【紅】魔威太(R)
基本情報
名前 【紅】魔威太
種族 魔種
ジョブ アタッカー
召喚コスト 40
<タイプ> 大逆者
タイプ 百鬼
HP 450
ATK 60
DEF 70
覚醒
超覚醒
アーツ
CV

アビリティ
召喚 なし
覚醒 なし
超覚醒 紅の花は、咲き乱れ
攻撃力が上がる。さらに、自身が敵ユニットを攻撃したとき、通常の攻撃に加えて一定回数追加でダメージを与える。
ただし、一定回数敵ユニットを攻撃すると、自軍施設へ帰還するまで効果が消える。

ステータス
状態 HP ATK/DEF
召喚 450 60/70
覚醒 500 80/90
超覚醒 550 150/160
180/160(アビリティ発動時)

DATA・フレーバーテキスト
+ Ver3.5
Ver3.5
身長(人型時) 1.62[meter]
体重(人型時) 46.5[kg]
出身家名 飯綱家
襲名 第四十九代目かまいたち弐之風
好物 稲荷寿司
苦手 小さい犬
イラストレーター 輪くすさが
フレーバーテキスト
――from “ver 3.5 火車”


今は昔、陰と陽の気が坩堝の如く乱れ混ざった人の都。その澱みより生まれし、万に潜む魑と魅、魍と魎――すなわち、妖(あやかし)。

彼奴らは“隙の間”に潜み、その“境界”より出ることは稀であった。しかし世の流れと共に、好んで境界を侵し、悪戯に人を貶め、命を奪う者らが現れはじめた。

人々はそれらの妖を忌み、やがて陰陽の術をはじめとした退魔の技を生み出しては、これを祓いはじめた。

やがてその手が、境界の中でひっそりと暮らす妖らにまで及ぶようになったとき、さる一匹の妖が、悪事を働く妖を縛る掟を定めた――境界を跨ぎ、人の世に悪を為す者あらば、我ら妖の手にて誅すべし、と。

そうして、力のある妖が集まり、夜な夜な都を練り歩く夜行が始まった。

彼らは『百鬼』と呼ばれ、遥か長い時が流れた今も、同胞の悪事に目を光らせている――。


* * * *


「『掟』を覚えているかって? やだなぁ……耳が腐るほど言い聞かせてきたのは、あんたらじゃないか」

魔威太はそう言ながら、壁にもたれて力無く笑った。

その体は傷だらけであるものの、目の光は未だ危険な光を帯びている。

「…で、説教はもう終わり? ならオレもう行きたいんだけど」

魔威太が足元に転がる妖に足を乗せ気勢を張ると、踏みつけられた妖――妖気を失い、すっかり小さくしぼんでしまった百頭が「ぐへぇ」と情けない声を漏らす。

その正面で魔威太を冷たく見据えるのは、古より妖を束ねてきた妖――『百鬼』たち。

荒ら家が軒を連ねる道の末、壁に背をつけた魔威太を、おびただしい数の百鬼の群れが囲んでいた。壁、屋根、空、見渡す限りの“隙間”から首を伸ばし、牙をむき出し、ぎらついた眼を向けている。

ふいに正面の群れが二手に割れた。

割れできた道を進んでくるのは、百鬼の中でも得に力の強い妖たち。その先頭を歩く大きな角を生やした巨影を見て、魔威太はへらりと笑って手を振った。

「やあ、ハクタクのじーちゃんだ。久しぶりだね。じーちゃんもオレを殺しに来たの?」

この期に及んでも顔に笑みを張り付けたまま、まるで心の内を見せようとしない魔威太に白澤は苦い顔をする。

「相変わらずよのぅ、魔威太よ。生まれながらに力を持ったお前達兄弟が道を違わぬよう、百鬼に迎え入れて百と十余年。よもやこのような日が来ようとは……儂は悲しいぞ」

「ハハ、じーちゃんは特にオレたちに甘かったもんなあ……ねえ、オレのこと、ちゃんと殺せんの? 本気でこなきゃあ、オレがじーちゃんたちを殺っちゃうよ?」

二匹の妖の間に流れ始めた緊張を破るかように、白澤のうしろからひょこりと妖の少女が飛び出した。少女はくりりとした一つ目を悲しそうに歪めて魔威太に語りかける。

「マイタちゃん……」

「あれ? アンコじゃん――その傘、ほんとに『唐傘』襲名したんだ……すっげぇな」

「……うん。あの時、マイタちゃんが“何にでもなれる”って言ってくれたおかげだよ――ねぇ、帰ろ? マイタちゃんがいなくなってすぐ、カマイさんもイタチちゃんもいなくなっちゃったの……きっと、今もまだマイタちゃんを探してるんだと思う……みんながいない里は、寂しいよ」

唐傘の言葉に、

「……へぇ、良かったじゃん。兄貴たちも里から出られたんだ」

と変わらぬ笑顔で答えたものの、魔威太はチクリと何かが刺さったように、片方の目をヒクつかせた。

その様子を見逃さなかった唐傘は、一度目を閉じると、かぶった傘ののぞき穴の奥から魔威太をまっすぐに見つめて言った。

「――“あの時”のことは、マイタちゃんが悪いんじゃないよ」

「……なんの話だよ?」

「“あの人間”があんなことになっちゃったのは、マイタちゃんのせいじゃない」

「……はぁ? 何言ってんだよ。おまえは昔っから――うっ…!」

魔威太がよろけ、頭を押さえる――まるでそこに、消していたはずの何かが浮かびあがろうとするのを必死に拒むように頭を振りながら。

そんな魔威太を悲しげに見つめ、唐傘が手を差し伸べる。

「だからマイタちゃん……帰ろ?」

「来んなよ!!」

牙を剥きだして叫ぶ魔威太の爪が空を裂き、風の刃が飛んだ。

「きゃあ!」

同時に、唐傘の体がぐぃっと後ろに引かれるようにしてそれをかわす。唐傘はそのまま“炎の尾”を引いて宙に飛び上がっていく。

見るとその体は、宙を駆ける炎の轍から生えた巨腕に掴まれていた。

火車さま……!」

「唐傘よ! 白澤様よ! 無駄よ無駄よ! 傷ついているように見せてはるが、所詮こやつは古きに百鬼を去ったあの“大逆の九尾”と同じ狐精よ! 悪人よ! きっとその黒い狐腹に何かを隠しておるに違いなし! 儂の炎がそれを感じて猛っておるわ! この場にて誅せずどうあっても連れ帰るというのであれば、減らず口など叩けぬまでに黙らせてからでもよかろうて。さぁ、皆かかれい!!」

火車の号令に妖たちが喚き立つ。

「皆待つのだ! あとしばらくもすれば……皆どうした!?」

白澤が声を上げて制止するも、妖たちの叫声はどんどんと高まっていく――まるで、魔威太の内に眠る得体の知れない何かに怯え、無理にそれを打ち消そうとするかのように。

「ゆくぞゆくぞ!」

妖たちの声に後押されるように、火車が体を回転させて、轟々と燃え立つ炎の弾を次々に放った。しかし、魔威太は両の爪を立てて風の刃を飛ばしては、それを斬り落としていく。

「ぬぬぅ……! 小癪な狐鼠め! ならば――獏よ!!」

火車の呼びかけと共に、まとう炎が揺らす陽炎の中から、ずんぐりとした体の長い鼻を持つ獣――の姿が浮かびあがる。

獏は目を見開くと、その大きく金色に光る瞳から虹色に揺れる光を発した。するとどうしたことか、火車の放った炎が、宙でいくつも分かれ、無限無数に増えていくではないか。

すでに幾分か冷静さを取り戻していた魔威太は、

「めんどくさいなぁ、幻とかさ……!」

と顔をしかめると、一旦その場から離れようと足に力を込める――が、重りの枷をかけられたように足が動かない。

見ると、魔威太の足に幾匹もの黒々とした鼠がしっかとしがみついていた。鼠の行列は黒い太縄のように連なり、闇の奥から次々と湧いて魔威太の体をよじ登ろうと迫り来る。行列が湧き出る闇の奥で、ひときわ大きな鼠がキキっと笑った。

「ちッ! 今度は鉄鼠の坊主かよ」

ならば鼠たちを刈り取るまでと爪をふりあげるが、今度は腕が動かない。

いつの間にやら腕の先には、指、手首、いかなる動きもさせまいとするように、鋼のように強靭な白糸が絡みついていた。糸の先には巨大な鬼蜘蛛――牛鬼の姿。

「さぁさぁ、魔威太よ、覚悟せよ!」

動けずにいる魔威太に次々と炎弾が襲い掛かる。轟く爆音と共に、赤々とした炎が黒煙をない混ぜ立ち昇る。

「マイタちゃん!」

今の自分はどうあるべきかなど考えることもできず、ただ叫んだ唐傘の声に応えるように、もうもうと広がる黒煙の中から、ぼひゅんと魔威太が飛び出した。

「へへん、効かない効かない! よってたかってさぁ、ひどいんじゃない?――うわっ!」

空中で何かにはたき落とされ、したたかに地面にたたきつけられる。見上げると、巨大な毛むくじゃらの壁。壁の上方にはぽっかりと暗い穴が空き、その中に光る二つの目が魔威太を悲しそうに見下ろしていた。

「お前もかよ、海坊主――ハハ、こりゃちょっとやばいかな」


ドン!!――騒ぎを制するように地面が大きく揺れた。


「皆、鎮まれい!!」


ドドン!! 巨大な上半身を起こした白澤が、今一度地を叩いて制止を告げる。

老妖から発せられる覇気に気勢がそがれたか、妖たちの叫声が次第に収まっていく。首を巡らし、皆が鎮まったことを確認すると、白澤は再び魔威太に目を向けた。

「……魔威太よ、わかったであろう。これ程の百鬼に囲まれて何が出来ようか。その傷では、もはや逃げ切ることも叶わぬぞ。悪いようにはせん。里に戻り裁きを受けよ」

しかし、魔威太は下を向いたまま返事をしない。そのこめかみから、ぽたり、と雫が垂れる。

赤い、雫――。

「“わかったか”って……違うね、わからせたいのはこっちさ」

そう言って、傷口から零れ落ちる赤色を指に乗せて眺める。

「こいつはさ、『見せてやる』ためだ。あんたらがあんまりにも『オレは百鬼にあらず』って騒ぐもんだからさ、じゃあオレは一体何なのか、中身を見せりゃあわかると思ってね。どうだい? この赤――みんなと同じだ。オレもあんたらと、何も変わらないんだよ。ぶった斬ればみぃんな中身は同じ……悪人も、善人も、オレも、あんたらも――“人間”だって、みんな同じなんだ―――そっか、そうだった……思い出したよ……オレはあんとき“綺麗だな”って思っちゃったんだ……」

雲間が開け、落ちた光が薄く魔威太を照らす。

闇に浮かび上がる白い顔――赤色を見つめる、悲しげでいて、なんとも哀愁めいた美しさを帯びたその表情に、妖たちはぞわりと妙な寒気を感じた。

魔威太は顔を上げ、そのまま仰け反って月を見た。

力無く笑みを浮かべたその頬、腕、腹、足――そのすべてにあった傷が、みるみる塞がっていくのを見て、妖たちの視線に篭った『恐れ』と『敵意』が再び昂っていく。

たまらず誰かが怒号を上げた。それを合図に、魑魅魍魎の群れが大きく蠢く。掟を破った罪人を裁かんと、すべてが魔威太への殺意を持って迫り来る――白澤と唐傘が何かを叫ぶが、もはや誰の耳にも届かない。

「あぁ……でもさ、もうひとつ思い出したよ……オレは、そんなみんなと同じでいることが嫌になったんだ……だからさ、オレは――妖を“越えたんだ”」

その言葉とともに、一陣のつむじ風が土埃を舞い上げた。


* * * *


見渡す限り広がる赤――その中を、ぴしゃり、ぴしゃりと、跳ねる雫の音を楽しむように魔威太は歩いていた。

「じーちゃん……アンコ、ごめんな、綺麗に切ってやる余裕がなくてさ……」

一人呟きながら、フラフラとおぼつかない足取りで、倒れた妖の体を跨ぐ。

「火車のおっちゃんは今のほうがいいぜ。いつもはくそ暑っ苦しいけど、冷たくて静かでさ……ハハハ……本当…みんな、綺麗だ……」

残らず倒れ、赤色にまみれて呻く妖たちの真ん中で立ち止まると、長爪からぽたぽたと雫を垂らしながら、ぼうっと立ち尽くす。

「…ああ、疲れたなあ…」

倒れている妖のひとつがずずぅっと体を引きずり顔を上げた。

「……魔威太よ……それが百鬼を捨て手に入れた『十と三の鍵』の本領か……しかし……その代償にお前は気付いておらぬ……」

「なんだよ、まだ起きてたの? 寝つきの悪いじいちゃんだなぁ……いいよそんなの、どうだってさ――ほら、痛くて苦しいだろ? 今、オレがただの紅にしてやるよ」

魔威太の爪がさらに赤く光り、三尺はあろうかという長さに伸びていく。魔威太は白澤を見下ろしながら、ゆっくりと振りかぶり――


「待ちぃや」


――風が吹いた。


豪風が魔威太の体を吹き飛ばす。しかし魔威太は器用に宙でくるりと回ると、ふわりと地に降り立った。

「この風……なんだよ、オレ人気者だなぁ。どんだけ集まってくんのさ」

そして顔を上げ、風を起こした、月を背に飛ぶ二つの影にそう言った。

「おいたはあかんでぇ、まい坊」

「ほんに……随分な悪さしよって、まだみんなわずかに息はあるようやけど、ぼろぼろやないの」

白澤もまた影を見上げる。

「イチョウ、キョウノ……間に合ぅたか……」

「それやめてぇや白澤様、今は『風神』と『雷神』や言うとるやろ。それに、この有様、全っ然間に合うてへんがな」

風をまとう一柱と雷をまとう一柱。二柱合わせて嵐を成すは、天に聞こえし二つ鬼――風雷神。

「風雷の姐さん方、久方ぶりにてご機嫌宜しゅう……でもさ、あんたらには関係ないだろう?」

「はぁ!? 関係ないことあるかボケぇ!」

「風はんの言うとおりや。今や神籍に身を置くウチらかて元は百鬼どす。昔の仲間の危機やのに、放っとけるはずないやろ?」

「ふ~ん……でもさ、今のオレは姐さんたちでも止まんないよ?」

魔威太が瞳に怪しい光を浮かべて、冷たい殺気を込めた赤い爪をゆらゆらと泳がす。しかし、風神は扇をはためかせ、フンと笑って見せた。

「言うようになったやないか、まい坊――あんまイキっとると泣かすぞコラ」

「ほれほれ風はん、若い子いじめたらかわいそうやろ? それに、今回のそれはウチらの役目やないえ」

「おぉ、そうやったそうやった、さっすが雷ちゃん冷静沈着、いっつも助かるわぁ!」

二人の言葉に魔威太がいぶかしげな表情を浮かべ、白澤が「おぉ…」と首を伸ばす。

「では、見つかったのか……?」

「安心しなはれ、白澤様。きっともう、そこまで来とるさかい……あぁ、でもあの子、ちょお方向が音痴さんなとこあるからなぁ、そんなとこだけ逆へ逆への名前通りて……」

「ハハ、ほんまにな。しっかし苦労したでぇ。神仙境を通れるヒキュウを寄こしゃ、ひとっ跳びで連れてこれる思うたけど、あいつらさっきそこらにいた思うたら次の瞬間にはそれこそ風みたいにピューピューいなくなる。ほんま“風の便り”もお手上げ状態やったわ――お?」

風神が上を向き一本角にちょんと触れると、何かを感じとったみたいに周囲を見渡した。

「言うてるそばから到着や! 雷ちゃん来るでぇ、『出口』開けてんか!」

「ほいな風はん任せときぃ、そ~れ!」

雷神がバチを取り出し雷太鼓をドドンと鳴らすと、轟音と共に天より雷光が瞬いた。

そして一帯が白く染まったかと思うと、光の中心より黄金に輝く獣が駆けだして来たではないか。

獣の上で必死に手綱を握るは赤い小鬼、

「ぷはああああ! こここ怖かったああああ! ヒキュウ、お前速すぎじゃ馬鹿もんがああああ!」

そしてその後ろにはもう二人――。

「おおきに天邪鬼はん、助かったわぁ」

「らら、雷神様に風神様!? な、なんてな! よ、余裕だったわい! まぁ、あんな僻地からお二人の居場所を感じ取ってやってこられる者は、同じ鬼族でも特別優秀なワシしかおらんだろうからのぅ――てヒキュウ! ヒキュウ殿! ここにきて暴れるでない! これ、言うことを聞かんかあああ!」

瑞獣たる自分の背に誰かを乗せるなどとんでも無いとばかりにバタバタと暴れ回るヒキュウを、天邪鬼がまっ赤な顔をさらにまっ赤に染めておさえつける。そうしてなんとか無様に着地した時には、天邪鬼はすっかりと目を回し、ぐったりとヒキュウの背中で突っ伏せていた。

陰惨な風景にそぐわぬそんなやり取りの中、ヒキュウの背から降り立った二人の姿を目にした魔威太は目を見開いた。

ひとりは魔威太と同じ白髪の、すらりとした長身の美青年。もうひとりもまた同じく白髪に、紅い飾り紐をぶら下げた美しい少年。

立ちすくむ魔威太を見て、少年が笑顔を浮かべた。

「魔威太あんちゃん!!」

「探したよ、魔威太」

「……あんちゃん……威太刀……」

歓喜と緊張と戸惑いが混ざり合ったそれらの声に、賑やいでいた空気が一瞬で鎮まる。

一匹が転ばせ、一匹が斬り、一匹が治す――狩魔威、魔威太、威太刀――古よりつむじ風を司る、三位で一つの妖――『かまいたち』の邂逅――。

風神が地に降り、二人のかまいたちに声をかける。

「狩魔威、威太刀、ほぅれ、この悪タレにばしっと言ったりぃ」

「うるせぇぞ、魔威太あんちゃんを悪く言うなブス!」

「なんやとコラぁ!」

「あれま、相変わらずお口の悪い。あかんえおチビ、風はんに生意気言ぅたらウチの雷でゴロピカドンや」

そんな三人のやり取りをよそに、狩魔威が周囲の惨状を見渡して顔を曇らせる。

「お久しゅうございます、白澤様……これを、魔威太が……?」

「……悲しいことではあるがな……よう来てくれた狩魔威、気を付けい……今の魔威太は……」

狩魔威が魔威太に目を向ける。その視線を真正面から受け止める魔威太。

しかし、魔威太の目には戸惑いと共に、恐怖にも見える歪んだ色が濃く浮かんでいた。その目をみた狩魔威は、悲しげに目を細める。

「……きっと、私の所為なのです……」

狩魔威は、白澤にそう言うと、静かに魔威太へと近づいていく。

一歩、二歩、狩魔威が歩を踏む。

一歩、二歩、魔威太が後ずさる。

「魔威太――」

「――ごめんよ、あんちゃん……」

先ほどまで顔に張り付いていた余裕の笑みが嘘のように消え去り、その表情は、怯えて今にも泣きだしそうな幼子のようで――。

「………」 

「……あんちゃん……オレのこと、怒ってるだろ……?

「………」

「……ゴメン……オレ、“あんなこと”……するつもりじゃなかったんだ……」

「……魔威太……“あれ”はお前のせいじゃないよ……」

魔威太の瞳の焦点が揺れる。

「……さっきさ、アンコもそう言ってくれたよ……でもさ、違うんだ……あの子はオレがやったんだ。オレは許せなかったんだよ……あの子は……あの人間はあんちゃんのことを……わかったんだ…みんな汚いんだよ……“皮”を被ってるかぎり、みんなそうだ……だからさ、みんな失くした方がいいんだよ……百鬼も、人間も――」

「いいんだ魔威太……私たちはこのままでいい。そうやって私たちはずっと生きてきたんだ」

「そうだよ! 離れ離れはやだよ!」

狩魔威が静かに、それでいて力強い視線を送り、威太刀が叫ぶ――しかし、

「……いいわけ、ないんだよ――」

応える魔威太の瞳が、どんどん暗い色へと落ちていく。

「――あんちゃん……威太刀……なんでわからないかな……いろいろ違くたって、こうすれば結局みんな同じ“紅”じゃないか、だから全部さ、こうすれば全部“本当の一緒”になれるんだ、皮を裂いて、中身だけにして……こうすることでしかさ――!」

その視線はどこにも合っておらず、ブツブツと何かを呟くように――突然、ドクンと体の芯が大きく脈打ち、崩れるようにその場に膝をつく。そして胸をかきむしり、、ぜひぜひと荒い呼吸を繰り返す。

「魔威太!?」

叫ぶ狩魔威――その時、はだけた魔威太の胸から光る紋様が大きく広がってゆき、そこから――「男」が、ずるりと現れて地に落ちた。

「はぁ!?」

「なんやの!?」

身構える風雷神。

現れた男は周囲を見回すと、恥ずかしそうに頭巾をかぶって立ち上がり、ぱんぱんと尻についた砂埃をはたく。そして呆ける魔威太の方へと振り向き――ごちんとその頭に拳を落とした。

「いってぇ!!」

「いってぇ、じゃねぇ!! ざっけんなよテメェ! 『力』の使いすぎにゃ気をつけろってあんだけ言っただろうが! ったく、最近妙に危なっかしいからよぉ、『ストッパー』かけといて良かったぜぇ――んん? なんだこりゃ、まっ赤でばっちぃな……って、ゥオエエエエエ……マジグロじゃねぇか……!!」

頭巾の男はひとり大げさにえずくと、まだ呆けた顔をしている魔威太の頭をうんざりしたような顔でもう一度はたく。すると、魔威太はさっきまでのことが嘘のようにいつもの飄々とした表情に戻る。

「……あ……あれぇ? おっさんだ、てかさ、何て登場の仕方だよ」

「うるせぇよ、ポーに言えポーに。オレも嫌いなんだよこの装置……そもそもテメェが言うこときいてればなぁ……あぁ~ムカつくわ! マジでよぉ、せっかく作った“鍵”がこんなところで勝手にくたばるとか洒落になんねえぞ? 第四席としての自覚を持て自覚を! わかるか、自覚? あとな、おっさんゆうな」

「アハハ、ごめんごめ……ん――」

そう笑顔を浮かべると同時に、気が抜けた様に倒れる魔威太。それを頭巾の男がおっと、と受け止める。

「あんちゃん……なんだよそいつ……なんでそんなに安心した顔――」

威太刀が手を伸ばすが、それを制して狩魔威が前にでる。

「おい――」

「うおっと、来るんじゃねぇ――≪ペル トゥル バーティオー!≫」

頭巾の男は何もない空中から素早く「書」を取り出すと、紋章を作り出し自身の周囲に結界のようなものを張る。

一瞬とどまったものの、構わず中に踏み込もうとする狩魔威を雷神が止めた。

「あかんよぉ、狩魔威くん。それけったいな代物やわ」

「大当たりだ。こん中、入んねぇ方がいいぜ。つまりよ――こいつは渡せねぇ」

頭巾の男がニヤリと笑う。

「なんやおまえコラ、いきなり出て来よってボケぇ!」

「な、なんだよ……怖ぇなぁ……つうかよ、こいつがこうなったのぁ全部テメェらのせいなんだぜ? 『鍵』ってのぁみ~んな不安定なもんなんだがよ、こいつはもうどうしようもねぇくらいぶっ壊れてんだ。『忌み種』なんてはなからいらねぇくれぇによ……テメェらもこいつが大切だってんなら、あんまり苦しめてやんな――すっぱりとよ、こっちに堕としてやんのも人情ってもんだぜ」

そう言って、目を閉じる魔威太の前髪をくりっと指で回す。

「それによぉ、こんなことしてる場合じゃねぇんじゃねぇか? なぁ、“百鬼”ども」

頭巾の男が白み始めた空を見上げ、雷神がハッと何かに気付く。

「風はん、あかんわ……もうすぐ夜が明けてまう。百鬼のみんなを早よ闇に帰さんと、こない傷ついてもうてたら体力のないもんは堪えられへん」

「そういうわけだ。見逃してやるよ、とっとと行け行け」

子供でもあしらうように手をひらひらとさせる男を、風神はギリリと奥歯を噛んで睨みつけると、

「狩魔威、威太刀、今回はここまでや! みんなを運ぶでぇ、お前らも手ぇかしぃ!」

そう言って両手に広げた扇を合わせ、一本の大扇を作り出す。そして気合いの声と共にそれを思いっきり振りぬくと、大風が巻き起こり、次々と百鬼達を包み込みんでその体を浮かび上げてゆく。

慌てて威太刀も爪を振るい、緑色の風を起こして風神の大風に勢いをつけていく。

しかしその中で、狩魔威だけは微動だにせず、魔威太を抱く頭巾の男をねめつけていた。

「おい、お前……名は?」

「あぁ? だっから睨むなよ怖ぇなぁ――バン・ドレイル様だよ」

「覚えておけ、バン・ドレイル……百鬼は決してあきらめないぞ――弟は、必ず取り戻す」

「悪ぃ、オレ、物覚え悪ぃんだわ」

昇り始めた朝日が、二人の顔を赤く照らす。

「狩魔威、早よせぇ! 日が昇る!」

飛び上がった風神が声をかけるが、狩魔威はそれでも動こうとしない。

風神は、ハァとため息をつくと再び大扇を振り大風を起こす。

大嵐のような風にもうもうと砂煙が逆巻き、あたりを覆い隠してゆく。そして、しだいにそれが弱まって霧散すると、狩魔威と共に、あちこちに転がっていた妖たちの体は跡形もなく消え去っていた。


頭巾の男は「ふぅ」と一息つくと、「書」を閉じて結界を解き、膝の上で目を閉じる魔威太の顔を覗き込む。

「――だってよ、おめぇも大変だなぁ。だーれもオメェのことなんて理解してやがらねぇ。世間ってのは冷てぇだろぅ? ほんとムカつくよなぁ、だからよ―― 一緒に世界、壊そうぜ」

そう言って頭巾の男はその額を指で軽くはじき、何かに気付いたように上を向いて頬を掻くと、

「……つうか気持ち悪ぃ、なんだこれ」

と魔威太の頬を思いっきりはたいた。

そして、もう一度「書」を開き紋様を呼び出すと、魔威太をその中へと乱暴に投げ込み、自らもまた、開いた闇の中に沈んで行ったのだった。


考察
「紅の花は、咲き乱れ」はATKを30上げ、通常の攻撃に加えてATK60相当のアタッカー属性の追撃を3回行う。
アビリティ発動中は根元10コストはスパクリ、マジシャン根元はスパクリでなくても1回の攻撃で倒せる性能を持つ。
ただし、15回敵ユニットを攻撃するとタワー・ゲートに帰還するまで効果が消える。
回数制限がある代わりにATK上昇と追加攻撃回数が1回多い 漆黒の断罪者 ツバキ と考えるとわかりやすいだろう。

荒らしにおいて15回はそこまで少ない回数ではないが、主人公や防衛用ユニットを攻撃するのは勿体ないので注意。
また、追加ダメージはDEF105以上の敵にはスーパークリティカルでも最低保障となる。

なお、この追加攻撃はツクヨミのアーツや【】アレイスターのアームズの効果によってダメージが増える。
ツクヨミと合わせてマジシャンを攻撃した場合、最低でも100ダメージが入ることになるので合わせて使用するのも一考の余地がある。

キャラクター説明
かまいたち三兄弟のシリーズを通して行方不明だった二男
兄と弟よりもはるかに大きな体躯の獣としての姿と、白髪の和装の少年の姿を持つ。
人を斬る快感に目覚めて人斬りとなり、バン・ドレイルの手引きにより「教会」お抱えの殺し屋兼「混沌の鍵」となる。

通常版は殺しを楽しみ、VRでは兄弟よりも斬ることに優れる事を喜んでいたのだが、今回はかなり思いつめている様子。
またこのバージョンでは獣の姿に変身せず、人の姿のままで戦う。


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    まあ、素直に帰る方が良いとは思いますが、イゾルテとは違うので効果が切れてもストーン防衛などには回せます。 -- 名無しさん (2017-01-22 23:16:36)
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最終更新:2017年01月22日 23:16