現れたのは、巨大な三つ目の瞳――その瞳にオレが映っている。&br() &br() 心を失くしたような、表情で。&br()&br()「よいか、しかと心に刻め。そやつの名は――」&br()&br()&br() ＊ ＊ ＊ ＊&br()&br()&br() ムーは、途切れた意識の回路を直ちに繋ぎ直した。&br()&br() ノイズだろうか、何かのヴィジョンのようなものがメモリーから検出されたが、そのようなことに気を回している余裕はない。とにかく今は、目の前の障害を排除せねばならなかった。&br() &br() 状況はひっ迫していた。&br() &br() かつて、記憶を失くし当て所なく海底を彷徨っていた彼を救ってくれた恩人――ポセイドンが、今、危機に瀕しているのだ。&br()&br() &br() ポセイドンは、古代遺産『ノア』の登録者となった人魚ハルフゥを自軍に迎えることを条件に、ハルフゥが所属する反乱軍『レムギアの牙』の危機を救うべく、艦隊を引き連れて皇帝軍の本拠地――アルカニア島へと向かっていた。&br()&br() 島東岸を守るアルビオン艦隊を難なく敗ったポセイドン艦隊の進軍は順調に見えた。しかしその直後、トラブルにより全機甲兵器が使用不能になったところに皇帝軍の空襲を受けてしまう。対空戦力の要である機甲『テンペスタ』を欠いた状態では不利と判断したポセイドンは、『海獣戦車』の船足を生かし強引に突破しようとするも、さらに島沿岸に配備された砲台の長距離射撃により、島に近づくどころかその場に釘付けにされてしまっていた。&br()&br() そこで、ポセイドンがこの窮状を打開するために打った手こそが、同盟者たる"海皇"が一人、『ムー』の単身特攻による砲台の撃破であった。&br() &br() &br() ムーは全身にエラーチェックを走らせ、砲台の"熱線"を避けた際に浴びてしまった電磁波の影響を調べた。&br() &br() 修復不能なエラーは――ない。&br() &br() 先程の射撃から予測するに、熱線から発生する電磁波の影響範囲は光軸を中心に約半径二十メートル――次射がくれば、熱線そのものを避けることはできても、やはり電磁波の影響までは防ぎきれないだろう。体のいたる箇所を機械化しているムーにとって、それは可能な限り避けたいところだった。しかもこれ以上近づけば、熱線そのものを避けることすら――。&br() &br() ムーは宙に浮かび上がると、約五百メートル先の海上にそそり立つ巨大な塔を見つめた。&br()&br()「……むごいな」&br() &br() 大闘台『ファロス』――二頭の海竜に引かれ、熱線を放つドームを天辺に戴いた天を突く程の巨塔。その塔には、塔と同じ程に巨大な精霊が鎖で縛りつけられていた。&br() &br() 先の一射の後、ぐったりと前のめりになって頭を垂れている様子を見るに、おそらくあの熱線は、精霊から吸い上げた何がしかの力をドームで混合し、撃ち出しているのだろう。&br()&br() 皮肉なものである。機械に命を組み込んだ『ファロス』と、命に機械を組み込んだ『ムー』とがこうして対峙するとは――。&br() &br() そんな思いに駆られていると、ビクンと精霊の上体が跳ね上がり、塔のドームが鈍い光を放ち始めた。&br()&br() 再びエネルギーの充填を開始したらしい。とはいえ、あれほど高出力の熱線をそう容易く連射できるはずもない。再充填の完了までには今しばらく時間がかかるはずだ――そう考えたムーは、そのままじっとファロスの様子を観察した。&br() &br() 充填に際し、精霊の顔は苦痛に歪み、体の至る箇所が鈍く光り脈打っている。その光は左右の手首に収束してゆき、そこをガチリと咥えこむ鎖に伝わって塔に吸収されているようだった。&br()&br() しかし、そのように精霊の力が急速に吸い取られていく一方で、頂上ドームにほとんど変化は見られない。&br() &br() 充填が上手くいっていないのだろうか――なら、今の内に近づくべきか。しかし、塔に取り付くまでに再び熱線が放たれれば――そのとき、不意にドーム上方に据え付けられた、大きな鏡のような板が向きを変えた。&br() &br() 鏡が向いた方向――そこには、厚い雲の切れ間から眩い光が覗いていた。&br()&br()「"太陽"、か――」&br()&br() 現在、戦場の上空は分厚い雲で覆われている。そうであるなら、充填に時間がかかるのも頷けた。つまり、熱線の正体は、太陽光と霊力を混合した高出力の指向霊熱線――、&br()&br()「ならば……！」&br() &br() ムーは呟くと、王錫を両手でしっかと握りしめて手前に突き出し、体内の『黄金機構』に火を入れた。&br() &br() 同時に、太陽光の恩恵を得たファロスのドームが、にわかに内に取り込んだ二つのエネルギーを循環、混合させて、強い輝きを帯び始める。そしてそれが地上に落ちた太陽の如き輝きを見せたとき、パシュンと乾いた音と共に、再び熱線が放たれた。&br() &br() ムーの背丈を優に超える極太い熱線が、空気を焼いてムーに迫る。&br() &br() しかし、ムーは王錫を握り締めたまま動かず――&br() &br() &br()「静かなれ――太陽石！！」&br()&br()&br() 叫ぶと共に王錫を掲げた。&br() &br() すると、輝く王錫の先から薄青い光の膜が広がり熱線を受け止めると、なんと、それを吸収し始めたではないか。&br() &br() 王錫はうわばみの如くみるみる光線を取り込んでいき、それと共にムーの体が次第に光を帯び輝いていく。&br() &br() そのまますっかり熱線を吸収しきると、&br() &br()「ムウウウ！！」&br()&br() ムーはさらに突き出した王錫の先から、先よりも倍程に太さを増した熱線を放った。&br() &br() そこまで、一瞬の出来事であった。&br() &br() 遠くでボンッとドームが弾ける間の抜けた音が聞こえ、塔が上方から崩れていく。&br() &br() 合わせて鎖がたわみ、精霊もまた力尽きたようにその巨体をゆっくり海へと横たえていった。&br() &br() 精霊は海に溶け消えながら、遠く離れたムーを見つめ、&br() &br()（……ありがとう……）&br() &br() そう告げているような気がした。&br()&br()――チリリ。&br()&br() ムーの頭に再びノイズが走り、思わずこめかみを押さえて上体を折る。&br() &br()「……少し、無茶をし過ぎたか」&br() &br() そのまま水面まで降りて神経回路の無事を確認すると、頭を振って身を起こし後方を振り返った。&br() &br() 遠く離れた沖で、空に向かい砲撃を続けるポセイドン艦隊が見えた。&br() &br() まるで束ねた針のような猛攻であったが、それをものともせず、曇天からは絶え間なく怪物の群れが降りてきている。&br() &br() 『ファロス』を倒したことで狙撃の危険が無くなり、島への進路は確保できたはずだ。だが、艦隊はすっかり敵に取り囲まれてしまっており、身動きが取れないようだった。&br() &br()「すぐに駆けつけたいところだが、この体の状態ではな……"彼"が、間に合ってくれればいいが……」&br() &br() そう呟くと、ムーは海に体を浮かべて目を閉じ、放出しきったエネルギーを『黄金機構』にて生成し始めた。&br() &br()&br() ＊ ＊ ＊ ＊&br()&br() &br()&br()&br()「ぅてーーーーい！」&br()&br() 船の甲板に仁王立つポセイドンの号令と共に、マーマンたちが一斉に鉾を振り水流の刃を撃ち出した。&br() &br() 次いですぐに赤い背びれを発光させたピュトンが、長大な体をくねらせて上空広域に「スプラッシュウェーブ」を放つと、その強振動波を受けたマーマンたちの水流がより鋭く大きな刃と化して広がり飛ぶ。&br()&br() 刃の向かう先は、海上いっぱいに広がる厚く黒い雲――いや、それは本当に"雲"なのだろうか？ &br() &br() 初めは確かに雲であった。しかしそこから無尽蔵に湧き出してきた"それら"は、ギチギチと昆虫のような牙と爪を鳴らしながら蠢き、今やぬらりとしたその表皮で空一面を覆い隠してしまっていた。&br()&br() そこに数百という水の刃が突き刺さり、群れ広がる怪物たちの三分の一を無惨に両断する。&br() &br()「どうだ……？」&br()&br() ポセイドンはその結果を見逃すまいと、目を大きく開いた。&br() &br() バラバラと裂けて落ちる怪物たちの骸――しかしそれらは、なんと、宙にてぐにゃりと粘土細工のように形を歪めたかと思うと、それぞれが小さいながらも"元の形"に戻り、尻尾と羽を震わせて再び上空へと舞い上がってしまう。&br() &br()「"まだ"分裂するのか……しかも小さくなった個体はこの短時間で少しずつ成長している。この『バイアクヘー』とかいうクトゥルー、なかなかに興味深いね。少し細胞をサンプリングしておきたいな……」&br()&br() そう顎に手をやり見上げていると、&br()&br()「ちょっとポセイドンさん！ 感心している場合じゃないでしょ！？ どうすんのよあんなに増やしちゃって！？」&br()&br()「でもなんかアレ、エビんこみたいでおいしそうかも……もうすこしちいさくならないかなー」&br()&br()「……キマ、もしあんなの食べたらあんたの友だちやめるから」&br()&br()「もーやだなー。おねーちゃんはとっくに"ともだち"じゃないよー。キマの"コジュート"なんだからー」&br()&br()「だ か ら、その"コジュート"ってのどれだけ引っ張るの！？」&br()&br() と、その後ろで人魚のハルフゥとセルキーの少女キマがのんきな会話を繰り広げる。ポセイドンは、「ああ、そういえばこの子らもいたんだっけね」と額に手をあて少し項垂れると、気を取り直して振り向いた。&br()&br()「キミたちさ、この状況でよくそう緊張感のない会話できるよね？ まぁいたずらに怖がってパニックになるよりはある意味正しい反応なんだけど……」&br()&br()「どういうこと？」&br()&br()「キマわかるよ！ やっぱりおいしそうってことだよね！ ほーら、がんたいのおねーちゃんもおいしそーだって！」&br()&br()「言ってないよね！？ ……つまりだね、見た目には増えてるけど、あいつら一体一体の力は低下してるってことさ。その証拠にほとんど攻撃を仕掛けてこなくなっただろう？ まあ、成長もしてるみたいだし"数を増やしてから一斉に"って腹なのかもしれないけどね」&br()&br()「そうなの？」&br()&br() ハルフゥが横を向き、少し離れたところでいかにも暇を持て余したというように一人指遊びをしている、奇妙な"箱"に乗った少女に問いかけた。&br()&br()『ピピピ――はい、各個体の能力は体積に見合った形に劣化していますね。暫くは大丈夫かと思います』&br()&br()「とまあ、『叡智の匣』である"ノア"もそう言ってることだし、ここは落ち着いて――」&br()&br()『けれど、結果的にそうなっただけで、生態のよくわかっていない異次元存在に『ぅてーーーーい！』とかよくやるなー、もしそうならなかったらどうするつもりだったんだろうなー、眼帯とかしちゃって司令官プレイ泥酔マックスなのかなー、怖いなー ――とも思ってました』&br()&br()「ぐぬ……こいつ、手に入れたら一回分解して言語中枢入れ替えてやろうかな――とにかくみんな！ 上空のバイアクヘーに照準合わせたまま臨戦待機だ！！」&br()&br() ポセイドンは片眉をヒクク震わせつつも、そうマーマンたちに指令を出すと、踵を返して船尾楼甲板中央に設えられた玉座に戻り、ドスンと腰を落とした。&br()&br()「何にせよ、この膠着状態を作り出せたのは良かったよ。けどそれもお互いが刃を突きつけあってる間だけの話さ。下手に動き出して矛先を逸らせば、やはり背後から一斉に襲いかかってくるだろう。ここからは"どちらが早いか"の我慢比べだね」&br()&br()「早い？」&br()&br()「ああそうだ――」&br()&br() ポセイドンはもう一度だけ上空の敵に動きがないことを確認してから、肘掛けにもたれつつ首を横に伸ばして一段下の甲板に向かい大声を飛ばした。&br() &br()「博士ーー！ 『ファロス』の方はどうだーーい？」&br() &br() その先では、全身を甲殻に覆われた異形の老人――ノーチラスが、珍妙な機械をなにやら楽しそうにいじくっていた。&br()&br()「ん？ あ～～～、ん～～」&br()&br() ノーチラスはその声が聞こえているのかいないのか、ひとり何やら呟きつつ、ツマミを回しながら機械を覗き込んでいたが、暫くすると、&br() &br()「ん～～、高エネルギー体の反応は消失しておるの～～」&br()&br() とモニターに目を向けたまま答えた。その言葉に大きく頷いたポセイドンは、&br()&br()「よし、やってくれたか。流石はムーだね」&br()&br() そう島の沿岸を見やる。ハルフゥもまた楼甲板の縁から手をかざして同じように島の方に目を凝らしてみると、確かに、先程まで恐ろしい光線を放っていた塔は影も形もなく消えていた。&br()&br()「へぇ～、あの人そんなに凄かったんだ。そういえばなんか雰囲気あったもんね」&br()&br()「そりゃあね。ああ見えて彼は、私と同じ『海皇』の名で称される古代レムリア科学の結晶だもの――」&br()&br()「ひょ～～～！！」&br()&br() 二人の会話にノーチラスの頓狂な声が混ざり、ポセイドンは再び甲板を見下ろした。&br()&br()「どうしたーー？ 博士ーー？」&br()&br()「うんうん、高エネルギー体の反応は消失しておるの～～」&br()&br()「それはさっき聞いたよーー」&br()&br()「ん～～、じゃがこりゃまた、ありゃりゃ～～」&br()&br()「何かあったかーーい？」&br()&br()「ふへ～、こりゃすごいの。フォッフォッフォッ」&br()&br()「はーーーかーーーせーーー？？」&br()&br() ズガンッ、と音が響き船体が一瞬右に傾いた。見ると、ノーチラスのすぐ横に、ポセイドンの三叉槍が煙を上げて突き刺さっている。&br()&br()「どおおしたのかなああ！？」&br()&br() 皆の度重なる無体な態度に溜まった憤懣が噴出したか、こめかみに青筋を浮かべてポセイドンが問う。しかしノーチラスはどこ吹く風で、&br()&br()「お、陛下。槍を落としましたぞ？ モノは大事にせんと。それと今いいところなんで静かにしてくだされ……ん～～、この光点がレムリアンの小僧じゃろ？ とすると、『ファロス』の反応は消えたが、やはりまだ同座標に何か残っとるのう……そんでさらに近づいて来とるこれは……と、よよい……」&br()&br()「何だって？ 博士、すぐにモニターを投影して！！」&br()&br() ポセイドンの要求に、ノーチラスが「え～、今見てるのにぃ……」とぶつくさ文句を言うが、さらなる殺気の込められた視線に渋々ツマミをいじる。するとモニターの様子が甲板中央に大きく表示された。&br() &br() そこには、ムーと思われる淡い光点が一つと、その傍で怪しい広がりを見せるエネルギー波らしきもの、さらに、急速にその座標へと近づいてくる二つの光点が映し出されていた。&br()&br() それを見たポセイドンが目を細め、&br()&br()「このタイミングで……これは――まずいな」&br()&br() と顔をしかめた。&br()&br()『まずいと言えばこっちもまずいですねー』&br()&br()「もう！ 今度はなにさ！？」&br()&br() さらに割り込んできた声に一同が振り向くと、ノアが膝を抱えたまま空を見上げている。&br()&br()『ほーら上上、ちょーまずい。マジ激辛』&br()&br() 釣られるように一同が上空を見上げると、ひしめき合うバイアクヘーの天蓋の一部が、ぷくりと逆さに膨らんでいた。&br()&br() 膨らみはみるみる大きくなっていき、それに纏わりつくバイアクヘーの隙間から、風船の空気が漏れ出すようにシューシューと音を立てている。&br() &br()『あっちの方が早かったようですねー』&br()&br() その音が突然、圧縮された空気が一気に噴き出されるような高音に変わり、激しい風となって膨らみを包んだ。&br()&br() 次いでバイアクヘーたちが現れた者への礼賛を示すように、ブブブブと一斉に羽と尾を震わせる。&br()&br() そして怪物で固められた"繭"が割れ――&br()&br()「ちっ……」&br()&br()『来ましたよ、"旧支配者"――≪ハスター≫です』&br()&br() 頭や手らしき部位から垂らした幾つもの触手を、風になびく長いスカートのようにひらめかせながら、バイアクヘーたちの主である上位のクトゥルーが姿を現した。&br()&br()「みんな何かに掴まるんだ！ 全隊、海中に潜れえええ！！」&br()&br() ポセイドンが叫ぶと同時に、ゴウッ、と横から巨大な何かで殴りつけられるような音がした。&br() &br() 同時に激しい高波が艦隊に覆いかぶさり、船体がひっくり返らんばかりに傾く。&br() &br() それは、風だった。&br() &br() 強烈な風はみるみる渦を巻き、一瞬にして巨大な竜巻となって一帯を包みこむと、凄まじい速度で回転する大渦を作り出し海水を宙へと巻き上げていく。&br() &br() 船を引く海馬、海獣たちが悲鳴を上げるようにいななきながら波を掻き、風にさらわれまいと必死に抵抗するが、渦と風はその巨体すらまるで意に介さず全てをねじ伏せ押し流す。&br()&br()「にゅ～～、ぐるぐるや～～～ん！」&br()&br()「バカキマ！ 水槽なんか入ってないでこっち来なさい！」&br()&br() ハルフゥがよろけつつも器用に尾びれで飛び跳ねて、水槽の中で回転しているキマに近づき抱き上げた――が、&br() &br()「わ、わわわわ！！」&br()&br() 風に煽られキマ諸共にふわりと体を持ち上げられてしまう。&br()&br()「キマ、ういてる！？ これが……"うわき"！？」&br() &br()「バカ言ってんじゃないの！！ やばっ――」&br() &br() その手がハシと掴まれ、強く引き下ろされた。&br()&br() 見ると、ポセイドンが玉座に掴まりつつ、ハルフゥの腕をしっかと握り止めていた。&br() &br()「あ、ありがと……」&br()&br()「キミにいなくなられたらここまでの苦労が水の泡だ、ちゃんと掴まっててね。しかし、やってくれるなあ」&br()&br() ポセイドンは二人がしっかり玉座にしがみついたのを見届けると、周囲を見渡して状況を確認した。&br() &br() "中"に引っ込んでしまったノアの『箱』は、積み上げられたロープの束に引っかかっており、ノーチラスは器用に多関節の腕で機械にしがみついたまま、未だモニターを覗き込んでいる。逃げ遅れたマーマンたちや『海獣戦車』の数騎が吹き飛ばされてしまっていたが、それでも艦隊の大半は無事に見えた。しかし皆、海中に逃げるどころか飛ばされないようにするだけで精いっぱいであり、いずれは力尽き、巻き上げられてしまうのは時間の問題だった。&br() &br() そこに、さらに追い打ちをかけるように、耳障りな羽音が大量に近づいてきた。&br() &br() どのような理屈か、吹き上がる豪風をすり抜けて、とうとうバイアクヘーたちが降下を開始したのだ。&br()&br() しかしポセイドンはそれをちらりと横目に収めただけで特に号令を出すことなく、素早く手すりを伝って甲板に降りると、突き刺さった三叉槍を掴む。そしてそのままじっと、下を向いて目を閉じてしまった。&br() &br() それを見たハルフゥが&br() &br()「ポポポセイドンさん！ あきらめちゃったの！？ なんか降りて来てるし反撃したほうが……！」&br()&br() 焦り呼びかけるが、ポセイドンはそのまま動かない。&br()&br()「無駄だよ。これ以上増えてもらっても困るし」&br()&br()「じゃあどうするの！？」&br()&br()「"待つ"んだ」&br()&br()「待つって――もうすぐそこに……！」&br()&br() ミシリと船体が軋んだ。バイアクヘーが船体に取り付いたのだ。&br() &br() 次第に軋みは増えていき、船首、外壁の至るところから軋みの合唱が立ち昇り、ボルテージを上げていく。&br() &br() そのとき、&br() &br()「――待ってたよ」&br() &br() ポセイドンは何かを感じ取ったように目を開くと、突き刺さった三叉槍を引き抜き、石突きにてガンっと力いっぱい甲板を突いた。&br()&br()&br() ボッ――。&br()&br()&br() それは合図であったのか、海面が小さくせり上がり、何かが飛び出した。&br() &br() &br() ボッ、ボッ、ボッ――ボッボッボッボッボボボボボボボ……！！&br()&br()&br() さらに同じように、何十、何百と、無数の影が海中より跳び上がり、降下してきたバイアクヘーの背や足にしがみつく。&br() &br() それは、一見人の形をしていたが、見開いたまま感情の読み取れない眼やずんぐりと大きな頭はまさに魚と蛙を足したそれであった。ではマーマンたちのような魚人なのかというと、鱗なく、緑や灰、青色と斑に濡れ光る表皮は混沌としていて、普通の魚人とは異なる存在であることを感じさせてやまない。&br()&br() そして、変化はそれだけではなかった。&br() &br()「……どう、なってんの！？」&br()&br() ハルフゥが驚きの声を上げたのも無理もない。&br() &br() あれ程荒れ狂っていた海が瞬時に静まり、それどころか、まるで時が止まったかのように波がうねり上げる形を保ったまま制止しているのだ。&br()&br() その光景に、艦隊の誰もが驚嘆の声を漏らした。&br() &br() ただ一人、ポセイドンを除いて。&br()&br()「ふふん、奴が"風"ならこっちは"水"。そして、『クトゥルー』には『クトゥルー』さ――さあ、頼んだよ！！」&br() &br() 待ちに待ったポセイドンの号令と共に、影――『深きものども』が一斉にバイアクヘーたちを海中へと引き下ろす。&br()&br() そして着水の瞬間、ドンッ！ と水柱がそこかしこで上がった。&br() &br() だが水柱は、ただ海水を跳ね上げたそれとは違い、赤く、大量の泡を伴ってシュウシュウと湯気を上げていた。&br() &br() 沸騰、しているのだ。海へ引きずり込まれたバイアクヘーは、どうしたことか、体の内から高熱を発し、風船のように体を膨らませて次々に破裂しているのである。&br() &br()「うわ……グロ……」&br() &br()「こわいよぉ………キマ、やっぱあのエビんこいらない……」&br()&br() ポセイドンは怯えるハルフゥたちに「安心しなよ」と声を掛けると、船縁に足を掛け、バイアクヘーの体液で赤く染まった海を見渡す。&br() &br()「これは同盟を結んだもう一人の"海皇"、『ダゴン』の力だ。彼は自由に水を操る。流体制御、温度、思いのままさ。それが"体内の水分"であってもね――――正直、ちょっと私もこわいけど……」&br()&br() すると、まっ赤に染まった海面の一部がぬぅとひと際大きく盛り上がり、その下から巨大な蛸を思わせる巨人の頭が現れて、にぃとポセイドンに笑いかけるように頭から垂れる触手を揺らした。&br() &br() ポセイドンは三叉槍を掲げて巨人に挨拶をすると、跳び上がって玉座に戻り、&br() &br()「さぁ、ここは彼らに任せて急いでムーの救援に行こう」&br()&br() と、魚人たちに全艦回頭の指示を飛ばす。その言葉にハルフゥは首をかしげた。&br()&br()「救援……って、あの人勝ったんでしょ？ それに、すごく強いんじゃ……」&br()&br()「うん、確かに彼は強いよ。彼の『黄金機構』に収められた『太陽石』は、深海のレムリアを地上のように照らした、かの『黄金の太陽』と同等のパワーを秘めているからね」&br()&br() ポセイドンが甲板に映し出されたままのモニターを見る。&br() &br() ムーを表す光点を囲むエネルギー波はより色濃くなっており、そこに向かって移動していた二つの光点もムーのすぐ傍まで近づいていた。&br()&br()「けどそれ故に、私の予感が的中したら――博士、『封印海溝』で見つけたアレの準備をしといてくれ。"最悪"が起こるかもしれない」&br()&br()&br() ＊ ＊ ＊ ＊&br()&br()&br() ムーは遠くのポセイドンの艦隊を見ながら、指と足に力を込めてみた。&br() &br()（問題なく動く。各所の情報伝達制御に遅延はない……『太陽石』も回復した。これなら――）&br()&br() そして、艦隊の頭上を覆う黒雲の如き敵の群れをねめつける。&br()&br() 群れは、彼が艦隊を後にした時よりもさらに大きくなっているように見えた。&br() &br() センサーログに新手の接近を示すものはない。だとすれば、"その場で増える敵"なのかもしれない。&br()&br()（ならば、『太陽石』で焼き払うのが効果的か――急ごう）&br()&br() そうムーが『黄金機構』に火を入れ浮かび上がろうとしたとき、&br()&br()「――っ！？」&br()&br() グンッ、と強烈な力で下に引っぱられ、海中へと引きずり込まれた。&br()&br() 急ぎ重力制御回路をブーストさせて制動をかけたが、その力は凄まじく、どんどん海底へと引きずり込まれていく。&br() &br()（なんだ……！？）&br() &br() ムーは足元を見た。『黄金機構』をものともしないその相手とは――&br() &br()（シーサーペント……こいつはさっきの……！）&br()&br() その足をがちりと咥えこむ巨大な顎――それは、先程破壊した大闘台『ファロス』を牽引していた海竜だった。&br() 主の仇というわけか、だが、ただの海竜如きにムーが後れを取る筈もない。ムーはもう一度その口から足を引き抜こうと試みたが、やはりビクともしなかった。&br() &br()（おかしい……）&br()&br() ならば、とムーは重力制御からセンサーに動力の七割を回し、海竜の解析を試みた。ヒレ、鱗、筋肉の動き、神経系――すると、&br() &br()（なんだ……この"黒い"、エネルギーは……？）&br()&br() 強い違和感を覚えた。脳を中心にその全身が、何と言い得たものか――"粘つくように悍ましい力"に汚染されているのだ。&br() &br() 例えるならば、"黒い光"――凄まじい力を持ちながら、それでいてあらゆる存在を吸い込み、喰らい尽くしてしまおうとするような闇の光――。&br() &br()（これを、オレは知っている……？）&br() &br() ――チリリ。&br() &br() かつて、このような力と対峙したことがあるような気がした――チリ――気づくとそこに在り、誰にも知られることなく"底"に潜み、世界を侵食していく汚泥――それは――チリリ――。&br()&br() 意識の管をむず痒いノイズが駆けずりまわる。&br() &br()（……先程から、なんだというのだ……この海に何がある？ だが、今は……！）&br()&br() ムーは『太陽石』を燃やして黄金回路に流し込む。そして金色の輝きを放つ王錫を振りあげると、渾身の力で海竜の鼻面を殴り飛ばした。&br() &br() ドウン、と鈍い音と共に海中に凄まじい衝撃が走り、海竜の頭が一気に消し飛んだ。&br() &br()（………）&br() &br() もうもうと立ち込める血塵に包まれて海底に沈んでいく海竜の胴体を見つめながら、ムーは眉根を寄せた。&br() &br() 未だ"黒い光"の感覚が消えないのだ。&br() &br() 不意に、背後に水の揺らぎ感じた。&br() &br() 振り向くとそこに、&br() &br()（………っ！）&br() &br() ムーの全身を超える程に巨大な顎が開かれていた。&br() &br() 二頭、いたのか、先程の海竜と寸分たがわぬ姿をしていた。&br()&br() ムーは身を固めつつも冷静に思考を巡らせた。&br()&br() 幸い充填したばかりの『太陽石』には十分余裕がある。しかしこの距離では多少の被害を覚悟しなければならないだろう。そう結論づけると、威嚇の為に突き出した左手に自己再生回路を集中させ、まだ光を湛えている王錫を引き絞り――&br() &br() だが、王錫の一撃が振るわれるより早く、海竜の顎が鈍く揺れ、"横"に流れた。&br() &br() そしてそのまま白目を剥くと、ボンッと爆発四散してしまう。&br() &br() 跡に広がった血煙の中に何か細長いものが浮遊しており、&br()&br()（……槍、か？）&br()&br() それを何者かが掴み取った。&br() &br() 次いで赤色に濁る水の膜の奥より、緑色の光点が浮かび上がる。それが、六つ――顔、なのだろうか。その下からさらににゅうと黒い腕が伸びて浮かぶ槍を引き掴むと、くるりと回して漂う血煙を掃った。&br() &br() 現れたのは、黒い人魚だった。&br() &br() しかしその姿は異様で、マーマンなどに比べると体が一回り大きく、全身が艶々とした機械で覆われていた。&br()&br() 今、この人魚はムーを助けてくれたのかもしれない。だがこの異様である。警戒を解くわけにはいかなかった。&br()&br() ムーは王錫に光を灯したまま静かに距離を取り、訊ねた。&br() &br()「何者だ？」&br()&br() 訝しむムーを、黒い人魚は六つの光る目で探るようにじっと見つめていたが、それを二回ほど瞬かせると、&br() &br()『≪ミューフ≫――ソレガ＜コードネーム＞ダ。アナタヲ探シテイタ』&br()&br() そう言って頭を下げた。&br()&br()「……探して？ ……敵を仕留めてくれた礼は言う。だが、オレはすぐに行かねばならぬのだ」&br()&br()＜仕留メテハイナイ。アノ闇ハ、アノ程度デハ消エハシナイ＞&br()&br()「お前は、アレが何か知っているのか……？」&br()&br()＜知ッテイル。アレハ形ヲ持タヌ形――≪混沌≫ダ＞&br()&br()「……"混沌"……」&br()&br() その言葉に、ムーは言い知れない不安と、その不安を生み出しているであろう失われた記憶への不吉な符合を感じた。&br() &br() ムーの瞳の揺らぎに何かを感じたか、ミューフがすぃと前に出て槍を構える。&br()&br()「≪レムリア≫ノ守護神ヨ、時ガ来タ」&br()&br()――チリ。&br()&br()「"レムリア"だと……では、お前はオレの素性を知る者だというのか？」&br()&br() ミューフの緑色に光る目が、緩やかに明滅を始め、&br()&br()『アナタハ"使命"ヲ果タサネバナラナイ』&br()&br()「"使命"……？ いったい何を……」&br() &br() その光に吸い取られるように、ムーの青い瞳から光が失われていく。&br() &br()『ソレハ、アナタガ知ッテイル』&br() &br() 光の瞬きが早くなり――&br() &br()『果タスノダ。大イナル≪レムリア≫ノ為二――』&br()&br()「≪レムリア≫の……」&br()&br()――チリリリ――意識が引っ張られる――奥へ、奥へ――その先にはいったい何が？――光――輝く、『黄金機構』の底へ――。&br()&br() そこで、急に意識が引き戻された。&br() &br()「ぬぅっ……！？」&br()&br() 同時に身をきりもませるほど激しい水流がムーを巻き込み、それを発生させた何者かが高速で傍らをすり抜けていく。そして勢いそのまま、ムーの手前まで迫っていたミューフへと突進した。&br()&br() 流されながらも、ムーは見た。&br()&br()（……碧の、海竜……）&br()&br() 先程の個体よりは小さいものの、全高がムーの二倍近くある四つ足の海竜がミューフの体をガシリと咥えこんでいた。"黒い光"の海竜と同じ類の敵だろうか――しかし、燈色の縞模様が入った長い尾を力強く振るい佇むその目には、あの海竜とは異なり、確かな意思のようなものが感じられた。&br()&br() ムーが重力制動を掛けて態勢を立て直し王錫を構える。すると海竜はぐったりとしたミューフを咥えたまま、すぐさま顔から垂れた長いヒレを振るい水流を放った。&br() &br() ムーは即座に重力波の膜を張り迫る激流を防ぐ――が、どうしたことか、それはムーの横を通り過ぎ、背後にて強い衝撃を発生させた。&br() &br() 衝撃に流されるまま振り向くと、いつの間にそこにいたのか、ムーのすぐ後ろにはまたもや四散したはずの二匹の海竜が、巨大な牙を剥き出して水流に貫かれているではないか。そして二つの頭は、闇色をした煙のように輪郭をぼやかすと海に溶け消えてしまう。&br() &br()≪愚か者！ 何をしている！≫&br()&br() ムーに強烈な念波がぶつけられた。&br()&br() 念波を発したのは当然"碧の海竜"であり、竜はミューフを咥えたまま、居丈高に鼻息荒くムーを見下ろした。&br()&br()≪ふん、こいつを追えば"どちらか"に行きつくとは思ったが、貴様が先だったか……しかしその様、なんと情けない≫&br()&br() 海竜の不躾な物言いにムーは顔をしかめると、王錫を構えたまま訊ねる。&br()&br()「どうにも今日は色々あるな……その人魚といい、いったい何者だ？」&br()&br() 海竜はもう一度鼻を鳴らすと、&br() &br()≪名は"フィンガル"、大海霊の血を引く者だ。大海の守護太母――アトランティス様の使いでここに来た≫&br()&br() そう答えた。&br()&br() "アトランティス"――その名に、ヂリリリ、と再び激しく頭が痛む。&br()&br()≪この『レムリアン』の残党と出会い貴様の目覚めを悟ったあの方は、私にお前のことを託して"遥けき地"へと向かわれた≫&br()&br()「では、お前もオレを知っているというのか……？」&br()&br()≪いいや、知らん。だが、貴様の"伝承"ならば聞き及んでいる――『裏切りの王子』よ、貴様には全て思い出してもらうぞ。無理やりにでもな≫&br()&br() 言いつつフィンガルはヒクヒクと顔のヒレを動かして周囲を探った。二人が話す間に周りの水が薄黒く濁り始めている。どうやらまた、溶けた闇が集まり形を成そうとしているらしい。&br()&br()≪とにかく、この海は『混沌』に染まっているようだ。すぐにここを離れ――ぐぶっ！？≫&br()&br() フィンガルの顔が苦痛に歪んだ。&br()&br() 見ると、咥えられたミューフが上体を起こし、フィンガルの喉に槍を突き立てていた。&br()&br() ミューフはその目を妖しく明滅させると槍を引き抜き、そして、ぐんと大きく振りかぶった。&br()&br()&br() ＊ ＊ ＊ ＊&br()&br()&br() 三っつめの瞳を大きく広げ、老人はオレに告げた。&br() &br()「――よいか、しかと心に刻め。そやつの名は、神聖アトランティス帝国最後の王――"キング・アトラス"」&br()&br()「……キング……アトラス……」&br()&br()「そうじゃ。わしは英雄を探し求めた。長い、長い間、混沌も、創世の楔をも振り払う、真の英雄をの――」&br()&br() 老人は目を細めてオレを見つめ、頬に手を当てた。&br()&br()「お前たちこそがナーカル碑文の体現者――その英雄の手により、祖国は救われる」&br()&br()「……英雄……」&br()&br() 老人の姿が紅蓮の炎につつまれ、&br() &br()「次に目覚めしとき、思いだせ、お前の使命を――レムリアを傷つけたもの、レムリアの光を奪う者、全てが敵だ。ムーよレムリアの守護神たれ、そして、"英雄"に――」&br()&br() 泡となって消え去った。&br()&br()「……"英雄"に……」&br() &br() オレはその泡を両手で掴もうとし、そして――&br()&br()&br() ＊ ＊ ＊ ＊&br()&br()&br() ミューフの手から放たれ、鋭い軌跡の波を引いて飛んだ高速の槍は、&br() &br()「ぐっ……！」&br() &br()≪しまった……！≫&br() &br() ムーの体の芯を貫いていた。&br() &br()≪すまぬ、アトランティス様……この、レムリアンめええ！！≫&br() &br() 怒りに任せ、フィンガルがミューフを噛み砕く。&br() &br() ミューフが無惨な二つの塊となり暗い海底へと落ちていく。しかしその仮面のように硬質な顔は、使命を果たし終えたことに満足し、笑っているように見えた。&br()&br() そしてムーもまた体を折り、沈んでいく。&br()&br() それを助けようと、フィンガルが強く水を掻き駆けだそうとしたその時、三度、闇が広がりフィンガルの行く手を遮った。&br()&br()≪『混沌』が……このようなもの！！≫&br()&br() フィンガルは大きくいななくと、ヒレを震わせて激流を放つ。しかし闇は、たなびくその端から海竜の姿を形作ると、大口を開けて激流を飲み干しつつ、そのままフィンガルをも飲みこもうと迫る。&br() &br() さすがのフィンガルもそのまま突進するわけにはいかず、退いて追いすがる顎を躱しながら、なんとか違う方向からムーに近寄ろうと駆けまわるも、闇より次々現れる海竜の頭に阻まれ思うように近づくことができない。&br() &br() そんな中、ひと際大きな顎の一つが沈みゆくムーへと鎌首を向けた。&br() &br()≪おい！ 目を覚ませ！！≫&br() &br() 気付いたフィンガルが必死に念波を送るも、ムーは動かない。&br() &br() そしてその凶牙がムーの体に突き立てられようとしたそのとき――ムーを貫く槍が光り、体に吸い込まれていった。&br() &br() &br() 同時に、光が放たれた。&br() &br() &br() 白く輝く光は、そこに太陽が生まれたかのように暗い海中を照らし、広がる闇を消し飛ばした。&br()&br() そして光は、大きく、大きく広がっていき――。&br()&br()&br() 暫くして光が収まると、ただ一人、柔らかな燐光に包まれたムーが海中に立ちすくんでいた。&br() &br() ムーは手のひらを見つめ、体の内から発せられる黄金の粒子に目を細める。&br() &br()「……そうか、そうなのだな」&br()&br() そして上を向き、一気に海上まで浮上すると、&br() &br()「そうだ"ラムウ様"……あなたはオレをお救いくださった……すべて、思い出したのです。そしてアレは、まごうことなき"レムリアの光"――」&br()&br() そう呟き、遠方に浮かぶポセイドン艦隊を睨んだ。&br()&br()「……それを奪いし者どもは、我が粛醒により滅する！！」&br()&br()&br() ≪ Continued to "[[【想い】ハルフゥ>Ver3/【想い】ハルフゥ]]（ver.ＫＫ）"≫|
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:考察|
タイプ海皇のトップとして君臨していた使い魔が[守護者]として生まれ変わり復活。&br()そしてまさかの降臨型使い魔。海種の 降臨コスト70マジシャンで降臨は30カウント。&br()基礎ステは180/200。召喚と同時に『太陽石限界駆動』が発動するが、230/200とマナ召喚の同コスト帯使い魔としては少し貧弱。しかし、追加効果として、時限付で攻撃力と移動速度が上がり、自身が攻撃した敵ユニットとその周囲にいる敵ユニット1体にダメージを与えられるようになる。&br()&br()このアビリティが中々優秀であり、スピードアップは+20%。そして追加ダメージは周囲の使い魔1体にATK230相当。周囲へのダメージが自身のATKと同値なので、実質ツインアタックをしているようなもの。スマッシュ封印も気にならない威力で根本を狩れるので、デメリットはほぼ無い。とはいえ時間制限が気になるところではあるが、こちらも破格の120カウント。最速で呼べたとしても大体230～220カウント程度なので、中盤優勢をとっておけば、190/200のマジシャンとして終盤も無駄なく働いてくれる。&br()&br()とはいえ中盤に優位をとっておかないとせっかくのアビリティが無駄になりかねない。降臨コスト70では降魔召喚はほぼ不可能なので、アルティメットスペルを絡めた戦術で短期決戦で勝負を決めてしまおう。
:キャラクター説明|
本文
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- 現Verでの効果時間は、120cを確認しました -- 名無しさん (2017-01-20 23:46:52)
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