【海覇】ポセイドン(SR)
基本情報
名前 【海覇】ポセイドン
種族 海種
ジョブ マジシャン
召喚コスト 70
<タイプ> 大神
タイプ オリンポス
HP 600
ATK 80
DEF 120
覚醒
超覚醒
アームズ
CV 中島 沙樹

アビリティ
召喚 海の王の矜持
自身が攻撃した敵ユニットの最大HPに応じて、与えるダメージが上がる。
覚醒 なし
超覚醒 真揮『トリアイナ』
攻撃力が上がる。さらに、【アームズ】「深淵のトリアイナ」が使用できるようになる。
アームズ 深淵のトリアイナ
【アームズ】一定時間、範囲内にいるターゲット中の敵ユニット1体の移動速度を一定にし、HPを徐々に減らす。この「HPを徐々に減らす」効果は、対象の最大HPが高いほど上がる。
効果時間 5秒
wait時間 15秒

ステータス
状態 HP ATK/DEF
召喚 600 80/120
覚醒 650 110/150
超覚醒 700 230/220

DATA・フレーバーテキスト
+ Ver3.5
Ver3.5
最近お気に入りの身長 1.72[meter]
最近お気に入りの体重 55[kg]
趣味 兵器開発
自慢 全種族一の科学力
配偶者 無し(未婚)
兄妹 長兄:ハデス 次兄:ゼウス
イラストレーター 麻谷 知世
フレーバーテキスト
 episode:【海覇】ポセイドン

(from "Ver.SS 【妻】キマ")


『アルカニア海戦 Ⅰ』 



どうやら、ほぼ趨勢は決したようだ。

島沿岸のそこかしこで上がっていた黒煙は細くなり、絶え間なく響いていた喧騒も幾分収まってきたように思える。

「ふん――」

船体に「銀の兜」が描かれた船で埋め尽くされた海――300隻はあろうかという艦隊の中央にひと際大きな旗艦が浮かぶ。

その舳先にどかりと腰を下ろし、沖より見える遠方の島――アルカニア島を眺めていた巨躯の海神は、長く伸ばした白髭を撫でつけながら鼻を鳴らすと海面を見下ろした。周囲には、彼の艦隊によって破壊された艦船の残骸と無数の躯が、寂し気に波間を漂っている。

島の東岸から海に逃げた者たちはあらかた殲滅しただろう。辛くも包囲網を抜けた者たちには、足の速い船50隻の追撃隊を向かわせた。今頃はこの木っ端と同じく海の藻屑となっているに違いない。

「――反乱軍だと? 人間の英雄気取りどもが、笑わせる」

言いつつも、まったく笑みを浮かべることなく海神は嘆息した。

やはり今回もまったく歯ごたえの無い相手であった。愛用の鉄球を振るい、その黒光りする表面に一点の染みを作ることすらかなわなかった。

そもそも、人とは異なる次元に住まう超常の存在である彼が、たかが人間相手にそれを期待すること自体間違っているのだが、今回ばかりはいたしかたない。

この『レムギアの牙』と名乗る人間の反乱軍の中に、『アルカナ』の力を揮う"ロード"がいるというのだから。

アルカナ――全宇宙を創造したという『創世主』の力の結晶――それを身に宿したロードは無限の力を有し、仕える神魔霊獣に永遠に滅びぬ体を与える。そして彼の主たる『紅蓮皇帝』は、まさにそのロードであり、永久に強者と戦い続けることを望んだ海神は、その恩恵を賜るかわりに覇道を共に歩むことを誓ったのだった。

そうしてここレムギアに侵攻する段となり、どのような敵とまみえることができるものかと勇んで臨んだのだったが――結果は、海神の望みとはかけ離れたものだった。

この世界に皇帝軍に対抗しうる戦力はなく、レムギア世界はほぼ抵抗らしい抵抗を見せることなしに、皇帝の手に落ちてしまったのである。

つまり皇帝に仕えて後、彼を満足させる強者はなく、未だ彼の口の端に笑みを浮かばせることが出来た者はいない。

――やはり"定め"を受け入れても、強者である皇帝と戦う道を選ぶべきであったか――しかし、母に"造られ"、その手駒としてのみ生きることにどれ程の意味があろうか――。

そう惑う中で耳にしたのが"人間のロード"たちの噂であった。

なんと、蹂躙しつくされたこの世界に、皇帝と同じ力を持った者たちが現れたというのである。

皇帝の思惑は計り知れない。しかし、おそらくは"それ"を予見しての侵攻だったのだろう。

実際に皇帝は、すぐさま「紅蓮の子ら」と呼ばれるその幾人かを捕らえ、軍門に下らせていた。

しかし、残りのロードたちは徒党を組んで反乱軍を率い、あろうことか次々と皇帝軍を退けた挙句、遂には各国の残党をかき集め、大挙して本拠地たるこのアルカニア島に攻め入って来たのだ。

アケローンにて『紅蓮の王』が誕生した後、宇宙にただ一つとなったアルカナを持つ者が、何故そのように同時に幾人も現れたのか、その理由は知らぬ。だが、強者と戦えるのならばそれで良し――そうして海神は胸を躍らせこの島にて待ち受けていたのだが、その期待はまたもや裏切られることとなる。


反乱軍は上陸してすぐ、皇帝側のロードの一人である「アルス」と対峙した。

そして戦いの末、アルスと刺し違えて"赤狼"と呼ばれるロードを失った反乱軍は、突如踵を返し、散り散りに撤退を始めたのである。

――たかが将の一人を失った程度でこの体たらくとは、所詮はそれだけのものであったか……。

海神は無念の拳を握りつつ命じられるがまま艦隊を率い、こうして島の東岸より逃げる反乱軍の追撃に繰り出し、今に至る。

せめて残りのロードと手合わせできれば良かったが、追った敵の中にはロードがおろか、"使い魔"たる神魔霊獣の影すら無かった。

――こちらはハズレか……今からでも西へ行けばまみえることができようか。

ただし、西側に向かった「テレーゼ」と新参の「テオ」――皇帝軍の二人のロードに殲滅されていなければの話だが。


そうして再び戦火に燃えるアルカニア島を眺めやり、部下に島の西側に回りこむよう回頭を指示したとき、

「アルビオン閣下! 哨戒艇より連絡です!」

伝令係のシーコボルトが慌てて駆け寄ってきた。

「何ごとだ」

「沖に敵影ありと……!」

「……"沖から"だと?」

海神――アルビオンは、沖に顔を向け目を凝らした。

確かに、遠方に帆を下ろした黒い船影が見える。縦列陣形で固まっている為確かな数は分からないが、凡そ20隻程の船が真っ直ぐこちらに向かって来ていた。

――今さら援軍か? しかし、あの方角ならば我が追撃隊と鉢合わせしたはず……まさか人間如きの船に破れることなど……いや、もしそこにロードがいるのであればあるいは……。

「囲い込む。艦隊を両翼に展開させろ――クラーケンどもはまだ腹を空かせているな?」

「はい。5日ほど餌を断っていましたので、先程の人間たちくらいではまだまだかと」

「敵艦はなかなか速度が出ている。もし囲う前にこちらに届くようなら、クラーケン隊で先頭の鼻っ面を抑えておけ」

「あの程度の数に全艦……それにクラーケンまで出すのですか?」

「……そう言ったが?」

低い声で睨むと、シーコボルトは身をすくませて艦橋へと飛んで行った。

――期待はしないでおこう。だが、如何に格下の敵であれど手を緩めず全力で叩き潰す。それが流儀よ。


その後すぐ、アルビオンが艦橋に立った頃には、既に陣形の半分は出来上がっており、アルビオンは部隊の変わらぬ練度の高さに満足気に頷いた。この早さならば、あとものの数分で陣が整うだろう。

「さて、どう出るか」

アルビオンは次第にはっきりと輪郭を現し始めた黒い船団を睨みつける。

そのシルエットがにわかに横に膨らんだ。

どうやらこちらの動きに気付いたらしい。左右の舷より大砲の砲身が突き出されたようだった。

アルビオンは目を細め、

「囲まれることがわかってなお、速度を速めるどころか迷わず"角"を突き出す……火力に相当自信ありというわけか――だがそれも、弾が"届けば"の話だがな」

そう呟きつつ自軍の様子を確認する。艦隊は左右に翼を伸ばし切り、敵を大きな器に納めるが如き理想的な陣形に整っていた。

そこですかさず腕を振り、轟雷のような号令を発っした。

「甲板開け! 敵艦隊を殲滅せよ!!」

傍に控えるスケルトンメイジが復唱と共にオーブに念を込めて指令を送る。すると次々に各艦の甲板に大きな昇降口が開き、そこかしこからけたたましい鳴き声が漏れ響いた。

中から現れた鳴き声の主が、ぬるりとした肌を陽光に煌かせながら長い首をもたげ、虹色の翼を広げて一気に飛び立つ。

それは、300ある艦船と同じ数のシー・ワイバーンであった。

シー・ワイバーンたちは弧を描きながら高く飛び、さながら空にできた巨大な渦のように敵艦を包み込んで包囲を狭めていく。

一方敵艦隊は飛竜の群れを撃ち落とそうと砲塔を上空へ向けるが、あくまで対艦戦を想定された大砲は、仰角いっぱいまで上に向けても的を射線に捕らえることなどできやしない。

ひしめく飛竜の天蓋は敵艦を中心に限界まで縮まると、一斉に翼を大きく広げて風に乗り、その場に滞空した。

飛竜たちはいったい何をしようとしているのか――見よ、その虹色の翼が陽光を受けて燈色に輝き、熱エネルギーを吸収している。さらに吸収されたそれは体内で増幅され、喉袋をぶうぅと赤く、大きく膨らませた。

その口腔から吐き出されるものは三百条もの"ヒートブレス"――たかが50隻の艦隊など一瞬で灰になるだろう。

その時――

「むぅ?」

敵艦隊中央の海中より、巨大な何かが浮上した。

それは、長い触手を垂らした円盤状の物体――クラゲを思わせるそれは、垂らした触手から海水を滴らせながらふわりと空中に浮かび上がると、ゆっくり回転し始める。

すると、どういう理屈であろうか、その緩慢な回転に反して周囲の空気が激しく渦を巻きはじめ、瞬く間に巨大な竜巻を纏ったではないか。

シー・ワイバーンたちは慌てて後退しようとするも、"集光"の最中で動きが鈍っていたことに加え密集していたことが仇となり、仲間同士でぶつかり合い思うように飛ぶことができない。そうしているうちにあえなく皆、竜巻の餌食となってしまった。


「……なんだ、あの兵器は……!?」

目の前で起こった予期せぬ展開にアルビオンは目を見張った。

生物のような、機械のような、彼はかつて戦ったアケローン大陸にてあの円盤と似た"生物"を見たことがあった。

――『機甲』、なのか……?

強烈な竜巻に体を捻じ切られて海に墜ちるシー・ワイバーンたちと"兵器"を尻目に、黒い敵艦隊はそのまま速度を落とすことなく真っ直ぐアルビオン艦隊へと突っ込んでくる。

「ならば"人"ではあるまいな……どこぞ神魔か――やはり『ロード』か……!!」

驚きと共に、腹の底に沈んでいた興奮の蛇がゆらりと鎌首をもたげる感覚を覚えた。

「いいだろう……空からの襲撃を予測しての突貫、なかなかの戦巧者よ。搦め手が効かぬのであれば、直にぶつかり合おうぞ! 伝令! 左右に展開している船の半分を戻せ、我が旗艦と共に受けて立つ! 残りはそのまま敵艦隊の背後に回り込み挟撃! クラーケン隊を先行させろ!!」

矢継ぎ早にアルビオンの指令が飛ぶ――しかし、各所に指令を伝達するスカルメイジからの復唱がない。
スカルメイジはオーブを抱えたまま、表情の読めない顔を歪めていた。
アルビオンが眉をひそめて振り向くと、

「申し上げます閣下、何やらクラーケンどもの念が乱れており、命令を受け付けませぬ……」

「……何?」

急ぎ艦橋を飛び出して舳先へ立ち、海を見下ろす。

見ると、クラーケンたちが正体なく触手を振るい、海中の何かを追い回しているではないか。何事かと凝らした目に映った、触手の間を縫い高速で逃げ回るものは――

「"キラーフィッシュ"だと……!? なぜこの世界に!?」

それは、海魔クラーケンの好物とされる異界の怪魚だった。何故かそれが群れを成し、クラーケンの周囲を回遊しているのだ。戦に際し獰猛さを上げるため、空腹の状態を保ち続けていた十数体のクラーケンは命令を聞くことなく、夢中で獲物を追いかけていた。

そうして怪魚を追う内に、広く展開していたクラーケンたちが導かれるように一つ所に集まっていく。

――これは……まずい。

アルビオンが顔を上げ沖を見る。

敵艦隊は、はっきりとその黒い船体の形が見えるほどまでに迫っていた。

不意に、その甲板に何やら青黒い影が立った。

武骨な四本の足に巨大な顎、太古の恐竜を思わせるその影は、がばりと大口を開けると――大きな咆哮を上げた。

<ヴ ォ ォ ォ ォ ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!>


悲鳴にも似たその咆哮は、聞くものに頭を芯から揺さぶるような振動を与え、耳にした誰もが思わず耳を塞いで屈み込む。

アルビオンもまた頭を押さえつつ膝をついたが、状況を把握しようと歯を食いしばって立ち上がる――が、その目に映ったものは、先程まで怪魚を追っていたはずのクラーケンたちが互いに触手を絡ませ合い、"共食い"をする姿だった。

「"扇動装置"……あれも、『機甲』なのか……!? 全艦あの声からできるだけ離れろ!! 後退しつつ艦首砲で敵艦隊を撃て!!!」

アルビオンの怒号と共に即座に全船が後退を始め、落雷のような数百の砲撃音が海域一帯に響き渡る。

「撃てええ!! 撃ち尽くせえええ!!」

砲弾が飛び交い、山のように高い水柱が上がる。爆炎が赤く海を染め、黒煙が空を黒く覆っていく――。


やがて弾も尽きたか、どの艦となく砲撃は収まっていき、風と波の音だけが残った。

黒煙が風に押し流されて晴れたあとに敵艦隊の姿はなく、海中へ没したか、"咆哮する兵器"の姿も無かった。

跡には粉々になった敵の黒い船体の残骸が波間に揺れるのみ――――のみ? いや、そんなわけはない。

アルビオンは縁に身を乗り出して海面を見た。

――無い……人間どもの"躯"が……!!

そして目を見張った。

漂う木切れの一つ、木板の黒色が波に洗われ"溶けて"いく。

その下から現れたのは、"銀の兜"の紋章だった。

「これは、我が艦隊の……」

波の奥に影が揺らぎ、小さく光が反射した。

"鎖"だった。その先を大量のマーマンが握り、海底へと潜っていくのが見えた。

――つまり、先程の艦隊は我が"追撃隊"だったというのか……拿捕したそれを黒く偽装し、マーマン共に引かせていたと……!? だとしたら、こんな真似ができる者は……。

その時、甲板が大きく傾き、アルビオンは思わず膝をついて船縁を掴んだ。

旗艦背後の海面が小山の如くせり上がり、中から巨大な白い獣が上半身を露わにする。

――水中から……!? "そういう"、ことか……。

獣は腰から後ろに豪奢な装飾の船を引いており、その甲板の上にしつらえられた絢爛な椅子には、眼帯をした女が足を組んでふんぞり返っていた。

「やぁ、ずいぶん撃ったねぇ。もう撃ち止めでしょ?」

この女が対峙していた敵の正体――こちらの手を読み切るだけでなく、海の魔の生態を知り尽くした上でそのことごとくを打ち破る手腕――。

「全てはこうして我が背後を取る為の陽動でしたか――」

そのような"強者"を、アルビオンはただ一人だけ知っていた。


「――ポセイドン王」


女はどこかあどけなさの残る笑みを浮かべ、

「あはは! 久しぶりだね、アルビオン――"母上"と呼ぶようにと教えたろう?」

と、深く椅子にもたれたまま、膝をつくアルビオンを見下ろした。

「してやられました――あの短時間で、どのようにして我が艦隊に偽装を?」

「ああ、アレ? ささ~っと"シュクラケン"の墨を吹きかけさせたのさ。おかげであいつらも腹を空かせちゃっててね。あとでそこで共食いしてるクラーケンでも餌にやろうかな」

「なるほど、あの海魔を……そして、先程のは『機甲』ですかな?」

「そうだよ。海底で見つけたちょっとした"遺産"の技術も加えてある。そもそもさ、古いんだよなぁ、キミの戦い方は。ああいうのはもう通用しないよ? 戦上手になりたかったら、もっと最新の科学を識らなきゃね」

「身につまされました……しかし、あなた程の方が、何故『ロード』の使い魔に?」

「久しぶりなのに質問が多いなぁ……私は誰とも契約してないよ。私は私の意志でこの戦いに参戦することにしたんだ。ちょっとした"お宝"を手に入れたくてね。でもまぁ、事と次第によっちゃあもう一度くらい『アルカナ』に触れるのもやぶさかじゃないよ――だとしても、あの『紅蓮皇帝』とかいうヤツじゃあないかなぁ」

ポセイドンはそう言ってニヤリと笑みを浮かべた。

「そうですか……」

アルビオンは下を向いて立ち上がると、傍でひっくり返っているシーコボルトを叩き起こし、「皇帝陛下に"最悪の敵"が軍勢を率いてきたとお伝えしろ」と告げる。

「まだやるの? キミの"生成"には結構苦労したからさ、いつ戻って来てくれても歓迎なんだけどなぁ。でも逆らうなら――可愛い我が子といえど、暫く復活できないくらいには叩き潰しちゃうかな」

「結構。わが身の至らなさ、それこそ身をもって教えて頂きましょう」

そう言ってアルビオンは愛用の鉄球を手に取ると、その黒光りする表面に一つだけでもシミを残すべく、久方ぶりに口の端に笑みを浮かべてみせた。


* * * *


厚い灰色の雲が覆う空と、その色をまま写したかのような暗い海――そこに漂う粉々になった船の残骸をかき分けながら、ポセイドンの大船団が威風堂々前進してゆく。

船団を成す船たちは"船"と呼ぶには異様な体で、帆も櫂も無いかわりに車輪を備え、半獣半魚の巨大な海馬に船体を引かれるその様は、さながら海上を走る戦車といったところか。

その中の一つ、黄金で装飾されたひと際豪奢な旗艦と思われる船の上では、魚人たちが次の戦闘に備えてせわしなく動き回っていた。

甲板中央の玉座に座する眼帯の女王はこの軍団の主――ポセイドン。

しかしそのすぐ傍にいる者たちはというと、甲殻に覆われた細長い腕で、奇妙な機械を嬉しそうに弄り続ける異形の老人――船縁につかまり物憂げに海を眺める人魚――水槽の中でのんきに眠りこけているセルキー ――怪しげな箱の上に座り、焦点定まらぬ目で鼻歌を歌っている少女――と、戦場に似つかわしくない面々で、船上の緊張を奇妙に和らげていた。

そんな中、間近に近づいてきた目的の島を見つめるポセイドンは、

「とっくに哨戒域は抜けてるし、そろそろアルカニア島からの迎撃部隊がくるかもね。博士、『テンペスタ』と『イヌダンテム』は回収できた?」

と老人に語りかけた。だが老人に返事はなく、「うぅ~~」「なんじゃぁ~?」「お、ほ、ほひょ!?」と一人奇声を発しながら機械をいじり続けるのみ。

「博士~、お~~い、ノーチラス博士ぇ~~」

ポセイドンが白んだ目で何度も呼び続けていると、老人――ノーチラスはやっと「ん~」と煩わし気に振り返り、

「騒がしいですぞ、陛下。今ワシは観測で手一杯……手?? そうじゃ、もう何本か手を"増やせ"ばいいのじゃないか!? そうすれば……いや、それより今はそのテンペスタにイヌダンテムの観測じゃ。せっかくの"改造機甲"の実戦テストじゃったからの。再格納後のバイオリズムデータ集積を……ふひ、それにしてもあの『機甲制御装置』は上手く動いとった、さすがワシ……ほ? ということは? さらにあれをあんな風に弄りゃあ……」

と、そのままブツブツ呟きながら、再び機械のつまみをクリクリ回しつつモニターにかぶりつき、一人の世界に戻っていってしまう。

「……聞こえてるんじゃないか。それって無事ってことだよね? ならいいんだけどさ」

ポセイドンは嘆息すると、気を取り直して前を向き、手元の伝声管に大きな声で叫んだ。

「ヒッポ! ここからは何が仕掛けられているかわからない、慎重に行こう!」

すると、戦車を引く白い海馬――ヒッポカムポスが耳をヒククと動かしつつ、ゴロロと喉を鳴らして船の速度を微速に緩めた。

島に近づく程に船の残骸が増えていく。ゴツリゴツリと船体にぶつかるそれらを見ていると、いつの間にか残骸の種類が、先程破った皇帝軍のものとはまた別のものに変わってきていることに気付く。

その内の一つ、波間に揺れる破れた戦旗には「牙と騎士」の紋章が描かれていた。

頼りなげに波に弄ばれるその旗を、船縁につかまる人魚が不安げに見つめる。

「『レムギアの牙』か、ずいぶん劣勢のようだね……大丈夫かい、コジュート」

「うん……」

ポセイドンの問いに、人魚が海を見つめたまま返すが、

「……って、シリアスな口調で聞くからついつい返事しちゃったじゃない! だから"コジュート"じゃなくて"ハルフゥ"だって言ってるでしょ!?」

と、勢いよく振り返って抗議する。

「それだけの口がきけるなら問題なさそうだ」

「あ、あたしだって『レムギアの牙』の一員だもん。いつまでも沈んでばかりいられないわよ。それにしても、あんたって本当にすごかったのね。あたしたちみたいな普通なのに『仲間になれ』とかいうから、実はあんまりたいしたことないやつなのかな、とか思っちゃってたわ」

「失礼だなキミは……キミも海種の一人なら覚えておくがいい。これでも海の世界では『深淵の王』と恐れられているんだぞ? だから、"約束"は果たすよ」

言いつつポセイドンは、再び島に目を向ける。

その瞳には、灰色の島と、その中央にて雲を突く程にそびえ立つ高い塔が映っていた。

「あれが『紅蓮の塔』か……『紅蓮皇帝』、何者なのかな。確かにさっきのやつらにはアルカナの力を感じた。けど、私の知ってる『紅蓮の王』はあんなに禍々しいものではなかった」

「………」

ハルフゥもまた、ぎゅっと手を握り魔の巣食う塔を見つめる。

「もう一度確認するよ。私はあの島にいるであろうキミの想い人を救い出す、そうしたらキミは正式に私の仲間になって『ノア』は私のもの――本当にいいんだね?」

「お、想い人とかそんなんじゃないわよ! でも、それであいつが助かるなら……」

勢い言い返してはいるものの、ハルフゥの目は不安と迷いで揺れていた。

――それは"『レムギアの牙』に居られなくなる"という事なんだけどね。どうやら、こちらもこちらで複雑そうだ。

ポセイドンは顎に手をやりそう思案気にしていたが、"箱"の上で膝を抱えて鼻歌を歌う『ノア』に目をやると、

――しかし、こいつを確実に手に入れる為には、今はこれ以上つっこまない方が良さそうだ。

と話題を変えることにした。

「しかし、やはりあの"禍々しさ"は気になるな……『紅蓮の力』というより、あれじゃまるで『混沌』だ。ねぇノア、キミはどう思う?」

『ふん、ふんふふふん ピピ ふふふん♪』

「ノアちゃ~ん、聞こえてる? 聞こえてるよねぇ~」

『ふんピピ ふふふん ピピふふふん♪ 聞こえてなんかいませんよ~♪』

「……………コジュ――じゃなくてハルフゥ、聞いてくれるかな?」

「ほらノア、ポセイドンさんが質問してるわよ。答えてあげなさいよ」

『ピピピ あ、すみません 私に尋ねていたんですね。何やら王様プレイ中の妄想系眼帯女子っぽいのが話しかけてくるなー、私を"ワールド"に引き込もうとしているのかなー、やばいなやばいなー、こわいなー、とつい無視してしまいました。そもそも私は登録者以外の要求は受け付けかねる人見知り設定ですのでご容赦くださいね、テヘ』

「ぐぅ……こいつ……博士といい、お前らこの私相手にホントいい度胸だよな。このままキミを手に入れたとして、ちゃんと扱えるのか少し不安になって来たよ……で、どうなんだい?」

『まぁ? そんな気もするような? しないような?』

「おいおい、あらゆる"歴史"を詰め込んだ『叡智の匣』と伝承されるキミがそんないい加減な……」

『ピピ 私を手に入れるとか入れないとか、好きとか嫌いとか最初に言い出してしまう前に、まずはアレを避けた方がよいと思いますよ?』

「避ける?」

その時、ヒポカムポスが前進を止め、緊張したように首を上げた。

同時にアルカニア島の入り江の奥で、眩い光が瞬いたと思った瞬間、

「何だ――」

ポセイドンが言い終わらぬうちに、空気を焼き貫く一条の極太い光線が、旗艦の側面をかすめつつ背後に続く艦船数隻を貫いた。

光線はそのまま遠方の海面に着水すると、小島一つはあろうかという巨大な光球と化し、触れた海水を瞬時に蒸発させる。

「ヒッポ、最大船速だ!! "引っ張られる"ぞ!!!

ポセイドンが叫ぶや否や、突然海に空いた大穴に水が流れ込み、船団を巻き込みつつ怒涛の勢いで波が沖へと引いていく。

ヒッポカムポスは大きくいななくと、他の海馬たちもそれに応えるように鳴き、一斉に強く波を掻き始めた。

船体が大きく揺れ、ハルフゥが悲鳴をあげて縁にしがみつき、眠っていたセルキーの少女が水槽から飛び出して、それでも構わず機械を弄り続けるノーチラスの頭にゴチンと当たる。

「んぎゃ!!」

「いったーーい!!」

「キマ! だいじょうぶ!?」

「うにゅう、コジュートのおねえちゃん……へんな貝にあたまぶっけた」

「いたた、"へんな貝"とは何じゃ! こりゃワシの大事な"七色の脳"をあらゆる衝撃から守るよう設計した――んん? なんじゃ、この"エネルギー波"は……」

頭をさするセルキーのキマをよそに、ノーチラスが食い入るように機械のモニターを覗き込んだ。そこに慌てて玉座から飛び降りたポセイドンが駆け寄る。

「博士、わかるかい?」

「ふむ、この独特な波形には見覚えあるぞ。確かこりゃあ…………なんじゃったかの?」

「むぅ、"はけー"より"つま"にだいじなのは"かけー"だっておかーさんがいってたよ! いたいのしたんだからあやまってよ!」

「煩いわい! え~と、確かだ~~いぶ昔に見たことあるようなぁ……」

「む~~、"むし"と"うわき"は"ふうふ"のじゅーだいな"つみ"なんだよ! わるい貝には"つまパンチ"!!」

(バキンッ!!)

「あいた!! な、なんじゃそのパンチ!? セルキー如きの手打ちが何故ワシの超強化外骨格に衝撃を……あ、思い出した! そうじゃそうじゃ、この波形は大昔、プトレマイオスとかいう人間の小僧が上級精霊をとっ捕まえてこさえた巨大兵器のもんじゃ。ありゃまだアトランティスが地上にあった頃じゃたわい、懐かしいのぉ~。え~とたしか"大闘台"? 『ファロス』とか言ったかの。しかも、今のエネルギー量、どうやら『機甲』の技術が加わっとるんじゃないかな~」

「『機甲』だって……? 私の他にも……」

ノーチラスの言葉にポセイドンが目を細める。

「ねーねー、おそらからもなんかおりてくるよー」

「わ……本当だ」

キマとハルフゥの視線を追うと、曇天の雲間より、不気味に濁った音を響かせながら黒い群れが降下してきていた。

「何あれ……すごく、気持ち悪い」

眉根を寄せるハルフゥの言葉通り、現れた生物は一見巨大な羽蟻のようではあるが、思考を感じ取れないやけに大きな目、およそ生物の機能としてあり得ない箇所に複数生えた"脚"、昆虫がまま人の皮を被ったような表皮と、その姿は一同に言い知れない悍ましさを感じさせた。

『ピピピ ああ、あれは皆さんご存知の異次元存在『クトゥルー』の眷属、『バイアクヘー』さんですね。見た目はキモい虫さんですが、意外に知能は高いとっても危険な虫さんです。雲の上にはその主人、"旧支配者"の一柱『ハスター』さんもいるようですねー。はっはっは、私のエネルギーが満タンならどうにかなったかもしれませんが、こりゃーだめだー、おしまいだー』

のんきな声で危機を告げるノアの言葉に、ポセイドンはニヤリと笑みを浮かべる。

「ふ~ん……『紅蓮皇帝』、やるじゃないか。ノア、お気楽にあきらめちゃってんじゃないよ? 私たちには強力な"兵器"があるんだ。博士、『フォッサ』と『デルビウム』を出すよ」

「無理ですじゃ」

「なんでさ」

「いいデータとれたから改造しようと思って、さっき『機甲制御装置』バラしちゃったんじゃもん」

「は……?」

ポセイドンの顎がかくんと落ちた。

「え、どうしたの……? やばいの??」

「やばいの? コジュートのおねーちゃんこうるさすぎて、"けんたいき"がきて、"だんなさま"にフラれちゃったの!?」

「キマは黙ってなさい! ポセイドンさん、どうにかしてよ! "あいつ"を助けてくれるんでしょ! あいつはもう目の前なんだから!!」

呆然と立ち尽くすポセイドンだったが、肩を掴む涙目のハルフゥにガクガクと頭を揺らされ、「はっ!」と正気を取り戻す。

「ごめんごめん、戦の真っ最中とは思えないあまりに緩い展開に、一瞬意識が飛んじゃったよ――うん、だいじょーぶだって!」

「ほ゛ ん゛ と゛ に゛??」

「ホントホント、だから鼻水こすりつけないで……」

そう言うと、ポセイドンはひらりと飛んで玉座に立ち、アルカニア島と空の襲撃者を交互に見やった。

「ふん、『機甲』混じりの古代兵器に『クトゥルー』? 上等じゃないか。それならこちらにも十分対抗しうるカードがある」

そうして玉座の横に刺さった三叉槍を手に取ると、

「我は海を統べる"海皇"が一人、『深淵の王』――」

暴風といえるほどに強く吹き始めた風に赤金色の髪をなびかせ、力強く掲げた。

「そして、海皇は"一人ではない"のだよ。ゆくぞ! あの敵を破り、これより、ポセイドン軍はアルカニア島に侵攻を開始する!!」


to be continude…
≪ Continued to "【粛醒】ムー(ver.SS)"≫

考察
召喚からアームズまで一貫して、敵の最大HPを参照してそれに応じた固定ダメージを与えるクトゥルフにも似た海種の大型マジシャンである。
まず召喚アビリティの海の王の矜持によって、敵の最大HPが高いほど与えるダメージが上がる。
最大HP 追加ダメージ
250~350 10ダメージ
400~550 20ダメージ
600~750 30ダメージ
800~??? 50ダメージ
また、この固定ダメージはシューターやスプレッドでも入る。
超覚醒すると攻撃力が50上がり、アームズが使えるようになる。アームズの有効範囲はマジシャンの攻撃の射程範囲とほぼ同程度。こちらも対象の使い魔の最大HPを参照してスリップダメージが入る。
最大HP スリップダメージ
250~350 3ダメージ
400~550 6ダメージ
600~ 9ダメージ
上記のスリップダメージに加えて移動速度を固定する効果もあり、この固定がかなり強力で召喚ディフェンダーよりも移動速度が遅くなるほどまで下がる。
このアームズの効果時間は5カウント。アームズを叩いた敵には上記のダメージ×5が入ると思って良い。アームズのクールタイムも15カウントと回転率も高い。
召喚アビリティとアームズ共に50コストの超覚醒と60コスト以上からは入るダメージがかなり高いため大型に対するアンチ力は高い方。ディフェンダーとマジシャンに対しては有効に立ち回っていける。
50コストの超覚醒60コスト以上からはアームズを叩いて攻撃を当てればダメージカットを持っていなければそれだけで75ダメージが約束されるので、速度ディレイも相まってそれ以上の打点を叩き出せるだろう。
一方で防御力が220と少々頼りない数値。アタッカーに対してもある程度のダメージを期待できるが、その分アタッカーからの攻撃には滅法弱いため引き際も重要。
撤退時にアタッカーにアームズを打てばアタッカーはダッシュアタックで追撃することが不可になるため、アームズを打つ相手とタイミングを間違えないようにすることが重要になってくる。


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最終更新:2020年07月12日 10:06